act4~died another day~

【Magical ballet“noon moon”act4~died another day~】

 駆ける。
 駆ける。
 爆ぜる。
 弾ける。
 ジャンゴは2丁拳銃を手に、ダリアはショットガンを手に、二人で街中を駆ける。
 活き活きとした笑顔で駆ける。
 その姿をエルフというにはあまりに血生臭すぎた。
 そう、二人は気づいていないのだ。
 自分たちが戦いを求め、戦いに喜び、戦いに生きている修羅となっていることに。
 もはや仇を殺したところで血に染まった手で平和な生活に戻れないことに。

「……なんだあれ?」
「大変よお兄様、女の人が襲われています!」

 遠くで女性をゾンビが囲んでいる。

「ダリア」
「分かりました、ロシナンテ!」

 ロシナンテが戦車(チャリオット)を付けない身軽な姿で現れる。
 ダリアは彼にまたがると女性の周りのゾンビを吹き飛ばす。

「ロシナンテ、貴方はこのまま町の人を助けて回りなさい!」

 ロシナンテは高い声で嘶く。
 遅れてきたジャンゴは銃口で目の前のゾンビの眼球を貫き脳髄を破壊、グリップで目の前に立ちはだかる二体のゾンビの頭蓋を砕く。
 そしてゾンビの群れの真上をジャンプしながらゾンビの頭を次々撃ちぬいて女性の前に立つ。
 一方ダリアは群れから離れたところから弓矢でゾンビたちを次々仕留める。
 ジャンゴはうずくまっている女性の状態を確かめる。
 生きている。
 酷く虚ろな目をしているがすくなくとも人として生きている。

「大丈夫かあんた!?」
「……死なせてくれればよかったのに。」

 黒く美しい瞳でジャンゴを見つめ、女性は呪うように呟いた。

「あんた一体何を……?」

 言い終える前にダリアがジャンゴの会話を遮る。

「お兄様!やたらたくさん来ています、魔弾は!?」
「魔力は節約させろ!」
「弾薬はどうなるんですか!」
「んなもんそこら辺に転がってるだろ!
 ……うわっ、弾切れじゃん」
「お馬鹿!お兄様は馬鹿です!」

 そんな時、ジャンゴの目の前にゾンビが現れる。
 彼は弾の切れた銃を上に投げて、ゾンビの股を潜って近くにあった保安官の死体の傍まで駆け寄る。
 そしてその死体から銃を引き抜き女性に近づいていたゾンビを撃った。 

「どんなもんよ?」

 上から降ってきた先ほどの銃をキャッチしながらニヤリと微笑む。

「やっぱり馬鹿です」
「格好いいと言え」

 ダリアは舌打ちをすると弓に三本ほど矢をつがえてジャンゴに向けて射る。

「え、ちょ、待った!」
「神の祝福を……!」

 矢の先端に青い火が灯る。
 ジャンゴの背後に居た三体のゾンビの頭に見事的中。
 彼らは其の場で灰になった。

「びっくりした……」
「これですべてでしょうかね
 どうしたんですかお兄様、私が怒ってお兄様を射る訳ないじゃないですか」
「あ、ああ…………
 おいあんた!町の南にはゾンビが少ないから逃げるからそっちから逃げな!」
「……ありがとうございます」

 女性はジャンゴの言葉を聞いてポツリと呟き、とぼとぼと歩き始めた。

「いいから行きましょうお兄様!」

 ダリアが怒っている。
 その理由がジャンゴには分かっていない。

「あ、ああ。」
「随分あの女性にお優しかったですわね」
「ん?」
「何でもないですわ」

 わけわかんねえ、と呟いてジャンゴはため息をついた。
 しばらく走ると男性が一人蹲っていた。
 ジャンゴは男性に声をかける。

「おいあんた!棺桶を二つ引きずった男を見なかったか!そいつが恐らくこの事件の首謀者だ!」
「見たぞ、確か酒場の辺りに居たはずだ」
「ありがとうよ!」
「おい待ってくれ!」
「なんだ?」
「あの建物の中で子供が逃げ遅れているんだ!」

 男性が近くの食料品店に向けて指をさす。

「解ったよ、助けておく」
「そうか……ありがとう」

 男性はピストルをこめかみに当てる。

「おい、何をしている」
「私はゾンビに噛まれてしまっていてね」
「……せめて俺が楽にしてやる」

 ジャンゴは男性に向けて引き金を引く。
 男性の頭に穴が開く。

「行くぞ」
「はい!」
「そっちじゃない」
「え?」
「酒場の方だ」
「でも子供は!?」
「ディエゴを殺さなかったら何度でも同じことが起きる」
「……分かりました」



「やれやれ、顔を見るだけにしようと思ったんだが……」



「え?」

 ダリアが驚くのも無理は無い、声の主人は先ほど死んだはずの男性だったのだから。
 ジャンゴに撃たれたはずの男性がすっくと立ち上がる。

「医者を必要とするのは健康な人ではなく、病人である。
 私が来たのは正しい人を招くためではなく、罪人を招いて悔い改めさせるためである
 復讐だけでも罪深いのに、お前たちはそのために子供の命まで見捨てようというのか」

 突如として男性の声色が変わる。
 先ほどまでとは違いまるで地の底から聞こえてくるような厳かな声が響く。


「―――――――――!?」
「……文字通りのデスマスクか。」
「その通り、先ほど私に銃を向けてきた者の皮を……少々借りた」

 男性は被っていた人の顔で作ったマスクをベリベリと剥がす。
 中から出てきたのは巨大な疵の残る顔。
 自ら着ていたコートを脱ぎ捨てて彼のトレードマークである大きな十字架のついたカソックを二人に見せつける。

「久し振りだね、愛しき子らよ」
「ふざけるな!」
「うそ……!」

 そう、彼こそがディエゴ・マードック。
 二人の母の仇。
 彼は優しく微笑み、両手を広げて彼らに歩み寄る。

「剣を取るものは剣によって滅びる。私たちは親子じゃないか……争うのはもうやめないか?」
「黙れ、貴様の罪は黒鉄の弾丸を以て裁いてくれる!」

 ジャンゴの弾丸が空を裂きディエゴの額に風穴を開ける。
 ディエゴは額に穴を開けたままにこりと微笑む。
 ディエゴは高位の屍霊術師、彼の身体はすでに人間とは全く異なるものだ。
 故に彼を倒すためには一撃で心臓を潰さなくてはいけない。

「罪を犯さない人は居ない、そしてそれを許す権能を神は人の子に与えたのだ」
「貴方だけは許さない!」

 続いてダリアの矢がディエゴの両手を貫く。
 しかしそれにも構わずディエゴは語りかける。

「お前たちの母さんは生きている」
「嘘をつけ!」
「そうよ!私たちは母さま達の死体を確認しました!」
「そう、確かに一度は死んだかもしれない、だが生き返った」

 少し息を溜めるとディエゴは詠唱を開始する。


「――――――主よ(エリ)
 ――――――主よ(エリ)
 ――――――何故(レマ)
 ――――――見捨てた(サバクタニ)」

 神に謳う、悲しみを。
 神に謳う、怒りを。
 神に謳う、理不尽を。
 神に謳う、愛情を。
 四節詠唱、第二階梯屍霊術。
 大地を揺らして二個の棺桶が現れる。

「呼称(コールサイン)は“愛”、真名は“Yesterday once more”」

 中から現れたのは美しい二人の女性。
 一人は雪のように白い肌のエルフ。
 もう一人は健康的に日焼けしたダークエルフ。
 そう、ジャンゴとダリアの二人の母親。
 彼の妻。
 しかし死体だ。

「ほら、母さんたちならここに居る
 だから、一緒に帰ろう」

 ジャンゴは目を剥く。
 一瞬だけ憤怒の形相を見せたかと思うと泣きそうな顔になる。

「ダリア、時間は稼ぐからお前が決めろ」
「わかりましたわ」

 ダリアが魔法陣の準備を始める。
 それを確認してからジャンゴは銃を収め、詠唱を開始した。


「――――――逢仏殺仏
 ――――――逢祖殺祖
 ――――――逢羅漢殺羅漢
 ――――――逢父母殺父母」

 抱くは覚悟。
 込めるは殺意。
 赤熱する憎悪と弛まぬ意思に鍛えられた砲身は彼自身。

「これなる魔弾は不可視不可知にして古今無双の強度を持つ無属性魔術弾丸“昼の月”、
 真名を“復讐者”と号されしもの」

 変則四節詠唱。
 ジャンゴの背後の空間が歪む。
 彼の怒気に呼応して色も無く音もない殺戮兵器がディエゴに牙をむき、ディエゴの身体が醜くゆがむ。
 しかしディエゴの呼び出した二人がジャンゴとディエゴの間に立ちふさがって残りの弾丸を防ぐ魔術障壁を張った。
 激突する魔力と魔力、赤い火花になって辺りの大気を震わせる。
 ディエゴは心の底から悲しげな顔を見せる。
 無理もない。
 この魔術は破壊力のみを極めてその他すべてを捨てた“究極の単一”
 使い手の心持ちが反映される魔術の特性上、それを見れば彼はありとあらゆる物を捨てたのだと分かる。
 ではたった一つ残ったものとは何なのか?
 それは彼自身もまだ理解していない。

「おお何故だ、ジャンゴ……母さんたちも泣いているぞ?」
「あんたって人は……!あんたって人はああああああああああああ!」
「何故だ、生きているじゃないか。お前も、ダリアも、母さんたちも
 何故皆で一緒に暮らしていこうと思えない
 何故なんだ、私たちは家族じゃないか」
「そんな様で!そんな姿で生きているなんて言えるのかよ!」
「生きている。私の屍霊術は完璧だ」

 そう、己の魔術をまだ完全に理解していない。
 それが昼の月という魔術の唯一の弱点。
 それ故に単調に単調に毎回同じコースで同じ速度で同じ威力でしか撃てない。
 その制限をかけないと発動すること自体が不可能なのだ。
 そんな攻撃、ディエゴほどの達人ならば数秒間見続ければ見切ることができる。
 銃声。
 ジャンゴの右足にディエゴの放った弾丸が突き刺さる。
 崩れ落ちるジャンゴ。

「……魔弾破れたり」

 障壁から散っていた火花が止む。
 それはすなわちジャンゴの魔弾が止められたということであった。

「ちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!」
「お兄様、落ち着いて下さい。あとは私が決めます。」

 ジャンゴは叫ぶ。
 魔術の準備を終えたダリアは詠唱を開始する。

「――――――ものみな眠るさ夜中に
 ――――――水底を離るることぞうれしけれ
 ――――――水のおもてを頭もて、
 ――――――波立て遊ぶぞたのしけれ
 ――――――澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし
 ――――――緑なす濡れ髪うちふるい……
 ――――――乾かし遊ぶぞたのしけれ!
 呼称“魔女の鉄槌”、真名“愛玩人刑”!」

 彼女を中心にして空中に描かれた大量の魔法陣が輝く。
 そこから出てきたのは数えきれぬほどの拷問器具。
 無限の針、無限の手錠、無限の毒薬。
 ジャンゴの持つ“究極の単一”たる昼の月とは対照的に“凡庸なる無限”を象徴する魔術。
 たとえ一つ一つがどれほど僅かな力であろうとも七節詠唱に合わせ彼女の憎悪に呼応して無限に変化成長する拷問器具達は相手の弱点を何かしらの形で突く。
 そうなれば最後、徹底的にその攻撃で相手を攻めつづけ最終的には地獄の苦しみの中死を与える極悪な魔術なのだ。
 本来であれば争いを好まぬエルフの扱う魔術ではない。
 しかし彼女が修練の先にこの魔術にたどり着いたのは偏に父への憎悪、そしてたった一人の愛する兄を繋ぎとめたいという歪んだ愛情故。
 だが彼女も、ジャンゴも父への憎悪以外のこの魔術の起源に気づいていない。

「生きているなら……死んで!
 貴方達が死んで初めて私達の人生が始まるの!」

 少女の叫びはあまりに悲痛だった。
 彼女の怒りを象徴するように大量の針がディエゴたちを包み込み、彼らを苛まし続ける。
 昼の月に相当な魔力を使った為か魔導障壁が展開された気配は無い。
 だがしかし、鋼鉄の檻の中から指を鳴らす音がしたかと思うと拷問器具は錆びて朽ちてしまいには消えてしまう。
 鉄くずの中から現れたディエゴは泣いていた。

「魔術を見れば分かる……お前たちは本当に苦しかったんだな
 済まなかった、私はお前たちを捨てて逃げたんだ
 そうあの時!お前たちを捨てて逃げてしまった私の心の弱さがお前たちを苦しめ、罪を犯させてしまった
 ならばお前たちの罪は私の罪だ、本当に済まなかった
 許されるとは思わない……」
「なら大人しく死ね!死んで私たちを解放しろ!」

 ダリアは矢を放つ。
 矢はディエゴに向けてまっすぐに飛ぶ。
 だが彼はわずかに身体を捻ってそれを躱す。
 それはディエゴの身体に残された魔力が少ないことを示していた。

「そうはいかない……私が死ねば私の術は解ける
 私はお前を解放する訳にはいかない」

 ディエゴはジャンゴの方を見ながら尋ねる。

「なあ、わかるだろうジャンゴ?」
「…………」
「お前は全てを知っているはずだ」
「どういうことですお兄様?」
「それでも……あんたは間違っている」
「お前を一人ぼっちにしたくないんだ」
「俺は一人でも生きていける」

 嘘だ、自分は妹が居なくては生きていけない。
 ジャンゴは解っている。

「ねえ兄様?」

 しかし彼の心を理解していないディエゴは彼の言葉を彼の本心と勘違いして深く溜め息をつく。

「お前は冷たい子だ、父さんは悲しいよ」
「お前など父親ではない!」

 ジャンゴは叫ぶ。

「お兄様、私に話してくれてないことって……?」
「それについては私から話そう」
「待てっ!その話はするな!」

 ジャンゴは痛む足を引きずって立ち上がった。
 ディエゴに向けて銃を構える。

「さて、息子と娘の望み、どちらを叶えたものか」

 ディエゴはチラリとジャンゴの銃を見る。


「それは私のあげた銃じゃないか……」
「お前を撃つために持っているだけだ」
「ふむ……」

 考えこむような顔つきのディエゴ。
 ジャンゴは彼に提案をする。

「ディエゴ、早撃ちで勝負だ、俺が勝ったらあのことについては黙っていろ」
「さては息子よ、魔力が尽きたな?」
「お前もそうだろう」
「ふん、……まあそうだ」
「お前を殺して、俺はダリアと一緒に生きる」
「それならば何故私を殺そうとする……」
「お前が居たら、俺たちは……」

 ジャンゴはうなだれて首を振る。
 言えやしない、妹と結ばれるためにはお前が邪魔だなどと。
 正直なところ、ジャンゴは知っていた。
 自分の行なっていることが“復讐”などとは呼べないことを。
 それでも彼は、妹と添い遂げるためにディエゴを殺そうとしていた。
 自らの行いへのが彼を締め付ける。
 一方、自分の頭の上を飛び交う会話に不安そうな顔を見せるダリア。
 すがるようにしてジャンゴを見た。

「お兄様……」
「済まない、お前に少しだけ嘘を吐いていた」

 ジャンゴは頭を下げる。

「こいつを殺したら……全部話す」
「…………はい」

 妹の瞳を見て、気持ちを落ち着ける

「ディエゴ!ダリアの投げたコインが地面についたのを合図にするが良いな!」
「ああ、構わないよ」

 ダリアを間に挟むような形でディエゴとジャンゴは互いに五歩ずつ離れる。

「お前が子供の頃はおもちゃの銃でよくやったものだ。」
「うるさい、黙れ。」

 二人は互いのホルスターに手をかける。
 ダリアがコインを真上に弾いてすぐに二人の射線上から離れる。
 コインが宙を舞う。
 コインが地面についた瞬間、銃声が一発だけなった。
 ジャンゴの放った弾は三発、いずれも魔力による強化がなされており、先刻放った昼の月に負けず劣らずの威力だ。
 三回、空中で火花が散る。

「……トリプルバーストショットか、ジャンゴ、それをお前に教えたのは誰だか忘れた訳ではないだろう」
「…………」
「そもそも手傷を負った時点で早撃ちに不利なのは分かっていた筈だ」
「…………」
「トリプルバーストショットには存在し得ない四発目。
 有りて無き物、即ち“昼の月”」
「兄様!」
「名前しか教えてなかったが……これが本物だ」

 ディエゴは懐からタバコを取り出して一服する。

「改めて言おう、魔弾破れたり」

 ディエゴが呟くと同時にジャンゴは其の場に倒れ伏した。

「それは私のあげた銃じゃないか……」
「お前を撃つために持っているだけだ」
「ふむ……」

 考えこむような顔つきのディエゴ。
 ジャンゴは彼に提案をする。

「ディエゴ、早撃ちで勝負だ、俺が勝ったらあのことについては黙っていろ」
「さては息子よ、魔力が尽きたな?」
「お前もそうだろう」
「ふん、……まあそうだ」
「お前を殺して、俺はダリアと一緒に生きる」
「それならば何故私を殺そうとする……」
「お前が居たら、俺たちは……」

 ジャンゴはうなだれて首を振る。
 言えやしない、妹と結ばれるためにはお前が邪魔だなどと。
 正直なところ、ジャンゴは知っていた。
 自分の行なっていることが“復讐”などとは呼べないことを。
 それでも彼は、妹と添い遂げるためにディエゴを殺そうとしていた。
 自らの行いへのが彼を締め付ける。
 一方、自分の頭の上を飛び交う会話に不安そうな顔を見せるダリア。
 すがるようにしてジャンゴを見た。

「お兄様……」
「済まない、お前に少しだけ嘘を吐いていた」

 ジャンゴは頭を下げる。

「こいつを殺したら……全部話す」
「…………はい」

 妹の瞳を見て、気持ちを落ち着ける

「ディエゴ!ダリアの投げたコインが地面についたのを合図にするが良いな!」
「ああ、構わないよ」

 ダリアを間に挟むような形でディエゴとジャンゴは互いに五歩ずつ離れる。

「お前が子供の頃はおもちゃの銃でよくやったものだ。」
「うるさい、黙れ。」

 二人は互いのホルスターに手をかける。
 ダリアがコインを真上に弾いてすぐに二人の射線上から離れる。
 コインが宙を舞う。
 コインが地面についた瞬間、銃声が一発だけなった。
 ジャンゴの放った弾は三発、いずれも魔力による強化がなされており、先刻放った昼の月に負けず劣らずの威力だ。
 三回、空中で火花が散る。

「……ジャンゴ、銃をお前に教えたのは誰だか忘れた訳ではないだろう」
「…………」
「そもそも手傷を負った時点で早撃ちに不利なのは分かっていた筈だ」
「…………」
「トリプルバーストショットには存在し得ない四発目。
 有りて無き物、即ち“昼の月”」
「兄様!」
「これは名前しか教えてなかったが……これが本物だ」

 ディエゴは懐からタバコを取り出して一服する。

「改めて言おう、魔弾破れたり」

 ディエゴが呟くと同時にジャンゴは其の場に倒れ伏した。

「お兄様!」

 ダリアはジャンゴに駆け寄り、彼を抱き起こそうとする。

「ジャンゴ、南東にしばらく行くとタルカスという街がある
 頭を冷やしたらそこに来なさい、歓迎しよう」

 ディエゴはそう言って指を鳴らす。
 すると彼の妻だった死体がダリアの腕をつかむ。

「お母さま!?やめてください!兄様が!ジャンゴお兄様が死んでしまいます!」
「ダリア、ついて来なさい。私がお前の母を殺し、お前の村を焼き払った日に起きた出来事を教えよう」
「やめて!私はそんなのどうでもいいの!お兄様が!お兄様が!」
「そうはいかない、これはお前自身に関わる問題だ」
「待てディエゴ!」

 ジャンゴは撃たれた時に落とした銃に手を伸ばす。
 だがしかし、それに手を掛けたところで彼の視界は真っ暗になった。
 何時まで意識を失っていただろうか、彼が意識を取り戻すと彼の額には何か冷たいものが当たっていた。
 どうやら濡れたタオルらしい。

「………………あれ、貴方は」
「目を覚ましましたか、先ほどは助けてもらってありがとうございました」
「ここは何処ですか」
「私の家です」

 ジャンゴが目を覚ますと彼の身体には既に応急処置が施してあり、その上清潔なベッドの上で寝ていた。
 眼の前には女性、彼が先ほど助けた女性だ。

「あそこの白い馬が私に貴方の倒れている場所を教えてくれたんです」
「……ロシナンテか」
「ロシナンテと言うんですか……
 ジャンゴさんでしたっけ、熱も少しありますし……傷が塞がるまでは安静にしていてくださいね」
「……はい」
「それじゃあ家畜の世話が有るので少し部屋を開けますがなにかあったらそこの呼び鈴で呼んで下さい
 あとロシナンテくんは家の馬達と一緒に牧場で休ませてますから心配なさらないで下さい」

 そう言い残して女性は部屋から出ていく。

「俺は……何をやっているんだ……!」

 ジャンゴは深くため息を吐いて天井を見つめた。

【Magical ballet“noon moon”act4~died another day~ to be continued】

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最終更新:2011年10月24日 20:04
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