(さあて、どうしたもんか。
 このままじゃあヤバイよな……流石に)

緑衣のアーチャー――ロビンフッドは一人街を歩いていた。腕組みし、考える素振りを見せながら。
頭を悩ませているのは今しがたの襲撃失敗のことだ。
ダンの命令に背く形で二人の少女を襲ったのにも関わらず、予期せぬ闖入者もあって取り漏らしてしまった。
しかも彼らはダンと合流してしまったと来た。
直接姿は見せては居ないとはいえ、このまま自分が合流すれば疑われることは必至だ。
何せ矢と毒だ。自分が最も得意とする技であり、それはダンも知っている。

(とはいえずっと身を隠してるって訳にもいかなしな。
 心苦しいが、何とか口八丁で誤魔化すしか……ん?)

アーチャーは不意に動く者があるのを視界が捉えた。
さっとビルの陰に身を隠しながら様子を疑う。
見れば赤い外套に身を包んだ白髪の男の姿があった。彼は丁度建物――位置的にF-9のホテルか――から出てきたところだった。

(ありゃ確か二回戦の……)

アーチャーは記憶を探る。
ここに呼ばれる前、まだ聖杯戦争が崩壊していなかった頃のことだ。
自分たちは一回戦を無事突破し、二回戦まで駒を進めていた。
そしてその対戦相手、そのサーヴァントこそあの男ではなかったか。

(いや、あんなんだったか?
 もっとちんまい姫様だったような、ん? 面倒な女狐だったか?)

妙に不明瞭な記憶に違和感を覚えるが、赤い男がその場を去ろうとするのを見て、頭を振り疑念を振り払う。

(よく分からんが、とにかくアイツが二回戦の相手だったのは確かだ。
 ……しかし、これはどうにかしたら利用できるんじゃねえ?)

アーチャーは口元を釣り上げ、迅速に行動を開始する。
緑衣のマントで身体を覆う。するとすぅとその姿がかき消える。
顔のない王】アーチャーの宝具の一つであり、森に潜む暗殺者の自分を代表する能力だ。

(ま、こんなんばっか上手だから俺は真っ当な英霊とは呼べないんですがね。
 騎士なんてとてもじゃないが名乗れねえよ。
 ――そもそも名乗る気なんて端っからないが)







ブラックローズ、ダン・ブラックモア、そして黒雪姫の三人は合流後特に問題なく道を行っていた。
少なくとも表面上は。

「……という訳でカイトたちは最後の八相『再誕・コルベニク』を倒したんです」

歩きつつ、彼らは情報交換をしていた。
互いが知っていること。ここに拉致される前はどんな場に居たのか。
そういった情報を、互いが開示できる範囲で共有しようとしていたのだ。

「ふむ、そうか。君にはそんな事情があったのだな。
 しかしこれはやはり……」
「そうですね、先ず時間がズレています」
「それだけではない。恐らくもっと大きなレベルでの話だ」

結果分かったことがある。
それは彼ら三人の内にある根本的な情報の齟齬だ。
明確にズレていたのは時間で、認識の上ではブラックローズは2010年、ダンは2032年、黒雪姫は2046年、という具合だ。

だがそれだけではすまない齟齬もまたある。
辿った歴史がどう見ても合わないし、運用されている技術の面でもおかしいのは明らかだった。
ダンはそのことを頭に入れつつ、事態の分析に頭を働かせる。
彼は狙撃手であったが、同時に霊子ハッカーとして名を馳せる身だ。そういった観点からこの場について幾つか考えを巡らせる。

「並行世界という奴か」
「えっ……それはどういう」
「単純な話だ。我々は別の世界から来ていて、故に常識は合わないというのも当然だという訳だ」

目を丸くするブラックローズにそう語り掛け、そして同時に薄い微笑みを浮かべた。
その表情は冷徹な軍人ではなく、一人の優しげな老人のそれだった。

「眉唾な話ではあるかもしれん。
 だが、それがこの状況から得られる一つの解であることは確かだ。
 とはいっても、多くの中の一つに過ぎん。今の段階ではただの仮説程度に頭に留めておけばいい」
「な、なるほど……」

並行世界。
概念としてはともかく、実際に体感できる現実として存在するのかと問われればダンとて否と答えただろう。
だが、SE.RA.PHでの経験を加味すれば、これまた一概に否定できる話でもなくなる。
あらゆる生物、あらゆる生態、あらゆる歴史、そして魂さえも記録するムーンセル・オートマトン。
その『ありとあらゆる可能性』とは即ちさまざまに分岐した並行世界さえも含まれるのではないか。
そう考えられた。

同時に、そこから飛躍してまた別の仮説もまた考えられる。
そもそも世界……ブラックローズや黒雪姫のものも含めた並行世界自体がムーンセルの観測によって成り立っているという説だ。
自分たちを取り巻く世界そのものがムーンセルに収められた記録でしかないという可能性を想起し、ダンは複雑な心境になった。
だからどうという話ではないが、それはある意味世界に対する見方が根本からひっくり返る話ではないか。

(……何にせよ、今考えるべきことではない)

ダンはそう判断し、そこで一先ず思考を打ち切った。
後々必要になる考察ではあるかもしれないが、今は先ず目の前の現実――殺し合いをどうにかしなくてはならない。
聖杯戦争が中断され、突如として始まったこのバトルロワイアル。
自分はだがそれを否定する立場を表明した。

元より自分は女王陛下の命令で聖杯戦争に乗込んだ身だ。
その聖杯戦争が実質崩壊してしまった以上、戦う必要もない。
無論、自分には別の『理由』があった。戦うべき『理由』が。
だが、その『理由』はしかし、多くの無辜の命を奪ってまで叶えてはならぬものであることは、ダンとて理解していたのだ。

(もう、畜生に堕ちる必要はないのだから……)

軍人として散々冷徹な行いをしてきた自分には、少々虫のよすぎる話かもしれない。
だがそれでも、今の自分は軍人でなく、サー・ブラックモア――騎士としてありたかった。

「それにしてもThe Worldの八相……それに聖杯戦争ですか」

黒雪姫がそう呟くのが分かった。
AR――拡張現実技術が高度に発達した世界から、彼女は学校のアバターを伴ってやってきたという。
この三人の中では唯一戦闘能力がない。守られるべき存在だ。
そう思い、ダンは思わずふっと笑みを漏らした。姫を守る騎士、古典的過ぎる構図だ。
だが、それはきっと悪いものではないのだろう。

「私の常識からは色々と乖離してして……その、中々捉えづらいところがありますね」
「無理しなくても良い。こういう私も少々戸惑っているところがあるからな」

そう語り掛けつつ、彼らはビルの並び立つ都市を行く。
そろそろアーチャーとの合流ポイントの筈だ、とダンはマップを確認しつつ思う。
偵察役として単独行動してもらっている彼だが、少々問い詰めねばならないことがあった。

「ここにダンさんの仲間が来るのね」
「ああ、そうだ。だが……」

そうして、しばらく待つ。
ビルの下、常に周囲に対する警戒は怠らずにダンはアーチャーの到着を待った。

と、不意に、

「ダンナ! すまないがちょっと戦闘中だ」

声がした。アーチャーだ。
その言葉を聞き取るや否やダンはすぐさま戦闘態勢に移る。
声のした方を見る。するとそこには言葉通り矢を構え戦うアーチャーと、それに相対する赤い服の男がいた。

「アーチャー! 待っていろすぐに援護に向かう」

ダンは叫びつつ、思考を練る。
あの赤い男は確か二回戦の相手となる筈だったサーヴァントだ。
まだよく素性も知らないままだが、この場でも仕掛けてくるとは。

「ブラックローズ、君はここで黒雪姫を守ってくれるか?」
「え? いや、私も……」
「これは恐らく私の因縁が招いた戦いだ。
 君たちは巻き込みたくはない」

そういうとブラックローズは戸惑ったように瞳を揺らす。
彼女も戦いを経験した立派な戦士であることは知っていたが、それでも今はできる限り前に立たせたくはなかった。

「いや、私たちも行きましょう。
 分断されては危険だ」

不意に黒雪姫が口を開いた。
強い口調で紡がれたその言葉は真直ぐにダンへと向けられている。

「しかし」
「私の心配ならば無用です。それにこの場に留まることが安全ともいえない」

確かにそうかもしれない。
だが、気になるのは黒雪姫の様子だ。何か有無を言わせぬ強い意志がそこには感じられた。
何か彼女にとって気になることがあったのだろうか。

「……分かった。着いてきてくれ。
 だが、決して前には出ないでくれ。君は戦場に出る人間ではないのだ」

とにかく迷っている時間はない。
そう決めた後は迅速に行動する。可能な限りの速度で駆け出し、アーチャーへ追いつかんとする。
そうして夜の街を潜り抜けた先に、彼らは居た。

赤い外套のサーヴァントに守られるように居る、月海原学園の制服に身を包んだ少女。
彼女と目が合った。
間違いない。やはり彼女は二回戦の相手だ。確か名前は岸波白野と言ったか。
妙に記憶が曖昧なところがあるが、その情報だけは正しく思えた。

彼らの周りには他にも幾人かの存在があった。
ツギハギだらけの不気味な男に、赤いドレスに身を包んだ少女、それに艶めかしい妖狐。
その存在にダンは疑問を覚える。ツギハギ男はともかく、あとの二人もまた岸波のサーヴァントであったような、そんな記憶が脳裏に過った。

「…………」

岸波と視線が絡み合った。
ダンと彼女の間に冷たく、そしてどこか心地よい緊張感が走る。
初めて会ったときは、まだ若く、何の意志も持たない案山子の以前の存在だと思ったが、
それが中々どうして良い目をしている。まるで別人のようだ。

(何かを掴んだか)

それが何かは分からない。
だが岸波の様子からダンはそう当たりを付ける。
そして、それが何らかの意志――このバトルロワイアルでの戦意となったのならば、ダンはそれを否定する気にはなれなかった。

「さて、こっちの陣営も揃ったことだし、ダンナ。
 二回戦の続きと行きましょう!」

(だが、戦うというのならば……)

ダンは冷静に状況を分析する。
岸波はどういう訳か三騎ものサーヴァントを着き従え、それに加えあのツギハギ男も居る。
対するこちらの戦力はアーチャー一騎と剣士であるブラックローズのみ。
楽な戦いにはならなそうだが、

「分かった。君がそういうのならば従おう」

赤い外套のサーヴァントが不意にそう口にし、そして彼らはその場を立ち去る。
その際に岸波が胸元の何かと会話しているのが見えた。何か支給アイテムの類だろうか。
何にせよサーヴァント三騎を従えていながらも彼女は撤退を選んだ。
その力にも何らかの制限、あるいは使いにくさがあるのだろう。単純に考えて燃費もすこぶる悪そうだ。

「敵さんは逃げるみたいだな。合流されて焦ったか。
 どうします? ダンナ」
「……逃げるというのならば無理に追うことはない。
 単純な戦力差では恐らく向こうが有利だ。それに誘い込みという可能性もある。
 だから、この場は一先ず……む?」

立ち去る岸波たちを尻目に、その場に一人残った存在があった。
ツギハギ男だ。燃えるような鮮やかな橙の衣装に身を包んだ彼は、その場に残り喉の奥から怪しげな唸り声を漏らしている。
彼は不気味に光る瞳をぎょろりと動かし、ダンたちを――正確にはブラックローズを見た。

「カイト……なの?」

ブラックローズから困惑の声が漏れた。
見れば彼女は目を見開き、驚きを示している。
カイト――それは先ほどブラックローズが話していた少年の名ではなかったか。

「アアァァァ……」

それが彼、なのだろうか。
不気味に唸る彼には一見して理性が感じられず、その様はまるでバーサーカーのようだが。

「……ヨ%*ク>*+-ズ%n」

彼はそう言い残し、去って行った。
何と言ったかはまるで聞き取れなかった。
ただ、カイトらしき人物に対する不気味な印象だけが、その場に残った。




「っという訳で、俺はあの赤いアーチャーと交戦して、その一環で罠を巻いていた訳ですよ、ダンナ」

岸波との遭遇を終え、ダンたちはアーチャーとの情報交換に至っていた。
彼の話によると、岸波の赤いサーヴァントもまたクラスはアーチャーだったという。
そして自分同様偵察役として出されていた彼と遭遇し、戦闘していたというのが彼の話だ。

「それにお嬢ちゃんたちが引っかかってたみたいですね。
 いや、その、すまんね」
「ちょっとアンタ、それすまんで済むことなの!?」
「いやぁ、俺も関係ない第三者の被害なんざ考えたことがない身でね。
 ちょっとうっかりやっちまったって訳。
 まぁ、何だ、運が悪かったな、お嬢ちゃんも」

相変らず軽い口調で語るアーチャーに対しブラックローズが不平を漏らしている。
黒雪姫はそれを少し離れたところでじっと見つめていた。
そこでダンはアーチャーを呼びつけ、彼女らには「しばらく二人で作戦会議がしたい」と告げる。

「はい、なんですか、ダンナ?」
「つまり彼女たちがイチイの毒に侵されたのは事故であり、お前にその気はなかった。
 そして、狙撃の件は岸波のアーチャーによるものだ。
 ――そうお前は言いたいのだな?」

ダンはやってきたアーチャーに対し、そうゆっくりと問いかけた。
突き放すような冷たい視線を受けながらも、アーチャーはけろりとした顔で「そっすね」と答えた。

「まぁ、そりゃあ俺も狙撃手を見た訳ではないから断言はできないですけど
 状況的に考えてそれしかないっしょ?」
「……お前が手を出した訳ではないのだな?」

かねてよりの疑念をぶつけると、彼は吹き出し、声を上げて笑って見せた。

「俺? 俺を疑ってるんですかダンナ?
 そりゃあ狙撃による暗殺とか俺の十八番ですけど。
 俺がやるんだったら、そもそも失敗なんてしませんよ。
 言っちゃあ何だがあんなお嬢ちゃん二人相手に失敗する俺じゃない」
「…………」

それは分かっている。
ダンとて己のサーヴァントの力量は信頼していた。
だが、だ。ダンは信頼しているが故にアーチャーに対する疑念を拭い去れなかった。寧ろある種確信していたといってもいい。
とはいえ狙撃手の姿は結局誰も見ては居ないようだし、使用された矢もまたありふれた構造のものだ。
調べれば由緒も分かるだろうが、そうやって犯人を確定させるよりももっと取るべき行動があるようにダンには思えた。

(そうだな……)

ダンは思考の末、一つの決断を下した。

「アーチャー、汝がマスター、ダン・ブラックモアが令呪を以て命ず」
「は? ダンナ。アンタ何を……」
「『バトルロワイアルにおいて、戦意なき者への攻撃を禁ず』」

そう告げた瞬間、手に刻まれた令呪が光を放ち、鈍い音を立てて掻き消える。
令呪。
三度だけ許されたマスターからサーヴァントへの絶対命令権。
その貴重な一画を、ダンは今この場で使ったのだ。
その行いを前にして、アーチャーは愕然とした様子でダンを見た。

「何考えてんすか、ダンナ。
 幾ら俺が信じられないからって、そりゃ……!」
「信じている。信じているからこその命令だ」

確かにどうかしているかもしれない。
自分でもそうは思うが、必要なことであるとも思っていた。

「いやでもですよ、ダンナ?
 戦意のない者を攻撃しちゃいけないって、そりゃ俺の長所丸潰れっていうか……」
「分かっている。だが、できる筈だ」
「……あー、はいはい騎士道って奴ですかね。正直、そんなものを求められても困るっていうかね、はぁ」

その言葉と共に肩を落としたアーチャーの姿が掻き消える。霊体化したのだ。
何も見えなくなった空間を、ダンはじっと見据える。

(気付け、アーチャー……お前のその理念。
 全てを捨ててでも弱きものを助けようとするその姿勢こそ、何より騎士の在り方を体現していることを……)



「パッと見、カイト……みたいだったんだけど、どうみても違うし……
 でも、あのエディットはThe Worldの双剣士のものみたいだったのよね」
「同型のアバターということか?」
「……いや、それもない……のかな?
 カイトのPCは、さっきも言ったけどアウラによって改変されたものだから。
 あの赤い双剣士のPCで被るってことはない筈、なんだけど」

ダンがアーチャーとの話を終え戻ってくると、彼女らの会話が聞こえてきた。
内容は今しがた遭遇したツギハギ男のことのようだ。
あの反応からして向こうもまたブラックローズと何かしら縁があるようだったが、その正体は一体何なのだろうか。

(岸波白野……君のせいか?)

岸波白野。彼女が、カイトの変貌に何かしら噛んでいるのだろうか。

(岸波陣営のおかしな点はそれだけではない)

サーヴァント三騎を従えるという規格外もだが、その全てが最初から彼女のものであり、同時に彼女のものでなかったかのような、妙な記憶がある。
どうにかして思い返そうとするのだが、記憶を確定させようとしても意識の焦点が合わず、代わりに曖昧模糊とした感覚が立ち現れるのだ。
アーチャーの真意もだが、岸波白野の存在とその能力もまた考える必要があるだろう。
サーヴァント三騎に加え、隣に居たカイトらしき人物の様子。どうにも彼女はイレギュラー的な存在のようだった。

(……どうにも考えることが多いな)

決して楽な道のりではなさそうだが、それでもダンは揺るぎない意志を持っていた。










(ダン・ブラックモア……あの男は――)

二人でどこか話に行ったダンたちに彼女はさりげなく視線を送る。
一体何を話しているのか、会話までは聞き取れないのが非常に歯がゆかった。
彼女、黒雪姫は彼らに対する隠しきれない疑念があるのだ。

ダン・ブラックモア。
彼は一見して柔らかな物腰をもった老人であり、同時に確かな力を持った騎士であるようにも見える。
その言葉や理念は確かに信用に値する、ように見えるのだが、

(私たちを謀っているのか?
 あの、アーチャーとかいう男を使って……)

話しによれば、あの緑衣の男はサーヴァント――参加者ではなく彼の武装の一部のような扱いだという。
そして黒雪姫、否、ブラック・ロータスはあの男と面識があるのだ。
実際に刃を交わした敵同士として。

(あの男は先の狙撃手だ。それは間違いない)

言い逃れようと苦しいことを幾つか言ってたが、彼女は実際に彼の姿を見ている。
何よりの証拠であり、アーチャーの危険性を確信するには十分すぎる事実だ。

(問題はダン……あの男もなのか)

話を聞けば、彼が居た聖杯戦争というものはこのバトルロワイアルに非常に酷似した形式のものだ。
そして彼はそこの二回戦の途中で呼ばれたと聞く。即ち、既に一人を殺しているのだ。
その立ち振る舞いは完全に高潔な人間のものだったが、実は彼もまた優勝を目指す身なのだろうか。
完全に自分を信用している相手に近づき、無抵抗な相手の首を狩る。
そんな光景がフラッシュバックした。

(……少なくともあのアーチャーという男は危険だ)

ダンについて判断を下すのは早計かもしれない。状況的にはかなり黒に近い灰色とはいえ、その滲み出る人間性は少し接しただけでも分かる。
無論、そこを含めて演技だという可能性もなくはなかったが、それでも可能ならば信じたかった。
だが、あのアーチャーという男は確実に『乗って』いる、PKだ。

(そして奴は恐らく私に見られているということに気付いていない)

アーチャーとはデュエルアバターでしか接触していない。
そして奴はそれを知らない。このアドバンテージをどう使うか。

「ううん……」

と、ふと目の前のブラックローズが頭を捻っているのに気が付いた。
彼女は先ほどからそんな調子だった。それはやはり先の遭遇が原因なのだろう。

「そういえば、ブラックローズ。
 先ほどカイトといっていたが、あれは……」

あのツギハギだらけの橙色の男。
彼は明らかにブラックローズを見て何かを言っていた。
そして彼女もまた衝撃を滲ませ言っていたのだ。カイト、と。

「あー、うん。ごめん、あれは私もよく分からない」

黒雪姫の問い掛けに、ブラックローズは歯切れ悪く答えた。。
その声色はどこか震えており、困惑を露わにしていた。彼女も事態を把握していないようだった。

「パッと見、カイト……みたいだったんだけど、どうみても違うし……
 でも、あのエディットはThe Worldの双剣士のものみたいだったのよね」
「同型のアバターということか?」
「……いや、それもない……のかな?
 カイトのPCは、さっきも言ったけどアウラによって改変されたものだから。
 あの赤い双剣士のPCで被るってことはない筈、なんだけど」

なるほど話にでた『カイト』に姿は酷似しているらしいが、あれはどうみても正常な様子ではなかった。
聞き取れない情報と化していた言葉といい、ツギハギだらけのグラフィックといい、あれではまるで破損したデータではないか。

あの存在は一体何なのか。
それが分からないことが彼女を不安にさせているのだろう。
話を聞けば『カイト』というのはブラックローズにとって大事な存在らしい。
それこそ、自分にとってのハルユキのような。

(……何にせよ、私は君を守らねばならない)

自分を命を賭して守ってくれた彼女。
その勇気に報いる為にも、危険な存在には最大限警戒しなければならない。
不安な表情を浮かべるブラックローズを見ながら、黒雪姫はそう強い意志を持っていた。








アーチャーの思惑としては岸波とダンを一度ぶつけることで、そのサーヴァントに罪を被せるというものだった。
言い訳の効かないイチイの毒のことはこの際認めるとして、狙撃の点のみは否定しようとしたのだ。
岸波のサーヴァントもまたアーチャーであるようだし、誘導自体も上手く行ったのだが、結果としては成功とはいえない結果になってしまった。
元よりそう上手く行くとも思えなかった話ではある。一先ずを凌げればそれでいいとは思っていた。
が、まさかあんな令呪の使い方をするとは。

(はぁ、どうすっかね、こりゃ。
 ま、しばらく様子を見るとすっか。今後の行動如何によってはまだチャンスはある筈だ)

そう考えつつ、霊体化したアーチャーは少し休息を取ることにした。
長い単独行動で、魔力も大分消費していた。どの道しばらくは行動を起こすことはできないのだ。

(しっかし、あの蝶々……黒雪姫とか言ったか?
 妙に俺を見る視線がきつかったような、……何か警戒されてるみたいだな)

「えーと、ここに行くの?」

(お、目的地が決まったか)

霊体化したまま、アーチャーは彼ら会話に耳を傍立てる。
ダンが二人の少女相手に告げようとしているところだった。

「そうだ、先ずは拠点を確保したい。
 月海原学園。ここを目指す。
 経路としてはウラインターネットエリアを通る最短ルートを取る」



【E-9/アメリカエリア/1日目・黎明】

【ブラックローズ@.hack//】
[ステータス]:HP50%
[装備]:紅蓮剣・赤鉄@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
1:黒雪姫、ダンと共に行動する。
2:あの黒いロボットは一体……?
3:カイト(?)に対する疑念。
[備考]
※参戦時期は本編終了後

【ブラック・ロータス@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP80%/ローカルネットのアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:バトルロワイアルには乗らない。
1:ブラックローズ、ダンと共に行動する。
2:自分がブラック・ロータスであるということは隠す
3:緑衣のアーチャーを警戒。ダンは……

【ダン・ブラックモア@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康 、令呪二画
[装備]:不明
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~3
[思考]
基本:軍人ではなく騎士として行動する
1:黒雪姫、ブラックローズと共に月海原学園を目指す。
  ウラインターネットを通る最短経路を取りたい。
2:岸波白野陣営を警戒。
[サーヴァント]:アーチャー(ロビンフッド)
[ステータス]:魔力消費(大)
[思考]
基本:ダンを優勝させる。その為には手段は選ばない。
1:ダンにバレないように他の参加者を殺す。
2:黒い機械(ブラック・ロータス)を警戒。
3:今後の方針を練る。
[備考]
※時期としては二回戦開始当初、岸波と出会ったばかりの頃。
※令呪によってアーチャーは『バトルロワイアルおいての戦意なき者への攻撃』を禁じられています。


034:結成 投下順に読む 036:Sword Maiden
034:結成 時系列順に読む 036:Sword Maiden
009:AI's 岸波白野 047:霞む記憶の中に見上げた横顔――
009:AI's ユイ 047:霞む記憶の中に見上げた横顔――
009:AI's 蒼炎のカイト 047:霞む記憶の中に見上げた横顔――
007:このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ブラックローズ 051:Fragmentation;分裂
007:このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ブラック・ロータス 051:Fragmentation;分裂
007:このままずっと行くのね嘘を積み重ねても ダン・ブラックモア 051:Fragmentation;分裂

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最終更新:2013年08月08日 09:20