僅かに光明が見えだしたとはいえ空は未だ薄暗い。
肌寒い空の下、ネオは新たに得た二人の仲間と共に足を進めていた。
話し合った結果一先ずはこのエリアを探索することにした。その後ウラインターネットなどの他のエリアに足を運ぶかをもう一度協議する。
そう決め進み始めた矢先、彼は彼女に出会った。
それは果たして偶然だったのか。
「あ……」
薄暗いビルの下で、力なく横たわる一人の女性の姿があった。
ダークスーツに身を包んだ彼女の口元には赤い線が走っている。それが鮮血の跡だと一拍遅れて気が付いた。
何も、言えなかった。
ただ呆然と立ちすくみ、周り全ての世界のことを忘れた。
これまでの過去が目眩のように脳裏に立ち現れ消えてゆく。身体から力が抜けどこかへ飛んで行ってしまいそうな心地になった。
「――トリニティ」
ようやく零れ出た言葉はすぐに消え去り口の中に空疎な響きだけが残る。
よろよろと彼女の身体の前へ膝を付きその身体を抱き上げた。
触れ合った身体からは弱々しい熱が伝わってくる。そこからこの身体がもう死へと向かっているのだということを、ネオは愕然と受け止めた。
「……ネ……オ? そこに居るのね……」
「ああ、トリニティ。ここだ。ここに……」
「ごめんなさい。もう見えない……何も……」
か細く漏らす彼女は瞳を虚空に向け、抱き合うネオの顔を見ていなかった。
ネオは必死に告げた。「ここだ」と。
「分かってる……貴方はそこに……」
「トリニティ。ようやく見つけたんだ。救世主の、真の光の在り方を。
だから君にも見て貰わなければ……」
「光なら」
もう十分に見せて貰ったわ。彼女はそう、彼の耳元で囁いた。
どこか安らかな響きを声に滲ませて。
同時に彼女の身体がすっと軽くなったようにネオには思え焦燥がせり上がる。
これではまるで――
「もう一緒に行けない。私は……ここまでが精一杯」
「そんな……駄目だ、トリニティ。君が居なくては……」
ネオは必死に彼女を救う手だてを求めた。
彼女の身に何があったのかは知らない。とにかくその身に重傷を負い、そして死に瀕している。
どうにかしてそこから這い上がらせる手はないか。ネオは振り返り同行者――ガッツマンとアッシュ・ローラーに救いを乞うような視線を向けた。
だが、彼らは何も言わずただ頭を垂れるだけだった。ネオは虚空に投げ出されたかのような無力感を得た。
どうにかしてトリニティを救うことはできないか。乱れた意識を掻き集め考え抜き再度彼女へと顔を向けた。
救世主としての力を行使しその身を癒す。それしかない。あの時のようにもう一度彼女を救うべく手をかざす。が、しかし当の彼女はネオの焦燥とは対称的に、
「いいのよ――時が来たの」
と、落ち着きを払った声で、そう告げた。
まるで、自分が今まさに向かうべき場所を知っているかのように。
「光を見つけた……そう言ったわね。なら、もう大丈夫。
私の役目は……終わった。貴方は救世主として……」
「トリニティ、違うんだ。真の意味で救世主など居なかったんだ。今まで、ずっと。
だからようやく見つけた光を……君と……!」
「大丈夫よ。どんな光であれ、貴方が選ぶことができたのならのなら……もう、大丈夫。
マトリックスを……ザイオンを……夢も現実も救える」
彼女はそこで悲痛そうにその顔を歪めた。その口元からはつぅと血が流れ落ちた。
死が、すぐそこにあった。
「一度は助けて貰った……でも、今度は……」
「トリニティ……!」
呼びかけるネオは必死にその身を癒そうとするが、しかし彼女の身体から熱が徐々に消え去ってゆく。
その事実に彼は戦慄を禁じ得ない。もう一度奇跡を起こすことはできないのか。
「ねぇ覚えている? 助けて貰ったとき、屋上で私が言ったこと」
「……ごめんね、と」
「あれは……失敗だった。もっと……もっと大切に思えたことが、最期に思い浮かんだのに。
私がどれだけ幸せだったか、私がどれだけ愛を感じることが出来たか……
言葉にするのには、遅すぎた」
彼女はそこで潤んだ瞳をどこでもない空へと向けて、
「でも、貴方に一度救われて、今度は言うことが出来る」
消えゆく意識の中、彼女が最期に求めたのは――
「キスをして――もう一度、キスを」
◇
「彼女は、導き手だったんだ」
全てが終わった後、ネオはそうぽつりと漏らした。
その瞳はサングラスに覆われどんな顔をしているのかまでは見えない。ただ、その頬を流れる雫が全てだった。
「どこまでプログラムされていたのかは分からない。
もしかしたら最初から……出会いからして機械によって定められていたことなのかもしれない」
アーキテクトとの会話を思い出す。
全てを定められ生み出されてきた救世主。
自分の前任者たる救世主にも、きっと彼女のような導き手が居たのだろう。
皆が皆、知らない間に踊らされてきた。
「でもそれだけじゃない。彼女は何時だって導いてくれた。プログラムなどでなく、選択を与える者として」
アーキテクトは言った。自分は今までの救世主の中で唯一個人を――特定の女性を愛した者であったと。
それが何を意味するのか。ネオはたった今理解した。
「ネオ……」
ゆっくりと語るネオをガッツマンが気遣わしげに呼びかけた。
その後ろではバイクに乗りかかったアッシュ・ローラーが無言でネオに視線を送っている。
彼らは共にネオの身を案じているようであった。
遭遇した時既に手遅れだった女性。彼女とネオがどのような関係であったのか、何も言わずとも察してくれたのだろう。
「行こう」
その温かい視線を受け止めたネオはそう口にした。
ガッツマンが「でも……」と声を掛けようしたが、それをアッシュ・ローラーが引きとめた。
「何も言うんじゃねぇよ。
ネオはきっとすげぇツレェ別れを今やって、それでも前に進もうとしてんだ。
その決意に、事情も知らねえオレらが口挟んだって余計なお世話にしかならねえ。
何も言わず一緒に隣りを歩いてやるってのが流儀ってもんだ」
「そう……でガスね」
ネオは彼らに礼を言い、そして共に歩き始めた。
夜空は少しずつ明るくなってきている。そう遠くない内に空高く光が昇るだろう。
だが、今しばらくは静かな夜の名残が続きそうだった。
【トリニティ@マトリックスシリーズ Delete】
【G-8/アメリカエリア/1日目・早朝】
【ネオ(トーマス・A・アンダーソン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[装備]:エリュシデータ@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~2個(武器ではない)
[思考・状況]
基本:本当の救世主として、この殺し合いを止める。
1:アッシュ・ローラーとガッツマンと共に行動する。
2:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
3:モーフィアスに救世主の真実を伝える
[備考]
※参戦時期はリローデッド終了後
※ネットナビの存在、人類と機械の共存するエグゼ世界についての情報を大まかに得ました。
互いの情報の差異には混乱していますが、ガッツマンが嘘を言っているとは決して思っていません。
※機械が倒すべき悪だという認識を捨て、共に歩む道もあるのではないかと考えています。
【ガッツマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
[装備]:PGMへカートⅡ(7/7)@ソードアートオンライン
[アイテム]:基本支給品一式、転移結晶@ソードアートオンライン、12.7mm弾×100@現実、不明支給品1(本人確認済み)
[思考]
基本:殺し合いを止め、WWWの野望を阻止する。
1:アッシュ・ローラーとネオと共に行動する。
2:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
3:
ロックマンを探しだして合流する。
4:転移結晶を使うタイミングについては、とりあえず保留。
[備考]
※参戦時期は、WWW本拠地でのデザートマン戦からです。
※この殺し合いが、WWWの仕掛けた罠だと思っています。
【アッシュ・ローラー@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%
[装備]:ナイト・ロッカー@アクセル・ワールド
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~3(本人確認済み)
[思考]
基本:このクレイジィーな殺し合いをぶっ潰す。
1:ネオとガッツマンと共に行動する。
2:何が原因で殺し合いが起きているのか、情報を集めたい。
3:シルバー・クロウと出来れば合流したい。
4:一先ずはアメリカエリアの調査、後にウラインターネットへ
[備考]
※参戦時期は、少なくともヘルメス・コード縦走レース終了後、六代目クロム・ディザスター出現以降になります。
※最初の広場で、シルバー・クロウの姿を確認しています。
最終更新:2013年10月27日 02:58