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 ────〝無敵〟の能力とは?


 馬鹿げた質問だと思うだろう。
 しかし今一度、その答えを真剣に考えてみてほしい。

 誰にも負けない圧倒的な武力?
 如何なる攻撃も寄せ付けない防御力?
 はたまた思考力を奪う脅威的な精神干渉?

 どれも間違いなく強力。
 けれど、あくまでそれ止まり。
 ならば真なる〝無敵〟とはなにか。

 答え合わせは、すぐそこに。
 実体となって、顕現する。


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 粉雪の降り積もる山岳。
 なだらかな山道を踏み締める靴が、ぎゅうぎゅうと音を鳴らす。
 かつて『風』の勇者候補として名を馳せた長身の男は、つい先刻の記憶を反芻させていた。

「ふっ、ざけやがって……! 人の命をなんだと思ってんだ!?」

 男──弥塚槍吉は超がつくお人好しだった。

 目の前で人が困っていれば迷いなく助け、見返りなど求めない。
 自分が生き抜くのに必死なこの世界において、それがどんなに異様な存在であるか。
 民間の出でありながら、英雄に匹敵する肩書きを持つことがなによりの証明となろう。

 かのソピアが言うには、世界再生の為には殺し合うしかないらしい。
 確かに理屈はわかる。少数の犠牲によって世界が救われるのであれば、それが正しいのかもしれない。
 あの救世主(ルクシエル)が見せた〝奇跡〟も、それが嘘偽りではないということを知らしめた。

 ならばそれに従うべきなのか。
 槍吉の答えは────断じて否。

「こんなの、世界再生なんかじゃねぇ……!」

 槍吉が手に握るのは、数々の名が連ねられた参加者名簿。
 ご丁寧なことに日本人向きの五十音順で示されたそれは、槍吉に憤慨を覚えさせるには十分であった。

 『晴』の勇者、ミヤビ・センドウ。
 『雨』の勇者、ルーシー・グラディウス。
 『凪』の勇者候補、シティ・草薙。

 共に戦場を駆け抜け、民を救った掛け替えのない友の名前。
 自分一人が犠牲になるのであれば話はまだわかる。
 けれど、彼らまで犠牲にするのは話が違う。
 空を取り戻すべく尽力した彼らに、この場で死ねと断ずるのであれば、槍吉はこんな儀式認めない。
 誰よりも世界の為に戦った彼らをこれ以上苦しめるのであれば、ソピアやルクシエルは救世主などではない。


 そして、なによりも────


「────十二崩壊……!」

 名簿の下に記載されている名前。
 金獅子、魔王、姫、恐獣。
 文字通り世界崩壊を進めた十二体の特級災禍。
 人類史においても類を見ない脅威と定められた禍者。
 それの生き残り全てが小さな孤島に集められ、世界再生の儀に参加させられているというふざけた事実。


「こいつらが生き残ったら……世界なんて救われねぇに決まってる!」

 槍吉が懸念するのは、なによりもその一点。
 ルクシエルの意思は掴めないが、世界再生を可能とするほどの力を持った彼女を伴侶にするということは即ち、願いを叶えるも同然のこと。
 全球凍結により衰退した世界に、終焉の加速をもたらした十二崩壊の願いとは。
 十中八九、自分たちが命をかけて守ろうとした〝空〟を穢す我欲であろう。

 最初から世界再生が目的なら、こんな奴らを儀式に呼ぶことなど有り得ない。
 本当に世界を救いたいのであれば、すぐにでもこの首の烙印によって奴らを潰すべきなのだ。
 それをしないということは、やはりソピア達は間違っている。

 だからこそ、槍吉は足早に歩を進める。
 十二崩壊やソピア達への憤りを原動力に変えて、無理やり儀式に巻き込まれた者たちを救うために。

「…………ん?」

 そうして進んで十数分。
 槍吉の耳が拾い上げたのは、微かな男の声であった。

「──……ーい、」

 やはり、誰かを呼んでいる。
 槍吉は声の方向へと駆け出した。

「────おーい!」

 段々と声の輪郭が掴めてきた。
 壮年の男の声だ、少なくとも敵意は感じられない。
 枯れ枝を踏み潰し、雪に足跡を残しながら、槍吉は一本の大木の元へと辿り着いた。

「この辺から声が……」
「おーーーーい!! ここや、ここ!! 助けてくれやぁ!!」

 辺りを見渡す槍吉の頭上から、絞り出すような声がかかる。
 慌てて見上げた槍吉は、思わず目を丸くした。

「あ、あんた……なにしてんだ?」
「そりゃこっちが聞きたいわ! 俺、なんでこんな目に遭ってんねん!!」

 地上から五メートル辺り、降雪に負けず天へと伸びた太く頑丈な枝先。
 恵まれた体躯を持つ帽子の男が、それにがっしりとしがみついて震えていた。


「…………あー、もしかしてあんた……降りれないのか?」
「そ、そや! 俺、高いところ駄目やねん! だから兄ちゃん、はよたすけてーや!」

 まさか、と苦笑する槍吉。
 想定していた危機とかなり乖離した状況は、なんとも緊張感に欠けるというか。
 ともあれ命に関わる事ではなくてよかったと心中で胸を撫で下ろし、勢いよく腕を広げる。

「飛び降りろ! 俺が受け止めてやるから、はやく!」
「は、はぁ!? 兄ちゃん正気かいな!? 俺に死ねっちゅうんか! この薄情者!!」
「違うって! いいから早く飛び込め! もし失敗しても、俺の神禍で痛み〝だけ〟は消してやるからさ」
「おい、縁起でもないこと言うなや!」

 時間だけが浪費されていく。
 痺れを切らした勇者候補の喝が響かなければ、この無駄な時間はさらに続いたことだろう。


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 あれやこれやと言い合い、やがて意を決した男が飛び降りる。
 勇者候補の二つ名は伊達ではなく、自分以上の巨体を問題なく受け止めた。
 安堵と恐怖が綯い交ぜになったような引き攣った笑みを浮かべながら、男が片手を上げる。

「いやぁ~~助かったわ兄ちゃん! 見たところ日本人やろ、奇遇やなぁ」
「あ、たしかに言われてみれば。めちゃくちゃ関西弁だしな、あんた」

 二メートル近い眼帯の巨漢が木から降りられなくなっているというシュール極まりない光景に気を取られていたが、確かに言動からして生粋の日本人にしか見えない。
 ただでさえ状況が状況。些細な共通点であろうとも互いの心を軽くするには十分だった。

「俺は城崎仁っちゅうもんや。兄ちゃんは?」
「弥塚槍吉だ。ほら、名簿のここにある」
「ほー、……勇者候補『風』? なんやこれ?」
「ま、肩書きみたいなもんだよ。ほら、同じようなの書かれてるのが他にもいるだろ」

 言いながら、槍吉は名簿の下部を指す。
 雨の勇者、晴の勇者、勇者候補『凪』──城崎は訝しげに首を傾げつつも、一応は納得した様子を見せた。

「なんでこいつらと崩壊? のやつらは肩書きつきなんや?」
「そんなの俺が知りたいよ……ま、とにかくこの勇者ってついてる奴らは俺の仲間で信頼できる」
「んじゃこの崩壊っちゅうんは?」
「こいつらは要注意だ。あんたは何があっても近づかない方がいい」

 目元に真剣味を帯びさせた槍吉に、城崎はなんとも言えぬ顔で頷く。
 今どき日本人で『空の勇者』と『十二崩壊』を知らぬ者などそういないと思っていたが、情報収集手段のインフラがまともに機能していない以上不思議ではない。
 ならば尚更、城崎のようなただ巻き込まれただけの人物を危険に晒すわけにはいかない。


「城崎さん、一応聞くけど……乗る気はないんだよな?」
「はぁ? そんなん聞かんでもわかるやろ。第一こんな老いぼれが勝ち残れるわけあるかい」
「だよな、安心した」

 もしも、万が一にも乗っていたら。
 こんな質問を投げておいてなんだが、それでも武力で抑えるようなことはしなかっただろう。
 自分が勇者を断った理由である〝甘さ〟に辟易しながら、決意を固める。

「よし、決まり!」

 この瞬間、槍吉の方針は定まった。
 なにが、という城崎の疑問を遮るように親指を立てて突きつける。

「俺があんたを守る! 弥塚槍吉に出会えた幸運に感謝しろよ!」
「お、おう……えらい自信満々やんけ。ま、そういう事ならお言葉に甘えさせてもらうわ。よろしゅうな、槍吉くん!」

 城崎が幸運である、というのもあながち間違いではないだろう。
 この儀式、全員が全員反対の意志を持つなど現実的ではない。
 その中で弥塚槍吉という根っからの善人に出会えたことは、紛れもない順風と言える。
 そして槍吉にとっても、彼との出会いは道を定めるという点で不可欠であった。

「そういや城崎さん、武器は持ってんのか?」

 と、槍吉はふと疑問を抱く。
 先程のごたごたで聞きそびれていたが、城崎は無手の状態だった。

「あー、それなんやけど……笑わんでくれるか? や、むしろわろて欲しいわ」
「なんだよ、その前フリ」
「焦らんでも今に分かるわ」

 そうして勿体ぶる城崎が取り出したのは、一本の木の枝。
 先端が尖っていて危ないという点以外、なんの変哲もない。
 槍吉は最初、城崎の意図を理解できず数秒の沈黙の後、まさか──と口を開いた。

「それ、武器!?」
「せやねん! あの女、舐め腐っとると思わんか!? これでどう勝ち残れっちゅうねん!」

 確かにこれは笑うしかない。
 ソピアは何を思って木の枝を支給したのだろうか。
 もしも城崎の反応を期待していたのなら、確かに気持ちはわからなくはない。
 洗練されたツッコミを見せる眼帯男は流石の関西人というべきか、一瞬この殺し合いという状況が盛大なドッキリなのではないかとさえ思ってしまった。

「飛ばされたと思ったら木の上で、おまけに武器もこんなんで……城崎さん、本当に不運だったな……」
「あのな槍吉くん、こういう時は同情するんやなくて笑ってあげるのが本当の優しさってもんやで」

 とはいえ、非常に残念ながら笑いごとではない。
 これまでの言動から、城崎が身を守る術を持っていないであろうということは明確。
 並の相手に遅れを取る気はないが、自分と同等以上の相手が襲いかかってきた場合、彼を守り切れるかはわからない。
 少し悩んでから、槍吉はデイパックを漁り始めた。

「ほらよ、城崎さん」
「ん? ……はっ? これ、ええんか?」

 そして、手渡したのは自身のランダム武器。
 城崎の手にずっしりとした質量を伝えるそれは、夜闇にも目立つ光沢を帯びた拳銃だった。

「いいよ。俺には〝これ〟があるからさ」

 と、槍吉は慣れた手付きで背負っていた槍を回す。
 波を描くような穂先の動きは曲芸のようでありながら、空を割く音が響き渡る。
 鮮やかな一回転の後、地に向けられた槍身と柄を繋ぐ口金を軽く蹴りあげ、肩に担いだ。
 その一連の所作だけで、彼が鍛錬に注いできた並々ならぬ時間を読み取れる。

 ひゅう、と口笛を鳴らす城崎。
 自前の槍と拳銃。自分との扱いの差に不服を噛み殺したような面持ちが、槍吉を見据える。

「かっこええやないか、槍吉くん」
「へへ、どーも」

 かくして二人の男の出会いは、広げた帆を押し進む。
 不運と幸運の織り成す『風』は、果たしてどこへ向かうのか。

 風来坊宜しく、天運に任せてみようか。



【B-5 雪山/一日目・深夜】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
[状態]:健康
[装備]:名槍『虎落笛』
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:この殺し合いを止める。
1:城崎と共に行動する。
2:ミヤビ・センドウ、ルーシー・グラディウス、シティ・草薙を探す。
[備考]
※ランダム武器(ベレッタ92FS)を城崎仁に譲渡しました。

【城崎仁】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ92FS(装弾数15/15)
[道具]:支給品一式、尖った枝
[思考・行動]
基本:生き残る、儀式には乗らない。
1:槍吉についていく。
2:槍吉の仲間を探す。
[備考]





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 ああ、きっと。
 槍吉から見た世界は、こうなのだろう。

 結論から言おう。
 二人の出会いは、決して〝幸運〟などという不確かなものではない。
 全てが計算され、仕組まれ、予定通りの出来レースである。

 そして、それを仕組んだ人物とは。
 他ならぬ城崎仁その人である。



 ────槍吉から見た城崎仁とは?

 不運にも木の上に転移され、不運にも外れの武器を渡された可哀想な老人。
 いや、仮に槍吉でなくとも彼の言動を見ればそう思うのがごく自然のことである。

 けれどそれが、嘘なのだとしたら。
 不運など、最初からなかったのだとしたら。

 これは、根拠のない〝たられば〟ではない。
 城崎仁が転移した先は、木の上などじゃなかった。

 不可解に思うだろう。
 ならば城崎は、わざわざ巨木のあるところまで移動して登ったことになる。
 殺し合いという誰もが状況を呑み込むのに時間を費やす初手で、この男は木を登るという選択を取ったのだ。

 ────なんのために?

 決まっている。
 その方が都合が良くなると、〝直感〟が訴えかけたからだ。

 それこそが、城崎仁の神禍(のろい)。
 他者を殺す為に賜った、超常の力。
 莫大な火力を持つ異能でも、圧倒的な膂力でもなく。
 ただ場の流れを読む〝だけ〟の、つまらない能力である。

 城崎仁は、全て計算尽くだった。
 支給品の確認の後、〝本当の〟ランダム武器を懐へ忍ばせる。
 そして木の上へ登り、大声で助けを求める。
 まるで槍吉というお人好しが傍を通ることを確信したかのような、一切迷いのない行動。
 城崎はこれを、儀式開始から僅か数分の間に行ってみせた。

 もしも通ったのが槍吉ではなく、危険人物だとしたら。
 ああたしかに、そんなことが起きていれば城崎は命を落としていたかもしれない。

 しかし断言出来る。
 そんな〝もしも〟は存在しない。
 城崎は賭けに出たのではなく、確定された未来に沿って進んだだけなのだから。


 そうして得たのは、槍吉という勇者候補からの信頼と拳銃。
 この殺し合いを生き残るに当たって、最適解とも取れる都合のいい展開。
 初手で命を落とす者もいる中で、幸運と呼ぶ他ないが──再三言う通り、1%とて運は絡んでいない。

 槍吉から見た城崎は、無知な人物であった。
 空の勇者も、十二崩壊も知らぬ場所で生き延びてきた稀有な男。
 しかし奇しくも、城崎が槍吉へ内心下した評価も全く同じだった。

 もっとも、それは槍吉に限った話ではない。
 自分の正体を知らぬ者は総じて、城崎から見て〝無知〟である。


 ──日本最大の極道組織『久藤会』。
 その五代目会長に躍り出た実力者、城崎仁。
 逸早く全球凍結に備え、大した苦労もなく適応してみせるほどの先見の明を持った男。
 彼の順風満帆な人生は、決して運任せの道のりではなかった。

 武力、権力、頭脳、話術、直感。
 自身の持つ全ての力を適切に使い、都合のいい方向へ舵を取り続けて今がある。
 競合相手である秋山組を蹴落とした時もそうだった。人道を外れた真似を恐れる者は、極道組織において成り上がるなど夢物語。
 そしてそれは、この粒揃いの儀式においても同様に。



 ────〝無敵〟の能力とは?

 回答は決まっただろうか。
 ならば答え合わせといこう。

 単純明快、言葉通り。
 〝敵を作らない〟能力である。





【B-5 雪山/一日目・深夜】
【勇者候補『風』 / 弥塚槍吉】
[状態]:健康
[装備]:名槍『虎落笛』
[道具]:支給品一式
[思考・行動]
基本:この殺し合いを止める。
1:城崎と共に行動する。
2:ミヤビ・センドウ、ルーシー・グラディウス、シティ・草薙を探す。
[備考]
※ランダム武器(ベレッタ92FS)を城崎仁に譲渡しました。

【城崎仁】
[状態]:健康
[装備]:ベレッタ92FS(装弾数15/15)
[道具]:支給品一式、尖った枝
[思考・行動]
基本:勝ち残る。
1:ひとまずは槍吉を利用する。
2:利用価値のあるものは傍に置く。
[備考]
※本当のランダム武器(???)を服の中に隠しています。


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最終更新:2025年06月26日 18:17