異世界の戦友『第二章:『空白の千年』の終わり 』

後の世に『空白の千年』と呼ばれる時代がある。
繰り返されていた争いが突然この世界のあらゆる所から消え、約千年続いた平和な時代。
超大国であったレヌリア帝国政府・軍部は過ぎた他国への侵攻で自国民・属国民・他国からの非難が集中、分離独立を果そうと属国や自国自治領で内戦が勃発、次々に独立国家が生まれ領地は次第に狭められた。現在でも大国ではあるがかつての影響力は失った。
エリュオス王国はレヌリアとの大戦に敗れ、低下していた国力を軍事費に充てようと試みたがこれが失敗。
国民から見放された政府は、かつてレヌリアに支配されていたリンデン王国に薦められたこともあり共和制を導入、世界初の共和制国家、『エリュオス共和国』として生まれ変わった。
その他の大国・小国も事情は異なるが夫々継戦不可能になり、中央大陸で停戦・反戦・軍縮条約が締結されたのであった。
水面下での争いは続いていたものの、全ての国が批准しているこの条約を破るような馬鹿はいなかったので、とても平和であった。―――あの日までは……。

―――――――中央大陸 中央永世中立地 国際議事堂 国際議会議長室 1006/1/3 16:00―――――――

「先程の演説お見事でした」
「ただ書いてあった事をそのまま読んだだけだ。だが、これで正式に決まったな」
「ええ、全会一致の可決。賛成であれ反対であれ219人全員の意見が一致したのは久しぶりです」
「自分にとっては議長になって初めてだ」
「何時もギリギリですからねぇ」
「……嫌味か?」
「いえいえ、滅相もございません議長」
議題は彼等の世界に此方から使者を送るのか否かという内容で、賛成多数どころか全員賛成であった。
これで正式に使者を送る事が決定。明後日から使者の選定に取り掛かる訳だ。
「それで、使者の選定ですが……」
「それは他の奴に任せてあるんだろう。ならその者を信じれば良い」
使者の選定にいちいち口出ししていては一任した意味がない。
だいたいこのオヤジは政敵が多く、自分の議長の席が危ういので口出ししている暇が有る訳が無いのだ。
「分かりました。それでは此方の書類の束に議長のサインをお願いします」
「何とかならんのかね?この書類は」
「無理です」
「ハァ……」
秘書に渡された……。否、押し付けられた書類の束を見るなり愚痴を言ってはみたものの、結局は自分がやらされる不幸を嘆きながら彼は書類に取り掛かった。

―――そして、三日後の東雲を迎えた頃。
連日の徹夜の甲斐があり、ようやく書類が片付いた時であった。議長室に突然秘書が駆け込んできた。
「議長!起きて下さい!」
肩を揺さ振られ、無理矢理夢の世界から現実世界へ呼び戻される。顔には見事に赤と黒の現代アートがペイントされていた。
「……なんだ、ようやく書類が片付いたというのに……」
「それどころではありません議長!彼等が来たんです!」
「彼等とは誰だ?」
「異世界人ですよ!」
「……は?何言っちゃってんの?頭大丈夫?」
「ふざけている場合ではありません」(キャラじゃないのに無理すんな糞野郎」
「……聞こえているぞ」
「失礼しました。しかし、彼等が来たのは事実です!」
「彼等は1009年末までは来ないと言って旧無人大陸に帰った筈……」
「ええ、ですが此処に来ています」
「目的は?」
「不明です」
「人数は?」
「不明、しかし前回より多いと思われます」
「何故多いと判る?」
「彼等の船舶数ですが、少なくとも大型船十隻は確認出来ました」
「それ程の規模……、一体何が……」
議長が窓際に立ち、外を見た時であった。
パリンという乾いた音が鳴った。音に気付いた秘書が不自然に思っていると、隣からドサッという重い荷物を降ろした時の音がした。
見ると議長が倒れていて既に意識は無かった。窓ガラスと議長の額には小さな穴が開いていた。

―――――――イラステイン ノラリアレイス イラステイン国防庁 1/6 18:26―――――――

俺は上官の呼び出しを喰らっていた。どうやら書類にミスが有ったらしい。面倒臭い書類の修正が終わり家に帰ろうとしていた時だった。
通信室の前を通り掛った俺は偶然、此処の士官が上層部に報告している所を聞いてしまった。
「中央大陸永世中立地から緊急入電!中央大陸国際議会議長が狙撃され死亡!同時に未確認の部隊による奇襲攻撃を受け、議会守備隊及び周辺の中央大陸の国の軍と現在交戦中の模様!異世界人による中央大陸への奇襲攻撃と思われます!」
耳を疑った。何かの間違いだと思った。
俺は忙しなく動く彼等通信兵達をただただ呆然と見つめていた。
―――1006年1月6日、『空白の千年』はこの日終わりを迎えた。

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最終更新:2011年07月21日 09:49
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