ギムリアースのお話2

堆く積まれた屍の山から流れ出た血が川を作って流れていく。

流れ出た血液からもうもうと湯気が出て、酷く生臭い。辺りの気温が極めて低いためだ。

鉛色の空から灰に混じって雪が降っている。既に祖国からはるかな遠方にいるが、この地域でも灰は降っているようだ。

吐く息は白く凍り付き、虚空に溶けていく。

俺は側に無言で佇む相棒、金属製ゴーレムの『ウィンリィ』を見やった。ウィンリィの銀色の肩の上にも灰混じりの雪が積もりだしている。

この季節に素手でウィンリィに触るのは自殺行為だ。即座に凍傷にかかってしまう。

戦地での凍傷はやっかいだ。薬も防寒具も不十分な現状では特に。下手を打てば足や腕を切り落とさなければならなくなる。

俺の戦友も何人かそれで手足を失った。
それだけならまだ良いが、中には死に至る者もいる。


故郷ギムリアースを離れてはや数ヶ月、俺の所属するギムリアース民兵団はこういった予想外の事態に戸惑いながらも順調にレヌリア帝国軍を撃破して来た。

俺たちが密かに製造していた金属製の自律型ゴーレムの軍団が、予想以上に大きな戦果を上げてくれたお陰だ。

帝国の連中は初めて見た怪物兵器に驚き戸惑い、ほとんど抵抗する間もなくゴーレムの鋼鉄の拳の前にその身を粉砕されていった。

奇襲が功を奏した事や、以前から入念に準備していた事、レヌリア帝国軍の虎の子であるインペリアルガードがまだ出てきていない事など、もろもろの事情を考慮しても、ここまでの大戦果を上げられたことは自慢して良いと思う。



あの世で親父も喜んでくれているんじゃないだろうか。



とはいえ油断は出来ない。斥候部隊の報告によれば、帝国は俺たちギムリアースの残党を根絶やしにすべく大部隊をこの地域に送り込んで来るそうだ。

その数は六万八千。対するギムリアース民兵団は五千七百。文字通り桁違いの戦力だ。

更に帝都カテドラからの増援もこちらに向かっていると聞いた。

多分その増援はインペリアルガードだろう。鉄の規律と良質な武器、そして高い士気を誇る大陸でも屈指の精鋭部隊だ。

だが、たとえインペリアルガードが相手でもこのゴーレム軍団が負けるとは思えない。



奴らに思い知らせてやろう。このゴーレムの力を。俺たちギムリアースの民の憎しみを。



俺たちに失うものは何もない。そういう男達ばかり集まったから。

俺たちが死んでも祖国は口をぬぐって生きていける。

あれは国を捨てて逃げ出した難民共が、食うに困って大々的な略奪行為を働いたのですとでもレヌリアの馬鹿共に言えば良いのだ。
明らかに金属製ゴーレムは軍用品だが、軍の組織が無きに等しいギムリアースの軍事備蓄を俺たちが勝手に盗み出したとでもいえばなんとか切り抜けられるだろう。

ギムリアースが失うものは何もない。




さあ、地獄に向かって進軍だ。

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最終更新:2011年08月26日 11:53
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