ギムリアースのお話

機工王国ギムリアース首都トレムレデール。 通称『灰色の街』。

街中にある工場から垂れ流される廃油と煙突から毎日のように吐き出される黒煙。

加えて国土北部にある火山地帯からの降灰が混ざり合って街中が灰色に見えることからそう呼ばれている。

ギムリアース王国自体が大陸の北部に位置している上にこのような外観のため、首都は極めて陰鬱な印象を与え、この街を訪れる旅人たちは奇妙な圧迫感を感じる者が多い。

それは正しい。


この街はギムリアースの内情を映す鏡なのだ。


俺がこの国生まれたのは今から二十二年前。まだこの国が健在だった頃の事だ。

当時ギムリアースは強国だった。大陸に存在する四大勢力の一つに数えられ、首都であるトレムレデール(輝ける宝石)はその名に相応しい偉容を誇っていた。

街は王族の住まう巨大で壮麗な宮殿を中心に、街の住人の自慢の種だった聖オルム大聖堂や王宮前広場が配置され、そこから放射状に石畳の大通りが街を円上に囲む城壁の門まで伸びていた。

街の通りには商店が軒を連ね、人間だけでなくドワーフやエルフ、少数ながらホビットや獣人までが何を気にすることなく街中を闊歩することが出来た。

ドワーフたちは彫金細工工房や鍛冶工房を街の各所に作り、エルフたちは得意の魔法を駆使して摩訶不思議な装飾品を多数生みだし、ホビットたちはビールの醸造所をつくって街の労働者たちに仕事帰りの一杯を提供していた。

全てが上手くいっていた。

そう、あの戦争が始まるまでは………

その戦争が始まったのは俺が五歳の誕生日を迎える二ヶ月前の事だった。親父が俺の頭を撫でながら微笑んでいたのをぼんやりと覚えている。

当時は何故、俺の後ろでお袋が泣いていたのか分からなかったが、親父の悲しそうな顔を見て、幼かった俺にもあまり喜ばしい事では無いという事は分かった。

親父は俺とお袋を残して戦場に赴き、そして二度と帰ってこなかった。

なんて事は無い、一つの家族に突然降りかかった小さな悲劇だ。こんな話は大陸中どこにでも転がっている。どの国もどの種族も相手を出し抜き従えんと躍起になっているこのご時世にあっては親父が死んだなんて話は酒の肴にもならない。

ギムリアースが開戦した相手は大陸最強の覇権国家レヌリア帝国

ギムリアース王国が強盛だった当時ですら国力差にして三倍以上という超大国だった。

レヌリアは昔も今も領土拡張に非常に熱心な国家で、隣国に侵攻する隙があればその好機を逃す国ではない。ギムリアースが攻撃を受けたのもその隙をレヌリア側に与えてしまったからだ。

しかも当時レヌリア帝国を率いていたのは後に征服帝と讃えられる皇帝バルトリオ三世であった。軍略の天才であったバルトリオ自らが率いる鉄の規律で知られたレヌリア帝国の精鋭軍を前に様々な種族からなる混成軍であったギムリアース王国軍は壊滅。

ギムリアースの国王はレヌリアに連行され、ギムリアースは国土の豊かな部分を全て帝国に奪われた。

……そして現在。 ギムリアース王国はかつてとは比較にならぬほど弱体化し、昔日の栄光は見る影もない。

王族の宮殿は帝国軍に徹底的に破壊され、大聖堂は高価な飾りを剥ぎ取られ、今や黒っぽい建材を露出させている。

大貴族家の城は国営の大工場へと変わり、賑わっていた大通りは浮浪者や貧民がうろつくスラムへと変貌を遂げ、更に北方の火山までがこの国の衰退を嘲笑うかのように灰を降らせ始めた。

俺は今、工場で働く労働者だ。今作っているのは金属製の自律型ゴーレム。エルフの魔法とドワーフの製鉄技術と人間の錬金術が組み合わされて出来上がった最高の戦闘兵器。

こいつらがあれば帝国の軍隊ともまともにやり合える。

今度こそは必ず帝国の奴らを徹底的に打ち破って親父の仇を討つ!

ギムリアースの意地を見せるときだ。

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最終更新:2011年07月20日 09:01
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