1◆



 エージェント・スミスの一団は駆け抜けていた。一切の無駄がなく、それでいて俊敏な動きで障害物を軽々と飛び越え続ける。
 未知の"力"を手に入れて、救世主ネオを始めとしたプレイヤーを抹殺する。その為ならば一切の無駄が許されなかった。
 スミスの一人を打倒したシノンは『愛』などという不合理極まりない感情を掲げていた。スミスに『上書き』されたランルーくんという狂気の道化師も『愛』を語っていた。
 同じようにアトリも『愛』を信じて、スミスの『上書き』に抗っていた。その現象は信じがたいものだったが、あの時のアトリは確かにシステムを弾き返している。
 ……もしや、人間の不合理な感情は絶対なるシステムすらも凌駕すると言いたかったのか。


 黄昏色の少年やハセヲは凄まじい炎を纏いながら、凄まじい進化を遂げている。蒼と紅の違いはあれど、それらは救世主の力と似ていた。
 一体何をきっかけにあれほどの力が発揮されたのか。まさかそれすらも『愛』が源となっているのか。
 エージェント達が決して持ち得ない『愛』という感情。何故、奴らはそれに拘り続けたのか全く理解できない。
 そんなものがあるからこそ人間は矛盾し、苦悩し、そして自ら堕落してしまう。だからこそ人類はマトリックスに支配されて、そして快楽の世界に溺れたのだから。


 だが『愛』の感情が力になるのなら、いずれはそれを解析しなければならない。
 しかしサンプルデータがなかった。人間はいずれも『上書き』してしまったし、知識や能力を得る事は出来ても感情の数値化は可能なのか?
 ワイズマンは『愛』を語らなかったから期待などできない。
 ボルドーはAIDAの解析に集中しなければならず、彼女に意識を向けていられるかどうか不明だ。数人がかりでやれば可能性はあるが、その分だけ時間を浪費してしまう。
 魔法道具屋は論外だ。単なるNPCに『愛』の解析など期待できない。


 だとすれば、確実なのはランルーくんだったが、シノンによって撃破されてしまった。
 改めて、彼女への憎しみが湧きあがってしまう。何度も煮え湯を飲まされただけでなく、こんな所まで邪魔をされてしまうとは。
 だが、報復する時までに待つしかない。"数"を増やし、"力"を手に入れて、シノンの全てを蹂躙し尽くして"私"にする……それを実現させる為にも、確実な準備が必要だった。


 バトルロワイアルが開始されて、既に12時間が経過している。
 全プレイヤーに仕組まれたウイルスが発動するまで、既に半日を切ってしまった。このまま行けば、何の力を持たない弱者はすぐに粛清されるだろう。
 だが、今のスミスにとっては少し都合が悪かった。24時間が経過する頃になれば、生き残ったのはハセヲを始めとした相当の強者達だ。そして、その後に控えているのは榊達との決戦だろう。
 その段階までに一人でも多くを『上書き』しなければならないスミスにとって、他プレイヤーがウイルスで殺されてしまうのは少し都合が悪い。
 そういう意味でも弱者は優先的に狩らなければならなかった。NPCを狙うこともできるが、それではたった一人を増やしている間に敵の戦力が増大する危険もある。


 スミス達は現在、G-1エリアのアリーナに向かって進行していた。
 一つは移動時間の短縮だった。いくらスミス達と言えども、マク・アヌから日本エリアに単純に北上しては時間が大幅にかかってしまう。
 それならば、ワープゲートを経由して移動した方が余程早く思えた。
 そしてもう一つはアリーナで行われる【スペシャルマッチ解放】 というイベントのクリアを果たす為だ。
 今から12時間以内にこのイベントを行った場合、特殊なボスと戦闘ができるらしい。それをクリアすればレアなアイテムが手に入るようだ。
 詳細は不明だがある程度は有利になるかもしれない。過度な期待はしないが、行く価値はあるだろう。


 そうして、スミス達はワープゲートの前に辿り着く。だが、その先を潜らなかった。
 彼らは一斉に背後を振り向いた。

「…………そこにいる君。"我々"を尾行しているのはわかっている。早く姿を現したまえ」

 スミスの一人は一歩前に出ながら声をかける。しかし返答はない。
 だが、四人は気付いていた。自分達を追跡しているプレイヤーが存在していることを。

「君が"我々"に勘付かれないように力を尽くしていたのはよくわかる。あるいは"我々"にわざとその存在を察することができるようにしていたのか…………あえて問わない。
 しかし"我々"の前に姿を現さないのであれば、君を"我々"の一人にさせて貰う事にしよう」

 無機質で、そして明確な殺意を込めた言葉を零す。
 "我々"の足音に混ざるかのように、第五の気配が感じられた。先に奇襲を仕掛けてきたボルドーとは違い、確実に気配を殺している。
 敵意や殺意は一切感じられず、意識を集中させなければ気付かなかっただろう。しかし途中から、あえてこちらに存在を知らしめているように見えた。
 周囲に静寂が満ちる。このまま姿を現さないのであれば、こちらから仕掛けるつもりだ。
 5秒が経過した後、スミス達が構えた途端……足音が聞こえる。そのまま、建物の陰から一人の男が姿を現した。

「………………」

 男は何も語らず、こちらを見据えている。
 色眼鏡と水色のマフラーによって、その表情を窺う事ができない。しかしこれだけいる"我々"を前にしても、動揺や驚愕といった気配は微塵も感じられなかった。
 その雰囲気は、マトリックスを守護するエージェント達にもよく似ている。


 だがそれ以上に目を引くのは、左腕を丸ごと覆い尽くす巨大な装飾品だ。
 武器なのか。あるいは何らかの"力"を封印しているシステムが具現化したものなのか。少なくとも、無視していい存在ではないはずだろう。

「"我々"に対して存在を隠していたことは評価に値する…………しかし何故、それをわざと破ったのかが理解に苦しむ。
 奇襲を仕掛けたかったのか? それとも"我々"と協定を組もうとしたのか? あるいは、別の目論見があったのかね?」
「……君達の一人に"種"が撒かれているのを見たからだ」

 疑問に対する男の返答は、あまりにも曖昧なものだった。
 それにスミスは首を傾げるも、男は続ける。

「如何なる手段で"種"を手に入れたのかは知らない。だが、いずれそれは芽吹くだろう。
 その時、君達がそれを"力"とできるかどうかは……君達次第だろうな」

 そう語る男の視線は、ボルドーを『上書き』したスミスに向けられているように見えた。
 そしてスミスは察する。この男はボルドーが所有していた『力』について知っていると。
 すなわち、榊やボルドーと同類であることになる。

「もしや、君は榊の仲間かね?」
「仲間…………少なくとも、間違ってはいない」
「では君を打倒すれば、"我々"は榊の元に近づけることになるのかね?」
「それは君達次第だ。ここで倒した所で、君達の未来が大きく変わるとは…………いや、これはよそう。
 他者の予言を口にするのはフェアじゃない」

 またしても曖昧模糊な返答。だが、スミスはそれが微かに気がかりだった。
 予言。エグザイルには他者のそれを見通し、そして導く存在がいる。このマトリックスに取り込まれる直前に『上書き』の標的として定めた預言者・オラクルだ。
 この男はオラクルに接触した可能性が高かった。

「まさか、君は預言者を知っているのかね?」
「フッ……どうやら、君は彼女と同じ世界に生きる存在みたいだな」
「彼女はどこにいる?」
「既にいない」
「何……?」

 何事もなかったかのように男は答える。
 それが何を意味しているのか……男によって預言者は消されたのか、それとも本当に「いなくなった」のか。
 だが、問いただそうとしてもまともな返事がある訳がないし、何よりも"我々"の一人にしてしまえばそんな必要などない。
 その意思を察したのか、隣にいる"我々"は一歩前に踏み出して、そして同時に飛び掛った。


 恐ろしいほどの速さを誇り、重量感に溢れる三つの打撃が男に振るわれる。
 並のプログラムであれば一瞬でデリートされてしまうであろう連撃だ。このまま、男を一瞬で致命傷にまで追い込めるかと予想した。
 しかし次の瞬間。男の身体は霧のように消えてしまう。スミス達の攻撃は命中する事もなく、誰もいなくなった空間を空振りするだけに終わってしまった。

「ムッ!」

 驚愕と同時に、背後に気配を感じる。
 反射的に【静カナル緑ノ園】を構えながら振り向いた先には、あの男が巨大な爪を向けていた。その距離はほぼ目と鼻の先だった。
 左腕の拘束具はいつの間にか外れていて、爪からは大量の黒点が撒き散らされている。それは榊やボルドーにも見られた例のプログラムだと、スミスは察した。
 しかしあの二人とは違い、この男は極めて冷静だった。それだけ、このプログラムに精通しているはず。
 マトリックスが蝕まれないまま、力を完璧に使いこなしている…………実力はボルドーはおろか、榊すらも上回るかもしれなかった。


「…………その速度。君も彼らのように、相応の『力』を持った者なのか」

 しかしスミスは強く動揺をしなかった。
 ハセヲや剣士の少年は何らかのきっかけで膨大なる力を発揮している。それと同じように、この男も最初から凄まじき戦士であっただけの事。
 考えてみれば、GMである榊の仲間であるなら有り得ない話ではなかった。この程度の力は発揮して当然で、むしろ"我々"を瞬時に消滅させるシステム権限を持っていたとしてもおかしくない。
 この男は、NPCを『上書き』した事に何らかの警戒を抱いた榊達が送り込んだ刺客。その可能性だって否定できなかった。

「それで、榊の抹殺を企んでいる"我々"を消しにきたのかね?」
「違うな」
「では何故、わざわざ"我々"の前に姿を現した?」
「言ったはずだ。君達には"種"が撒かれているのを見たからだと……そして君達がハセヲの名前を口にしていたのを、俺は確かに聞いた」
「ああ。確かに"我々"はハセヲ君を憎んでいる」
「ならやはり、君達の前に現れて正解だったな…………俺もハセヲの敵だからだ」

 淡々と男は語るが、それでいて敵意は緩める気配を見せない。
 この男は変貌を果たしたハセヲと同等か、あるいはそれを凌駕する程の雰囲気が感じられた。感情が見られない瞳の奥に何が潜んでいるのか…………
 勝てない事もないだろう。だが、そこに至るまでの難易度が高い。無傷は有り得ないだろうし、仮に『上書き』ができたとしてもこちらの消耗も甚大なはず。
 現状では"数"に勝っているが、内三名はハセヲとの戦いで万全の状態ではない。そんな状態でハセヲの関係者と戦うのは得策ではなかった。
 尤も、このまま尻尾を巻いて逃げるつもりもないが。


 そして何よりも重要なのは、この男がハセヲの敵ということだ。
 彼の言葉に虚偽が感じられない。ここでそれを口にするメリットがあるとは思えなかった。

「ハセヲ君の敵か……」
「俺と君達の目的はどうやら同じのようだ」
「つまり"我々"と協定を結びたいと、君は言いたいのか?」
「ゲームクリアには必要不可欠な要素だ」

 男の言葉は極めて尤もだ。
 "数"を増やさなければゲームをクリアできない。そして現実の人間達は微々たる"力"を寄せ集めて、マトリックスへの反逆を続けている。
 だがスミスの場合、共に行けるのは"私"だけ…………そう思っていたが、この男も中々に興味深い。是非ともそのプログラムを解析するべきだが、このまま『上書き』をしたとしても時間がかかるだけ。
 まずは情報を得なければならない。ワイズマンの場合も、解析の前に尋問をしてある程度の情報を得るべきだった。
 同じ轍は踏んだりなどしない。この男からは色々と引き出せる物があるはずだった。




     2◆◆




 『The World』の闘争都市ルミナ・クロスに存在するアリーナと、内装は酷似していた。これはマク・アヌや大聖堂も同じだったので、今更かもしれないが。
 ここでは今、メールで書かれていた【スペシャルマッチ】が行われていて、オーヴァンは観客席でそれを見学している。
 プレイヤーは三人のエージェント・スミスで、現れる新たな敵を待っていた。

『これよりスペシャルマッチが始まります! 挑戦者は……エージェント・スミスのチーム!』

 実況の叫びと共に、周囲のNPCの歓声が大きくなる。
 ふと、オーヴァンは隣に目をやる。四人目のエージェント・スミスは無言でアリーナを見つめていた。
 彼の視線からは仲間に対する心配や期待と言った感情は見られない。

『勇気ある挑戦者達はこれより己の命をチップにして、最大級のボス……骸骨の刈り手との戦いに挑もうとしています! 果たして挑戦者達は己の運命を覆せるかっ!?』
「よくもまあ、耳障りな声で叫ぶものだ……全くもって煩わしい」

 スミスは淡々と呟く。まるで最初からこの戦いそのものが茶番だと考えているようだ。
 恐らく、結果は最初からわかっているのだろう。仲間達を信頼しているではなく、勝利を当然の事として捉えているはずだ。
 どちらにしても、オーヴァンには関係のない話だが。



 あれから、オーヴァンはスミス達と接触する為に追跡した。
 理由はスミス達の一人に植え付けられていた"種"を芽吹かせる為。能動的に争いを仕掛けてくる彼らが持つならば、遠からず芽吹くだろう。だが、GMからバトルロワイアルの扇動を任されている以上、それを導くのも一興だ。
 故に接触をしたが、この男達はやはり見込みがあった。純粋な戦闘力は勿論の事、彼らの"力"もまた驚異的だった。

「それで、君は榊の仲間でありながら"我々"の力を知らないと見るな」
「俺はゲームの扇動を任されているだけだ。君達の情報を与えられては公平性を欠いてしまう」
「なるほど……では、このまま君を"我々"にした所で榊達は大きな動きを見せないか」
「不服か?」
「いや。むしろ、それが当然だろう。君一人に殺し合いの鍵を握らせるなど、愚策にも程がある」
「その通りだな」

 オーヴァンとスミスが見る画面では、スミス達が巨大なボスモンスターと戦っている光景が映し出されていた。
 それは『The World』では見た事がない。ムカデ型の骸骨モンスターで、全長は優に10mは超えそうだった。
 実況曰く、SAOの第75層に君臨したモンスターらしい。つまり、あの茅場晶彦が生み出したモンスターの一体という事だ。
 モンスターは巨大な腕を振るうが、スミス達は跳躍する事で軽々と避ける。その脚力は凄まじく、明らかにシステム外の力だった。
 そしてスミスの一人は強烈な蹴りを叩き込み、モンスターを壁に叩きつける。速度と重さは憑神に匹敵するほどだ。

「ほう……あの巨体を一撃で崩すとは」
「君もあれくらいのことはできるのではないかね?」
「どうだかな」

 スミスの疑問を軽く流す。
 モニターを眺めると、モンスターは既に起き上がっていた。瞬き程の間だったが、スミス達はモンスターの死角に回り込んでいる。
 それから同時に拳を叩き込んで、その巨体を高く弾き飛ばした。周囲のNPC達は更に盛り上がるが、オーヴァン達は何の感慨も抱かない。
 結果のわかりきった試合を眺めても、感情は決して動かされなかった。

「そういえば、君達は確かアトリの碑文を手に入れたそうだな」
「これも解析をしなければならないが、残念な事に"我々"は君達の"力"について知識を持たないのだよ。ボルドー君のプログラムも含め、君には協力して頂きたい」
「……ハセヲを倒す為なら、妥当な見返りだ。俺達はこれから互いの事を知らなければならない」

 聞く所によると、アトリはマク・アヌで殺害されたらしい。スミスがアトリから碑文を奪い取り、その直後に白い巨人に致命傷を負わされたようだ。
 それがきっかけとなって、ハセヲはシステム外の変貌を果たして……スミス達を圧倒する程の力を発揮したらしい。
 スミス達が碑文やAIDAの解析を企んでいる理由は、ハセヲへの報復だ。確かに彼らがこれらの力を手にすれば勝率は上げられるかもしれない。


 だが、オーヴァンは全てを教えるつもりなどない。何故なら、エージェント・スミス達があまりにも危険な存在だからだ。
 詳しい原理は知らないが、彼らは己の"数"を増やせる力を持つ。四人の姿が全く同じなのは、他のPCのプレイヤーをスミスに『上書き』したから……と、その情報を提供された。
 ワイズマン、ランルーくん、デス☆ランディ、ボルドー、魔法道具屋。合わせて五人のプレイヤーとNPCがスミスにされている。
 NPCの場合、一人の上書きにある程度の時間が必要らしいが、チート級の能力であることに変わらなかった。


 そして最大の問題は、エージェント・スミスがゲームの勝者として君臨してしまう事だ。
 彼らが憑神やAIDAの力を使いこなしては、GM達を本当に打倒しかねない。そうなってはGMすらもスミス達に『上書き』されるだろう。
 そこからスミス達が『The World』やSAOを始めとした数多のゲームに侵食しては、甚大な被害が出る。最悪の場合、スミス達が現実に生きる人間の脳を『上書き』する危険すらも予想できた。
 ネットワーククライシスどころではない。人類が築いた全ての文明が崩壊するはずだ。


 故にスミス達を放置するわけにはいかない。
 もしも彼らを追跡しなかったら、自らのあずかり知らぬ所で更に力を増大させていただろう。
 このまま、どこかにいるハセヲを利用して『再誕』を果たしたとしても、AIDAの脅威がスミスに取って代わるだけ。むしろ、スミスの対抗策を知らないのであれば、AIDA以上といっても過言ではない。


 当面はスミス達にAIDAや『The World』の情報を与えながら、スミス達の対抗策も練るべきだ。
 そしてハセヲと再会して『再誕』を起こして、AIDAと共にスミス達も駆逐するつもりだ。アトリの命を奪ったスミス達と組んだと知っては、ハセヲは更に憎しみを燃やすだろう。
 一度はスミス達を退けた力だ。もしも新たなる力を誘発させれば、今度はAIDAごとスミス達を全滅させられるはずだ。


 アトリを間接的に殺した犯人であっても、スミス達に怨みなど持ったりしない。『再誕』を果たす為に志乃を未帰還者にしたのだから、人の死を知っても心を痛める訳がない。
 否、心を痛めては躊躇いが生まれてしまう。そうなっては『再誕』を果たせなかった。
 その為に、スミス達すらも駒にしなければならない。だが、彼らは碑文使い達のように上手く行かないだろう。
 ある意味では榊達よりも遥かに厄介かもしれなかった。
 だが未帰還者達を……そして最愛の妹・愛奈を救う為にも退く訳にはいかなかった。


「……どうやら、終わったようだ」

 スミスは呟くが、それは周りの歓声に飲み込まれてしまう。
 いつの間にか、画面に映し出されたモンスターは消滅しているが、舞台に立つスミス達は相変わらず能面の如く表情だ。勝利に酔いしれるわけでも、モンスターに対して侮蔑を抱いている訳でもない。
 ただ、勝利という結果だけを受け止めているようだった。



     †



「終わったようだね」
「ああ。だが、あのモンスターを上書きしようとしたが……瞬時に消えてしまった」
「"我々"の一人にさせない為だろう」
「残念だが、仕方があるまい」

 スミス達の会話は余りにも異質だった。
 互いを称える訳でも、気遣う訳でもない。ただ、結果と己の考案を淡々と告げ合うだけ。
 これまで数多の不条理を見てきたオーヴァンですらも、この光景に現実味を感じることができなかった。

「レアアイテムはどうだったかね?」
「ああ。確かにこれはレアアイテムと呼ぶに相応しい性能だろう」
「オーヴァン君も見たまえ」

 スミス達が展開するウインドウからレアアイテムの性能を眺める。
 成程、確かにこれはスペシャルマッチに見合う報酬だ。加えて獲得ポイントも、従来のそれを上回った。その数は1000に届くので、あれだけの巨体を誇るモンスターを倒してでも、得る価値があるかもしれない。
 尤もスミス達にとっては赤子の手を捻るような相手なので、対価として成り立っているかは疑わしいが。

「……それで、これからどうする? まだ、宝を得るのか?」
「そうしたいのは山々だが、時間はない。"我々"の獲物を横取りなどされてはたまらんからな」
「その為にも"我々"は日本エリアに向かう。ワープゲートを使用すれば時間はかかるまい」
「確かに休息の時は、狩人にとっては絶好の機会だろう」

 日本エリアに存在する月海原学園は今、モラトリアムが行われている。そこならば他のプレイヤー達を狙えると、スミス達は踏んだのだろう。
 ここならば『上書き』は確実に出来るが、その分だけ時間を浪費してしまう。それなら、モラトリアムで集まったプレイヤー達を『上書き』した方が遥かに有意義かもしれない。
 あの施設で戦闘行為を行ったプレイヤーにはペナルティがあるリスクはあるが、リターンも期待できるだろう。

「オーヴァン君。君は君のままでいながら"我々"の仲間としていられる……これは実に特異な事だ」
「だが、警告はしておこう」
「例え君が膨大なる"力"を誇り、榊達の仲間であろうとも」
「"我々"の利益にならないと知ったら、即座に切り捨てる」
「心に留めておくといい」

 スミス達は一人、また一人と言葉を紡いだ。オーヴァンはそれに頷く。
 彼らはかつてオーヴァンの知る存在であったが、面影は微塵も感じられない。スミスによって『上書き』されるとは、こういう事なのだろう……そう、オーヴァンは思案する。
 もう元には戻れないだろう。そうなると、ワイズマンであった八咫はどうなるのか? また、彼を崇拝していたパイがこの事実を知ったら、一体どんな感情を抱くのか?
 だが、その疑問は解き明かされないだろう。何故なら、彼らをこの世界から脱出させないのだから。

「では、目指そうではないか。
 "我々"が力を得て、そして"彼ら"への復讐を果たす為にも」

 その言葉を合図にスミス達は再び歩みを進める。
 オーヴァンもまた、彼らについていくようにアリーナを駆け抜けた。



【G-1/アリーナ/一日目・午後】



【エージェント・スミス@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(中)
[装備]:{静カナル緑ノ園、銃剣・月虹}@.hack//G.U.
[アイテム]:基本支給品一式、不明支給品1~10、{邪眼剣、スパークブレイド、妖精のオーブ×4}@.hack//、逃煙球×1@.hack//G.U.、破邪刀@Fate/EXTRA、サイトバッチ@ロックマンエグゼ3、レアアイテム(詳細不明)×1
[ポイント]:1150ポイント/4kill
[共通の思考]
基本:ネオをこの手で殺す。
1:殺し合いに優勝し、榊をも殺す。
2:人間やNPCなど、他のプログラムを取り込み“私”を増やす。
3:ハセヲやシノンに報復する。そのためのプログラムを獲得する。
4:オーヴァンを利用して、ボルドーのプログラム(AIDA)及び碑文を解析する。
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
2:アトリのプログラム(第二相の碑文)を解析し、その力を取り込む。
[共通の備考]
※参戦時期はレボリューションズの、セラスとサティーを吸収する直前になります。
※スミス達のメニューウィンドウは共有されており、どのスミスも同じウィンドウを開きます。
しかしそれにより、[ステータス] などの、各自で状態が違う項目の表示がバグっています。
また同じアイテムを複数同時に取り出すこともできません(例外あり)。
※ネオがこの殺し合いに参加していると、直感で感じています。
※榊は、エグザイルの一人ではないかと考えています。
※このゲームの舞台が、榊か或いはその配下のエグザイルによって、マトリックス内に作られたものであると推測しています。
※ワイズマン、ランルーくん、デス☆ランディ、ボルドーのPCを上書きしましたが、そのデータを完全には理解できて来ません。
※一般NPCの上書きには、付与された不死属性により、一時間ほど時間がかかります。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備した場合、『増殖』の特性により、コピー・スミスも【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能になります。
※【第二相の碑文】を入手しましたが、まだそのプログラムは掌握できていません。そのため、その能力を使用することもできません。
※魔法道具屋に売っている平癒の水を使用し(一つ350ポイント)、回復しました。
※レアアイテムの詳細は不明です。


【コピー・スミス(ワイズマン)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(小)
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。



【コピー・スミス(ボルドー)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:HP60%強、ダメージ(大)、(PP70%)、AIDA感染(悪性変異)
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
2:ボルドーの持つプログラム(AIDA)を解蜥/R――――。
[AIDA] <Oswald>→<Grunwald>
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。
※ボルドーを上書きしたことにより、ボルドーに感染していたAIDAに介達感染しました。
また、スミスの持つ『救世主の力の欠片』と接触し、AIDA<Oswald>がAIDA<Grunwald>へと変異しました。


【コピー・スミス(魔法道具屋)@マトリックスシリーズ】
[ステータス]:健康
[個別の思考]
1:月海原学園へと向かい、そこに集まったNPC達を“私”にする。
[個別の備考]
※エージェント・スミスが【静カナル緑ノ園】を装備しているため、コピー・スミスは【静カナル緑ノ園(コピー)】の同時使用が可能です。


【オーヴァン@.hack//G.U.】
[ステータス]: HP100%(回復中)
[装備]:銃剣・白浪
[アイテム]:不明支給品0~2、基本支給品一式 DG-Y(8/8発)@.hack//G.U.、ウイルスコア(T)@.hack//、サフラン・アーマー@アクセル・ワールド、付近をマッピングしたメモ、{マグナム2[B]、バリアブルソード[B]、ムラマサブレード[M]}@ロックマンエグゼ3
[ポイント]:300ポイント/1kill
[思考]
基本:ひとまずはGMの意向に従いゲームを加速させる。並行して空間についての情報を集める。
1:利用できるものは全て利用する。
2:トワイス、エージェント・スミス達を警戒。
3:リコリスの調査はGM側からの信用を得てから。
4:ゲームを進めるが、必要以上にリスクを背負うつもりはない。
5:『再誕』を発動させる際には、AIDAもろともエージェント・スミス達を殲滅させる。
[備考]
※Vol.3にて、ハセヲとの決戦(2回目)直前からの参戦です
※サチからSAOに関する情報を得ました
※榊の背後に、自分と同等かそれ以上の力を持つ黒幕がいると考えています。
※ただしAIDAが関わっている場合は、裏に居るのは人間ではなくAIDAそのものだと考えています
※ウイルスの存在そのものを疑っています
※コピー・スミス(名前を知らない)の一人がAIDAに感染されていると考えています。


【全体の備考】
※スペシャルマッチでは<<The Skullreaper>>@ソードアート・オンラインが登場しましたが、別のボスキャラクターも登場するかもしれません。
※ボスを撃破するとレアアイテムと同時に1000ポイントが獲得できます。


105:対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 投下順に読む 107:Be somewhere
105:対主催生徒会活動日誌9ページ目・集積編 時系列順に読む 108:生者と死者
095:種――ザ・シード―― エージェント・スミス 111:対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)
095:種――ザ・シード―― スミス(ワイズマン) 111:対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)
095:種――ザ・シード―― スミス(ボルドー) 111:対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)
095:種――ザ・シード―― スミス(魔法道具屋) 111:対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)
095:種――ザ・シード―― オーヴァン 111:対主催生徒会活動日誌・10ページ目(開戦編)

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最終更新:2015年11月15日 18:02