――音が聞こえる。様々な音が、分厚い金属の壁を通してコクピットに響く。
人々は音色を奏でる。戦場という舞台で。「兵器」という楽器を、一心不乱にかき鳴らす。
人々は自らを奏でる。命の限り演奏する。そして傷つき、壊れ…やがて音色を失う――
人々は音色を奏でる。戦場という舞台で。「兵器」という楽器を、一心不乱にかき鳴らす。
人々は自らを奏でる。命の限り演奏する。そして傷つき、壊れ…やがて音色を失う――
小さな頃から音が好きだった。大切な人達と過ごす「当たり前の生活」。
そこで聞こえた音は安らぎに満ちて、ひどく心地よかった。
でも、やがてそれは止んだ。「彼ら」の手によって。「彼ら」は私の「音」を、
自らの自由の為に消してしまった。
そこで聞こえた音は安らぎに満ちて、ひどく心地よかった。
でも、やがてそれは止んだ。「彼ら」の手によって。「彼ら」は私の「音」を、
自らの自由の為に消してしまった。
後日知った。「彼ら」の名はレイヴンだということ。
この町に潜伏していたテロリストを排除する為だったということ。
町は守られたのだということ。
でも、みんなはもう音を出さなくなってしまった。何も聞こえなくなってしまった。
この町に潜伏していたテロリストを排除する為だったということ。
町は守られたのだということ。
でも、みんなはもう音を出さなくなってしまった。何も聞こえなくなってしまった。
――そして彼は生きる為に、音を作り出す存在になる。破壊と、創造の音を――
さびれたガレージで一人の男が端末に向かっている。
片手にコーヒーカップを、片手でキーボードを叩く。
手慣れた手つきで、朝方の静かな空間に乾いた音を響かせる。
片手にコーヒーカップを、片手でキーボードを叩く。
手慣れた手つきで、朝方の静かな空間に乾いた音を響かせる。
ほどなくして、ガレージの奥から一人の女性が、まだ覚醒しきっていない顔のまま歩いてきた。
ハニーブロンドの長髪をなびかせながら。年は20代半ばといったところだろうか。
ハニーブロンドの長髪をなびかせながら。年は20代半ばといったところだろうか。
「あなた、もうこんな時間からお仕事?熱心なことねぇ…夕べあれだけ動いてたのに」
朝方の空気に負けない、澄んだ声。男は手を休め、だるそうにする彼女に方に椅子を向ける。
朝方の空気に負けない、澄んだ声。男は手を休め、だるそうにする彼女に方に椅子を向ける。
「セラシア、機体の修理と弾薬の補給はどうなっている?」
男の肩には、「レイヴン」を表すエンブレムが静かに日の光で輝いている。
彼女は表情を変えずに答える。
男の肩には、「レイヴン」を表すエンブレムが静かに日の光で輝いている。
彼女は表情を変えずに答える。
「問題ないわ。昼前には業者から届くはずよ……あなたこそ昨日の「仕事」のレポート、依頼主に送ったの?」
男はまた端末に椅子の向きを変える。
男はまた端末に椅子の向きを変える。
「ああ…さっき送信したところだ…しかし最近やけにテロの動きが目立つ。今月に入って7件目だ。
まだ15日だというのに。」
彼の声からはどこか憤りを感じる。
まだ15日だというのに。」
彼の声からはどこか憤りを感じる。
「…そうね。例の「特攻兵器」で「企業」の力が随分と弱ってきてるからじゃないかしら?
テロなんてうまくいくはずないのに、おバカさん達ね…」
実際、テロの芽はレイヴン達によって摘まれてゆく。
テロなんてうまくいくはずないのに、おバカさん達ね…」
実際、テロの芽はレイヴン達によって摘まれてゆく。
そう遠くない過去に、新興企業「ナービス」の所有する採掘施設からおびただしい数の特攻兵器が出現した。
生物ともいえるような「それ」は、各地で無差別に破壊活動を行っている。
そして、程なくナービスは倒れた。そして各企業にも、かつての力は無い。
生物ともいえるような「それ」は、各地で無差別に破壊活動を行っている。
そして、程なくナービスは倒れた。そして各企業にも、かつての力は無い。
「どうにも解せんな…やはりキサラギが一枚噛んでいそうだ」
端末に向かって男は表情を曇らせる。モニターにはキサラギの発表した記事。
端末に向かって男は表情を曇らせる。モニターにはキサラギの発表した記事。
「あーあ…なんか心配ねぇ…」
彼女は欠伸をしながら、着替えに戻っていく。
彼女は欠伸をしながら、着替えに戻っていく。
「確かにコイツ等は何をするかわからんな」
生物兵器なんてものを実験しているという。探求心とは恐ろしいものだ。
しかし彼女は立ち止まり、真剣な顔でこうつぶやく。
生物兵器なんてものを実験しているという。探求心とは恐ろしいものだ。
しかし彼女は立ち止まり、真剣な顔でこうつぶやく。
「いいえ……世界がよ」