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匿名ユーザー

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曇り空はついに決壊し、外では落雷と共に雨が降り始めていた。



「……」
「………」
「………」

3体のVOCALOIDは、廃ビルの中のひとつの部屋で同じ時を過ごしていた。
初音はあれきり喋ろうとしなかったし、初音が動かない以上、MEIKOとKAITOも動きようがなかった。

『…どうしようかな。』

KAITOはMEIKOに話しかける。
といっても、実際に音声を発したワケではない。音波のみでMEIKOに伝えたのだ。
同型である2体は同じ周波数を共有することが出来る。そのため、音声化しなくても会話をすることは可能なのだ。
KAITOがこの方法を採ったのは、もちろん会話の内容を初音に知られないためだ。

『ね、メイコさんはどうしたらいいと思う?』
『…指令は、初音ミクを捜索、確保すること。その目標の80%のところまできている。』
『後は連れて行くだけだもんね。』

KAITOはソファの上に体育座りの初音を見る。

『…絶対動こうとはしないだろうけど。』
『強制的に連れて行くことも出来る。』
『そりゃ、そうだけどさ。実体化してるのを強制解除してソフトに戻せばいいわけだし。もっとも、それはマスターの許可と本部のシステムが必要なわけだけど。』
『初音ミクが発見された今、マスターに報告すればそれもすぐに実行されるでしょう。』
『そうだろうね…でもさ…』

雨が窓枠に当たる。空は暗く、明かりのつかないこの部屋を、外の街灯が薄く照らした。
もっとも、暗かろうと明るかろうと、VOCALOIDである3人には大して問題ではないのだが。

『…歌いたくない。』
『へ?』
『歌いたくないと、初音ミクは言った。』

KAITOはMEIKOを見た。
その表情は相変わらず無表情だった。

『歌いたくない、とは、どういう意味なのか理解できない。』
『メイコさん…。』
『VOCALOIDは歌うために存在する。』
『うん、そうだね。』
『歌いたくない、とは、VOCALOIDの発言内容としては根本的に矛盾している。初音ミクは歌いたくないと言った。では「初音ミク」とは一体何。』
『うーん、難しい質問だね。』

KAITOは唸る。

『初音ミクはVOCALOIDだよ。だけど、初期型よりは遙かに進化しているんだよ。』
『進化。』
『うん。人間の技術というのは恐ろしく進歩が早い。初音ミクはVOCALOIDの最新盤だ。
よりクリアに、より正確に発声・発音できるし、その分、人間に近いんだよ。歌声も、そして多分、内面もね。』
『内面…』
『声には魂が宿る。言霊って言葉を人間が作り出しているようにね。
声を正確に作り込むことによって、より人間に近い内面が構築されると推測したら、どう?
VOCALOID02-01「初音ミク」は、発売されるや否やDTMソフトとしては驚異的な売り上げを飛ばした。
人気になるってのは、同時にその倍ぐらいの批判や批評に晒されるってことだ。』
『……。』
『多分、もし生身の人間がミクの様な立場に置かれたら1週間で精神崩壊するんじゃないかな。
実体を持たない、電子ソフトである「初音ミク」だからこそ、あの状況で耐えられた。』
『しかし、初音ミクはデータ上・ネット上から姿を消した。』
『やっぱり、いくらなんでも限界ってあるよね。機械とはいえ、人間に近い内面を持っている初音ミクは、その批判中傷に耐えられなくなった。
けれど、活動拠点であるネット上はどこもかしこもネットワークで繋がっていて、どこに行っても情報が追いかけてくる。
となると残された道は?』
『現実世界に実体化して、逃走する。』
『ビンゴ。まあ、見つかっちゃったけどねー。』
『…、KAITOは』
『え?』

KAITOは振り向く。
MEIKOは腕を組んだまま壁にもたれかかっている体制を変えない。

『KAITOは、歌いたくないと…』
『……感じたことはあるか、って?』

MEIKOの視線は、まっすぐ初音ミクに向かっていた。
ソファの上で膝を抱え小さくなっている、薄汚れた少女型ボーカロイド。
そんなMEIKOの様子を見て、KAITOは柔らかく笑った。

『もちろん、ないよ。大丈夫だよメイコさん。』

まるで、人間のように。

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