エリアの最果て、C-7に片隅にまで辿り着いた時、そのゲートは不意にその姿を現した。
延々と続く草原のテクスチャの先にそれは何時の間にか鎮座していた。
恐らくはある程度距離が近づかないと出現しない仕様になっているのだろう。

「しかし、まさかこのゲートとはな」
オーヴァンはそうぽつりと漏らした。その口元は僅かに釣り上がっている。
その視線の先にあるゲートは、彼にとって縁が深いものであり、同時にもはや存在しない筈のものだった。

呟きに含むものを感じたのか、隣を行くサチはオーヴァンを見上げ問うた。

「知っているものですか?」
「ああ……このPCの、The Worldにあった筈のものだよ」
それも一つ前のバージョンのね。そうオーヴァンは付け加えた。
C-7の転移門。それはカオスゲートの形をしていたのだ。
The Worldの象徴ともいえる三つの単語によるエリア生成。それを為す門こそカオスゲートであった。

金縁に嵌った薄い円状の結晶は透き込まれるような青さを湛えている。
その薄板隔てた先に見える平原は、どこか別の空間へと通じていると錯覚してしまいそうだ。
R:2に比べればポリゴンの質は劣るが、それでもこのゲートは世界において独特の雰囲気を持っていた。
オーヴァンもまたR:1を知っている。失われた筈のその形状に懐かしいものを感じずには居られなかった。
あの頃と今の自分は何もかも違う。八咫――当時はワイズマンか――ともまだ決裂する前であった。

「前のバージョン……何でそんなものがここに」
「さぁ……それは分からないな。しかし、調べてみる価値はありそうだ。
 だがその前に」
オーヴァンはゲートに触れる前に、その向こう側の草原の示した。

「エリアの端がどうなっているのかを確かめなければな。ある程度予想は付くが、それでも必要なことだ」
その言葉にサチはこくんと頷き、二人はエリアの端を目指した。

それは存外早くあった。
音もなく、前触れもなく、不意に彼らの前に不可視の壁が現れたのだ。
草原は依然として続いているが、残念ながらその壁の向こうには行けそうもない。
3Dポリゴンのゲームに付き物の“見えない壁”という奴だ。この壁は絶対に壊せないだろう。そもそもこの先のデータが存在しないのだから。
会場はループ構造ではないということが分かっただけで、一先ずは良い。

「こんなところだろう。さあゲートに戻ろうか」
そうして二人はゲートへ戻ってきた。宙に浮く円のゲート見上げ、オーヴァンはふっと笑って見せた。

「どうするんですか?」
「ああ、ちょっとそこで待っててくれ。少し試してみたいことがある」
言ってオーヴァンは一人ゲートへ近付いた。
すると転送するかを訪ねるウィンドウが表示された。その画面表示やフォントはR:1時代のThe Worldを彷彿とさせる。
オーヴァンはその画面を表示したまま、AIDA現象によるハッキングを試みた。サチはそれを隣で無言で見つめている。
幾つか手段を試してみた後、彼は別の画面を表示させることに成功した。

「ふむ……」
ファンタジー然とした画面構成はどこかへ行き、代わりに薄い緑のフォントで書かれた味気ないメニューが表示された。
開発者用のデバッグ画面に酷似しているが、果たして。

ソースコードは見たことのあるものであった。どうやらThe World R:1のものを流用しているようだ。それはハロルドの構築したプログラムを不用意に弄れなかったということかもしれない。
驚くべきはそれを動かしつつ、他のゲームのプログラムも全く違和感なく動作させているこの空間だ。生半可な技術力ではありえない。
ではこれをどう弄るべきだろうか。

(どうやらこのカオスゲートは入力されるワードが固定されているようだな。
 それ故、実質的に移動できるエリアも固定される。このゲートの場合はB-9へ繋がっているようだが……)

3ワードの組み合わせで実質的に無限のエリアを生成できるカオスゲートだが、この場では既に3ワードが固定されている為、既定外のエリアに行くことはできなくなっていた。
デバッグ画面を見るにΔ『隠されし』『禁断の』『プログラム』で固定されている。これがウラインターネットへ転送するエリアワードという訳だ。
この3rdワードは見たことがなかった。恐らくはこの場に合せGM側が新たに用意したものだろう。
別のワードを入力できれば他エリアを生成できる可能性はあったが、しかしそんなものはこの場にはない。
元のThe Worldでのワードストックが使えれば別だが、今のオーヴァンにはそのデータを開くことができなかった。

(ないのならば作成するしかあるまい)

オーヴァンはそこでAIDAを画面上に走らせた。
黒い斑点が画面にあふれ出し、プログラムを浸食する。
その動きは誰にも制御できない。無論、オーヴァン自身にも。
プログラムを食い散らかした結果、画面は歪なものになっていた。

『隠されし』『禁断の』『逕溘@縺セ』
 転・しますか

文字化けしたウィンドウ。意図的にバグを起こすには成功した訳だ。
この先に何があるのかは分からない。鬼が出るか蛇が出るか。下手すれば命を落とすことになるかもしれない。
ここで下がるのも一つの手ではあるだろう。だが、

「ふっ……」
一瞬の逡巡を終えた後、オーヴァンは転送コマンドを押した。
たちまちエラーやプロテクトを告げるウィンドウが滝のように現れるがそれは彼を縛る鎖にはなりえない。
そしてそのまま仕様外へ――……




01010010100001011101010101010101011110110101010101001101010101001100101010110010
1101001011110010101111000010111001101010101101001011111110011100001
110100101111110101001100001011100110101010110100101111111001
0101010101001101010101001100101010110010101010110010
01010101010011010101010011001010101100
01010110010010101100100101111011
1101001011111111
01001011111
010010
010

0







出来損ないの空間であった。
先ず、空というものがない。グラフィックが用意されていないのだ。天蓋は暗く閉ざされており、光が全く見えない。にも関わらず視認に何ら障害はないのだから不思議なものだ。
幸い地面はあった。青いワイヤーで作られた単純極まりないものが。

オーヴァンが現れたのは、そんなエリアであった。

(認知外迷宮に酷似しているが……)

周りを見渡しながらオーヴァンは思考を巡らせた。
認知外迷宮(アウターダンジョン)。The Worldに存在する仕様外のダンジョンにして通常のプレイヤーでは目にすることさえできない“世界の裏側”。
オーヴァンが何度も行き来したあの場に、この空間は酷似しているようだ、だがしかし、ここはThe Worldではない。

(認知外変異体……あのバグモンスターはここには居ないようだな)

そう思いオーヴァンは拘束具を引きずり、ゆっくりと歩き始めた。
一見して完全に仕様外の空間だが、その実ここがウラインターネットという可能性はある。何せ自分はその場を知らないのだし、如何にも裏という言葉が似合う空間であるのだから。
そうして歩いた先に、彼は声を聞いた。

「おや?」
不意に、オーヴァンはその男に行き遭ったのだ。
その男は空間の果てに一人ぽつんと佇んでいた。積まれたジャンクデータの破片に、そのひょろりと痩せた白衣の男は腰かけている。
眼鏡の先に見える視線は底の読めない深淵を湛えていた。

「ここに来るとはね……君も私と同類かな?」
「…………」
「いや……、少しだけ違うか」
彼はそう言って薄く笑って見せた。

「とにかくようこそ、とでもいうべきかな? 私はここでデバッグをやっていたのだがね。どうやら特大のバグがやってきてくれたようだ」
「…………」
その言葉にオーヴァンは身を硬くする。
この謎の男。ここに最初からいたことやその言葉から突き合わせて考えれば、得られる結論は一つ。
即ち、GMである。

「デバッグ……となるとこの場はやはり仕様外のエリアか」
「ああそうだよ。運営用のデバッグモードだ。参加者では先ず来ることはできない」
「ほう、それは良かった」
オーヴァンは謎の男に向き合い、視線を絡ませた。
この男、威圧感がある訳ではない。敵意がある訳でもない。ゴーストという言葉がしっくりとくる存在感の薄さだ。
しかし、それでも何か壮大な壁のような圧倒的な何か、彼を取り巻いていた。

「で、そのバグとやらをどうするつもりなのかな?」
「ふむ、そうだな……そこは私の裁量を越えるんだけどね」
男が腕を組み考える素振りを見せた時だった。「それは私が答えよう、トワイス」

近くの空間が歪み、一瞬の明滅を伴って彼がやってきた。
侍然の姿に黒く歪んだポリゴンモデル。それは紛れもなく榊<Zenith>のPCであった。

「ほう、君が来るか」
「ああ、この男とは少し因縁があってな」
白衣の男とそう言葉を交わし、榊はオーヴァンを舐めるように睨み付けた。

「久しぶりとでも言うべきかね」
「……さて、な」
高慢な笑みを浮かべるそのPCはかつての榊そのものだが、しかしそのプレイヤーまでそうであるとは限らない。
榊は蒼炎のカイト――The Worldが生み出した自律修正プログラム――に確かに消去された筈だ。他ならぬオーヴァンの目の前で。
AIDAの力を失ったばかりかその記憶まで失った彼がこうして再起することなど、あるのだろうか。
それよりは姿を象った同型アバターという可能性の方が高く感じられた。

「アンタには散々お世話になったからな。こうしてわざわざ出向いてきたという訳だ」
そう大仰に語る榊をじっと見つめながら、オーヴァンは自分からは何も語らなかった。
尋ねたところで奴らが何かを漏らすとも思えない。今は冷静に事態の推移を眺めるしかない。

「で、彼をどうするんだい? 参加者でありながらこの空間に現れてしまった訳だが」
「無論、修正せねばなるまいさ。バグの迅速な対応こそ、良い運営に求められるものだからな」
「修正、か」
白衣の男――トワイスと言ったか――と榊はそう二三言交わした後、オーヴァンを見てニヤリを口元を釣り上げた。

「死刑。ルールを破ったプレイヤーにはそれが妥当だろう?」
オーヴァンは表情一つ変えず、沈黙を貫いた。
しばしそこに緊張した空気が張りつめる。

「と、言いたいところだが、そうそう簡単に事を進めてしまってはつまらないのも事実だ。
 この榊がプロデュースする以上、ある程度のイレギュラーもイベントに変えてみせよう」
が、榊はさらりと前言を撤回してみせた。

「先にハセヲ君にちょっかいを駆けてみたのだがね、残念なことに振られてしまった。
 どうやら私は人を騙くらかして弄ぶのには向いていないようだ。全く私も正直な性分で困るよ」
ボルドーやアトリを利用し“月の樹”を掌握して見せた男が良く言ったものだ。
そう思いはしたが、オーヴァンは何も言わず冷めた心地で榊の言葉を聞き流した。まともに相手にする気にはなれない。

しかし、どうやらこの男、ハセヲに何かしたらしい。AIDA感染後の榊が見せた異様なハセヲへの執着を思えば何ら不自然ではない。
そういった稚気混じったメンタリティはかつての榊――鵜池トオルを思い起こさせる。
さて、目下正体不明の榊だが、彼はニヤリを笑み浮かべ口を開いた。

「そこでだ。アンタには色々とゲームを引っ掻き回して貰いたいのだよ。
 人を謀り、誤解とすれ違いを生み、仲違いさせ、権謀術数を駆使して争いを加速させる。
 そういったことに協力して貰いたい。理解ある優良プレイヤーとしてな」
「……ほう」
「アンタはそういうのが得意だろう。暗躍や工作なんてものを誰よりも上手くやっていたじゃあないか」
榊はそこで声を上げて笑って見せた。

「まさかは私の温情を断りはしまい? このままデリートでは如何にも味気ないからな。アンタにもとっても、私にもとっても」
どの道似たような立ち位置で居ようとは思っていたのだ。榊もそれを分かっての提案だろう。
交換条件にもなりはしない。実質お咎めなしという訳だ。

「ああ、その話受けよう」
そう思ったが故、オーヴァンはそう鷹揚に返答した。
向こうがどんな役割を自分に期待しているか。それが明白になった訳だ。
奴らはどんな理由化は知らないが、とにかくゲームを加速させようとしている。させなければならない、とでもいうべきか。

「分かっているとは思うがこのエリアに二度と足を踏み入れることは許されないぞ?
 私は寛容だが、悪質なプレイヤーをのさばらせておく訳にはいかんからな」
オーヴァンは無言で頷いた。
それを見た榊は満足げに腕を組み、

「だが、私の言葉に通りに動くのならば、褒美を与えなくもない。
 何が欲しい? 武器か? アイテムか? 情報か? 何でも言うが良い」
そう語る榊を尻目に、オーヴァンはその肩の向こう、そこに佇む白衣の男を見た。
トワイスは無表情に虚空を見つめている。二人のやり取りに何ら興味はないようだ。
榊と違い彼に関して自分が持っている情報は一切ない。ただ彼が纏う底知れない雰囲気が目を引いた。

「真実」
オーヴァンはぽつりと呟いた。

「は?」
「報酬があるのだろう。ならばそれを頂きたい」
榊は一瞬呆けたような顔をしていたが、次第に笑みを浮かべ了解の意を示した。あの不快な笑い声を添えて。

「真実……いいだろう! アンタが十分な働きをした暁には伝えようではないか! この榊が約束する」
「ああ、頼むよ」
「ふむ、それではこのエリアからご退場願おうか。トワイス、頼む」
促されたトワイスは億劫そうに空を操作すると、オーヴァンの身体が光に包まれた。
転送の予兆だ。これ以上はゲームの外に居ることは許されない、という訳だ。
まぁ仕方がない。この空間の全容を知るまでは行かなかったが、元よりそう簡単に脱出できるとは思っていなかった。
それでも今回の接触は大きい。先ず予想通りAIDAによりゲームのシステムを部分的にとはいえ超越できること確認できた。
またエリアにわざわざ榊が出向いてきたということは、このエリアが運営側に取って重要なものであることを意味している。
調査する価値は十分あるということだ。その為にはあのトワイスとかいう男が邪魔になるが。
そして何よりGMとの繋がりができた。これは大きい。細い糸のようなものに過ぎないが、単なる一介のプレイヤーではなくなった訳だ。
しばらくはこの線を追っていくべきだろう。同時にシステム干渉できる場も随時探していきたい。

複雑な思考を抱えながらオーヴァンは転送され、そしてエリアから消失した。












「あの処置で良かったのかい?」
「構わんよ。それともこの榊のプロデュースに不満があるのかね?」
「いや……別にどうでもいいさ。事象の収縮は既に確約されている。私はただ待つのみ……おや?」
「何か問題が?」
「いや、ちょっとしたバグがあってね。まぁ何てことのないバグだ。もう修正したよ」
「ならいいが……ふむ、アンタのその物言い、思えばあの男とそっくりだな。PCの造形も似ている。これは中々興味深い」
「そうか――私はそうは思わないな」



[???/仕様外エリア/早朝?]

運営側

【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康

【トワイス・H・ピースマン@Fate/EXTRA】
[ステータス]:健康



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身体が妙に軽い。アプドゥの効果だ。
その軽さは筋肉の増強などによるものではなく、機械的というか、ゲーム的というか、ただ単にモーションを早送りにされているような不思議な感覚があった。
正直言ってあまり気持ちの良いものではないが仕方ない。現時点で有用なものであることは間違いないのだから。
武内ミーナはそんな感想を抱きつつモールへと目指していた。

空は未だ暗く、街の蛍光灯の明かりも心もとない。なまじ速度が上がっている分、衝突などには気を付けなければならないだろう。
これがこの二頭身のアバターでなく普段の身体だったら、と少し思わずにはいられなかった。

実の所、メニュー画面の【設定】の項目を開けばアバターを変更することは可能なのだが、しかし彼女はその存在に気づいてはいなかった。
敏腕なジャーナリストである彼女だが、ネット常識には少々疎い一面がある。こういったシステム的なお約束というものを把握していなかったのだ。
という訳で少なくとも今の彼女は褐色肌の妙齢の女性……ではなく二頭身の女性アバターなのだった。

「ええと……これがマップですね」
慣れない動作でメニューを操作し、表示されたウィンドウと顔を突き合わせる。
先ほどあの“空飛ぶ妖精”を見かけた場に急いではいるが、たどり着くにはもう少しかかるだろう。
それまでにあの妖精が遠くに行ってなければいいのだが。

(しかし他の人は見当たりませんね……)
ゲーム開始数時間、彼女は未だあの妖精以外の参加者を見かけていなかった。
それが不運なことなのか、はたまた幸運なことなのかは分からない。自分では手に負えないような危険人物と出会ってないだけマシと見るべきかもしれない。
彼女としては多少の危険を冒してでもこの場に関する情報を集めておきたかった。
このままあの妖精を見失ってしまうのは痛い。そして時間のロスは死に繋がりかねない。

(まぁ急ぐとしましょう)
と、走り続けるミーナだったが、不意にアプドゥの効果時間が切れた。
急激にブレーキが掛かる己の身体に違和を覚えながらも、アプドゥを掛けなおすべく再度メニューを開く。
貴重なものであるが、変に温存していても仕方がない。使う必要がある時には使わなければ。

そう思いメニューを開いた時、

「おや? あれは……」
彼女はその“バグ”に遭遇した。

ビルの自動ドア。その表面のテクスチャが剥がれ落ち、フレームが剥き出しになっている。
これまでゲームの中と感じさせないリアルなフィールドであった為、その光景は異様であった。
興味を惹かれたミーナは危険を感じつつも、そのバグへと近づいて行った。
そして、意を決してその“バグ”に触れた瞬間、

「これは……!」

ミーナの視界に嵐のようなノイズが走った。
思わず額を抑えようとするが、身体が言うことを聞かない。
まるで己の身体(アバター)と意識が切り離れてしまったかのようだ。

意識そのものに電流が走るような、そんな壮絶な痛みの中、ミーナは見た。
榊――自分たちをこうして閉じ込めた元凶が、誰かと話しているのを。
相手に見覚えはなかった。腕に何か大きなもの装着されているようだが……、ノイズが激しくてその細部までは分からなかった。
その後ろに居るのは……白衣の男。こちらも見覚えがない。同様によく見え――


「――は」

気づけば、ミーナの意識は覚醒していた。
手を触れた自動ドアは何の変哲のないガラスに変化しており、ミーナの存在を感知してゆっくりと開き始めた。
場はしんとしている。まるで何もなかったかのような静寂が帰ってきた。
だが、何もなかった筈がない。自分は確かに“アレ”に接続した。

「…………」
空を見上げれば、既に明るくなっている。メニュー画面で時刻を確認すると大分時間が経っていた。
この時間ではもう先の場所にあの妖精はいまい。今から向かったところで会えるかは怪しい。
これ以上時間を掛けて誰とも接触できなければ拡声器を使った方がいいかもしれない。

「あの映像は……」
しかし自分は代わりにとても大きな情報を拾った。
榊。あの男に直接繋がりかねない情報を。

(……あれは恐らくあちら側にとっても不測の事態だった筈。完全にこの場を管理できてる訳ではないと言うことですか……)

ミーナは幸運にも得た情報を噛みしめながら、街を一歩踏み出す。
そして同時にアレは“波及”だとも考える。敵がそう簡単にボロを出すとも思えない。どこかで何かトラブルが発生し、その波及がこういった形で現れたのだ。
水面下で何が動いているのか。その究明のためにも急がなくてはならない。



彼女がたった今垣間見たもの。それは確かに波及であった。
かつてG.U.のメンバーは認知外迷宮に赴く際には、フィールド上に生じるデータの歪みを通してアクセスしていた。
システム外の存在である碑文使いPCでさえ、そういったバグを利用しなければ認知外迷宮へ至ることはできなかったのだ。
このバトルロワイアルにおいてのデバッグエリアもまた、それと同じく通常の手段では決してアクセスできないように設計されていた。
故にプレイヤーに過ぎない彼女では、たとえ不完全でもアクセスできなかった筈だった。本来ならば。

だが、その歪みが拡大するような出来事があった。それは言うまでもなく、オーヴァンの不法アクセスである。
ゲートにAIDAを走らせた彼だが、その行動が遠く離れたアメリカエリアにまで影響を及ぼしたのだった。

その理由としてはこの空間の構造にあった。
この場は一見してリアルと変わりない、完全にシームレスな世界となっているが、それでもこの世界に全く継ぎ目ないという訳ではない。
最も大きな継ぎ目はゲートだ。一部エリア間移動に必ず通らなくてはならない。これはワープゲートという形で誤魔化しているが、その際に僅かとはいえ暗転時間がある。
それは何もエリア間だけのことではない。会場内に設置された一部建物内に入る際にも似たような工程を踏んでいる場合があった。
例えば学校などの地図に名が記されている施設は、他と比べより細かな設計が為されており、それ故データ容量が膨大なものになってしまっている。それ故、その空間だけ独立して存在させるという手段を取っている。
つまり、空間と空間は繋がっているように見せかけて、その実断絶しているのだ。

ミーナがバグと接触した場所。それはG-9のモール。その扉であった。丁度彼女がアスナを見かけた反対側の入り口に当たる。
その扉は先に言っていたような設計となっており、エリアとエリアを繋ぐ役割を担っている。

オーヴァンはその繋がりを強引に改変している。C-7のゲートを、仕様外エリアへと繋がるように。
だが、AIDAはオーヴァン自身制御することができない。一度拡散された間は無尽蔵に広がる。
そしてゲート間接続に干渉するように放たれたAIDAが、一つの接続を食い荒らしただけで飽きたらず、オーヴァンの意志を越えた部分までも改変していたのだ。
結果、G-9のモールへと繋がる筈の扉が仕様外エリアと繋がりかけ、しかし本来エリア間移動のための扉でないそれが完全に機能する筈もなく、結果としてミーナは不完全な形で仕様外エリアへ訪れることになる。
即ち、その意識だけがエリアの外に“飛んでいた”訳だ。

既にこのバグはトワイスにより修正(デバッグ)され、跡形もなくなっている。
ただと扉へと戻ったその自動ドアは沈黙を保っている。
その向こう側にあるのは、何てことのない世界だ。

[G-9/アメリカエリア/早朝]

【ミーナ@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:健康、アプドゥ
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品0~1(本人確認済み)、快速のタリスマン×4@.hack、拡声器
[思考]
基本:ジャーナリストのやり方で殺し合いを打破する
0:空を飛ぶ超能力者(アスナ)を探す。
1:殺し合いの打破に使える情報を集める。
2:ある程度集まったら拡声器で情報を発信する。
3:榊と会話していた拘束具の男(オーヴァン)、白衣の男(トワイス)を警戒。
[備考]
※エンディング後からの参加です。
※この仮想空間には、オカルトテクノロジーで生身の人間が入れられたと考えています。


[C-7/カオスゲート/1日目・早朝]
※カオスゲートはR:1のものです。

【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%
[装備]:剣(出展不明)
[アイテム]:ウイルスコア(T)@.hack//、基本支給品一式
[思考]
基本:死にたくない
1:オーヴァンと共に行動する
2:キリト君に会いたい
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになってからの参戦です
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました
※キリトが参加していることに気付いていません

【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]: HP100%
[装備]:銃剣・白浪
[アイテム]:不明支給品0~2、AIDAの種子@.hack//G.U.、基本支給品一式
[思考]
基本:ひとまずはGMの移行に従いゲームを加速させる。並行して空間についての情報を集める。
1:利用できるものは全て利用する。サチも有用であるようなら使う
2:AIDAの種子はひとまず保留。ここぞという時のために取っておく
3:茅場晶彦の存在に興味。
4:トワイスを警戒。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
また、それが茅場晶彦である可能性も、僅かながらに考えています
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています



044:TRINITY 投下順に読む 046:縦横無尽のエージェント・スミス
043:走るような激しさで 時系列順に読む 046:縦横無尽のエージェント・スミス
026:ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― オーヴァン 058:生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう
026:ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで―― サチ 058:生きるは毒杯 杞憂の苦しみを飲み干す術を誰が授けよう
021:三者三様 ミーナ 069:プレイ時間 6時間21分
000:プログラム起動 069:プレイ時間 6時間21分
初登場 トワイス 052:convert vol.1 to vol.2

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最終更新:2014年01月09日 01:36