――エリュオス王国東 キティクルス海岸
「今日はえらく大漁でねーか?」
「んだんだ、こう霧が濃くちゃ船さ出せねが磯釣りでもこんだけ取れたら船さいらねなー」
二人の漁師が、会話を交わす。
この季節、このキティクルス地方周辺の海域は毎年濃い霧に覆われる
そのため、漁師たちは船を出すことが出来ない
生活の糧を得るには、地引網や磯釣りで食いつないでいくしかなかった。
「んだけどもよー、それにしてもおおくねが?いつもの3倍はあるべ?」
「んだのー地引の方はどうだったんだべや?」
「おうさ、こっつも大漁だわーなんでが知んねが沖魚まで入ってら」
何気ない会話をしている内に、一人が何気なしに言った。
「そんれにしても、なんが聞こえねか?」
「ん?たすかに、海の方からなんか聞こえるべ・・・・・・」
「海神様の機嫌が悪いかもしれんけ、今日はやめにして帰るべ」
この後、漁師たちは音の正体を知り、愕然とする。
いや、この時点で漁師たちの想像の範疇は遥かに超えて居たのだ。
「閣下、上陸開始予定地点まであと50分です」
時計を見ながら神経質そうな男が言い放つ。
「海岸の様子はどうな?ロッテラー君」
閣下と呼ばれた男は、人のよさそうな笑みを浮かべながら返す
だが、その表情と共に、鍛え上げられた体が彼が軍人である事を示している。
「霧が濃く、飛龍は飛ばせませんのでなんとも・・・・・・砲撃を開始しますか?」
いや、と手で静止した後
「こちらが状況を把握でき無いのだ、向こうとてすぐには把握できまいて
下手にこちらからドアをノックしてやる必要もなかろう」
表情を変えることなく・・・・・・閣下―キッツビラー大将―は続ける
「ただし、上陸は数回に分けて行うとしよう・・・・・・あとニ戦隊はここを
三戦隊はここへそれぞれ上陸地点を変更するように・・・・・・上陸部隊の最終合流地点はここだ」
地図を指し示しながら、キッツビラーは指示を出してゆく。
もっとも、この地図自体が完全な物で無くあくまで目安程度のモノでしか無いのだが
[キューベルストナー事件]の際に制作された物で、海岸線以外の所は
正直まったくの不明と言ってもいいぐらいの出来である。
「しかし、不用意に戦力を分散させては危険ではありませんか?」
ロッテラーと呼ばれた男が答える。
老齢の司令官と、その参謀それが彼らの立場である。
司令官が大胆な策を打ち、そして慎重な参謀が修正する
それが彼らのやり方であり、そしてグルックスの無敗コンビと言わしめた手腕である。
「ふむ、ではこうしよう二戦隊及び三戦隊はここへ、一戦隊と七戦隊はここへ上陸
残る舞台は洋上へ待機し、橋頭堡確保が確認できた後にこの地点へと上陸・・・・・」
またも、地図上と駒の配置を動かし再度検討を始める二人
「なぁに、これだけの大兵力じゃて・・・・・・少々の敵が居ようとも帰り討ちじゃろ」
老司令官は笑みを崩さない・・・・・・
参謀は眉間に皺を寄せたまま、考え込む。
二人の間だけで時が止まったかのようにも思えた。
「ふむ、ソレならば敵の迎撃があったとしても対処しきれる・・・・・・か
分かりました、すぐに手はずを整えます。」
上陸はあっけなく終わった。
キティクルスには砦が4つある。
これらはあくまでも漁村や、周囲の村からの税を徴収・一時保存と
獣人や魔物が出現した際の討伐拠点、また住民の避難場所としての昨日を与えられていたに過ぎず
兵が常駐していたのは、この内の一つしかなかった。
残り三つは空城として、まんまとせしめられただけでなく
貯蔵されていた兵糧や、税をそのまま奪われる事となる。
「閣下、念話報告が入りました。この地域の制圧を完了したとの事です。
ロッテラーが、戦況の報告をしてゆく。
「ふむ・・・・・・食料まで手に入るとは僥倖じゃの。
空になった輸送船団は護衛をつけて本国へ戻せ、艦隊の一部はここへ居残りじゃ」
「すでに手はずは整っております。」
両名の間を沈黙が支配する。
つまり、この時点でもはや何もする事は無くなった。
つまるところ彼らの仕事と言えば、兵力増強のための輸送船団護衛と
海岸沿い攻略の際の支援砲撃のみである。
また、この時点で彼らの侵攻に気づくものはエリュオスの都には誰も居なかった。
最終更新:2011年07月20日 09:03