俺の名前は
松戸亜輝羅、私立海目津(かいめつ)高校2年生。
世間一般ではしばしば「天才」と呼ばれる。
実際知識は豊富だ。ただ「天才」と呼ばれるのはなにやら差別的なものと畏怖の念が込められている様で気分がいいものではないんだが・・・・・・
ともかく、まあ、基本的には普通の高校生活を送っている。偶に研究に集中しすぎて3日位学校に行き忘れたり何処の誰とも知れない輩に命を狙われたりといったアブノーマルな事態に陥るが。
今日は前日に徹夜して遅刻ギリギリになってしまったものの、学校には無事に着くことが出来た。出席日数が本気で危ないからほとんど命がけだ。
「あ、おはよ」
一番最初に声を掛けてきたのは幼馴染の桜崎遥。
名前で概ね予想はつくだろうが女だ。異性でこそあれ、一番付き合いが長い所為か一番仲がいい。小学校から同じなのは学年でこいつだけだ。もっとも、物心ついた時には存在を憶えていたが・・・・・・
「おう」
端的に返事をする。ぶっきらぼうに見えるだろうが、実際そうなので問題ない。
「今日は遅刻はしなかったね」
「危なかったがな」
「そう思うんならもう少し努力すればいいのに」
「今は努力のベクトルを研究に向けたいんだ。完成が近い」
「研究もいいけど日常生活を何とかしないと……」
「色々あるんだ。誰か世話をしてくれれば楽なんだが。……お前毎朝起こすだけでもやってくれないか?」
「えっ……」
今まで水のように喋っていたのに突然言いよどむ。心なしか顔も赤い。
「お前こそ大丈夫か?熱でもあるんじゃないか?」
「な、ないよ。っていうかその、お・・・起こすって」
ここで予鈴が鳴った。
・・・・・・放課後。
いつも通り遥と二人で一緒に帰る。ちなみにどちらも帰宅部だ。
「言っておくが今日は真っ直ぐ帰るからな」
普段は結構な頻度で寄り道する。主に買い食いだが。
「忙しいの?」
「まあな」
「今度は何やってるのよ」
「あー……言えない」
何しろ危ない。色々な意味で。
「……ふぅん?」
「……怒ってるのか?」
「べっっっつに」
「……」
露骨に怒っているが、その原因が今ひとつ理解できない以上あまり踏み込んではいけない。そのくらい解る。
俺の家の前で別れた。因みに遥の家は斜向かい(はすむかい)だ。
家に帰ると早速自分の研究室に入った。
俺に両親はいない。理由は知ったことではない。海外で交通事故に遭ったとか聞いたがあの親がそんなあっさり死ぬともなかなか思えない。
別に寂しいわけじゃない。…………いや。寂しいのかもしれない。だからこんなもの創ろうと思い立ったのかもしれない。
……どれほどの時間が経ったか。
「出来た……か……?」
思わず声が漏れる。とにかく試してみないことには"成功"かどうか分からない。恐る恐る……
結論。成功だった。アルケミストに出来ないことでもサイエンティストには出来た。
ついに完成した。…………いや、もとい。"誕生"した。
俺の今回の研究とは、「ホムンクルス」を作ることだった。
感慨に耽って何も言えないでいた。たった今誕生したばかりの生命は安らかな寝息を立てている。体格は遥のものを参考にしている(身体測定の結果を保健室からちょっと失敬した)。知能についても……計算が間違ってさえいなければすぐに一般的な高校生レベルまではいく筈だ。
すると、不意に。
研究室のドアが開いた。
「亜輝羅~……」
遥だった。
うん、唐突だがここで状況のおさらいをしようと思う。
まず、思わず時計を見た。知らない間に朝になっていたようで、7時を差している。
次に、遥をもう一度見る。制服姿で手には通学鞄でない何かを持っている。どうやら昨日の朝の会話を本気にしていたようだ。
もしかすると朝食を持ってきてくれたのかもしれない。
続けて。研究室の中の状態についてだ。
書類や試験管が散乱しているのは置いておいて、たった今誕生した奴についてだ。極力ホムンクルスとかは呼ばないようにする。
そいつが、だ。今生まれたばかりな訳だ。まさしく生まれたままの姿である。
別の言い方をするなら一糸纏わぬ姿。
もっと直接的な言い方をしてしまえば、全裸。
これは非常によろしくない。
問題はまだある。
さっきも述べたとおり遥の身体データを参考にしている。分かると思うがそいつは女性である。
因みに、あーその。遥は巨乳だ。
それから……そうだまだあるんだ。
さっき培養液から出たばっかりなんだよこいつは。
全身妙な液体で濡れてるんだ。
ここまでおよそ7秒。その間遥はご丁寧にも完全停止していて、
直後、巻き戻しをするかの如くゆっくりと音もなく扉を閉めた。
「待てええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ誤解だああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!!!!!」
今たぶん世界一大きい声を出した。
ここから追加分
現在。俺は研究室で仁王立ちの遥の前で正座をしてうなだれていた。それはもう説教スタイルだ。
「……で、この子が今回の研究の結果……で あると」
「そのとおりでございます」
「……うん、無理矢理納得することにする。で、なんだっけ、ホムンクルス?」
「ああ」
「それがよくわからないんだけどそれって一体何?」
「あー……俺にも作者にもうまく説明できないな」
「作者?」
「なんでもない。忘れてくれ。……まあ人工生命体と思って貰えれば差し支えない」
「……若干引っかかるけど……まあいいわ。で、何で女の子なの?」
「男よりか簡単なんだよ。人間生まれる時は誰もが最初女だって聞いたことないか?」
「ああ、そういえば」
「まあそういうことだ」
「…………で、この子どうするの?」
「もうしばらく…具体的には丸一日くらい休眠が必要だ。……あ、体くらい拭いてやらないと」
「待って」
腰を上げた俺に遥が反応した。
「私がやるわ」
「いやでも」
「いいから。朝ご飯まだなんでしょ?作ってきてあげたから食べてなさい」
「……わかった。わかってると思うけどその辺のものに無闇に触らないでくれよ」
その場を遥に任せ、研究室を出て、階段を上って居間へ行き、受け取った包みを開ける。
明らかに手作りとわかるサンドイッチが入っていた。美味かった。
程なくして出てきた遥に、
「すまないがお前の服を一着あいつに提供してやってくれないか?着れない事はないと思うから」
不躾だが気心の知れた相手だ、問題はあるまい。
「いいけど……」
「助かる」
勿論身体測定云々のことは伏せる。流石に硫酸をぶっ掛けられるのは御免被りたい。
「その代わり」遥が続けた。
「私のお願い聞いてくれる?」
「勿論」
断る理由はなかった。
時間がまずいので遥に服を着せてもらってきたところで学校に向かうことにする。話は後だ。
学校の中では彼女の話はしないように厳命しておく。そのことも含め帰ってから話すこととなるだろう。
「なにせ人工生命体だ」
この日は土曜、半日だけ授業だった。各々昼食を摂った後の松戸家・研究室である。
「世間一般に知れるとまずいことになる」
勿論この場にいるのは亜輝羅と遥、それから眠っている"彼女"だけである。
「まあ……なんとなく分かるけど」
学校で一言も口を利かなかったから拗ねている様だ。
「だろう?」
「うん……で、この子どうするの?」
"彼女"の方を見ながら言う。
「ずっと研究室に飼い殺しにしておくとか言うわけじゃあ当然……ないわよねぇ」
「勿論だ」
首肯する。
「実は、学校に行かせようかと思っている」
案の定遥は唖然としていた。
「え……」
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最終更新:2009年10月16日 01:30