異世界の戦友 『第三章:リアレイス防衛戦:後編 』

―――――――東リアレイスライン要塞 8/28 10:25―――――――

ブリーフィングルームに各隊長達が慌しく入って来る。緊急招集が掛かったからだ。
早く着いた俺は前の方の席を陣取る事に成功した。
「えー、先ずは楽にしてくれ。と言いたいところだがそうもいかん。緊急事態だ」
司令官が話を始める。恐らく他の部屋でも既に始まっているのだろう。
「皆既に知っているだろうが奴等が来た。例の異世界人達だ。予測通り河の下流から陸路と水路でこの砦に接近、現在敵は戦力を集結、直にでも此方に攻めて来るだろう。此方はこの砦で迎え撃つ事になる。作戦を伝える。これを見ろ」
モニターに地形図や敵味方の配置が示される。
峡谷の真中に馬鹿でかい壁が聳えている。この基地だ。
約200メイルの高さを誇るこの壁は狭く強力な砲列を備え、この世界の住人達には攻略は不可能なのではないかと想わせる威圧感を放っている。
「詳細不明だが、敵は陸空合せて約数万~数千。此方の戦力は我々陸軍が20万、内戦車334、空軍は戦闘機120、爆撃機15」
数では上回っていても連中の戦力と比較するとまともに戦えるのか不安だ。
「峡谷内は非常に狭い、その為河は急流となっている。それを利用し我々は奴等を河に沈める事にした。奴等を水攻めにし、敵の艀、戦車、歩兵共を一気に叩く。その後残敵を駆逐する。勝利の後この砦は反攻作戦の要ともなる。よって最後の一兵まで死守せよ。以上だ。各隊配置に付け」
水攻めだと!?自棄になっていないか!?
有効な手段だとは思うが、一回ポッキリの戦術じゃないか。
それに「最後の一兵まで死守せよ」だと!?
全滅して世界が乗っ取られるのが目に見えている。
反撃も出来ずにこんな所で最期を迎えるなんざ糞喰らえだ。
何処の馬鹿が考えたのだろうか?
俺はそんな事を考えながら部屋を後にした。

―――――――東リアレイスライン要塞 8/28 15:43―――――――

俺達コナー隊の持場は砦の最上部だった。
下流から砦に向かう時に渡る橋が見える。かなり高い位置に在る。
敵戦車が橋を渡って来たら爆破する手筈になっている。
爆破はノフルの十八番だ。
アイツに爆破出来ない物は殆存在しないのではないかと思う。
「ノフル、準備は良いか?」
「…………何時でもOKです」
「ライアン、鼻を利かせろ。奴等の正確な位置を知りたいからな」
「解ってますよ隊長。既に始めています」
「そりゃ良かった。敵が迫っているのにサボられちゃ敵わんからな」
「酷ぇ」
「当り前だ。ジェニー、お前は……そこに居ろ。そして指示を出すまで何もするな。絶対にだ」
「酷いです~~~。隊長~~~」
「「「……………」」」
「」[シクシク]
全員に無視されていじけるジェニー。放っとこう。
とその時、基地内に警報が鳴り響いた。
『警告!警告!敵が接近!総員第一級戦闘態勢!繰返す!敵が接近!総員第一級戦闘態勢!』
遂に敵が来た。下流に陣取っていた連中が遡上して来たのだ。
『敵の先頭を探せ!見付け次第報告しろ!』
『砲門開け!全部だ!』
『コナー隊!爆破準備は!?』
「此方コナー隊、準備完了、何時でもいける!」
無線が混線している。
端末からは絶えず誰かの声が響く。

「隊長!奴等を確認しました!」
「でかしたライアン!何処にいる!?」
「橋の数百m(メイル)下流です!奴等真直ぐ橋に向って来やがる」
「そいつは願ったり叶ったりだ。ノフル!お前の出番だ!タイミングは任せる!」
「……了解」
「ひぃぃぃぃぃ!!!来るなぁぁぁ!!!」
「うるさい!ジェニー!お前は黙ってろ!」
「」
「橋までの距離、残り200!」
「「……………」」
「150!」
「」[ガクブルシク]
「100!……80!……50!……30!……20!……10!……0!」
敵が橋を渡り始める。だが、ノフルはまだ何もせずにじっと待つ。
敵が橋の中程に来た時、ノフルが動いた。
大規模練成に必要な錬成陣の最後の部分を描き終えると、素早く練成を開始する。
数秒後、橋の支柱で爆発が起こり少し遅れて轟音が谷に木霊した。
支え切れなくなった橋は自重で敵諸共谷に崩れて行く。
爆破成功だ。
峡谷内は道が一本しか無く、その唯一の道を繋ぐ橋が破壊された。
これで敵戦車は下の河を渡って対岸に行くしか方法は無い。
だが、河を渡ろうとすれば砦からの水攻めが待っている。
「此方コナー隊、爆破成功。繰返す。爆破成功」
『了解、良くやった。敵の損害は?』
「確認出来た物は敵戦車五輌、残りは不明」
『了解。そのまま持場で待機だ』
「了解」
『放水用意!』
『水系統の錬金術師及び魔術師は準備OKだ!』
『敵が河を渡る瞬間まで待てよ!』
『此方も準備OKだ!何時でもいけるぞ!』
相変わらず混線している無線から良く知った声が聞こえてきた気がした。
俺の旧友も将軍として、魔術師として舞台を任されている。
彼は水と火の系統が得意だった筈。
大量の水を使う今回の作戦には打って付の人材だった。
『敵が谷を下り始めた!河に向かっている!』
『了解、予定通りだ。そのまま敵から目を離すなよ!』
『空軍に連絡を!もうじき出番だ!』
敵が河に差掛る。河には敵の艀が居た。
艀と合流しようとしている様だ。
艀で戦車を渡す心算だろうか?
どうやらその様だ。次々に戦車が艀に乗込み河を渡ろうとする。
『今だ!やれ!』
『了解!放水開始!』
『術を発動させろ!全部だ!』
砦の真中に穴が開く。咳き止められていた水が谷に流れ込む。
錬金術や魔術によりその水量、水圧、流速は増していく。
濁流はまるで生きているかの様に、そして自らの敵を薙ぎ払おうとする様に敵に迫る。
濁流は敵の艀も戦車も飲込み、獲物を追う狩人の様に逃惑う者達を喰らい尽して行った。

『此方連合軍東リアレイス陸軍基地、敵を洗い流す事に成功、空軍は直ちに爆撃を開始せよ』
『此方連合軍空軍早期警戒管制機ブルー・ベインツ、了解、飛行隊は攻撃を始めよ。爆撃開始』
『了解、投下する』
爆撃機の編隊が残敵を攻撃しに行く。護衛の戦闘機も一緒だ。
無線の内容からして、地上では次々に爆発が起こっている様だ。初勝利はもう直だ。
だが、俺は出来過ぎていると思っていた。
その予想が的中したのは爆撃の第二派が敵に迫った時だった。
『敵機接近!敵機接近!』
『何!?何処だ!?』
『峡谷内を低空飛行中!爆撃隊全機、緊急退避!』
『了解!退避すr……』[ザ―――]
『三番機!どうした!?応答しろ!』
『此方二番機!三番機は墜ちた!味方戦闘機は現空域からの離脱を支援s……』[ザ―――]
『駄目だ!二番機も墜ちた!』
『対空砲用意!』
『此方五番機!一番機と十番機も墜ちt[バァン!]―――ッ!被弾した!高度を保てない!』
『味方機が一機火を噴いてこっちに突っ込んで来るぞ!』
『要塞に当てるな!味方の基地だ!全力で回避するぞ!』
『了解です!機長!』
『突っ込んで来るのは五番機か!?』
『此方五番機、俺達の家族に宜しく言っといてくれ……じゃあな』
直後、大型機が黒煙を上げながら、失速するのも構わず左へ無理矢理急旋回する。
峡谷の南側(俺達から見て右側)の崖へ鼻先から突っ込む。爆音が轟、火柱が上る。
あの状況下で良くあれだけの事が出来たものだ。
だが、感心している暇はない。
「皆、連中が来る!備えろ!」
「言われ無くともとっくに備えてますよ!」
「…………やるしか無い」
「」[ガクガクブルブル]
「確りしろ!お前の力が必要だ、ジェニー!」
「は、はいぃ……」
「大丈夫だな?頼むぞ!」
「……はい」
「良し」
ジェニーはやれば出来る。
それを俺は知っている……よなぁ?
不安だ。
決してジェニーを疑っている訳ではないが……。不安だ。
『此方ファンツィン1、敵機は五十機程だ!』
『此方ブルー・ベインツ、了解、全機に通達、敵機を全て墜せ!』
『全て墜せだぁ!?こっちが撃墜されない様にするので精一杯だっての!』
『クソッ!尻に付かれた!』
『イメルダ2から離れやがれ!』
『ミサイル接近!ブレイク(回避する)!』
『クソッ!速過ぎる!ロック出来ない!何時も何時も何々だこの性能差は!』
『来るな!来るn』[ズガァン!]
『バリオス3が墜ちた!』
『爆撃機は残り三機だ!』
『戻るのは不可能だ!爆弾全部落してやる!』
『此方十二番機、四番機、俺達も一緒に行かせてくれ』
『此方十五番機、俺達も付合う、戦闘機は道を空けてくれ』
『四番機了解、残り三機で奴等を道連だ!』
『此方ブルー・ベインツ、それは命令違反だ!戻れ!』
『悪いがそいつは無理な相談だ。もう戻れないよ』
『全機!花道を造れ!敵機を近付かせるな!』
『止せ!死ぬんじゃない!』
『そいつは嬉しいね。けど手遅れだ』
『十二番機、投下!』
『十五番機、投下!』
『……四番機、投下!』
最後の爆撃を終えたその時、数機の敵機が味方戦闘機の群れを突破し、爆撃隊に迫った。
しかし、三機とも回避行動など取らない。まるでカカシ(動かぬ的)の様に簡単に機銃で穴だらけにされる。
そのまま三機とも峡谷へ墜ちて行った。
俺がこの三機の最期を知るのは戦後になってからだった。峡谷が曲りくねっている為、四角になっていたのだった。
俺がこの時知り得たのは、自分の目で見た味方爆撃機の墜落と無線での遣り取りくらいだった。
『爆撃機三機、反応ロスト!』
『……クソッ!』
『此方バリオス4、彼等は全滅した』
『此方レディオルム3、此方も確認した。最高(さいてい)だが最低(さいこう)の最期だった』
『感傷に浸っている暇は無いぞ!』
『味方の残機は!?』
『もう50機も居ないぞ!』
『相変らず減るのが速過ぎる!』
『こりゃ新記録だな……。敵もそれだけ本気って事か』
『空軍はもう持たないぞ!』
『地上の部隊だけでも此処を守るんだ!』
『撃て撃て!奴等を叩き墜せ!』
『ぐあぁ!……此方レディオルム4、足をやられた。機体も駄目だ。……畜生!イジェクション・シート(脱出装置)がイカれた。ベイルアウト(脱出)出来ねx……』[ドゴォン!]
『レディオルム4、墜落!』
『バーリエン1が火を噴いた!』
『――――――――!!』
『駄目だ!脱出する!』
『おい、止めろ!ベルリーニ2!お前にはまだその軌道は無理だ!』
『……く、苦しい。……息が……出来ねぇ』[ハアハア]
『レイミー!命令だ!戻れ!』
『……………』
『レイミー!敵機g[ドガァン!]レイミー!!!』
『ベルリーニ2、墜落!』

空軍は敵に良い様に弄ばれていた。
そして俺達陸軍も次第にこうなるであろう事を皆理解していた。
『敵機接近!敵機接近!大型輸送機20機!砦に向かって直進している!』
『新手か!?』
『十二時方向だ!』
『十二時って何処だ!?誰から見て十二時なんだ!?』
『西だ!西から来ている!』
『砲火を輸送機に集中しろ!恐らく空挺部隊だ!』
『地上戦に備えろ!お客さんだ!』
『此方ブルー・ベインツ、レッドドラゴン、スカイアロー、ゴメスの各隊は敵輸送機を撃墜せよ!残りは彼等に敵機を近付かせるな!』
『此方レッドドラゴン1、了解。下の連中を守る。レッドドラゴン各機、付いて来い』
『此方スカイアロー1、了解した。僚機と共にレッドドラゴンの後ろに付く』
『ゴメス隊、後ろに付く』
『空軍だけでは防ぎ切れん!奴等が降下して来る前に地上からも攻撃を加えろ!』
『味方に当てるなよ!』
『輸送機が撃墜出来なかった場合は敵の降下中を狙え!良い的になってくれる!』
『奴等は堅いぞ!』
『落下傘を狙え!勝手に大破してくれる!』
『輸送機を視認。攻撃する』
『此方ゴメス隊、取巻きを引付ける』
『了解。頼むぞ!』
『そーら、こっちだ!』
『退け退け!お前等の相手はこの俺達だ!』
『今だ、攻撃開始』
『一機撃墜!』
『しまった!敵の編隊が抜けた!輸送機攻撃隊!注意しろ!』
『二機目を撃墜!』
『スカイアロー各機、此方に来る編隊の足止めを試みる。レッドドラゴンは攻撃を続行しろ』
『了解。ゴメス隊、バトンタッチだ』
『了解。輸送機攻撃に移行する』
『おらおら!今度は俺達が相手してやる』
『スカイアロー2!やられた!』
『レッドドラゴン3!被弾した!』
『此方スカイアロー4!駄目だ!後は頼んだぞ!』
『敵輸送機が見えたぞ!』
『撃て!此方に来させるな!』
『味方機!気を付けろ!地上からも攻撃する!当るなよ!』
『ゴメス5!墜落する!』
『ベルニーニ1!尻が火事だ!脱出しろ!』
『やられた!蜂の巣だ!』
『三機目を撃墜!』
『敵戦闘機が地上への攻撃を開始!対空砲を鎮める気だ!』

「一機こっちに来るぞ!」[バッ]
「伏せろ!」[サッ]
「…………ッチ!」[スゥ]
「おい!そこのお前等!死にたくなかったらコイツの後ろに下がれ!」[ユビサシ]
「出番だジェニー!」[ニヤッ]
「ぎぃやぁぁぁぁぁ!!!」(人生オワタ!)[ビエーン]
此処に居なければ不味い事になるので、皆してジェニーの後ろに隠れる。だが、決して彼を捨駒にしているのではない。
彼に期待しているのだ。
「――――――――――――――――――」(←魂の叫び?)
敵機が迫る。
ジェニー!さぁ、見せてやれ!お前の実力を!
「」[プッツーン]
来た来た来たぁ!
これだよこれぇ!
「ニョワアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!」[ピカァー!!]
ジェニーが叫ぶ!
そして彼が光り輝く!
迫る敵のミサイル、だが今のジェニーには無意味だ。何故なら……。
こうなったジェニーはほぼ無敵だからだった。
「―――――――――――――!!!!!」[ズドオオオオオオォォォォォォォォォォンンンンンンンンンン]
ジェニーから何かが放たれる。
その輝きに包まれたミサイルは一瞬で蒸発し、敵機は光に掠っただけで爆散した。
たった一人で敵機を撃墜。
流石だぜ。
意識を失い倒れこむジェニー。
お疲れさん。
俺達が砦の最上部に配置されている理由、それは爆破の件も有るが、何よりもジェニーが居るからだった。
この攻撃力では下手に使うと基地に甚大な被害が出てしまう。
また、これはジェニーが死掛けた時のみ発動するらしい。よって最も安全で危険な場所に配置されたのだった。
多分コイツがこれを連発出来、且自在にコントロール出来たなら戦局は今より大分マシだったろう。
今の攻撃で一瞬怯んだ様にも見えたが、直に敵は攻撃を再開する。
「ライアン、ジェニーを頼む」
「了解」
ライアンはジェニーを担ぐ。

さて、そろそろ向うの命令にも従わないとな。
先程ライアンにジェニーの後ろに下がれと言われ、一部始終を目撃し呆然としていた兵士達に俺は告げた。
「おい、死にたくなかったら付いて来な」
「…………は?」
「だから、死にたくなかったら付いて来いっての」
「けど持ち場は!?」
「良いから。中の隊長の言う事聞いとけって」
「…………どうせ此処に居ても死ぬか捕虜になるだけ」
「しかし、命令違反です!」
「あぁ、それなら問題無い。俺達は上からの命令で此処を離れるからな」
「そちらが良くても我々はそんな命令は受けておりませんので此処を離れる訳には行きません」
「そうだろうな。ただ、こっちは連れて来れるなら出来るだけ多く連れて来いという命令も受けているものでね」
「隊長、もう余裕は無いです。さっさと行きましょう」
「まあまて、此処に留まり反撃の機会を与えられずこのまま此処で犬死するのか、一緒に来て反撃を試みるのか好きにしろ。因みに此処で俺達と共に行く事にしても命令違反でも敵前逃亡でも無いからな」
「……解りました。付いて行きます。中尉殿」
「そりゃ良かった。これ胸に付けときな、それからそこに隠れていてくれ。さてと、あーあー、総員に通達。此方MSY実行部隊プランR-1終了。プランR-2へ移行。繰返す。プランR-2へ移行」
『此方司令室、誰だ?何を言っているんだ?』
『此方MSYM2、了解。張りぼてを用意する』
『此方MSYリーダー、予定通り作戦を開始する』
『貴様等何を言っているんだ!おい!何処へ行く!』
『アンタは此処に残るんだ。総司令官』
『なっ!?これはどう言う事だ!わたしに銃を向けるな少将!』
『アンタが敵と通じていた事はとっくに分ってたんだ。MSさんよ』
『わたしの名はマーク・ウスバルだ!イニシャルが違うぞ!』
『おやおや、これは失礼。それなら「無能な嘘吐き炙り出す作戦」略して「MUA作戦」の方が良かったかもな』
『戦闘機各機、撤収だ!急げ!』
『こんな事をしていたら敵に利用されるだけだぞ!少将!それにこの戦いで死んだ連中はただの犬死ではないか!』
『アンタがまともなら犬死せずにすんだんだよ』
『大体、本当に犬死だと思ったのか?』
『何!?どう言う事だ!』
『少々基地等に細工をしましてね。魔法で戦闘機等の幻影を作り出して味方がやられている様に見せていたんですよ』
『何だと!?』
『つまり、味方機の損害は非常に軽微。パイロットの肉声は事前に録音したものですよ。爆撃機とその人員全て失ったのは誤算でしたがね』
『クソッ!衛兵!コイツを取押えろ!』
『無駄だ。この作戦に参加していないのはアンタだけだ。つまりアンタの味方は存在しない!』
『何ぃ!?』
『さあ選びな!此処で総司令官として名誉の戦死を遂げるのか裏切者として歴史に記されるのか!』
『わたしが居なければ連合軍は負けるぞ!』
『居ようが居なかろうがこのままでは負けるだろうがアンタが指揮するより大分マシだ無能裏切野郎!有能な指揮官ならレヌリアにもエリュオスにもこの中央盆地にも居るんだよ!』
『総員退避!総員退避!奥の手を使う!急げ!』
『空軍は退避完了!』
『MSY実行部隊!早く退避を!』
『敵が迫っている!』

「もう良いか。良し、コナー隊退避開始!お前達は俺達に続け!」[ダッ!]
「了解。しかし、あれは本当なのですか?」[タッタッタッタ]
「ああ、本当だ。奴は俺達を売って戦後の自らの地位を確保しようと企み俺達に気付かれたのさ」[タッタッタッタ]
「そんな……。これから俺達はどうすれば……」[タッタッタッタ]
「後で考える時間は有る。今は走れ!……おっ!あれは!」[タッタッタッタ]
数台のトラックが此方へ走って来る。ナンバーを見て思わず笑顔になる。
あいつ話しやがったな。
「コナー隊!乗れ!」[キィー!!]
「オルガ中佐。本国へ帰ったのでは?」[ニヤニヤ]
「この御方の役に立たなくてどうする?」
「やれやれ……」
トラックの荷台に次々と仲間達が乗込んで来る。
助手席には確りとライルが座っていた。俺達よりも先に乗っている所をみると、差し詰め移動系の魔法を使ったのだろう。
「あの馬鹿司令官はどうした?」
「死んだよ。自害するって言うんで銃を渡したら俺を撃とうとした。だけど魔法の掛かった特殊弾だったから俺を避けて行ったんだよ。そしたら運悪く兆弾した弾が頭蓋を貫いちゃったんだよな」
「そうか……。ライル、俺達で最後だよな?」
「ああ、さっき確認した」
全員が乗込み終わる。
「中佐、出して下さい」
「ああ、この基地ともおさらばだ」
トラックが走出す。
見上げると次々と降下して来る空挺戦車の群れが居た。
魔法が掛かった対空砲や戦車の張りぼてを攻撃する戦闘機も居た。
まだ敵は俺達が逃出した事に気付いていない様だった。
トラックは谷を走る。今度は盆地に向かって。
走り続ける事数十分、もう敵も基地も見えない。と、ここでライルが俺に一言。
「そろそろか?」
「そろそろだな。……ノフル。やれ」
「…………了解」
ノフルが何かを行う。
暫くすると基地の方から轟音が聞こえて来た。
巨大な火柱が上がる。基地そのものを爆破したのだった。
この戦いでの敵の損害はこの時点までで最も大きな物だった。
トラックは停まる事無く峡谷を走り続けた。

―――――――イラステイン ノラリアレイス イラステイン国防庁 8/29 10:20―――――――

「それで、作戦は?」
「無能な裏切者を片付ける事には成功しました。また、敵の部隊に大打撃を与える事に成功、これで侵攻を少しは遅らせるでしょう。気休め程度ですがね」
あの無能裏切総司令官を切捨てた俺達は、この作戦を立案・指揮していた黒幕の一人と会っていた。
連合軍上層部の中でも一早く総司令官の裏切りに気付いた一人で、他の黒幕達と連携し、総司令官を追詰めた影の立役者だ。
部屋には黒幕と俺、小隊のメンバーの三人だけが居た。
「だろうな。……良くやった中尉。いや、少佐と言うべきだな」
「階級を偽るのも結構大変なんですよ。総帥」
「すまないな。だが、もう偽る必要は無かろう。そこの三人も同様に本来の階級で良いぞ」
「「「はっ!」」」
「ノフル・クリービー大尉、了解であります」
「ライアン・バスター中尉、同じく了解」
「ジェニー・マクレーン一等h……じゃなくて少尉、り、了解です」
そう、俺達コナー隊の面々はこのシロヒゲハゲチャビンジジイの命令で、全員が偽の階級証を身に着けていたのだった。
俺達はたった今からそれまでの建前であるイラステイン陸軍第三師団(中略)第七小隊から、イラステイン全軍総帥直属特殊部隊に復帰する。
この特殊部隊は陸・空両軍合せて数百人程で構成され、命令が有れば王族等要人警護からこのジジイの暇潰しの相手、果は迷子の子供やペットの捜索までこなす。
言ってみればただの便利屋だ。
極秘の特殊部隊なのに国民なら誰でも(精鋭部隊及び便利屋部隊として)知っている為、こうして所属と階級を偽る事も多々有る。
「コナー隊、ご苦労。……すまないがマクドネル以外は外してくれ。それからライルを呼べ」
「解りました。失礼します」
ノフル達が部屋を出ると直にライルが入ってきた。
「ブランディー少将。良くやってくれた……。そこのお嬢さんは誰だ?」
「エリュオスのオルガ中佐ですよ」
「は、初めまして総帥。エリュオス陸軍中佐、オルガ・スパートです」[ガチガチ]
「スパート中佐、そんなに硬くなるな。少将、何故この部屋に入れた?」
「オルガが離れたくないって言うもので」
「だってぇ~。将軍と一緒じゃないと不安なんですよ~♪」
この発言の瞬間。ジジイが此方に目で尋ねて来た。
(おい、マック!これはあれか?)[チラッ]
(そうですよ。まったく……)[チラッ]
(どうだ、俺の彼女は?ジジイには一生無理だろ?)
(貴様の目は節穴か?ワシの妻の方が美人だな)
(あのババアの何処が美人だ?オルガの方が美人で可愛いだろうが)
(上等だ。此処で一戦殺り合うか?糞ジジイ)
(良いぜ。決着を付け様と思っていたところだ。オチビちゃん)
また始まった。中佐も居るってのに……。
ん?一寸待てよ?中佐が居るのに何で始めているんだ?
この訳は直に解った。
「さて、この中央盆地に敵が攻入るのも時間の問題。屈辱では有るが、ワシ等はイラステイン・リヴァテイン両国から撤退する事になる。だが一つ問題が有る。奴等の進軍が余にも速い事だ。そこで奴等を足止めする何かが必要だ」
「成程、それで俺達を呼んだのですか」
「その通りだ少佐。少将は解っていた様だがな」
「そんなのは駄目です!」[バン!]
総帥に詰寄る中佐。瞳には涙を浮べている。
やっぱり気付いたか。
「オルガちゃん……。誰かがやらなきゃいけないんだ」
「でも、将軍に死なれたらわたし生きていけません!」
「…………ありがとう」(本当は……)
「三人とも聞け。連合軍はこれより西へ向かう、お前等はそこに合流しろ」
「……えっ!?」
キョトンとしている中佐。
何を言われたのか解っていないらしい。
「正気ですか!?総帥!」
「正気だ、少佐」
「あなたは連合軍に必要な存在だ!此処で死なすわけに良くか!」
「必要なのはワシではなくてお前達だ。ワシはもう十分生きた。ワシが出る」
「でも……」
すっと手を俺の前へライルが出す。
その手が何も言うなと伝えて来る。
「二人とも聞け。恐らくこれで最後の命令だ。ワシを置いて行け」
「了解した」
「……了解」
「それから三人に個人的なお願いだ。生き残ってくれ」
「「「分りました」」」
「あとそれから、スパートさん。この馬鹿を宜しく頼みます」
「はい」
俺達は部屋を後にした。
ノフル達と共に歩き出す。この建物には総帥と俺達以外はもう誰も居ない。
建物を出て正面に停めてあった中佐のトラックに乗込む。そしてトラックは静かに走出した。
振返ると総帥と話をしていた部屋だけに灯りが点いていた。
トラックは街道を西へ走り続けた。

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最終更新:2011年08月19日 13:02
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