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主よ人の望みの喜びよ -Jesus bleibet meine Freude-(エピローグ)

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 僕をプロの道に誘ってくれるように導いてくれたのは、僕の両親もそうであったが、先輩の両親からも後押しがあった。亡き娘の言葉を相当気にしていた様子で、できれば先輩の見抜いた才能と、先輩の意向を放り出したくはなかったのだろう。恐らく、通夜の場での僕の意志表明も関係あるのだと思う。
 多分、先輩のことを知っていて、なおかつ僕と関係している人達は、みんな僕のことを「思慮深いいい奴だ」とでも思っているのかもしれない。
 冗談じゃない。僕が思慮深い? 優しい? いい奴? 本当、勘弁して欲しい。僕ほど自分勝手な奴など、そうそう周囲にいやしない。
 僕はプロとして活動するために、なにもかも切って捨てた。私生活も、友達も、バンドの仲間も、高校生活の終わりと同時に、なんの宣告も理由も言わないまま、行方をくらますように住み慣れた土地を去った。
 一人暮らしとバイトをしながら、僕は音楽学校に通い、できる限りの時間を音楽に捧げた。誰のためでもない、もしかしたら俺のためですらないかもしれない。
 それは全て、独りよがりですらない、僕だけが欲求を満たされる自己満足の上に成り立つ。
 僕は、響子先輩が立っていたかもしれないステージの上に立ちたい。それだけが欲しい。他にはいらない、夢はない。
 しかし、できるならば………ステージ上から見渡す観客席を見せてあげたい。僕の視界を響子先輩に提供して。それぐらいしかできないだろう? 僕が響子先輩にできることなど、今となっては少な過ぎる。
 僕の自己満足なんて、その程度の志でしかない。けれど、これが一生の内の、決して少なくない一部を削ってまで果たしたかった想い。
 音楽学校で知り合ったメンバーでバンドを組み、練習とライブに明け暮れた。僕の役どころはギターヴォーカリスト――最高峰かどうかは、僕にも分からないけれど。
 屋外の会場。夏フェスのステージ。アーティストの入り乱れるイベント。
 とうとう、こんな広い会場に上ることが出来た。音楽学校を卒業して二年。普通に考えれば長い期間を要したのかもしれないが、僕の中に過ぎた時間は、至極短く、見える風景が判別できないほど後方に流れて行くだけの毎日だった。
 まあ、でも、費やしただけの甲斐はあったというものだろう。
 このライブ会場は特殊で、いくつかのステージで同時進行のライブを行う。ちなみに、僕達のバンドはインディーズのステージなので、規模としてはかなり小さい。でも、これまでのライブ会場に比べたら大きい。
 様々なアーティストがライブを行うので、ファンも多種多様だ。僕達が立つ会場に群がる聴衆の中には、本命のコンサートが始まるまでの暇つぶし程度に考えている人達も少なくはない。
 ここはそういう場所。そんな考え、覆させてやれば事足りる。
 僕はエレキギターを構えた。僕が普段使用しているヤマハではなく、響子先輩の形見であるアイバニーズを。
 いつもと違う音がする。いつもと違うオーディエンス。いつもと比較にならない会場………
 全てを、あの人のために捧げます――それは祈祷。僕をここまで引っ張って来たことへの感謝と、ここにあなたがいてくれることを願って。
 僕は、ギターに張られた7弦全てをぶち切るつもりで、ピックを斜めに突き立てた。

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