ギムリアースのお話3

………俺たちは一体何処で間違えたのだろう?

頬に触れる地面が冷たい。まだ雪が残る大地に、赤い斑点が飛び散っている。

…俺の、血だ。

辺り一面、白い雪原に赤い色が混ざって奇妙なマーブル模様を描いていた。

戦友達の屍から流れ出た血だ。

…どうやらこの辺りでまだ生きているのは俺一人のようだ。

…どうしてこうなったんだ?

予定通りなら今頃は帝都カテドラまで進撃して、玉座を皇帝ルイジアン五世の血で染めている頃合いだったのに。

だめだ、腰から下の感覚が全くない。凍傷の為か腰骨を切られた為か、あるいはその両方が原因か?

俺たちの進路上で待ち伏せしていたインペリアルガード、あいつらは真性の化け物どもだった。精鋭なんて生易しいものじゃなかった。

鬼神。まさにそんな形容がピッタリな連中だった。

俺たちのゴーレム軍団を紙切れのように粉砕し、軽々と俺たちの部隊を壊滅させた鬼ども。
帝国はあんな化け物みたいな連中を飼っていたのか。

通りでどの国も勝てないはずだ。クソッたれめ。

…だが、これで良かったのかもしれないと思っている自分もいる。


正直なところ俺はここ最近疲れていた。




毎日繰り返される血塗れの死闘。激闘に次ぐ激闘。徐々に数を減らす戦友たち。見知った仲間たちはどんどん俺を残して消えていった。

ダークエルフのカミラ、ホビットのボルフレン、ドワーフのガンデル。

みんな俺の前からいなくなってしまった。

それでも、帝国にギムリアースの旧領土を返還させるまでは撤退など論外だった。

俺たちは狂ったように戦った。目についたものはそれがなんであれ壊し、殺した。

無抵抗な女子供も、それを護ろうとする男達も容赦なく。いつしか俺たちは戦う理由を見失っていた。

ただ帝国憎しの一事で結束しているだけの狂戦士の群れ。

かつては祖国復興を謳い、共に打倒帝国を誓った戦士たちの成れの果て。

だが、帝国は一夜で打倒するにはあまりに巨大で強力だった。

トレムレデールで生まれ育った俺は、世界の大きさを今まで知ることが無かった。

地図上では五センチと離れていない場所にたどり着くのに、現実では何週間もかかるのだ。

そんな風に苦労してたどり着いた先で守備隊と死闘を演じ、それが終われば近場の村や町を襲い、嬰児に至るまで殺戮して次の地域に移動する。

そんな生活に疲れていたのだ。

…最後に鏡を見たのは何時だったろうか。今の俺はきっと酷い顔をしているに違いない。

強く正統なギムリアースの復活は失敗した。少なくとも武力に拠っては。

だが、ギムリアースにはまだ有能な商人や職人がたくさん残っている。

彼らに後の事は任せよう。正面から行って勝てないなら搦め手に回るまでだ。

一夜で帝国を打倒できないなら長い年月をかけて帝国をひっくり返してやるのも良いだろう。

盛者必衰は世の習い。我が祖国もその例外ではなかった。それなら帝国だってそうだろう。



いつか、いつかギムリアースが帝国勢力を一掃し、かつての繁栄と栄光を取り戻さんことを切に願う。

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最終更新:2011年09月11日 22:53
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