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My Escape-Feel of Dream Logic
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わたしには経験のないことなんだけれども……〈正夢〉って見たことはありますか?
そこは、いつかどこかで見た現実感がありつつも、実際には訪れてなどいない非現実。
非現実が現実にすげ代わり、意味が反転する鏡。
そこにトリックなど存在せず、理論的な解析もなされていない超理論、神秘。
人はそれを〈予知夢〉とも表現したりするが、それは間違っていると思う。その夢を見た時点では、未来を透かし覗いたことを知っている訳ではないから。
遭遇した瞬間のフラッシュバック――それが正夢。
非現実が現実にすげ代わり、意味が反転する鏡。
そこにトリックなど存在せず、理論的な解析もなされていない超理論、神秘。
人はそれを〈予知夢〉とも表現したりするが、それは間違っていると思う。その夢を見た時点では、未来を透かし覗いたことを知っている訳ではないから。
遭遇した瞬間のフラッシュバック――それが正夢。
彼女――篠田千歳(しのだ ちとせ)は、一七年の齢を重ねたが、未だに正夢に遭遇したことはない。
彼女にとっての夢は人とは違う。彼女にとっての夢は、一種の娯楽、至極悦楽。幻想空想が跋扈する、明らかに現世とは異なる捻じ曲がった妄想の空間。
明晰夢――つまり、望んだ夢を見る訓練を積んだ訳ではない。いつしか、不定期に遭遇するようになった不定着のワールド。それが彼女のもう一つの世界。
彼女にとっては、表裏一体のコイン――どちらも現実。どちらも必要なものであり、欠かせない世界。自己のアイデンティティを刻む場所。
彼女にとっての夢は人とは違う。彼女にとっての夢は、一種の娯楽、至極悦楽。幻想空想が跋扈する、明らかに現世とは異なる捻じ曲がった妄想の空間。
明晰夢――つまり、望んだ夢を見る訓練を積んだ訳ではない。いつしか、不定期に遭遇するようになった不定着のワールド。それが彼女のもう一つの世界。
彼女にとっては、表裏一体のコイン――どちらも現実。どちらも必要なものであり、欠かせない世界。自己のアイデンティティを刻む場所。
さて、しかしである。〈夢〉に対して特別な観念を抱いている彼女にとって未踏の開拓地であるのが、〈正夢〉という境地だった。
どうしてこれまで見なかったのだろう……それは現在進行形である。つまり、仮に帰宅中の電車に揺られて眠りに落ちている彼女は今、〈正夢〉を見ていないのだ。
ならば、なぜ思考が出来ているのか――単純な話。ここはもう一つの現実。今落ちている世界がコインの裏側の世界であるから。
彼女の見る〈夢〉は少々特殊で、常人で言う『意識上の現実と夢の境界線』が存在しない。本来、現実と夢には明確な扉が設けられていて、それらは明確に区切られている。それらは若干の双方向性を持つものの、完全な疎通を行うことは叶わない。
それが彼女の持論である。彼女とて、しょっちゅう〈コインの裏側〉に飛び立っている訳ではなく、世間一般的な呼称の〈夢〉も経験している。だからこそ、こうした持論が成立する。
どうしてこれまで見なかったのだろう……それは現在進行形である。つまり、仮に帰宅中の電車に揺られて眠りに落ちている彼女は今、〈正夢〉を見ていないのだ。
ならば、なぜ思考が出来ているのか――単純な話。ここはもう一つの現実。今落ちている世界がコインの裏側の世界であるから。
彼女の見る〈夢〉は少々特殊で、常人で言う『意識上の現実と夢の境界線』が存在しない。本来、現実と夢には明確な扉が設けられていて、それらは明確に区切られている。それらは若干の双方向性を持つものの、完全な疎通を行うことは叶わない。
それが彼女の持論である。彼女とて、しょっちゅう〈コインの裏側〉に飛び立っている訳ではなく、世間一般的な呼称の〈夢〉も経験している。だからこそ、こうした持論が成立する。
彼女の見ている〈もう一つの現実〉とはつまり、ほぼ完璧な双方向性を持っているのだ。つまり、表側と裏側、どちらの記憶も出し入れ自在で持ち運ぶことが出来る。即ち、よくありがちな夢見の中での希薄な現実感、自己の存在の欠如などはなく、また覚醒した際の記憶の欠損も生じない。
彼女は――〈コインの裏側〉を自在に呼び出せる訳ではないが――自由に表と裏を行き来することが出来るのだ。パイプを通じて異次元に迷い込むかのごとく。
彼女は――〈コインの裏側〉を自在に呼び出せる訳ではないが――自由に表と裏を行き来することが出来るのだ。パイプを通じて異次元に迷い込むかのごとく。
その意味で、〈正夢〉とは彼女の〈コインの裏側〉とはまったく異質の異次元である。いや、特異という意味では彼女の双方向の世界すらも上回る。
彼女の世界はあくまで『表と裏側を行き来する』だけで、〈夢〉という概念の常、表が裏に干渉することは珍しくないが、その逆はあり得ないのである。
本来であれば成立する余地のない公算を、色んな概念すっ飛ばして超越する事象――それが〈正夢〉。
彼女の世界はあくまで『表と裏側を行き来する』だけで、〈夢〉という概念の常、表が裏に干渉することは珍しくないが、その逆はあり得ないのである。
本来であれば成立する余地のない公算を、色んな概念すっ飛ばして超越する事象――それが〈正夢〉。
好奇の対象。けれども、わたしはそれに遭遇したことはない。
見たいと思っているものほど見ることが出来ないか、無意味に通り過ぎてしまっているのかもしれない……ほら、夢の大半はごっそりと忘れてしまうものだから。
一度だけ正夢を見たことがあるという、数少ないわたしの友人――違う学校の女子生徒である――の証言によると、
「なんかねぇ、それまで全っ然気にも留めてなかったのに、〈正夢〉のシーンに差し掛かると体が凍っちゃうんだよ……そういえば以前、夢でこんなシチュエーションを見た気がするって」
ということらしい。興味深い。特に「凍りついた」って辺りが興味深い。
こういうことだろうか……概念的な認知を獲得していたとしても、実際に目の当たりにしたのとでは驚愕のスケールが違うのだと。
いつかレポートしてみたいな……そこで思考を打ち切ったのは、タイムリミットであるからだ。
見たいと思っているものほど見ることが出来ないか、無意味に通り過ぎてしまっているのかもしれない……ほら、夢の大半はごっそりと忘れてしまうものだから。
一度だけ正夢を見たことがあるという、数少ないわたしの友人――違う学校の女子生徒である――の証言によると、
「なんかねぇ、それまで全っ然気にも留めてなかったのに、〈正夢〉のシーンに差し掛かると体が凍っちゃうんだよ……そういえば以前、夢でこんなシチュエーションを見た気がするって」
ということらしい。興味深い。特に「凍りついた」って辺りが興味深い。
こういうことだろうか……概念的な認知を獲得していたとしても、実際に目の当たりにしたのとでは驚愕のスケールが違うのだと。
いつかレポートしてみたいな……そこで思考を打ち切ったのは、タイムリミットであるからだ。
目が覚める。わたしの意識が〈表側〉に還った証。
さて、〈裏側〉で纏め上げた論拠に矛盾はないだろうか……熱烈に興味を惹かれる事柄を突き詰めていくことは楽しい。誰からも理解されなくても、それは自己満足には昇華出来る。
さて、電車を降りよう……裏側の現実とはしばし別れを告げ、表側の日常をこなさなければ。
家に帰って、ご飯食べて、お風呂に入って、お気に入りの番組を横目に復習などしつつ時間を潰し、就寝。朝を迎えれば、また登校準備に追われる。
まあいっか、まだ解を出すには早……否、若過ぎるんだ。時期尚早とか、それ以前の問題で。
しばらく保留の問題を脳内の公文書ファイルに綴じ込み、わたしは幾分と経たずに迫り来るであろう駅のプラットホームを窓越しに待ち侘びた。
さて、〈裏側〉で纏め上げた論拠に矛盾はないだろうか……熱烈に興味を惹かれる事柄を突き詰めていくことは楽しい。誰からも理解されなくても、それは自己満足には昇華出来る。
さて、電車を降りよう……裏側の現実とはしばし別れを告げ、表側の日常をこなさなければ。
家に帰って、ご飯食べて、お風呂に入って、お気に入りの番組を横目に復習などしつつ時間を潰し、就寝。朝を迎えれば、また登校準備に追われる。
まあいっか、まだ解を出すには早……否、若過ぎるんだ。時期尚早とか、それ以前の問題で。
しばらく保留の問題を脳内の公文書ファイルに綴じ込み、わたしは幾分と経たずに迫り来るであろう駅のプラットホームを窓越しに待ち侘びた。