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中国という場所をご存じだろうか。

 ご存じでないって言うんならそれはまずい。
 今すぐ地図帳を捲り発見することをお勧めする。

 何故こんな話をするかといえば理由は一つしか見あたらない。

 俺が空自の航空機に便乗して向かっている先が例の中国だからだ。
 機内は非常に味気ない。最近では某組織に国費が大幅に回されており、空自の装備に回す金はないと見える。

 何だ? シンボルだかオフィシャルだか知らないが訳の分からん
政府組織が日本中でゲームの中から飛び出してきたような魔中狩りに明け暮れているじゃないか。
 俺がガキの頃は自衛隊の海外派遣ですら議論を醸し出したような平和な世界だったんだぜ?
信じられないよな。時代の変遷なんてものは。

 さて、俺が何故中国へ密航するかというとだな。

 語れば長くなるから余計な部分は割愛しよう。
 俺は中国政府に対して売り込みを行うつもりなのだ。

 中国が喉から手が出る程欲している、あの技術を。

 俺の名前は中田国夫。どんなつもりで両親がこの名を付けたか分からないが、こんな運命をたどることに
なったのもこの名前のせいじゃないかと疑って病まない二十五歳だ。こう見えても大卒だ。

 俺は大学卒業暫く、例の組織に勤めていた。
 その組織を俺が依願退職した、いや辞表を叩き付けたやった理由はただ一つ。

 腐っていたからだ。末端は知らないが、俺が見た世界は泥濘にまみれた、地獄だった。

 機内への潜入が簡単なんだから脱出なんて造作もないことだ。
 俺は手早く荷物を整え、長らくお世話になった空自輸送機を後にした。

「っさてと、中国にはまだエネミーとかは出現してないらしいな?」

 俺はわざとらしく呟いた後、大袈裟に自嘲した。

 エネミーが出現してないだって? 馬鹿じゃないのか?

「そんな国家がこの世界に存在するわけねえだろ。あるとしたらそうだな」

 ――あの世、ぐらいじゃないのか?

 無駄足を喰っている暇はない。俺にはこの技術を売り込むという大変重要な任務があるからだ。
 任務というより、金を稼ぐのが目的だけどな。

 俺はふと逡巡する。この作戦を思いついた頃からまとわりついてきた疑問、心残り。

「中国政府は戦争でも始めるつもりなんでしょうかねぇ」

 今日本政府はエネミー対策で手一杯だ。
 突然、霧のように現れては消える神出鬼没の生命体。
 日本経済は揺らぎ、外交などに目が向かないほど今日本はえらい騒ぎなのだ。

 外事警察をしていた俺の友人も、ついこの間国家公安委員会の管轄に回されたらしい。
 死ぬのは時間の問題だ。馬鹿馬鹿しくて嘆きたくなる。
 どちらかが先に死んだら、必ず駆けつけようと約束した程の親友だ。

 俺は絶対にモルモットにはなりたくない。
 死んでも、悪魔に魂を打っても、敵に、――寝返ったとしても。

 俺は最後の一人になっても戦い続ける。

 自分の考えがとりとめもなく拡大しそうになったんで、俺は深呼吸をした。

「洛陽、西安――、成都、上海。絶対にエネミーはそこに、――」

 俺もひょっとするとモルモットなのかもしれない。
 最近の病理実験に使われる、自分が何の為に活動しているかも分からないモルモット。
 ひょっとすると――俺は日本に帰れないかもしれないな。

 敵国に技術を打った売国奴として、日本中から非難される姿を思い浮かべ、俺はタクシーを止めた。


 中国政府が日本に宣戦布告したその日の深夜、
 上海で一人の成人男性の死体が発見された。

 身元は、未だに判明していない。



2026-07-04 18:32:06 (Sat)

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最終更新:2006年09月24日 01:00