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だれが本を殺すのか

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社会学





だれが「本」を殺すのか (上)(下)

佐野 眞一
2006.9.13


通称「本コロ」。迷走する出版業界から事実を拾う


アマゾンで素晴らしい書評に出会ったので、転載します。

桜 (東京都)

ノンフィクション作家・佐野眞一の作品には、ひとつの共通点がある。それは自分自身の無力さを自覚し、身の丈以上の正義や理屈を振りかざさないことだ。佐野はあくまでも自分の興味といま立っている場所から対象を追う。そんな佐野が「出版業界」に切り込んだのが「だれが『本』を殺すのか」だ。


佐野はさまざまな人に話を聞く。出版界の「ドン」である紀伊國屋書店の松原を始め、ネットサービスや新古書店、コンビニチェーンに小さな書店、大出版社に零細・地方出版社、そして図書館に至るまで、執拗に「本」の現場を取材する。


この作品には「読者」が登場しない。それを批判する声も多い。だが、二年もかけて綿密な取材を繰り返した佐野が、「読者」の問題を忘れたり遠慮するなどということがあるはずない。


佐野が明らかにしたかったのは「本を作り販売する側」の現状である。出版不況を語るとき、誰もが取次や再販制度などの旧態依然とした体質を批判する。しかし、そこにあるのは原因を誰かに押しつけ責任逃れを繰り返す姿だ。それは読者も同じで、自分とは違う「読者」を批判することに終始している。


佐野は自分が出版に関わるからこそ、「本を作り販売する側」にこだわる。だからこの本に「読者」は登場しない。安易に答えを求めたり犯人捜しをすることもない。そして、「本を作り販売する側」の現状が浮かび上がることで、読者は自分を振り返る。あとは、あなたたちの問題だと、この本は問いかける。


「だれが『本』を殺すのか」には問題も多い。コミックスの不在は論を弱めるし、仮説と独断の専行も目立つ。なによりも「文芸書」「学術書」を最上と位置づける姿勢に反感を持つ読者も多いだろう。しかし、そんな欠点を補ってあまりあるほど力強い。取材もせず、既存の情報をもてあそんで批判する「にわか評論家」があふれる昨今だからこそ、現場の取材に基づいたこの作品は輝きを増す。

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