1◆
ガチャリ、と音をたてながら見慣れた扉を開く。
その先に広がっているのは月見原学園の保健室だった。ここも、月の聖杯戦争に何度訪れたのか……もう覚えていない。それくらい馴染みのある場所に、再び足を踏み入れる。
部屋に入った先には、やはり彼女の姿が見られた。
「ごきげんよう、先輩」
微笑む彼女は穏やかな挨拶と共に頭を下げる。その声はとても懐かしい。
その姿を見なかった日は、一日でもあっただろうか。菫色の長髪も、可憐な桜のように優しい笑顔も、保険委員特有の白衣も……全てがよく知っていた。
ここにいる少女の名は…………
A.間桐桜。
B.保健室の人。
>C.フランシスコ・ザビ……!
「違いますよ、先輩。それを口にしてはいけませんよ?」
こちらはまだ口にしてもいない。それなのに、まるで
岸波白野の思考を読み取ったかのように、彼女は前に出てきた。
「私、これでも健康管理AIですから、先輩のスキャニングはバッチリです。
先輩は基本的にクールですけど、ふざける時とか空回りする時とか、だいたい空気で読み取れます。
ですので、ここぞという時の不真面目さ自重していだたかないと……口にできないおしおきをさせて頂きますから」
穏やかな笑顔はそのままだが、心なしか凄まじい威圧感が放たれている。このまま口にしたら、本当にデリートされてしまいそうだ。
周りからの視線は妙に痛い。セイバーとキャスターも、ユイも、
カイトも、サチ/ヘレンも……無言の圧力をかけてくる。
…………確かにふざけるのは無粋だろう。せっかく再会したのに、失礼極まりない。
ごめん、と謝る。気を取り直して、彼女の目をしっかりと見た。
>A.間桐桜。
B.保健室の人。
彼女の名は……間桐桜。
SE.RA.PH.では、この保健室でマスターの健康管理担当の役割を勤めていた少女だ。岸波白野も何度彼女に助けられたか、もうわからない。
こうしてまた会えてよかったと、彼女に想いを告げる。
「はい。先輩……私もまた会うことができて嬉しいです。
ここにいれば先輩達に会えると信じていました。セイバーさんやキャスターさんも……お元気そうで何よりです」
「うむ! そちもまた変わらぬようで、余も何よりだ!」
「桜さん、お久しぶりでございます。ご主人様のジョークを流せる辺り、やっぱり桜さんの半分は優しさでできているのですね!」
セイバーとキャスターもまた、桜に笑顔を向けた。キャスターの言葉が突き刺さるが、ここは仕方がない。
ここにアーチャーがいないのは残念だった。彼女達だけではなく、アーチャーだって桜には何度も助けられたはずだから。
……と、ここで疑問に思う。桜は今の自分達に違和感を抱いていないのか? ありす、ダン卿、シンジ、レオ……これまで出会ってきたマスター達は皆、岸波白野の状態に疑問を抱いていたのに、彼女は何気なく接してくれている。
嬉しく思う反面、どこか違和感も抱いてしまう。
桜にそれを指摘してみる。
「はい。私は健康管理のAIなので、このバトルロワイアルに移送された際に全プレイヤーのデータをインストールされたのです。
なので、先輩方に起こったことは勿論、ここにいる皆さんの情報は全て知っています。
ユイさん、蒼炎のカイトさん、サチさん、生徒会の方々……誰一人として例外ではありません。
尤も、私の口から他の方に詳細をお伝えすることはできませんが」
確かに桜が自由に伝えてしまっては、バランスが崩れてしまいかねない。この状況では情報は多大な武器になろうし、それが大量に詰め込まれた桜は一種のバランスブレイカーだ。
だからこそ月海原学園には図書室が存在する。自分達が保健室に訪れている間、レオ達はそこで情報収集を行っていた。
何でも今回の図書室はSE.RA.PH.よりも情報が大幅に更新されていて、検索すれば異世界の出来事や人物についても知ることができるらしい。
キーワードがなければどうにもならないが、今は異世界の人間が大勢いるので得られる物は多いはずだった。
…………しかし、今の桜は大丈夫なのだろうかと不安になってしまう。
大量のデータを押し込まれて、彼女の状態は一体どうなっているのか。表向きは平常だが、それはAIとしての務めを果たす為に振舞っているからかもしれない。
容量を無視して情報を入れたことで、アバターに何らかの悪影響が出るかもしれなかった。
「その点でしたら心配はありません。
詳細は教えられませんが、異世界からのプレイヤー方の診断もしなければいけない関係上、容量が大幅に拡張されているのでオーバーヒートやフリーズを起こすことはないです」
さらっと、それでいてとんでもないことを桜は口にする。
容量が拡張されている……その事実に驚きを隠すことはできない。確かに、このバトルロワイアルは月の聖杯戦争に身を投じたマスターだけではなく、異世界の人物が大勢参加している。
それを考えると、当然の処置かもしれない。
だけど、同時に更なる不安が湧き上がった。
今の桜は大量の情報をその身に抱えている。それを考えると、口にできないだけで図書室と同等の存在に該当するかもしれない。
もしかしたら、彼女だって狙われるかもしれなかった。悪質なプレイヤーが何らかの手段で桜に内包されたデータを知ってしまったら、確実に狙うはず。
これから一緒に行けないのだろうか……
「……………………」
桜はほんの少しだけ表情を曇らせてしまう。
「気持ちはありがたいのですが、それは不可能なんです。
ごめんなさい。私は……いいえ、私達AIはこの学園から離れられる権限を持っていないのです。このバトルロワイアルが続く限り、私達は所定の位置で自分の役割を全うする他はありません。
でも、それも心配ありませんよ。私達は特殊なプログラムで守られていますから」
特殊なプログラム……そういえば、校庭にいた女子生徒もそんなことを言っていた気がする。
それがある限り、桜のようなAIやNPC達はプレイヤー同士の戦いに巻き込まれないらしいが……それでも、不安だった。
レオや凛は絶大なハッキング能力を持っているように、異世界にもシステムを覆す技術を持つ人物が存在するだろう。もしもそいつらがシステムの裏を付いて、運営の機能を改竄できるのなら、NPC達のプログラムだって意味を成さない。
そうなっては、桜達だって安全ではないだろう。
……だけど、そんな仮定をした所で今はどうにもならない。ここにいない人物のことを考えても対策のしようがなかった。
今はここで情報を集めながら、ウイルスの対策を練ることが大事だろう。
タイムリミットは既に12時間を切っている。ここまで他のプレイヤーを一人もKILLしていない現状、自分達に残された猶予は長くなかった。
恐らく、これは桜でも手出しができないように設定されているはず。彼女は健康管理のAIだが、バトルロワイアルの根幹に関わるシステムまでは介入できない。
そんな事ができたら、今頃レオ達はとっくに死の恐怖から解放されるはずだ。
だけど、それで桜を諦めていい理由にならない。
もしも彼女が狙われるのなら、ここにいる限り守らなければならなかった。
「サクラよ……そなたと共に行けないのは、余も心苦しい。
だが案ずるな。我らと桜の仲だ。もしもそなたを狙う不埒な輩が現れたら、余がこの手でたたっ斬ってみせる」
「そうそう! 婦女暴行をやらかそうとする暴漢なんて、この私めが塵にして差し上げますよ!
悪はバンバン、バンバン倒す私達でいますから!」
セイバーとキャスターも想いを告げた途端、桜は再び笑顔を見せてくれた。
「……はい! 頼りにしていますよ、皆さん!」
その言葉からは、自分達への絶大なる信頼を感じられた。
桜の信頼と優しさや、それにセイバーとキャスターの決意と約束……どれも絶対に裏切ってはならない、かけがえのないものだった。
カイトとヘレンも、きっと同じ気持ちかもしれない。
「あの、お取り込み中にすみません」
そんな中、進み出てきたのはユイだった。
見ると、彼女は真摯な表情を桜に向けている。何故、そんな顔をしているのかがわからない。
それを尋ねようとしたが……
「サクラさん……一つお聞きしたいのですが、よろしいでしょうか?」
「聞きたいこと? それは何でしょうか」
「はい。桜さんの内部に内蔵されている大量のデータ……それを私の中にコピーすることはできないでしょうか」
……抱いた疑問は、ユイの問いかけによって遮られてしまった。
一瞬、彼女が何を言ったのかがわからなかった。それはセイバーとキャスターも同じなのか、衝撃的な宣言に目を見開いている。
桜のデータをコピーする…………それを受け止めるまで、時間が必要だった。
「ユイさん? それは一体、どういうことでしょうか」
「……サクラさん。今は一刻を争う状況なんです。危険なレッドプレイヤーはまだいますし、私達に内蔵されたウイルスが発動するまでの時間だって迫っています。
皆さんの気持ちを踏み躙ろうとしているのは充分に承知しています。でも、あなたが持っているデータを移植さえできれば、きっとハクノさん達にとって大きな力になると思うんです!
だから……!」
「それは容認できません。AI及びNPCの内部には特殊なプログラムがかけられていて、それがある限り過剰な接触はできないのです。
また、仮に介入ができたとしても、今度はユイさんがGMに目を付けられて、何らかのペナルティが与えられるかもしれません。
最悪の場合、ユイさんだけでなく生徒会の皆さんが…………ゲームの運営を妨害する悪質なプレイヤーと認定されて、一斉にデリートされるでしょう。
何よりも、私に内蔵されたデータの量は膨大です。それは、短時間でコピーできないと思います……」
その言葉は事務的だが、ユイを気遣っているのはすぐにわかる。AIとしての警告ではなく桜自身の感情だろう。
自分もユイの提案を受け入れることはできない。ユイがやろうとしていることは、運営側からすれば違法中の違法だ。『月の聖杯戦争』で例えるのなら、ムーンセルからデータをハッキングするに等しい。
ユイにそれほどの危険を背負わせる訳にはいかなかった。
「ユイよ……そなたの心掛けは評価に値する。そなたのように、常に高みを目指す者がいたからこそ文明は繁栄しておるのだからな。
だが、人には生まれ持っての器もある…………己を顧みずに勇気と無謀を間違えた者の末路は、悲しいものばかりだ。余はユイにそうあって欲しくない。
何よりもサクラの気持ちも受け止めてやるべきだ」
「…………ごめんなさい。セイバーさんの言うことは尤もです。
私自身、危険なことを言っているのはわかっています。でも、皆さんが命を賭けて戦っているのに私だけが何もしないなんて……」
「何を言っておる! そなたがいたからこそ、奏者はカイトやヘレンと手を取り合えた!
それに忘れるな……ユイに何かがあったら悲しむ者がいることを」
「そうそう。謙遜もいいですけど、限度を超えると傲慢になってしまいますよ?
それに二兎を追う者は一兎をも得ず……という言葉だってあります。ユイさん、あれもこれも欲張りすぎるのはよくありませんよ?」
セイバーとキャスターの説得に、ユイは表情を曇らせる。
少しでも可能性がある内は諦めたくない……ユイのそんな気持ちはよくわかる。岸波白野だって、その誇りを曲げなかったからこそ月の聖杯戦争を勝ち抜けたのだから。
…………だけど。
A.頼む、ユイ。
>B.それは止めるんだ、ユイ。
やはり、まだ幼いユイを危険に晒す事などできない。もしもユイに何かがあったら、セイバーが言うようにキリトや
シノン達だって悲しんでしまう。
それにカイトやヘレンもユイに語りかけている。二人の言葉はわからないけど、きっとユイの無茶を咎めているはずだ。
ユイの気持ちは尊重したいけど、それはユイに無謀な事をさせていい理由にはならなかった。
「……白野達、入るぞー」
空気が重苦しくなりそうな中、ノックの音と共にジローの声が聞こえてくる。
顔を上げた途端、保健室のドアが開いてジローは姿を現した。
しかしこの部屋の空気を察したのか、複雑な表情を浮かべている。
「えっと……レオ達が呼んでいるんだけど……今は大丈夫か?」
問題ない。
むしろ、このままでは雰囲気が悪くなるかもしれなかったから、渡りに船だ。
他のみんなもジローの言葉に否定しない。ユイも複雑な表情を浮かべているままだが、特に反対などはしなかった。
故に、保健室を後にしようとしたが……
「あ、待ってください先輩達。皆さんにまだ渡していない物があります」
呼びとめてくる桜は、自分達にアイテムを渡してくる。
それは岸波白野も知るものだった。【桜の特製弁当】……SE.RA.PH.でも渡されたことがあり、月の聖杯戦争を勝ち抜く為の大きな力となったアイテムだった。
HPの回復や不利な状態を解除してくれる優れ物。あろうことか、桜はそれを4つも出してくれている。
「言い忘れていましたが、このモラトリアム中に保健室に訪れたプレイヤーにはアイテムを渡すシステムになっているんです。
先輩、ユイさん、カイトさん、サチさん……それぞれ一人ずつです。ただ、セイバーさんとキャスターさんは厳密にはプレイヤーとカウントされないので、お二人の分は渡す事ができません……申し訳ありません」
「気にするな、サクラよ! 余の物は余の物! 奏者の物は余の物! つまり、奏者に渡したのならば余に渡したのと同義なのだからな!」
「ガキ大将の理屈は置いておくとして……桜さん、お気になさらず! 桜さんの強く、優しく、美しい心構えだけでも、ご主人様はご飯三杯はいけますし!
グランプリンセスならぬ、グラン健康管理AIとして誇るべきですよ!
あ、でも暴飲暴食するなら無理矢理にでも吐かせますのでお忘れなく」
セイバーとキャスターの分が貰えないのは残念だが、考えてみればそれも仕方がないかもしれない。
もしもサーヴァントの分まで貰えたら、魔術師達はその分だけ有利になってしまう。特例中の特例である自分だったら三つも手に入るだろうし、それでは公平性を保てない。
だけど今は桜の想いに答えるべきだった。ユイは喜んでいるし、カイトとヘレンも……表情は変わらないけど、喜んでいるようだった。
――桜、ありがとう。
「どういたしまして!」
互いに笑顔を向ける。一瞬だけど、それはかけがえのない時間だった。
大切な存在と共に何気ない時間を過ごす……それを大切にしているのは岸波白野だけではない。ここに連れて来られた大半のプレイヤーが、本当なら日常を謳歌していたはずだ。
ユイやカイトは現実の世界に肉体を持たないけど、キリトやハセヲのようなプレイヤーからは大切に想われていた。
サチもそうだ。ユイが言うには、デスゲームの犠牲となって『死』を迎えてしまったけど…………もしかしたら運命を変えられるかもしれなかった。
大切な人と過ごしたい……その気持ちはAIも現実に生きる人間も変わらない。こんな所で終わらせていい訳がなかった。
2◆◆
「エージェント・スミス、そして『死の恐怖』
スケィスですか……」
レオは今、図書館で検索した結果を見て表情を顰めている。
ここで書かれていたプレイヤー達は、現状では優先的に警戒しなければならない。一人はハセヲやシノンを苦しめて、もう一体はカイト達の命を奪った存在だ。
どこにいるのかは不明だが、いずれ相対する時の備えが必要だろう。
《エージェント・スミス/Agent Smith》
登場ゲーム:THE MATRIX
マトリックスを守護するエージェントの一人。
その身体能力はエージェントの中でもトップクラスに高く、また判断力も非常に高度。
まず、エージェント・スミス。
ハセヲとシノンを苦しめてきた彼は人間ではなく、厳密にはサクラやユイと同じAIのようなものだ。しかし聞く限りでは冷酷非道で、他者の殺害を義務として遂行するような凶悪なプログラムだ。
何よりも恐ろしいのは、他のプレイヤーを『自分自身』に『上書き』できるらしい。古今東西あらゆる戦場で重要視されるであろう"数"を増やせることが、彼らの最大の武器だ。
そんな相手に攻められたら、全滅するどころではない。対主催生徒会がエージェント・スミスにされてしまう。そうなっては、元に戻ることは不可能と考えなければならない。
ここがモラトリアム中のエリアだから、安全なんて言い切れない。性格から考えて、ペナルティを躊躇わないプレイヤーであるだろうし、彼らの戦闘力がそれだけで抑えきれるとも思えなかった。
また、もしも彼らにここを攻め込まれたりしたら、何の力も持たないユイやジローは格好の餌食だろう。サチ/ヘレンだって今はHPが少ない。
三人がエージェント・スミスにされてしまっては、一気に自分達が不利になる。そうなっては今度は自分達が『上書き』されてしまう。
ユイだけでも絶対に逃がさなければならない……白野達はシノンからそう忠告されたらしいが、確かにその通りだ。
《スケィス/Skeith》
登場ゲーム:The World(R:1)
モルガナ八相の第一相・『死の恐怖』。
戦闘能力は非常に高く、データドレインで多くのプレイヤーを未帰還者にした。女神AURAの消去を目的としている。
そしてスケィス。
志乃、カイト、アトリの三人を殺害したプレイヤー。それは、白野達と共にいるもう一人のカイト……蒼炎のカイトが知る存在だった。
シノンが語った『白い巨人』……カイトはそれをスケィスと推測していたので、それを頼りに調べてみたら本当にデータが出てきている。
ユイが彼の通訳をしてくれたのが幸いだろう。もしも彼女がいなければ、スケィスの危険を知ることができなかったのだから。
《データドレイン/Date Drain》
登場ゲーム:The World(R:1)
女神AURAから授けられる腕輪を持つPC及びモルガナ八相が使用できるイリーガルな力。
対象のデータを奪い弱体化させる効果がある他、データを改竄させることも可能。反面、過剰に使用した場合はPCに異常が起きてしまう。
《AIDA/Aida》
登場ゲーム:The World(R:2)
『Aritificially Intelligent Data Anomaly』の略称であり『The World』に存在しないバグシステム。
己の意志を持ち、『The World』の各所で暴走を起こした。
AIDAに感染されたPCはシステムを超えた力を手に入れられるが、コントロールが効かなくなって命すらも脅かされてしまう。
スケィス達八相を倒すにはカイトの腕輪に搭載されている【データドレイン】という力が必要らしい。
標的となった相手のデータを吸収して、更には改竄もできる……本来の『The World』には存在しないシステム外の力だ。それをカイトが所持しているのはとても心強く感じる。
しかし一方で、もしもデータドレインが敵に回ったらと考えたら、恐ろしくなってしまう。データを改竄させる程の力がこちらに向けられたら、一溜まりもない。
サーヴァントとして高いステータスを誇るガウェインだって同じだ。彼の輝かしいスペックも、データドレインのようなシステム外の力を前にしては対策のしようがない。
数多の攻撃を弾いた堅牢たる鎧だろうと、システム外の力にとっては紙も同然かもしれなかった。
また、AIDAも同じだ。ヘレンは友好的だが、それは彼女が特例なだけかもしれない。本来は『The World』で猛威を振るった危険な存在であることを、忘れてはいけなかった。
「そしてデータドレイン……これもまた厄介なシステムですね」
「データの改竄か。こいつはどうやら、アタシにかけられている制限どころの話じゃなさそうだな」
「それが生温く思えるレベルかもしれませんよ? ユイさんは言ってました……僕達のレベルを弄れる上に、バッドステータスの負荷だってかかると。
また、過度な使用はゲーム全体のグラフィックすらも破壊しかねないらしいです。一歩間違えたら、ここにいる僕達全員がデリートされてもおかしくありませんよ」
レインは先の戦闘行為によるペナルティが解除されていない。しかし、データドレインの存在を知った今となっては、ステータスの低下は些細なことに思えてしまう。
また、データドレインを所持するのはカイトとスケィスだけではない。現在、ハセヲを捜しているシノンだって、データドレインをインストールできるアイテムを所持しているようだ。
しかも何らかの外的要因によって機能拡張(エクステンド)されていて、効果は大きく増大している。だが、その分だけデメリットも増えていて、それをシノンが背負わなければいけなかった。
スケィスやエージェント・スミスのような危険なプレイヤーを撃退できるだけならまだいい。だが、データドレインの反動でシノンが自滅する危険の方が遥かに高かった。
「ですが、今はデータドレインを恐れるわけにもいきません。確かに危険であることを忘れてはいけませんが、使い方を間違えなければ僕達にとって大きな力にもなります。
それにカイトさんだって誤射などしないでしょうし、いざとなったら白野さんが止めてくれるはずです……彼の判断力はこの僕に勝るでしょうから」
「そりゃまた随分と評価してるな。あの白野って奴はそんなに凄いのか? 見た所、ただの冴えない兄ちゃんにしか思えねえけど」
「ははっ! それもまた否定できませんね!
でも、あの人は咄嗟の判断力や粘り強さは凄まじいですし、何よりもサーヴァントと培ってきた絆は本物です。どんな世界でどんなサーヴァントと契約しても、絶対に聖杯戦争を生き残るでしょう。
もしも先程の戦いで白野さんがいて、レインさんと戦うことになっていたら……どうなっていたでしょうね」
「……おい、アタシをコケにしてるだろ。何だったら、今からにでも白野をぶっ潰してやろうか?」
「おっと、これは失礼。ただ、もしも本当に白野さんと戦うことになるのなら注意した方がいいですよ。
いくらレインさんが凄まじい武装を誇っていようとも、白野さんは必ず攻略法を見つけるはずですから」
「忠告だけはありがたく受け取っておくけど、あんたの不安は外れるぜ? あたしは王だからな」
軽口に聞こえるが、その言葉には威風堂々とした雰囲気も混じっている。やはり王の名は伊達ではないのだろう。
白野が負けるとも思えないが、レインが負ける姿だっていまいち想像できない。平民が王に反旗を翻す様を見るのも面白そうだし、王がその圧倒的なカリスマの元で勝利を収める姿だって見たかった。
どちらを応援するべきか…………そんなことを考えた途端、図書室のドアが開く。ジローが白野達を連れて戻ってきたのだ。
「おーい、戻ったぞ。レオにレイン」
「おかえりなさいませ、ジローさんに皆さん。
白野さん、サクラの様子はどうでしたか?」
そう問いかけると、白野は微笑みながらいつもと変わらない桜だった、と答えてくれる。
それは何よりだった。桜は白野達に会いたがっているので、顔を見せるべきだと進言した。
彼らが桜に会い、特製弁当を受け取っている間にこちらが調査をする。白野達のおかげでキーワードを探すのに苦労をすることはなかった。
「では、今後の方針について話し合いましょうか。
僕達に残された時間は既に12時間を切っていますので、あまりのんびりできません。だからといって焦りすぎるのも禁物ですが」
そう言って、レオはここに集まった生徒会メンバーで会議を始めた。
ちなみに生徒会の役職に関してだが、岸波白野は庶務をやることになっている。会計の方は、本当ならキリトの予定だが不在なので、カイトが代理で引き受けてくれた。確かにAIであるカイトなら合理的な計算も瞬時にできるかもしれない。
サチ/ヘレンは……ジローと共に雑用をやる事になった。彼女の役職に関しては消去法で決まったようなものだ。何よりもヘレンが特に何も言わないので、あっさりと決まっている。
†
――――まず必要なことは、今後の行動方針だった。
ゲーム開始から既に12時間が経ったものの、現状を打破する手筈はまだ何もない。
いくつかの情報は集まったものの、そこからどうやって勝利するのか……それが大きな課題だった。
まず、この月海原学園について。
レオが言うには、この学園にはアリーナが存在するようだ。かつて月の聖杯戦争で勝ち抜く為、サーヴァントと共に鍛錬の場として利用した場所がここにもある。
内部もかつての迷宮とあまり変わっておらず、エネミーが徘徊しているらしい。レオは既に第三層まで辿り着いたようだ。
そして、最下層には何があるのか…………当然ながらまだ判明していない。
レオは第二層を攻略したことで【番匠屋淳ファイル】という謎のアイテムを入手したが、それにはプロテクトがかけられていたらしい。
もっともレオのハッキング能力の前では、子ども騙しに過ぎなかったが。
情報の共有が必要ということで、この学園に辿り着いた自分達も見せてもらうことになった。
肝心の内容は【The World(R:1)】での出来事が記録されていた。
勇者カイトの活躍。それに碑文と八相が関わる事件や二度に渡るネットワーククライシス……更には究極AI『アウラ』の誕生と喪失。時期で言えば、どれもここにいるカイトが誕生する前の話らしい。
そしてここには本物(オリジナル)の勇者カイトの姿も映し出されていて、誰もが驚いた。無論、一番反応が強かったのはカイトだろう。
黄昏色の衣服に三つ叉の双剣。目つきやツギハギの有無などの差異はあるが、やはり瓜二つだった。
この世界でシノンを救った彼の姿を目に焼き付ける。カイトの遺志を継ぐためにも。
この他には、興味が引かれる名前がいくつも存在した。
司。
アルフ。
カール。
ジーク。
カズ。
オルカ。
楚良。
イリーガルな猫PCミア。
ミアを慕う少年エルク。
オルカの盟友であり<フィアナの末裔>と並び称されたカリスマプレイヤー・バルムンク。
伝説のネット史上最強のスーパーハッカー・ヘルパ。
この中には、例のメールに書かれていたプレイヤーも存在する。
ミア……放浪AIであり、第六相『マハ』でもある。つまり、スケィスと同じ八相だった。その特徴から考えて、ありす達と共に一緒にいた獣人と考えて間違いない。
何故、そんなミアがありす達と共にいるのか。またどうして八相であるミアがAIとしての姿をしていたのか……ミアがいなくなった今となっては永遠に知ることはできない。
だけど、ミアを慕うエルクという少年はどうなるのか。それにあのエンデュランスというプレイヤーも、うわ言でミアの名前を口にしていたはず。
…………もしや、エルクとエンデュランスは同一人物なのではないか。根拠はないが、そんな可能性が一瞬だけ芽生えてしまった。
話を戻そう。
この中にはスケィスを始めとする八相達の存在についても書かれている。だが、現状では撃破をする確実な手がかりを掴めなかった。
もっと情報を集めれてからファイルを確認すれば別だろう。だけど、八相に対する対抗手段はデータドレインしかない……今はそう考えるしかなかった。
それにデータドレインだけではない。プロテクトブレイクの状態にまで追い込む攻撃力と、スケィスの攻撃を凌ぐ耐久力と機動力も必要だ。
カイトにデータドレインをさせるとしても、それをスケィスに妨害されたりしたら全てが水の泡になる。故にこちらの戦力も認識しなければならない。
セイバーとキャスターとガウェインは皆、いずれも高いステータスと経験値を誇るサーヴァント達だ。この三人が共に力を合わせられれば、どんな敵にでも打ち勝てる程の頼もしさが感じられる。
カイトも戦力としては申し分ない。レインも、レオが言うには凄まじい戦闘スペックを誇るそうだが、自分達がここに着くまでにトラブルを起こしてしまったらしい。そのせいで、一定時間だけ全てのパラメータが低下させられている。
その時間がわからない以上、任せられるのは後方支援だけになりそうだ。
サチ/ヘレンは……あまり戦力としては期待できない。戦えないことはないだろうが、無理をさせるわけにはいかなかった。
へレン自身のスペックはまだしも、サチ本人の戦闘経験はわからない。そんな彼女にエージェント・スミス達やスケィスのような怪物と戦わせることなどできなかった。
彼女の役割はユイやジローのように、戦えない仲間達の護衛が最適だろう。
「後ろで隠れてるのはあたしの性に合わねえけど、今はしゃーないよな。
まあ、そういうことだからよろしく頼むぜ、サチ……おっと、ヘレンだったか?」
「――――――――」
ヘレンはレインの言葉に頷く。つまり、了承してくれたことだ。
現状のメンバーの戦力は整っているようだが、決して完璧とは言い切れない。
まず第一に、共闘する自分達の連携が取れるのかという不安があった。個々の能力が長けていても、自分達はお互いの戦力を完全に把握している訳ではない。
何の策も立てずに戦闘に突入しては、互いに自滅してしまう危険がある。尤も、考えなしに突撃したりするような者はここにいないはずだから、それは杞憂であるかもしれないが。
「…………実に貴重な情報だったでしょう? こうしてまた見ると、更に『The World』に興味が出てしまいますよ」
思案しながら【番匠屋淳ファイル】を読み終わる。一番最初に口にしたのはレオだった。
「『.hackers』、モルガナ因子、八相、データドレイン、黄昏の腕輪、セグメント、未帰還者…………どれも僕達の世界では全く存在しませんから」
「ええ。それに、情報を調べる為とはいえ……カイトやユイに必要以上の負担をかけるのは宜しくありません。
王だろうと、騎士だろうと、民であろうと……いつの時代だろうと、常に皆が平等に働くからこそ国は栄えます」
「ガウェイン。今は王国ではなく生徒会ですよ?」
「それもそうでしたね。これは失敬」
レオとガウェインの会話は何気ないものに聞こえるが、その表情は真剣そのものだ。
それは他のみんなも同じだ。セイバーとキャスターも今回ばかりは深刻な表情を浮かべている。例え彼女達でも……いや、数多の戦いを乗り越えてきた彼女達だからこそ、スケィスやエージェント・スミスの脅威を実感できるのだろう。
もしかしたら、アリーナの隠されたエリアに潜んでいた謎のプレイヤーに匹敵する程の実力者であるかもしれないから。
「なあ。レオ……ちょっといいか?」
不意にジローがレオに問いかけてくる。
「何でしょうか? ジローさん」
「その……あのスケィスって奴を倒すには、カイトが使えるデータドレインって奴が必要なんだよな?
それを他のみんなが使えるようにすることって……できないの?」
「……それは僕も考えました。カイトさんが持つデータドレインを複製できたら、大きな力になるはずだと。
ですが、データドレインの詳細を僕達は知りません。力の源は何か、そしてどういった原理でデータドレインが他のプレイヤーに影響を与えるのか……それはこの図書室にも書かれていません
何も知らないまま強大すぎる力に触れたとしても、逆に僕達が危険に晒されるだけですよ」
「そっか……確かにそうだよな。悪い、レオ」
「いいえ。ジローさんの気持ちは非常にわかりますから」
ふと、カイトに目を向ける。彼は首を横に振ったから、不可能だと言いたいはずだ。
データドレインの複製……実現できれば確かにこちらが有利になるだろう。だが、レオが言うようにデータドレインの構造を自分達は知らなかった。
ユイに解析などさせる訳にはいかない。それはユイ一人を危険地帯に放り込むに等しいし、またカイトだってどうなるかわからない。
最悪の場合、データドレインが暴走を起こして全員に被害が及ぶかもしれなかった。
それだけではない。個人的には『腕輪』の力を増やされたくないという気持ちだってある。
あれは危険だと本能が警鐘を鳴らしている。どんな感情かと問われたら…………『死の恐怖』と表現するのが相応しい。
武器は一歩間違えたら、己を滅ぼす災いにもなってしまう。故に、データドレインの複製なんて余程の事がない限りはやめて貰いたかった。
今がその『余程の事』と言われたら、否定できないが…………
…………そう考えると、シノンは大丈夫なのだろうか。
彼女は『薄明の書』というデータドレインがインストールできるアイテムを所持している。
ユイが言うには機能拡張(エクステンド)されているようだが、それが逆に不安だった。こう考えるのは悪いが、文字化けをするほどのバージョンアップが施されたアイテムをシノンは使いこなせるのか?
無闇に使ったら暴走を起こす危険だってあるらしい。それを踏まえると、あの時に止めるべきだったはずだ。
もしも、シノンに何かあったら……それは自分の責任でもある。
出来るなら今からにでも彼女を追いかけたいが、もうどうにもならない。シノンとハセヲはどこに向かったのかわからないのだから。
せめて、彼女の無事を祈るしかなかった。ユイやキリトと再び巡り合えるように……と。
「……そういえばユイよ。あのファイルにはセグメントとやらが出ていたな。
そのセグメントだが……確かそちが持っていたはずだが?」
「はい、これですね」
セイバーに促されて、ユイはアイテムフォルダからセグメントを取り出す。
それは淡い光を放っていて、見る者に安らぎを与えそうだった。
「ほう……美しいな。やはり女神に由来するだけのことはある。
考えたのだが、これがユイに渡されている以上……他のセグメントもどこかにあるのではないか?」
「それはありえます。これはセグメント3としてカウントされている以上、残りの1と2だってあるかもしれません。
ただ……集めた時に何が起こるかまでは書かれていませんでしたが」
「ふむ。あのファイルを見て、余は思ったのだ……もしや女神アウラは悪辣な榊達の手にかかり、そのような姿にされてしまったと。
全く。いつの時代も神々の美を敬わずに罰当たりなことをする輩は絶えないのだな……何とも嘆かわしい。あのような不届きな輩がいては、世界の芸術家達があまりにも不憫だ。
と、それはさておき…………」
「…………3つのセグメントを集めれば、女神アウラは蘇る?」
【番匠屋淳ファイル】の内容が正しければ、ユイが持つセグメントは女神アウラの一部ということになる。
スケィスの手にかかり、女神アウラはデリートされた。その際に彼女のデータはセグメントとして分割されて『The World』の各所に凍結されたらしい。
セイバーが言うように女神アウラはGMによって、セグメントにされてしまった可能性がある。だけど、また集めれば女神アウラは復活して、このバトルロワイアルを止められるのではないか?
「……いや、それはどうだろうな。そんな都合よくいかないと思うぜ?」
しかしレインはそれを否定する。
「あたしはカイトがいる『The World』を実際にプレイした訳じゃねえし、女神アウラのことだって知らねえ。けど、アウラを分解したってことは、アウラがいると都合が悪いってことだろ?
だったら、残りのセグメントはあたし達の手に届かない所にあるかもしれない」
「レインさんの言う通りです……また、もしも残りのセグメントがこの世界にあったとしても、榊達が何の対策も施していない訳がありません。
いつ女神アウラが復活してもいいように、何らかのプログラムが発動するでしょう。女神アウラを上回るモンスターが現れるか、あるいはこの世界そのものをデリートするか……」
「何にせよ女神アウラに頼らないで、あたし達だけでどうにかしなきゃいけねえみたいだな」
アウラの力には期待できない……レインとレオの意見も一理あった。
どうやら女神アウラは『The World』の根幹に関わる、絶対的存在かもしれない。榊達は女神アウラがいてはこのバトルロワイアルを妨害されると判断して、何らかの強い力でセグメントにしたのだろう。
そして、そこからまた全てのセグメントが集まらないように、別のセグメントをプレイヤーが関与できない場所に封印しているか……またはセグメントが集まった時の対策をしているか。
いずれにせよ、女神アウラの手助けは期待できないと考えた方がいい。セグメントがあるのなら、カイトの為にも集めなければいけないことは変わらないが。
「それに他に重要なことと言えば……そうだ。確か、D-4エリアの洞窟でしたっけ?
謎のプロテクトエリアとやらがあるのは」
「ええ、その通りですとも。
あそこはどうも死人の匂いがプンプンしたので、絶対に何かありそうなんですよ! ただ、あそこにかけられているプロテクトを破ったら何があるのか…………
昔から墓を荒らす輩は呪われます。ですので、私達に祟りが舞い降りてもおかしくありませんよ?」
「でしょうね。プロテクトがかけられているからには、何か特別なものが存在してもおかしくありませんし。
こちらも調査したいのですが、人員と労力に余裕があるかどうか……」
D-4エリアの調査。レオと再会できたらこちらにも取り掛かろうと思っていたが、事態はそうもいかなかった。
何しろ、危険人物の対策及びにアリーナの探索など、逆に課題が増えてしまっている。
戦力を分散させて、それぞれ別行動を取る……それも一つの手だが、エージェント・スミスやスケィスのような危険なプレイヤーがいるとわかった今では、得策とも思えなかった。
それにもしも、自分達がいない間にシノンやシンジ達が戻ってきたら、向こうも困ってしまう。桜にメッセンジャーを任せるのも気が引けた。
とにかく、現状の課題をまとめよう。
まず、最優先に解決するべきはウイルスの発生だ。ここにいる全員の命が、残り半日を過ぎている。とはいえ、現状では未だに手がかりすら掴めていない。
次点で危険人物の対策だろう。彼らの性質から考えて、既に他プレイヤーをキルしてウイルスの猶予を遅らせているだろうから、短期間で決着をつけなければならない。
その次にアリーナとプロテクトエリアの調査だろう。これはどちらか一つに絞らなければ、戦力が中途半端になってしまう。
戦えるであろうレインのステータスがダウンしている。加えて、ユイやジローのように戦えない者がいる現状では、少しでも人員を確保しておくべきだ。
セグメントの探索もしたいが、これに関しては手がかりが全くない。故に、カイトには悪いが…………後回しにするしかなかった。
その旨をカイトに伝える事にする。
「ダ=ジョ$ブ」
「大丈夫、だそうです」
それはよかった。ユイの通訳を聞いて胸を撫で下ろす。
「さて、それでは思考を纏める為にも、少し休憩をしませんか?
白野さん達はここまで来るまでに長い距離を進んだ上に、大量の情報を頭に叩き込んでいます……ここまでで体力を大分消耗しているかもしれません。
あなたが働き者であることは知っていますが、時には休まないといけませんよ」
働き者……どういう意図でそれを口にしているかはわからないが、レオの提案を断る事はできない。
事実、ここに来るまで自分達はずっと動き続けていた。セイバーとキャスターも、カイトも、サチ/ヘレンも、ユイも……誰一人としてまともに休んでいない。
そういう意味では、アーチャーは今頃どうしているのか気になってしまう。ちゃんと休んでいるのか、それともまだシンジと共に戦っているのか。
だけど今は休まなければいけない。アーチャーには申し訳ないと思うけど、ここにいるみんなをきちんと休ませるべきだ。
3◆◆◆
知識の蛇のとある一室。
そこは全プレイヤーが移されているモニター画面が存在していた。
ここにいる限り、あらゆるプレイヤーの動向はGMによって把握されてしまう。例えどんな小細工を弄そうとも、余程の事がない限りは防げなかった。
それは今、月海原学園で会議という名の茶番を繰り広げていた【対主催生徒会】とやらも例外ではない。
「コシュー……榊よ」
「ああ、ダークマン……どうかしたかね?」
「スケィスゼロの動向はようやく掴めた…………だが、いいのか? コシュー……奴らは、確実に情報を掴みつつあるが」
ダークマンの前には今、榊が立っている。
理由は一つ。ようやくスケィスゼロがモニターに映るようになったと同時に、榊が現れたのだから。
何の偶然かと思いながら、榊に尋ねる。
「…………構わないさ」
「……コシュー。お前は言ったはずだ……どんな不安の芽でも摘まなければならないと」
「いいや。嘘じゃない……むしろ、ゲームとして成立しなくなる恐れがある要因は潰すべきだ。
だが、大半の事はゲームの一環として組み込まれているのだよ。認知外迷宮、エージェント・スミスによるNPCの上書き、また……仮に間桐桜の持つデータが他プレイヤーの手に渡る事態があろうとも。
尤も…………ゲームとして成立した果てには、特大のイベントが始まるだろうが」
そう語る榊の笑みは余りにも禍々しい。普通の人間が見れば、生理的な嫌悪感を抱いてしまいそうなほどだ。
しかしダークマンは闇の殺し屋。榊の態度に動揺することはない。
ただ、疑問を抱いただけだった。
「……先程、トワイスから連絡があったのだよ。あの世界のデータは確実に歪みつつあると」
「ほう」
「データドレイン、心意、ロストウエポン、憑神、AIDA、救世主の力……数多の仮想世界から強大な力を集め、そして激突させているのだ。
そんなのを使って、ツギハギだらけの世界で暴れたら……世界そのものが耐えきれないに決まっているだろう?」
さも当然のように、そして衝撃的な事実を榊は口にした。
『The World』ではシステム外の力によって、世界そのものにバグが浸食された事例を思い出す。それと同じ現象が起こっているのだと、ダークマンは判断する。
そもそもバトルロワイアルの会場自体、別々の仮想世界で使われていたデータを無理に組み合わせただけの代物だ。だから、
デバッグモードで起きたバグが全く別のエリアにまで届き、武内ミーナに触れられてしまった。
現実で例えるならば欠陥住宅と呼ぶに相応しい世界の中で、プレイヤー達は巨大な力を持って殺し合いをしている……そんなことになっては、戦いの衝撃で世界そのものが壊れてもおかしくなかった。
「もしもバグが本格的に広がってしまえば、認知外迷宮から果たして何が出てくるか? あそこに蔓延る怪物だけではない。あらゆる世界のエネミーどもがプレイヤーを襲い掛かるようになっているのだよ!
このままでは数日……あるいは二十四時間も世界が存在するかどうか、実に怪しいものだ! ウイルスだけではなく、自分達の素晴らしい力を振るった結果に死を呼び寄せるなんて、プレイヤーの諸君は実に哀れだ!
有能すぎるが故に身を滅ぼすとは悲しすぎるなぁ! ハッハッハッハッハッハッハッハ!」
画面に映るプレイヤー達を榊は嘲笑っていた。
この男は始めから知っていたのだろう。例えどれだけ高性能なファイアーウォールを用意しようとも、殺し合いに集められたプレイヤー達は必ず突破しかねない。
ならば逆にあえて世界を脆く作り……巨大な力を持って潰し合わせて、反撃の機会を与えなければいい話だ。壊れた世界など、その後に修復すればいい。
「モルガナは己の手でアウラを消す事はできない……だが、プレイヤー達の戦いによって世界が壊れ、全てがバグに潰されてしまえばどうだ? 彼女が直接手を出す事にはならないな。
いかに強大なプレイヤーといえども、その段階に至るようになっては確実に消耗するだろう……果たして誰が生き残るだろうな?」
そう語る榊の視線の先には、一つのモニターが存在する。
映し出されているのは殺し合いの会場でも、アリーナでも、認知外迷宮でも、知識の蛇でもない…………また別の空間だった。
そこには各世界より集められた魔物が存在する。あるいはモンスターか、エネミーか……呼称はいくつもあるだろう。
そんな彼らは牙を研ぎ続けていた。データに生じた歪みを突き破り、プレイヤー達を食らうのを待ちながら…………
【チーム:対主催生徒会】
[役員]
会長 :レオ・B・ハーウェイ
副会長:スカーレット・レイン
書記 :ユイ
会計 :蒼炎のカイト(キリトの予定だったが不在の為に代理)
庶務 :岸波白野
雑用係:ハセヲ(外出中)
雑用係:ジロー、サチ
[チームの目的・行動予定]
基本:バトルロワイアルの打破。
1:(レオの)理想の生徒会の結成。
2:保健室に向かって桜に会い、その後に図書室で情報を集める。
3:エージェント・スミスと白い巨人(スケィス)に警戒する。
【備考】
※岸波白野、蒼炎のカイト、サチの具体的な役職に関する話はまだ出ていません。
※番匠屋淳ファイルの内容を確認して『The World(R:1)』で起こった出来事を把握しました。
※セグメントの詳細を知りましたが、現状では女神アウラが復活する可能性は低いと考えています。
【現状の課題】
1:ウイルスの対策
2:エージェント・スミス及びスケィスを始めとした危険人物の対策
3:アリーナ及びプロテクトエリアの調査(ただし、これはどちらかに集中させる)
4:セグメントの捜索
【B-3/日本エリア・月海原学園/一日目・午後】
【岸波白野@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP95%、データ欠損(微小)、令呪二画、『腕輪の力』に対する本能的な恐怖/男性アバター
[装備]:五四式・黒星(8/8発)@ソードアート・オンライン、男子学生服@Fate/EXTRA
[アイテム]:女子学生服@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:バトルロワイアルを止める。
0:―――大丈夫だ、問題ない。
1:少しの間だけ休み、それから行動する。
2:ウイルスの発動を遅延させる“何か”を解明する。
3:榊の元へ辿り着く経路を捜索する。
4:エルディ・ルーの地下にあるプロテクトエリアを調査したい。ただし、実行は万全の準備をしてから。
5:せめて、サチの命だけは守りたい。
6:サチの暴走、ありす達、エージェント・スミス達や白い巨人(スケイス)に気を付ける。
7:ヒースクリフを警戒。
8:カイトは信用するが、〈データドレイン〉は最大限警戒する。
[サーヴァント]:セイバー(ネロ・クラディウス)、キャスター(玉藻の前)
[ステータス(Sa)]:HP100%、MP100%、健康
[ステータス(Ca)]:HP100%、MP100%、健康
[備考]
※参戦時期はゲームエンディング直後。
※岸波白野の性別は、装備している学生服によって決定されます。
学生服はどちらか一方しか装備できず、また両方外すこともできません(装備制限は免除)。
※岸波白野の最大魔力時でのサーヴァントの戦闘可能時間は、一人だと10分、三人だと3分程度です。
※アーチャーとの契約が一時解除されたことで、岸波白野の構成データが一部欠損しました。
※セイバーとキャスターはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
【ユイ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]:HP100%、MP55/70、『痛み』に対する恐怖、『死』の処理に対する葛藤/ピクシー
[装備]:空気撃ち/三の太刀@Fate/EXTRA、ダークリパルサー@ソードアート・オンライン
[アイテム]:セグメント3@.hack//、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本: パパとママ(キリトとアスナ)の元へ帰る。
0:ハクノさん………。
1:対主催生徒会の会計として、ハクノさん達に協力する。
2:『痛み』は怖いけど、逃げたくない。
3:また“握手”をしてみたい。
4:『死』の処理は……
5:ヒースクリフを警戒。
6:シノンさんとはまた会いたい。
[備考]
※参戦時期は原作十巻以降。
※《ナビゲーション・ピクシー》のアバターになる場合、半径五メートル以内に他の参加者がいる必要があります。
※リーファを殺害したのはラニ=VIIIであるかもしれないことを知りました。
【蒼炎のカイト@.hack//G.U.】
[ステータス]:HP50%、SP80%
[装備]:{虚空ノ双牙、虚空ノ修羅鎧、虚空ノ凶眼}@.hack//G.U.
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:女神AURAの騎士として、セグメントを護り、女神AURAの元へ帰還する。
1:岸波白野に協力し、その指示に従う。
2:ユイ(アウラのセグメント)を護る。
3:サチ(AIDA)が危険となった場合、データドレインする。
[備考]
※蒼炎のカイトは装備変更が出来ません。
【サチ@ソードアート・オンライン】
[ステータス]HP10%、AIDA感染、強い自己嫌悪、自閉
[装備]エウリュアレの宝剣Ω@ソードアート・オンライン
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:死にたくない。
0:――――うそつき。
1:もう何も見たくない。考えたくない。
2:キリトを、殺しちゃった………。
3:私は、もう死んでいた………?
[AIDA]<Helen>
[思考]
基本:サチの感情に従って行動する。
1:ハクノ、キニナル。
[備考]
※第2巻にて、キリトを頼りにするようになり、メッセージ録音クリスタルを作成する前からの参戦です。
※オーヴァンからThe Worldに関する情報を得ました。
※AIDAの種子@.hack//G.U.はサチに感染しました。
※AIDA<Helen>は、サチの感情に強く影響されています。
※サチが自閉したことにより、PCボディをAIDA<Helen>が操作しています。
※白野に興味があるので、白野と一緒にいる仲間達とも協力する方針でいます。
【ジロー@パワプロクンポケット12】
[ステータス]:HP50%、小さな決意/リアルアバター
[装備]:なし
[アイテム]:基本支給品一式、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、不明支給品0~2(本人確認済み)
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:今はみんなと一緒に行動する。
2:ニコやユイちゃんの事も、可能な限り守る。
3:『オレ』の事は、もうあまり気にならない。
[備考]
※主人公@パワプロクンポケット12です。
※「
逃げるげるげる!」直前からの参加です。
※パカーディ恋人ルートです。
※使用アバターを、ゲーム内のものと現実世界のものとの二つに切り替えることができます。
※桜の特製弁当を食べました。
【レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ@Fate/EXTRA】
[ステータス]:HP100%、MP10%、令呪:三画
[装備]:なし
[アイテム]:桜の特製弁当@Fate/EXTRA、トリガーコード(アルファ)(ベータ)@Fate/EXTRA、コードキャスト[_search]、番匠屋淳ファイル(vol.1~Vol.4)@.hackG.U.、基本支給品一式
[ポイント]:1053ポイント/0kill
[思考・状況]
基本行動方針:会長としてバトルロワイアルを潰す。
1:休息の後、行動する。
2:モラトリアムの開始によって集まってくるであろうプレイヤーへの対策をする。
3:他の生徒会役員となり得る人材を探す。
4:状況に余裕ができ次第、ダンジョン攻略を再開する。
5:キリトさんには会計あたりが似合うかもしれない。
6:当面は学園から離れるつもりはない。
7:ユイとサチ(ヘレン)のことも考えなければならない。
8:ハセヲさんのことはシノンさんに任せる。
[サーヴァント]:セイバー(ガウェイン)
[ステータス]:HP110%(+50%)、MP85%、健康、じいや
[装備] 神龍帝の覇紋鎧@.hack//G.U.
[備考]
※参戦時期は決勝戦で敗北し、消滅した後からです。
※レオのサーヴァント持続可能時間は不明です。
※レオの改竄により、【神龍帝の覇紋鎧】をガウェインが装備しています。
※岸波白野に関する記憶があやふやになっています。また、これはガウェインも同様です。
※ガウェインはサチ(ヘレン)の身に起きたことを知りました。
【スカーレット・レイン@アクセル・ワールド】
[ステータス]:HP100%、(Sゲージ60%)、健康/通常アバター
[装備]:非ニ染マル翼@.hack//G.U.
[アイテム]:インビンシブル@アクセル・ワールド、DG-0@.hack//G.U.(4/4、一丁のみ)、赤の紋章@Fate/EXTRA、桜の特製弁当@Fate/EXTRA、基本支給品一式
[ポイント]:0ポイント/0kill
[思考]
基本:情報収集。
1:しゃーないので副会長をやる。
2:ジローにちょっと感心。
3:一人で飛び出したハセヲに軽い苛立ち。
[備考]
※通常アバターの外見はアニメ版のもの(昔話の王子様に似た格好をしたリアルの上月由仁子)。
※S(必殺技)ゲージはデュエルアバター時のみ表示されます。またゲージのチャージも、表示されている状態でのみ有効です。
※参戦時期は少なくとも13巻以降ですが、インビンシブルはスラスター含め全パーツ揃っています。
【???/知識の蛇/午後】
【榊@.hack//G.U.】
[ステータス]:健康
【ダークマン@ロックマンエグゼ3】
[ステータス]:健康
【備考】
※システム外の力が使用され続けると、会場にデータの歪みが発生されます。
※それが大規模になった場合、会場内に大量のエネミーが解き放たれるイベントが開始されます。
※それがいつ、どのタイミングで発生するかは現状では不明です。
最終更新:2016年10月04日 00:09