fire1~サンテーン・プリモ~
機工王国ギムリアース、
今から30年前に戦争に敗れたこの国は
レヌリア帝国に国家の半分以上を奪われてしまった。
国家の豊かな部分を奪われ、
国の中は汚職や不当労働、テロに溢れ、さまざまな民族の中で争いが絶えず起こり、挙句の果てには火山が噴火して国を灰色に染めた。
どっちに行っても地獄しかない、と言う言葉が冗談にならないレベルだった。
そんな中煙突の排煙や火山灰に溢れたこの国を立て直した人物がいた
それが アンセイナス・ギムリアース である。
ギムリアースが誕生してから初の女王であり生まれながらの運と国家の指導者としての才能を持った人物であった。
彼女が真っ先に行ったのは国の中枢の見直しであった、
富の独占の象徴のような黄金の宮廷や議事堂から金をはがして国の再建のため用いた
そしてさまざまな都市を作り、学校施設を増やし、労働者の待遇や工場の環境を整備した。
レヌリアやエリュオスとの貿易を行い友好関係を築いたり
率先して小国の名産品を流通させたりして確実に国は元の形を取り戻そうとしていた。
そしてレイス暦207年、火山が火を噴くのを止めた3年後、ギムリアースを大きく変える事件が起こった
魔翌力機関の発明である、魔翌力機関とは一定の魔翌力をスターターとして当てることで特殊なエネルギーを放出し続ける機関である
この発明によって生活のさまざまな部分で変化が生まれた、機関付き馬車や街灯など様々な物で町は溢れ帰り、
アンセイナスは魔翌力機関を使った貿易で国をさらに発展させ、ついにはギムリアースは戦争前以上の発展を遂げた。
彼女の残した改革や制度は、10年経った現在も大きな光となって残されている。
そして大きな光は、
大きな影を生んでしまう。
それを誰も望まなかったとしても、勝手に。
「なあ後輩、私たちは天国なんか求めちゃいない、
ただあの場所を求めていたんだ、それなのに、どうして俺たちは地獄に進んで……いや私たちが進んだ先が地獄になったんだろうな?」
ギムリアースの中でもサンテーンは貿易が盛んな町である、その性質上人も多く行き来する、もちろんその中には様々な人間がいる…
もちろん犯罪者も。
「まちやがれー!この野郎!」
「待てといわれて、待つやつがあるか!」
サンテ-ンの町の中央に位置する市場、そこで今日も犯罪者とそれを取り締まる者たちが追いかけっこをしていた。
「先輩! 相手は26人殺してる重犯罪者です!さっさと確保しないと!」
そう言ったのは黒毛に眼鏡のまだ女性というには少々幼さを残した少女、アレス・リンジ
「わかってるっての!」
答えたのは金髪に黒い目をした若者、テオ・ライトである
彼ら二人がサンテーンの治安維持局の総合特別課のたった2人の捜査員である。
「そう簡単に捕まってたまるかよぉ!」
そんな間抜けな声を上げながら逃げているのはフレイト・リッパー。
女性に振られた腹いせにその女性を殺し、そのまま成り行きで25人も殺した凶悪殺人犯(47歳、無職、童貞)
である。
「くっそ!こうなったらお前ら全員皆殺しだぁ!」
フレイトは体を翻すと手にナイフを持ってアレスとテオに切りかかる。
ナイフの切っ先は真っ直ぐにテオの喉元に吸い込まれるように向かう、しかし
「甘いっての」
そんな一言をテオが言ったのはすでにナイフが宙を舞い、その持ち主もカウンターキックを喰らいぶっ飛んだ後だった。
「逮捕ですよ」
アレスはそんな一言と共にリンデン産トマトを頭から被ったフレイトに手錠をかける。
次の日、何もない何時もの特総の部屋にて
手は手でなければ洗えないだなんて格言を残した歴史上の偉人は誰だったか、
自分の脳に問い掛けてみる。
そんな哲学者的に思考しながら片手間に2人分の報告書を進める自分にアレスは
最大限の悲哀と嫌気を覚えつつ目の前にいる 先輩 に目を向ける。
「ん? 後輩も食うか?」
何この人は仕事場でスコーン作ってるんだろうか、紅茶まで付けて午後のティータイムかこのやろう
「遠慮します、というか仕事してください」
普通この発言は先輩が後輩に言うべき言葉ではないのだろうか?
少なくともまともな職種を警察以外経験したことのない彼女にだってそれくらいはわかる、小説で読んだ
「おいおい後輩、今回の件に限っては俺がいなかったら後輩はナイフで穴だらけで生きることになっているぜ」
「先輩、それ死んでます、そもそも定時馬車のターミナルで犯人を見つけたのは誰でしたっけ」
報告書を書き終わった後は他の課の報告書の振り分けをする、正直驚くほどつまらない仕事だ。
今日だってたまたま偶然指名手配犯に出くわしただけなのだ。
自分が事務系だと勘違いしてる人間が多いらしいが自分はむしろ足を使った捜査を得意とするタイプだ。
眼鏡だって火山育ちで小さいころ火山灰の中に突っ込んだためだったりする。
「俺だ」「ふざけるな」
先輩と後輩の会話にしてはあまりに投げやりすぎて泣けてくる、誰が泣くのかは知らないが
「後輩、暇だ」
テオはそんな一言を放ちながら手元にある報告書をパラパラと捲る。
「知りませんよ、調書でも読んだらどうですか?」
特別総合課の唯一にして無二のアドバンテージが他の課の調書などが入った書庫に
自由に出入りできるのだ。
と言うか部屋の半分が書庫だ、特総の部屋がおまけだ。
そのせいかこの部屋を尋ねてくる人は極端に少ない。
だから、今自分の目の前のプライバシーの欠片も無い
ウエハースみたいに薄っぺらなドアをノックする者がいたことはアレスにとっては驚きだった。
「よろしくおねがいします!」
ペコリとアレスとテオに頭を下げるのは10代前半位でその体躯には
似つかわしくない大きなトランクを抱えたの少女。
サンと名乗った少女の観光に付き合うのが今回の仕事だ。
「おい後輩、記憶では俺たちは警察であって観光協会ではなかったはずだが?」
「仕方がないでしょう? まさか支部局長に頼まれるとは思わなかったですからね」
なんと、部屋のドアを叩いたのまさかのサンテーンの治安維持局の支部局長だった、つまり一番えらい人だ
彼が連れてきたのはなんと10代前半の少女であった、一瞬色々(ロリコンとか誘拐とか)不安な単語が脳内をよぎったが、どうやら違うらしい
何でも彼女は支部長の知り合いのいいとこの娘さんであり、彼女たっての希望で特総に観光案内案内を頼みたいらしい。
「まったく、俺はけだものと子供は嫌いなんだよ…」
そんな事を言いながらアレス、テオそしてサンは町の中央通りを東に真っ直ぐ進んでいた。
「テオさんはサンのこと嫌いです
サンはアレスに問いかける、
「気にしなくていいですよ、この人ツンデレだから」
とアレス
「つんでれ?」サンが聞き返す、
「そうそう、うれさいうるさい!だったり団長だったりメロンパンが好きだったり…
「ストップだ後輩、時空が歪む」
テオが静止をかける。
「だって先輩がツンデレだからいけないんじゃないですか」 「誰がツンデレだ! 誰が!」
「先輩が」「OK、喧嘩を超特価で売ってるってことは理解した」
そう言ってこぶしを固めるテオを完全無視してアレスはサンの方を向く
「まあ、ツンデレテンな先輩のことは放置するとして…サンちゃんは何処行きたいですか?」
アレスは真横で激怒しているテオを完全に無視しながらサンに問いかける
「ええっと」
少し考えた後、サンは手に持っているトランクの外ポケットから高級そうなギムリアースの紋章が入った紙を取り出しそれをアレスに差し出す
「おばあちゃんにここに行ってきなさいっていわれたの」
アレスはその紙の中身に一通り目を通すとサンの方に向き直り、そして答える
「OK、全部一日あれば全部回れますよ」
「良かったです!」
そう言って満面の笑みを浮かべるサンとそれと一緒に笑顔を浮かべているアレスから紙をひったくって
テオはその中身を読む。
「ヤードバード門にカーティス港、それに」
辺りを見渡し言う
「このパウエル市場か、」
「なんでお前のばあちゃんはこんな場所選んだんだ? 市場はともかく残りは観光客が行くような場所じゃないぜ」
テオは問いかけるそれに対して少し思い出すような仕草をした後サンは返す
「えっと、おばあさまがこの都市を知るにはその辺りを回ってみなさいっていってました」「ほう」
テオは少し関心したような顔をした後再び口を開ける
「気に入った、案内してやるよ」
そう言ってテオはさっきまでのやる気の無さは何処へか、歩き始める
「はいっ! よろしくおねがいしますですです!」
それにサンもトランクを引きずりついて行く
「ちょっ先輩! 待ってくださいよ!」完全に話から置き去りだったアレスもそれを追いかける。
_______商業都市サンテーン、パウエル市場________
アレスが説明する
「ここ、パウエル市場はサンテーンの商業の中心です、古今東西の様々な物が揃っています、と言うか…」
「歩く必要…ありませんでしたね」
サンは笑顔を浮かべながら言った
「結局入り口に戻ってきたな」
テオは市場の入り口の精巧な鉄細工の門を眺めながら言う
「でもすごいですね! この市場、何でもありそうです!」
サンは目を輝かせながら辺りの商店の物を見て回る、
「まあ商業都市だからな、多分なんでも揃う、が嘘じゃないぜ」
そんなテオの話を聴きながらサンはあたりの商店に陳列された物を見て回る。
おばあさまの言っていたとおり、見たことの無いものばかりだ
「これって何の店ですか?」
サンは怪しげな仮面が飾ってある店を指差して言った。
「それはエドウィンズ魔道具店ですね、魔法の道具を売ってるんですよ」
「魔法! 見て行ってもいいですか?」
サンは 魔法 という言葉に引かれたのか目を輝かせ入っていいかと問う
「いいぜ、俺たちはあくまでガイドだからな」
その言葉を聴くとサンは薄暗い店内の中に入っていき、それをアレスとテオも追いかける。
魔道具店の中は意外に狭く人気が無かった、寝ているのか起きているのか良く判らない置物のような老婆が一人、カウンターにいるだけだった
「すごいです! 見たこと無いものばかり!」
サンはそう言いながら辺りの商品を見て回る。
「うげえ、すげえ品揃えだな」
テオは怪しげな液体を見ながら言う
「先輩、何ですかそれ?」
アレスが訊く
「ミツアシドラゴンの体液、つまり血だ」
ちなみにつぼに入っているのはなぜか薄ら光っている緑色の液体だ、
「…これ以上はいいです」
何の用途に使うか訊いたら今日の夕食が食べられなくなりそうだ、
アレスとテオがそんな会話をしていると、サンが壁を指しながら2人の方へと歩いてくる
「これって何ですか?」
「「ん?」」
二人は同時に壁を見て
「「ああ」」
同時に納得し
「これはですね」
アレスが説明を始める
「属性配置表ですね」
「ぞくせいはいちひょう?」
「この世界を構成すると言われている属性の配置表ですよ、これはザント式の属性表ですが」
ああ、とサンは納得したような声を出す
「属性ならおばあさまに聞いた事があります、ええっと……何だったっけ?」
「まあ、普通の学校なら中等学校で習う内容ですからね」
そう言うとアレスは属性表を読み上げる
「炎、 文明と開拓の象徴」「水、 生命と潤いの元」
「地、 全ての素なる大地」「風、 空を切り命を繋ぐ風」
そこまで言ったところでアレスは表から目を落とす、
「後は上位属性と派生属性とかですね」
「派生属性?」
聴いたことの無い言葉に思わず聞き返す。
「上位属性はあれだ、光とか闇とかパッと出てこない属性のことだな」
突然テオが会話に割り込んで解説をする
「派生属性はその名の通り派生した属性だ、氷とかがその代表だな、まあ要するに その他 だ」
「ふうむ」
そこまで聴くと少しサンは考えたような顔になった、そして
「後でゆっくり考えます」
考えた結果、考えるのを放棄した。
「まあ…まだ難しい話ですからね」
アレスはずり落ちた眼鏡を戻しながら言った
「じゃあ…次行ってみようか」
テオも少しサンに調子狂わされなからも言った。
_______商業都市サンテーン、ヤードバード門________
「ここヤードバード門は外からの来客の国内へ入れるように手続きしたり、門の手前にある運河を使ってギムリアース全土から来た様々な物を港へと運んだりするギムリアースの大切な場所です」
アレスがそう言って指差すのは赤いレンガ作りの立派な門、
辺りには船から荷物を積み下ろしする作業をしている人々や、
ギムリアースの国内に用事がある人々などでごった返していた、
そして特総の二人がエスコート中の彼女はと言うと
「すう…はっ!寝てませんよ!絶対に!」
どうやらお疲れのようだ、
「無理も無いさ、ここに来るまでにあんなにはしゃいでいたしな」
サンはヤードバード門に着くまでにあっちを見たりこっちを見たりと
走り回り、危なく反対側に行きかけてしまうほどであった。
「とりあえず少し休むか? いくらなんでも飛ばしすぎだ」
「いえっ!大丈夫です! まだまだ行けます…ぐう」
行けそうになさそうだったので二人はとりあえずサンを休ませる事にする、
近くにベンチを見つけるとそこにうとうとしているサンと共に腰掛ける。
「それにしても以外ですね」
本格的にサンが寝だした頃、アレスが口を開く
「先輩って子供とか本気で嫌いかと思ったけどそうじゃないんですね」
アレスは目を細めながら言う、テオはやや遠くを見ながら返す
「いや、実際あまり好きではない」
アレスは横目にすぐ横で寝息を立てているサンを視界に入れて
彼女を起こさないように、呟く
「あの、先輩ってどんな子供だったんですか?」
「ん~」
少し目を細めて困ったような顔をすると
「そんな後輩はどうだったんだよ、子供時代は」
意地悪のような困ったような中間の顔でテオは問いかける
「ええっと、今とそんなに変わりないですよ、
私の実家は戦火をあまり受けてませんでしたから」
テオは笑いを浮かべながらさらに問いかける、辺りは少し暗くなり始めている
「どんな風に普通だったんだ? 聞かせてくれよ」
「ええっと、まあ本読んで寝て起きて学校行って本読んで寝てって毎日でしたよ。」
アレスは昔の事を一つ一つ思い出しながら、そして振り返りながら語る
「時間を無駄に浪費していた気がしますねえ」
それでなんとなく大学に入り、警察に入り、ヘマをして飛ばされて今にいたる。
「それで先輩はどうだったんですか? 子供の頃」
「俺か? 俺はな…」
テオは頭を掻きながら少し間をおくと、街灯の暗がりに目を落としてから口を開いた
「なーんか、自分が全部わかった気になってたなあ」
「わかった気?」
「ああ、何でも知ってる気になって…一人歩きして、そして自滅してたなぁ」
「あはは、今と同じですね」
テオはムッとした顔になる
「そんな事は無い」
「いやいや先輩って昔から先輩だったんですねえ~」
「後輩、怒るぞ」
「先輩、もう怒ってます」
なんとも二人の会話は子供じみていて、
きっと警察手帳と腰の銃と警棒を下げたホルスターが無ければ
どう見ても二人は年頃のカップルにしか見えなかった。
最終更新:2011年10月30日 05:42