乾いた大地を走るようなスピードで駆け抜ける影が一つ。
「いやっほう! 爽快痛快、実に良い具合じゃないか、リム!」
いかにも機嫌は最高だと言わんばかりなテンションの高さで、女のエルフ――銀の髪に褐色の肌が目を引く――が声を張り上げる。彼女は巨大な丸太が如き何かに腰掛け、陽気に鼻歌を歌っていた。
スレンダー気味故に少し小振りな彼女の尻からその丸太へと視線を移してみれば、それは丸太ではなく巨大な『腕』であることに気がつくだろう。
そう、『腕』である。細身とはいえいっぱしのエルフを片腕だけで持ち上げているそれは、人のようで、人ではなかった。
「ルヴィ……お前は爽快かも知れないがな、俺は暑苦しくて適わないんだが!」
人のようで人ではない、それ。少し寸胴な鎧を着込んだ騎士のようにも見えるそれは、ギムリアースで極秘に研究されていた金属製の戦闘兵器、自律型ゴーレムと寸分違わぬ姿をしていた。
しかし、その中には人間が搭乗しているのか、どこかくぐもった声が内部から響く。ともすれば、自律型ゴーレムが自我を得た上で発声しているのかも知れない。
「はっ、文句言うなっての。こいつを動かせるのはお前しかいない、んで、私ぁ使える物は使う主義なのさ」
「くそっ、とんでもない女に捕まっちまった……」
言うと同時に、兜を模したゴーレムのフェイスプレートが勢いよく跳ね上がり、その内部を外気へと晒した。
中に詰まっているのは錬金術と魔術の結晶、などではなく。ただの人間の顔がそこにある。
まだ若い青年のようだ。その顔は汗に塗れ、髪の毛はべっとりと額に貼り付いてしまっている。
「言ってくれんじゃないか、リム。あんた、誰のお陰で殺されずに済んだと思ってんのさ?」
「ああ、それについては感謝してるさ。ウチの国の切り札を勝手に改造した俺は死罪確定だったものな」
苦々しげな顔で、リムと呼ばれた青年が吐き捨てた。その様を見、褐色のエルフ――ルヴィと呼ばれていた――は、愉しそうな笑みを漏らす。
「そう、そういうこと。あんたは私にこき使われりゃいいってことさ。このゴーレムさんを使ってね」
「……こんなことなら人が乗れるような改造を施すんじゃなかった」
「はっはっは、まあいいじゃないか。適当に世界を巡って、適当に金を儲けさせていただきましょう、ってね」
豪快に笑ったルヴィの横顔を半眼で眺め、リムは大きな溜息を吐いたのだった。
これは、一人の技術者と、一人のダークエルフ――足して二人の冒険者たちの物語。
最終更新:2011年07月20日 10:36