act1~The man with the machine gun~

【magical ballet“noon moon” act1~The man with the machine gun~】

「あと何日で次の村だったっけぇ?」
「あと二十四分の一日ほどですわお兄さま。」

 命の価値がなくなり、死人が金になる場所に賞金稼ぎがやってくる。
 この二人もつまりはそういう類の人種である。

「こんな片田舎くんだりまで来てよー、本当はいませんでした―とかさあ!
 既に他の奴らにぶっ殺されてました―とかさあ!
 そーいうのはマジで勘弁だぜ妹ちゃんよぉ!」
「その時はその時ですわお兄さま。鉱山があるらしいですし金でも掘ってきてくださいな。」
「勘弁だぜそういうのー」

 棺桶に腰をかけて、新聞を眺めながら馬車に揺られるエルフの青年。
 肌は浅黒く、切れ長の瞳にチラリと覗く八重歯が特徴的な美形だった。
 その姿からは賞金稼ぎとは思えない、どことなく気品さえ感じさせる。
 荒野よりは街中で女性を連れている方が似合っているタイプの雰囲気だ。

「何を読んでらっしゃるのですかお兄さま?」

 小さな体で馬を御すエルフの少女。
 青年を兄と呼ぶが似ているのは切れ長の瞳だけ。
 肌は荒野の烈日のもとでもなお白く、彼女もまた場にそぐわないという意味では兄と大差無かった。。

「新聞だよ新聞。二人組の凶悪強盗犯がまた町を壊滅させたんだと。
 なーんと史上最速で百万超の賞金首だとさ。」
「やあね、物騒だわ。」

 夕日が遠く彼方へと沈んで行こうとしている。
 獣一匹たりとて気配のしない大地。
 夜の帳が下りてしまえばそこは魔性が跋扈する地獄と化すこと必定である。
 それでも彼らは急がない。

「ウワアアアアアアアアアアアアア!」
「おい悲鳴だぞ妹ちゃん。助けに行ってやれよ。」
「嫌ですわ、もう少しで町ですもの。」
「馬鹿、助けて恩を売ればタダ飯タダ宿だろうがよ。」
「流石お兄さま!その賤しい発想ができる辺り大好きですわ!」
「後で鳴かす。」
「鳥ですか?」
「鳴かぬなら、殺してしまえホトトギス。」

 少女は悲鳴の方向に馬車を走らせる。
 すると少女よりずっと幼い少年が馬に乗ったゴブリンの群れに囲まれていた。

717 : ◆rpv9CinJLM [saga]:2011/10/15(土) 21:07:16.68 ID:9ix2b0G70
「お兄様、私は両手がふさがってますわ。」
「解ってるっつーの。」

 身軽に馬車の上に乗る青年。
 グラグラと揺れる馬車の上で仁王立ちになる。
 青年は躊躇うこと無くやや腰を落としながらホルスターのリボルバーを抜き引き金を引く。
 銃声は一発、倒れたゴブリンは五体。
 残りはあと十数体といったところだ。
 彼らは突然の闖入者に対して少年のことを後回しにし、石斧をとって迫る。
 青年は腰に銃をためながら的確に銃弾をゴブリンに当てていく。
 一体のゴブリンの頭蓋に直撃した銃弾が頭蓋を通してわずかに軌道を変え別のゴブリンの鼓膜を射ぬく。
 一体のゴブリンの石斧を折った破片が隣のゴブリンの目に突き刺さり、俺対し斧はゴブリンの乗った馬を叩き切る。
 一体の馬の足を撃ちぬき玉突き事故を起こさせてゴブリンたちの足を止める。

「ごめん!弾切れた!」
「知ってます!ロシナンテ、少し頭を下げてなさい。」

 少女の指示に従って馬は頭を垂れる。
 妹はゴブリンたちが動きをとめた隙を突いて背中に背負っていた弓矢を構える。
 射るごとにゴブリン達は確実に動きを止めていく。
 彼女の背中の矢が無くなる頃には息をするゴブリンは一匹も居なくなっていた。

「リロードオワッタヨ!」
「もう遅いですわお兄さま。」

 ゴブリンが全滅したことを確認すると二人は少年に近づいた。

「よう、大丈夫だったか少年?
 魔物ならお兄さんがぜーんぶやっつけちまったぜ?」
「お兄様働いたの最初だけですよね?」
「細かいことは気にしちゃダメダメ。」
「お、お兄ちゃん達だれ……?」
「俺はジャンゴ、ジャンゴ・マードック。
 こっちは俺の妹、ダリア・マードック。」
「よしなに。」
「えと、僕は……」
「ぼっちゃま!トーマスぼっちゃま!こちらにいらっしゃったのですか!」
「あ……!」

 遠くから駆けてくる柄の悪そうな男。
 彼を見つけた瞬間少年の身体がビクっとすくむ。

「お怪我なさっておりませんか!?
 ブルーノめはぼっちゃまが町を出たと聞いて生きた心地がしませんでしたよ!
 ささ、街に帰りましょう!
 ところでそちらの方々は……?」
「僕がゴブリンに襲われている所を助けてもらったんだ。
 命の恩人だよ。」
「なんとなんと!それはありがとうございました!
 これは手厚くもてなさねばなりますまいな!」

 ゴソリ、とブルーノの背後でゴブリンが蠢く。
 鎧を着込んでいる親玉、その鎧故に矢の刺さりがどうにも浅かったようだ。


「伏せろブルーノさん!」

 ゴブリンの親玉がブルーノに向けて斧を振るう。
 再び銃声、それと同時に斧が割れ、鎧が砕け、心の臓が破裂した。
 旧式のシングルアクションとは思えない威力と狙いの良さを間近でみて少年とブルーノは目を剥く。

「危なかったな、で、あんた達の町ってこの近くだよな?」
「え、ええ……。」
「俺はジャンゴ、こっちは妹のダリアって言うんだが……良ければあんた達のところに泊めてくれないか?」
「もも、勿論でございます!ぼっちゃんだけでなく私の命の恩人でもありますから!」
「そいつぁありがたい。じゃあ馬車にのって、道案内してくれ。」

 ブルーノと少年を馬車に乗せて一行は一路町に向かう。

「そういえばお兄ちゃん、さっきと言い、今と言い、その銃すごい威力だよな。」
「おう、こいつは“昼の月”って名前の魔弾が入ってるからな。化物くらいイチコロさ。」
「そんなすごいもの有るんだ……もしかして城下町で買ったの?」
「なんだ、城下町に行ったことないのか?」
「うん!一度は行きたいと思ってるんだ!」
「残念だがこれは俺が作った物だ。町に行っても売ってないぜ。」
「なーんだ……。」
「あら、ブルーノさん。あれが町ですか?」
「はい、そうでございます。」

 門をくぐって町に入る。
 だがどうにも雰囲気が暗い様子だ。
 しばらく走ってから馬車は町の真ん中にある一際大きな邸宅の前に止まった。

「こちらがぼっちゃまのお父様、旦那様の屋敷でございます。
 今は旦那様が居らっしゃらないので実質ぼっちゃまの屋敷となっておりますが……。」
「居ない?」
「鉱山の落盤事故に巻き込まれて行方不明なのでございます……。」
「ふーん、そいつは災難だな。」
「とにもかくにも部屋はすぐにご用意させて頂きます。
 ひとまずお酒でもいかがですか?」
「すきっぱらにアルコールはちょいときついな。」
「それでは夕食の方をご用意いたします。
 おいお前ら!客人だ!もてなしの準備をしろ!
 お客様の馬は離れの方で丁重にお世話しろよ!」

 恐らくこちらの方が地なのであろう凄みの聞いた声で邸宅の中の下男下女たちに指示を出すブルーノ。
 兄妹がびっくりするほどの早さで晩餐のテーブルが準備され、それらを食べ終わるとすぐにこんな田舎ではとうていお目にかかれないような上等な酒を出された。
 ブルーノの話によれば少年の父親は金鉱山で鉱夫たちのリーダーをしており町の商人に頼らずに独自に販路を築いたおかげで大きく儲けたのだそうだ。
 ブルーノはグレていた頃に少年の父親に手酷く痛めつけられてそれ以来心根を入れ替えてここで働いているとのことだった。


「さて、もうこんな時間ですし寝室の用意をしております。
 よろしければ案内させますが……」
「そうですね、そろそろ寝ないと、明日も早いものですから。」
「明日にはここを発つのですか?」
「私たち、生き別れになった父親を追っているんですよ。」
「トーマス君と似たようなもんです。
 彼には秘密にしておいてくださいね。」
「確かに、それを聞いたらぼっちゃまが鉱山まで乗せて行けと煩くなりそうだ。」
「ちがいない。」

 兄妹はメイドに連れられて寝室に向かう。

「ベッドが一つしか無いわ。」
「もうしわけございませんお客様。
 あとのベッドはとてもとてもお客様にお出しできるようなものが……」
「いえ構いませんよ、ガキの頃は兄妹で良く一緒に寝たものですから。」
「申し訳ございません、それでは失礼させて頂きます。
 どうぞごゆっくりおやすみ下さいませ。」

 メイドはそう言ってドアを閉じた。

「さーて……寝るか。」

 そう言ってジャンゴがベッドに寝転び、天井を見上げた瞬間だった。

「おにいさま~!」

 彼の視界の中に妹が居た。
 思い切りよくのしかかられた。

「うわ馬鹿やめろ、重い、熱い、苦しい!」
「そんなこといって~、実は喜んじゃってるくせにぃ!」
「物音出したら迷惑かかるだろうが!」
「大丈夫、お兄様が抵抗しなきゃ静かだから!」
「そういう問題じゃねえよ……。」
「お兄様ったらひどい、久しぶりにベッドで眠れるから嬉しかっただけなのに……。」
「ワケガワカラナイヨ」
「でも最初の頃よりは抵抗しなくなりましたよね、最初は兄妹でこんなことーとか言ってたくせにー。」
「とりあえず宿を貸してもらってるんだから今日はやめましょう。」
「うー……。」
「添い寝はするから。」
「おやすみのちゅーは?」
「解った、解ったから。」

 わりとげんなりした気分になりながらも妹の指示に従うジャンゴ。
 満足そうな表情をしたかと思うと彼女はすぐにすやすやと寝息を立て始めた。


「ノンキなもんだなおい……。」

 彼が何気なく窓の外を眺めるとブルーノが歩いていた。
 何やらガラの悪い男達と話し込んでいる。
 背中に棺桶を背負った巨体の男と針金みたいな体格の男の二人組が後ろに立っている。
 どうもガラの悪い男たちの用心棒らしい。

「なにやってんだこんな夜中に。」

 彼は気づかれる前にそそくさと窓から離れてベッドに入った。
 厄介ごとには基本的に関わらない主義なのである。
 そんな時、突然ドアがノックされる。

「誰だ?」
「僕だよ。」
「トーマス、どうしたんだ?」
「お兄ちゃん、僕を助けて。」
「待て待て待て、俺はもうお前を助けた。」
「違うんだ、話を聞いて。」
「まあとりあえず部屋に入れ、ダリアがもう寝ているから静かにな。」
「うん。」

 少年を部屋に招き入れて座らせる。

「僕のお父さんを殺したのはブルーノなんだ。」
「どういうことだよ?」
「ブルーノは僕のお父さんを事故にみせかけて殺して金鉱脈を自分のものにしようとしているんだ!
 僕も金の場所を知っているから生かされているだけで何時殺されるか分からないんだよ!」
「はぁ?」
「本当だよ!」

 少年の瞳は真剣そのものである。
 ジャンゴには彼の言葉が嘘のようには感じられなかった。

「ま、それが本当だったとしてもだ。俺はあんたを手伝えねえな。」
「なんでだよ!お兄ちゃん達さっきだってたすけてくれたじゃん!」
「第一にお前を助けたってお前の親父が帰ってくるわけじゃない。
 つまり俺たちには一銭の得にもならない。」
「結局大人は皆損得で動くのかよ……。」
「第二に、俺は口を開けて間抜け面で助けを求めることしかできない人間が嫌いだ。」
「う……、じゃあせめてその銃の使い方を教えてくれよ!」
「駄目だね、この銃も、魔弾も、特別製だ。」
「銃はお父さんから貰ったものがあるんだ!弾さえあれば……」
「なおのこと駄目だ、これは超特別な弾だからな。」
「……うぅ、解らず屋!」
「悪いね、俺たちを追い出したいならどうぞご自由に。」

 トーマスは何も言わずに部屋を出る。

「でも助けちゃうんでしょ、お兄様は。」
「起きてたのか。」
「だってお兄さまがパタパタ動き回っているんだもの。
 きっと昼寝のしすぎよ。」
「解った、俺ももう寝るよ。」

 ジャンゴが諦めて寝ようとしたところで再びドアが鳴る。

「すまないジャンゴさん、起きているか?」
「その声はブルーノさんか?こんな夜中に一体なんだ?」
「ここからで良いから話を聞いてくれ、先ほどここにぼっちゃまが来ただろう。」
「ああ。」

 ジャンゴは枕元の銃に手を伸ばす。
 リボルバーにしっかり弾が込められていることを確認する。

「さっき見せてもらったがたいした腕じゃないか。あんた達の腕を見込んで頼みがある。
 トーマスぼっちゃまを守り、旦那様の仇をとってほしい。」
「……どういうことだ?」
「旦那様を殺したのは断じて俺じゃないってことだよ。」
「それは……」

 銃声が二発、それに続いて子供の悲鳴。
 トーマスの物だ。

「ぼっちゃま!?」
「ブルーノォ!中にいるんだろ出てこいよ!俺たち古~い友達だろぉ?」

 表から先ほどブルーノと話していた男の声が聞こえる。
 窓からはロープでぐるぐる巻きにされた少年の姿が見えた。

「くっそあいつら!」
「おいおいおいおい、マジで訳がわからんぞ?」
「旦那様を殺したのは奴らなんだ。
 仇をとりてえのは山々なんだがあいつらには腕利きの用心棒が居て、あいつらに味方する振りしながらぼっちゃまを守るので精一杯だったんだ……。
 とりあえず俺は表に出る、あんた達にぼっちゃまを憐れむ心が有ったらあの子を助けてくれ。
 俺はどうなっても構わねえがぼっちゃまだけは……」
「おい待てブルーノさん!今行ったら思う壺だぞ!」
「ぼっちゃまを危険に晒す訳にはいかねえんだ、頼んだぜ“お客様”。」

 そう言ってブルーノは表に出る。

「ブルーノ!お前よくもお父さんを!」
「ヒャッハッハッハ!まだ勘違いしてやがるぜこの糞ガキは!」
「恩知らずも良いところだっつーの!」
「誰か真相を教えてやれよ!」
「その前にまずはこいつだ、やっぱり俺たちを裏切っていたんだから少し痛い目をみてもらわねえとな!」

 外ではブルーノが男たちに殴られている音が聞こえる。
 ジャンゴは予備の弾を置いていた机の上を月あかりを頼りにして手で探る。


「あれ?ない?」
「うーん、弾ならあのおぼっちゃまに持ってかれたんじゃないですか?」
「止めろよ馬鹿ぁ!っていうか起きてるなら手伝え!」
「解ってますわお兄さま。」

 二人は駆け足で階段を降りて裏口をまわって建物の陰からブルーノ達に近づく。
 息を殺し、それぞれの手に得物を持って助けに向かう最良のタイミングを伺っていた。

「ってわけだよ糞ガキぃ!お前らのパパをやったのはこの俺たちってことさ!」
「う、うそだ!」
「嘘だと思うならそこのブルーノに聞いてみればいいじゃねえか!」
「ブルーノ、ブルーノは本当に僕を守っていてくれたの?」
「う……申し訳ございませんぼっちゃま。」
「親子共々馬鹿なんだから救いようがねえなあ!」

 男たちは大声で笑う。

「お父さんを馬鹿にするな!」

 縄で縛られたトーマスが突如として縄を抜け、銃を抜いて男たちに向けて撃ちまくる。
 そうはいっても狙いも構えもなにもかもが滅茶苦茶な銃弾が当たるわけもないのだが。
 それでも隙はできた、兄妹は互いに眼を見合わせて頷く。 
 しかし彼らが躍り出ようとした瞬間、彼らの隠れていた建物が機関銃で吹き飛ばされる。

「物陰に隠れている二人組!銃を捨てて大人しく出てこい。」
「え?」
「流石先生!たすかりやすぜ!」
「高い金出して用心棒を雇っておいて良かったぜ!」
「私たち兄弟は史上最速で百万を超える賞金首になったんだ。
 その腕に見合う報酬を支払うのは当たり前じゃないか?」
「へへへ……ちげえねえ。」

 兄妹の接近に気づいていたのは痩せて針金のような男ととにかく巨大な男の二人組。 
 先ほど棺桶を背負っていた身体の大きな男が機関銃を兄妹に向けて構えている。

「出てこないとこいつらを殺すぞ!」
「しかたねえなあ……。」
「え、行くんですか兄様!?」
「行かねえとかっこつかんだろうよ。」

 ジャンゴは銃を捨てて両手を上げて、上半身裸で物陰から現れる。


「武器は持ってないから撃たないでくれ。
 あと俺が知っている金鉱の場所も教えるから命だけは勘弁してやってくれ。」

 ジャンゴは適当な嘘も織りまぜながらトーマスとブルーノに小声で話しかけられる位置まで近づく。

「お兄ちゃん!」
「ようトーマスぼっちゃん。」
「お兄ちゃんの嘘つき!あの弾、魔弾でもなんでもなかったじゃないか!」
「あーすまんな、嘘だよ嘘。嘘だったんだ。あれは魔弾じゃない、只の安物の銃弾だよ。」

 トーマスの顔に絶望の色が浮かぶ。

「おい、女のほうはどうした!てめえらが兄妹だってのはとっくに調べがついてんだぞ!」
「ああー、あいつは逃げた。」
「はぁ?騙し討ちにかけようったって……」
「行くわよロシナンテ!巻き込まれる前に少しでも遠くに!」

 猛然と走り去る馬車。
 乗っているのは間違いなくダリアだった。

「ほ、本当に兄貴見捨てて逃げやがった!」
「なんて女だ……。」

 唖然とする男たちを気にするでもなくジャンゴはトーマスに向かって話しかける。

「本物の魔弾は……これから見せる。伏せてろ少年。」
「え?」
「いけませんぼっちゃん伏せて!」

 これから起こることをなんとなく察知したブルーノはトーマスと一緒に地面に伏せる。


「おいお前らぁ!」

 大声で男たちを呼ぶジャンゴ。
 男たちはジャンゴの方を振り返る。







「真昼の月を見たこと有るか?」







 爆音。
 属性も何も無い直径30mmの魔力塊が圧倒的物量を以て襲いかかる。
 発射速度毎分3,900発
 銃口初速1,067 m/s
 有効射程1,220 m
 これは間違いなく魔力によって行われている攻撃である。
 繰り返す、これは間違いなく魔術である。
 あまりにも無骨、あまりにも凶暴、優雅さの欠片も無い暴力そのものではあるがこれは魔法なのだ。
 エルフでありながら父祖伝来の魔法を封印し、
 “自らが銃を持っていない時にしか使えない”など種々の制約をかけて、
 それでやっと青年が手に入れた単純にして無敵の破壊魔法。

「無属性魔術弾丸、“昼の月”」

 たった五秒、五秒だけそれがうなりを上げた。
 それだけで先程まで居たゴロツキ達は原型を留めないミートパイの元になっていた。

「真名“復讐者”」

 再び静寂を取り戻す夜の街。
 ジャンゴは地面に伏せていたトーマスに手を伸ばした。
 優しく微笑みかけて彼を助け起こす。

「おう、やるじゃねえかトーマスぼっちゃん。
 わりと感心したぜ。」
「うるせー、嘘つきやがって。でも……ありがとう。」
「ありがとうございましたジャンゴ様。」
「で、ブルーノさん、これからあんたはどうするんだい?
 トーマスの親父さんは……」
「待てお前ら!」

 針金のような体躯の男がよろよろと立ち上がる。
 どうやら防弾ジャケットを着込んだ上で仲間を盾にしていたらしい。

「お前らよくも邪魔してくれたなあ……。
 せっかく悪名高い賞金首の振りして上手いこと飯にありついてたのによお……!」

 ジャンゴが指を鳴らすと先ほどまで地面に投げ捨てていた彼の銃が彼のホルスターに収まる。

「だったらどうする?」
「てめえも銃士なんだろ?なら決闘だ!始まりの合図は……次に梟が鳴いた瞬間だ。
 さっきのヘンテコなマジックさえ無ければこの俺が貴様に負けることはねえ!」
「ふーん……イイぜ。トーマス、ブルーノさん、隠れてな。」

 ジャンゴと男は向かい合う。
 互いに銃はホルスターに収めたままだ。
 待つこと三十秒、何処か遠くで野犬が一匹鳴いた。
 男は引き金を引く。
 間違えたのではない、イカサマだった。
 だがしかしそれで動ずるジャンゴではない。
 男が動いたのを見て 銃を抜いた瞬間に右親指で撃鉄を起こして一発。
 空いてる左手の親指と薬指でそれぞれ撃鉄を起こしてもう一発ずつ。
 合わせて三発を一箇所に撃ちこむスポットバーストショット。
 これがトーマス少年やブルーノの前で見せた魔弾の正体だった。
 魔術でも何でもない只の技術。
 ジャンゴは男の持つ最新鋭の銃から放たれた凶弾を銃弾二発で弾き飛ばし、
 そして残り一発は違うこと無く男の心臓に命中させた。

「魔……魔弾?」
「魔術じゃねえ、技術だ。」

 既に動けなくなった男の耳元でジャンゴは囁く。

「運が悪かったな、賞金額十万の“偽物”さんよ。」
「な、じゃあてめえが……」
「地獄で会おうぜ、もっとも俺たちは弱いものからは奪わない主義だが。」

 ジャンゴは男の眉間に銃弾を撃ち込んだ。

「ふー……一宿一飯の恩は返したぜ。」
「重ね重ねありがとうございました。」

 再び頭を下げるブルーノ。

「聞きそこねちまったけどあんた達はこれからどうするんだ?」
「これからも私はトーマスぼっちゃまのお世話をさせていただくだけです。」
「ごめんねブルーノ、疑って……」
「いえ疑われるのも当たり前です。
 奴らに脅されて旦那様の居る鉱山に爆薬を仕掛けたのは私です……。」
「だがいい仕事だったぜブルーノ!
 その爆薬の量を調節して上手いこと俺を鉱山から脱出できるようにしてたんだからな。
 しかもトーマスをちゃんと守ってくれていた。」
「そ、その声は!」
「よう。」
「旦那様!」
「お父さん!」
「街の前で倒れてた所をこちらの嬢ちゃんに助けてもらってな。
 彼女の治癒魔法がなきゃ危なかったよ。」
「お兄様、私だってたーだ逃げてた訳じゃあないんですよ!」
「はいはい解ってます。」

 馬車から下りてくる髭のダンディな男性。
 トーマスの父親である。

「さて、ブルーノを脅して俺を嵌めやがった奴をこれからぶちのめ……」
「もう終わりましたよ。」
「なーんでぃ。じゃあ飲もうか。今日は命の恩人達にお礼をたっぷりせにゃあならんな!」

 こうして始まった宴は夜を通して続いた。
 翌日、兄妹は日が高くなってからこの街を後にすることになる。
 彼らが去る頃には暗かった町の雰囲気もほんの少しだけ明るくなっていた。

「お兄様、お兄様ほどではないけどトーマスくんのお父様は素敵な方でしたわね。」

 街を出てから数時間後。
 馬を御しながら妹はそう言った。

「俺たちの親父とは大違いだ。」
「ええ、私とお兄様のお母様を二人共あんな目に遭わせて殺すなんて許せません。」
「まったくだ。」
「見つけたら絶対に……。」
「そうだな、俺たちが殺す。」

 夕日が遠くへ向かって落ちていく。

「西だ、奴の目撃情報があるのはそこだからな!」
「あとこの賞金首も換金しないといけませんしね。」
「その通り。」
「久しぶりの大きな町、楽しみですわ。」

 彼らが父親の為に用意した棺桶にとりあえず突っ込まれている二人の男の死体。
 彼らはこれを換金するためにとりあえずここから西の大きな町に向かおうとしていた。


【magical ballet“noon moon” act1~The man with the machine gun~ to be continued】

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最終更新:2011年10月16日 00:02
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