世界一の国土面積を誇る広大な北国を舞台にした聖杯戦争が始まってから、既に二日が経過していた。
「ぬん!」
俺のサーヴァント――日輪の剣士(セイバー)の力がこもった声が、森林に響き渡る。
それと同時に、彼が握る転輪の剣が火を噴いた。
銀色の聖剣より現われ出でた炎は、周囲の気温を一気に上昇させながら、キャスターの陣地である小屋へと向かっていく。
「『貴方が出会ったのは、常識が死に絶えた小屋でした(スーパー・マジック・ハウス)』!!」
小屋の中からキャスターの声――キンキンと甲高い、少女のような声だ――が響く。
すると、小屋の周囲を悪趣味に飾っていた幾つもの頭蓋骨の眼窩から青白い炎が噴出し、セイバーの炎と衝突した。
成る程。どうやらあの小屋は単なる工房ではなく、キャスターの宝具だったようだ。
赤と青――異なる色の二つの炎はぶつかった後に互いに相殺される。
地面に分厚く積もっていた雪は完全に蒸発し、その下の地面は黒く焦げていた。
湖の妖精によって齎された聖剣の炎が、炎の迎撃装置に打ち消されるとは信じ難いが、残念ながら此処はキャスターの陣地の入り口――彼女の力が100%、あるいはそれ以上で発揮される場所だ。
俺はセイバーへと目を向ける。
様子見の軽い一撃とは言え、攻撃を無効化されたにも関わらず、彼の表情から余裕の微笑みは失せていなかった。
『やはり此処は出し惜しみするべきではありませんでしたね』と反省事を呟いて、再度剣を構え直すセイバー。
日輪の聖剣から先ほど以上に強大な魔力を感じられる――宝具を撃つつもりなのだろう。
「キャスター――お前が特定の場所で無類の強さを誇ると言うならば、俺のセイバーは特定の時間に無敵の強さを誇るサーヴァントなんだぜ」
天空にその姿を確かに現している太陽の存在を感じながら、俺は自慢の意味を込めて言った。
聖者の数字――セイバーのスキルの一つにして、彼を最優たらしめる所以である。
太陽が出ている間は騎士王にすら匹敵する強さを持つとまで言われた、この状態のセイバーのステータスはいずれも規格外のそれなのだ。
太陽の下での彼の攻撃は、軽いジャブ程度であっても、宝具の一撃に迫るほどの威力を持つのである。
「さっきの攻撃を防いだお前の宝具は凄い。賞賛に値するよ。だがな――次の一撃もそういけるか?」
俺の台詞に呼応するかのように、セイバーの剣が放つ力のオーラが更に強まった。
と、その時――。
「ボクの宝具の防衛機構を発動しないと防げないレベルの炎を発する剣に、時間限定で最強になる体質……ふーむふむふむぅ?」
小屋の中からキャスターの呟き声が漏れてきた。
「つまり、キミのサーヴァント・セイバーの真名(しょうたい)って……あっ、ふーん。なるほどね」
どうやら彼女は、これまでの攻防と俺の発言から、セイバーの真名を推理したらしい。
その言葉に一瞬だけ「しまった」と思った俺だが、次の瞬間には「だからどうした」と強気な言葉を口にしていた。
円卓一高潔な騎士である彼を従える俺が、弱気になるわけにはいかない。
「お前がセイバーの正体を知った所で、セイバーが最強である事は変わらないんだぜ」
「そうかい」
キャスターが俺の発言にあっさりとそう返すと、彼女の小屋のドアがギイィ……という軋み声をあげて開かれ始めた。
「まあ、確かにぃ? 円卓最強の騎士とまで呼ばれる彼がベストコンディションで宝具をぶっぱなしたら、流石にこの家も耐えられないだろうねぇ――ボクじゃあ、セイバークンに勝つ事は出来ない」
だけどね、と。
キャスターがそう言うと同時に、小屋のドアが完全に開かれた。
キャスターが陣地内から出てきたのかと思ったが、そうではなく、ドアの向こうに立っていたのは、一人の騎士だった。
黒い――何もかもが黒い騎士である。
まるで、宇宙の闇から採掘した鉱石を材料にして作り上げた鎧を着ているかのようだ。
キャスターの使い魔や召喚物の類だろうか?
「その黒騎士くんなら、キミのセイバーを秒殺出来るぜ?」
「!?」
俺は驚いた。
『使い魔でセイバーを秒殺する』という冗談にしか聞こえないキャスターの発言が理由であるのは勿論だが、更にもう一つ、あり得ない事が起きたからでもある。
黒騎士の登場が合図であったかのように、周囲が突然真っ暗になったのだ。
「さてさて問題です! 日が出ている時間限定で無敵の強さを誇るセイバーを弱めるにはどうすれば良いでしょうか!?」
「ふっふーん、答えは簡単だね!」
「そう! 空の様子を夜のそれにしてしまえば良いんだよ!」
「まっ、それでもセイバーは素のステータスが高いから、黒騎士に勝てる――とでも、思ったかい?」
「あまり甘く見るなよ?」
「キミたちの目の前にいる黒騎士は、『夜を操る存在』ではなく『夜そのもの』だ」
「断言するが、その太陽の白騎士では、夜の黒騎士には絶対に敵わないぜ」
マシンガンの掃射のように休み無しで行われるキャスターのトーク。
夜闇が支配する視界の中で、一瞬にして距離を詰めて来た黒騎士――それが持つ剣(例に違わずこれも漆黒であった)とセイバーの剣が衝突する。
その光景を目にしながら、俺はふと昔読んだ本を思い出していた。
たしか、あの物語には、魔女と黒い騎士が登場していた気が――。
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最終更新:2017年06月05日 11:16