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Killing Crusaders

◆◆◆◆





激しい喜びはいらない、その代わり深い絶望も無い。
植物のような平穏、そんな人生こそ目標だった。





◆◆◆◆



今日の昼食はアスパラと人参の肉巻。
付け合わせはネギのスクランブルエッグ。
さっと作った料理にしては随分と手が込んでいる。
帰宅してから暫くした後、食卓に出されたソレを見つめて思う。
以前までのママなら、こんな料理は絶対に出さなかった。
精々が適当に作ったカップラーメンか、あるいは冷凍食品か。
夜ならまだしも、昼間にはそれくらいに素っ気ない料理を平然と出してくる。
ママは、川尻しのぶはそういう人間だった。

いつも無愛想で、パパにも僕にも無関心で、退屈そうにふんぞり返っている。
僕の記憶に焼き付いているママは、いつだって監視カメラ越しに見る姿か、あるいは後ろ姿。
それと、パパを不満げな眼差しでよく見つめていた。
その二人の関係を見て『愛が芽生えている』とは到底思えなかった。
だから僕は偏執に囚われて、両親の姿を『観察』するようになった。
自分が本当に愛されて生まれた子供なのか。
自分は本当に望まれてこの世に生まれ落ちた人間なのか。
それを確かめたくて、ずっと両親を見つめていた。
その真実は、今となってはもう解らない。

だけど、今の僕に解ることは一つある。
川尻しのぶは、『あいつ』が現れてから変わったということだ。


(『あいつ』の味だ……『あいつ』がたまに作っていた……)


スクランブルエッグをフォークで口に運んだ。
もぐもぐとゆっくり咀嚼して、顔を俯かせながら思う。
今思えば、パパがおかしかったのは『これ』を作った日からだった。
端から見ていても余り要領がいいとは思えなかったパパが突然この料理を作って、ママを驚かせていた。
それ以来、パパは時折自分から料理を作るようになった。
ママがパパから料理を教わる姿を何度も見ていた。
パパがいなくなってからも、ママは『あいつ』に教わった味をこうして作る。


(おいしい……)


そう思ってしまうのが、何だか悔しくなる。
実際、ママは『本物のパパ』には思い入れなんか無いのかもしれない。
ママの心に残り続けているパパは、きっと『あいつ』だ。
あんなに冷めた顔をしていたママを変えたのは、最低で最悪の殺人鬼だった。
あいつはパパを殺し、ママと僕を取り巻く日常に不穏を齎した。
仗助さんがいなければ、今頃僕はあの殺人鬼に怯えながら暮らしていただろう。
あいつがいなくなって、平穏は取り戻せたのだ。
だけど、大切なものはもう二度と返ってこない。
あの殺人鬼の残した爪痕は、杜王街に大きな痛みを残した。
僕は実の父親を失った。決して仲はよく無かったけど、それでも血の繋がった家族だった。
この感情は間違いなく『悲しみ』だった。
パパを奪われて、僕は悲しんでいた。
だけど、ママが思っていることは違う。
ママもパパを奪われたけど、それ以上にママはあいつに『与えられてしまった』。

「早人、どう?」
「うん……おいしいよ。ママの作る料理だもの」
「それならよかった!これ、パパから教えてもらった料理なのよ。
 あの人ったら、急に料理上手になっちゃったんだから……」

向かいの椅子に座るママの目付きは寂しげで、だけど表情はうっとりとしていて。
顔を仄かに赤らめながら、思いを馳せている様子だった。
まだろくに恋をしたことのない僕にだって解る。
ママのあの表情は、恋をしている人の顔だ。
そんな表情を何度も見てきた。その度に僕の胸には複雑な思いが去来してきた。
ママが一番愛している男は、川尻造作じゃあない。
あの忌まわしい殺人鬼――――――吉良吉影だ。

あの殺人鬼が現れなければ、きっと僕達は冷えきった関係のままだっただろう。
あいつがパパと入れ替わらなければ、ママの心は閉ざされたままだっただろう。
決して許せない最低の悪がいなかったら、僕達の家庭は歪なままだっただろう。

結局、僕達にとっての幸せとは何だったんだろうか。
本物のパパよりも、吉良吉影がいることの方がママにとってよかったのだろうか。
あいつがずっと家にいることこそが、僕達にとっての『幸福』だったのか?
そんな筈が無いと、僕だけならそう断言できただろう。
だけど、ママはあいつをずっと待ち続けている。

あのクソッタレな殺人鬼と知らず知らずのうちに出会って、ママは恋をしていた。
パパの前では一度も見せたことがなかった表情を、あいつの前では何度も見せていた。
それを見つめる度に、僕は悲しくなった。

例えこの聖杯戦争を乗り越えて、平穏を取り戻せたとしても。
それでも、きっとママはずっとあんな顔をして『あいつ』を待ち続けるんだろう。
それが無性につらかった。いっそ、ママに全てを明かしたかった。
あいつはパパなんかじゃない。あれはパパになりすました殺人鬼だったんだ、と。
そうしてあいつを憎んでくれるなら、いっそそれでもいいとさえ思うことがあった。
だけど、出来なかった。ママに全てを打ち明けることなんて出来ないし、そもそも信じてもらえる訳が無い。
傷から少しずつ癒えようといているママを、再び傷付けるわけにはいかない。
結局、川尻早人は静かに黙することしか出来ない。


「そうだ、ねえ早人」


唐突にママから声を掛けられて、僕は少しばかり驚く。
物思いに耽りすぎて周囲が見えなくなっていた。
肉巻を口に運びつつ、僕はママの方へと顔を向ける。

「クリスマスの前に臨時のバイトやろうと思ってるんだけど」

そういって、ママは冷蔵庫に貼付けていた求人票へと視線を向けた。
臨時のバイトをやろうとしているらしい話は知っていた。
既にセイバーから伝えられていたからだ。


「早人はどういうのがいいと思う?」


ママは僕の方へと顔を向けて、そう問い掛けてきた。
ママからすれば、ちょっと気が向いたから振ってみただけの何気ない質問なのだろう。
だけど、僕からすればママの今後を左右するかもしれない重要な選択だ。
だからこそ僕は息を飲み、ママが職業安定所から持ち込んできた求人へと目を向けた。

この街で起こっている聖杯戦争は、確実に『平穏』を蝕んでいる。
あの討伐主従二組の凶行によって、いつどこが惨劇の舞台になってもおかしくはない。
杜王町を恐怖に陥れたあの殺人鬼のように、奴らはこの町に潜み続けている。
本音を言えばママには『バイトなんかいい、危ないからずっと家に籠っていてくれ』とさえ告げたいくらいだ。
だが、そんなことは出来ない。それはママに不信感を抱かせる。
これから稼ぎたいという時のママの意思を僕が強く否定すれば、きっと不自然だと思われる。
聖杯戦争という催しがただの競い合いではない、もしかして何か裏があるのでは、そんな疑いを持たせる可能性がある。
だから僕がするべきことは、誘導なのだ。
セイバーとも協力し、可能な限りママを危険から遠ざける。

『ママを危険から遠ざける』『ママに聖杯戦争の実態を悟られないようにする』。
それを両方やらなければならないのは、まさしく困難と言ってもいい。
だが、やるしかない。そうしなければママは守れないのだから。
聖杯戦争の今後のこともあるが、今はまずそれらが最優先だ。


「そうだね……」


僕は求人票を眺めながら思考する。
何気なく取り繕った表情の裏で、険しい感情を募らせて。

アイドルライブ絡みの臨時スタッフ―――――これは、最も避けるべきだろう。
道化師のバーサーカーは文字通り神出鬼没だ。
自分の都合で殺人を繰り返し、そのことに何の躊躇も持たない。
吐き気を催す邪悪。あの吉良吉影と同じ、街にいてはならない悪だ。
しかし吉良とは決定的に異なるということも、先日のセンタービル爆破事件が物語っている。
道化師達は『自分達が目立つこと』に抵抗を持っていない!
でなければ、あれ程までに大規模でアシが付くような事件を起こす筈が無い。
徹底して身を潜めていた吉良とは違う。だが、その計算高さは恐らく吉良に勝るとも劣らない。
あれだけの事件を引き起こしていながら、未だ警察や他の主従はその明確な足取りを掴めていないのだから。

アイドルのライブは、どうやら冬木市では毎年恒例のイベントらしい。
442プロダクションという事務所が主催するライブステージだ。
何人ものファンが駆け付けて毎年盛り上がっている、というのがクラスメイトから聞いた話である。
センタービルを爆破するようなあの主従が『目立てる場所』とは、一体何処なのか。
翌日に控えるライブを舞台に選ぶ可能性は極めて高いと思った。
あの場には数百、あるいは数千もの人々――(こういったイベントには疎いので正確な数は解らないが)――が訪れる。
彼らが『騒ぎ』を起こすにはもってこいの舞台だろう。
まともな思考を持っているのらばそんな『馬鹿げたこと』はしない。
だが、あいつらは間違いなく『馬鹿げている』のだ。
吉良吉影が最低の殺人鬼だとすれば、あの道化師達は最悪の殺人鬼。
それくらいのことを行っても不思議ではない。

そしてもう一組の討伐主従、獣のバーサーカー。
セイバーから予め『テレビ局で襲撃事件が起こった』という話を聞いていた僕は、ママの昼食の準備中に自室のテレビを確認した。
ニュースによれば、犯人はアイドルが出演する生放送の番組に『乱入』したのだという。
そのアイドル達は無事だったらしいが、多くのスタッフが犠牲となったとのこと。
生還した彼女達の証言によれば、犯人は『白髪で黒い服を着た男』だったらしい。
あの討伐令の手紙と共に送られた写真―――――獣のバーサーカーのマスターと特徴が一致する。
偶然アイドル達の現場に乗り込んだだけなのか。あるいは何らかの思惑を持ってアイドルを狙ったのか。
理由は解らないが、とにかく『今の状況』で『アイドルのライブ会場』へと母を向かわせるのはあまりにも危険だ。

奇妙なのは、これほどの事件が起こったというのにライブの中止は宣言されていないということだ。
アイドルが病院に緊急搬送されただとか、アイドルが出演する番組の生収録現場に殺人鬼が襲撃を仕掛けてきたとか。
それほどの事態が発生しているというのに、『事務所側は何も声明を出していない』のだという。
ライブは通常通り開催、と暗に告げているらしいのだ。
明らかにおかしい。ビジネスが掛かっているということを考慮しても異常と言う他無い。
普通に考えれば出演者の安全を確保するのが最優先だと言うのに、事務所は何一つ行動を起こしていないのだ。
それは平和ボケと言うレベルではなく――――――『何か』が『おかしい』。
非難の声が上がっても不思議ではないというのに、彼らは強行している。
裏で何かが起こっている可能性は有り得るが、今は判断材料が少ない。
とにかく、中止になる絶対的な保障が無い以上はママをライブ会場に近づけるのはあまりに危険だ。


「ライブ会場のスタッフとかって、かなり体力使うと思うよ。
 なにせ人気のライブだし、観客の数もスゴいって聞くしね」
「うーん、それもそうかしらね……」
「それに終わった後の片付けも肉体労働みたいなものらしいし、ママにはちょっとツラいんじゃあないかな」


新都は避けるべきだ。
センタービルの爆破、テレビ局の襲撃など危険な一件が多すぎる。
そして明日に控えているのが一大イベントのライブ。
獣にとっては『格好の餌』、道化師にとっては『格好の舞台』。
そんな気がしてならない。賑やかな場所では犯行をしない、なんていう常識はアイツらには通用しない。
だからこそ、賑やかな新都での仕事にママを駆り出すわけにはいかない。

「ケーキの売り子の手伝いくらいなら楽なんじゃあないかな?」
「売り子……ヴェルデの近くのケーキ屋さんかしら」
「それもいいと思うけど、僕はこっちの……」
「こっち?」

そうして僕が指差したのは、質素な求人だ。
ママも適当に取ってきただけだったのか、他の紙に埋もれているように存在していた。

「ほら、深山町の例のスポーツクラブの近くにあるでしょ。
 マウント深山……そう、商店街にくっついてるあの小さなケーキ屋さん。あそこも一応求人出てるでしょ?」
「うーん……ちょっと地味じゃあないかしら?」
「ヴェルデの近くだと人多過ぎて大変だろうし、一日だけのバイトならあれくらいで十分だと思うよ。
 『楽してちょっと稼ぐ』くらいがいいんじゃあないかな?それに、例のスポーツクラブにも近いからついでに『下見』も出来そうだしね」

適当に『それらしい言葉』を紡ぎ、僕はママを説得する。
地味なケーキ屋だが、それなりに人は来るらしい。
あまり目立つ立地でもない為、注目を浴びる危険性も低い。
適度に楽に売り子をしつつ、適度に稼ぎが出来る環境だ。
更にママが今後長期的に働く上で考えているらしいスポーツクラブ併設の売店の求人にも話を絡められる。
だからこそ僕はこのアルバイトを勧めた。

求人を見る限り、長期のパートについてママは『スターク・インダストリー』の従業員という道も考えていたらしい。
だが、僕はこの話題は可能な限り避けた。
今朝、社長であるトニー・スターク――世界的に有名な人物らしいが、何故か冬木に来てから初めて知った――が唐突にアイドルのライブへの出資を名乗り出たことが引っ掛かったからだ。
明日に控えるライブへの何の脈絡も無いスポンサー入り。そして直後に発生した討伐主従による番組収録現場襲撃事件。
偶然にしてはあまりにも『奇妙』だと思った。
何故この土壇場でいきなり名乗り出たのか?どうしてこのタイミングで突然?
開催は『明日』だというのに、急すぎると言わざるを得ない。疑念を抱くには十分な出来事だった。
彼が討伐主従となんらかの繋がりを持っている――――――とまでは言わずとも。
トニー・スタークがマスターであり、何らかの理由で討伐主従の行動を察知し、先手を打ったという可能性は否定出来ない。
もしもこの推測が本当なら、スターク・インダストリーは聖杯戦争に少なからず関わっていることになる。
それはつまり、この町で起こる危険な出来事に近付いているという恐れがあるということだ。
例え非正規だとしても、そんな場所にママを近付かせたくは無かった。

「確かに……あのクラブに近いのはいいかも」
「でしょ?だから僕はあそこがいいと思うんだ」
「悪くないわね」

本音を言えば、そもそも『この状況で外に出る』こと自体が危険極まりない。
討伐主従は神出鬼没。どこで犯行に走ってもおかしくはない。
まさしく天災という他無い連中なのだ。
『地味な場所は比較的安全だろう』というのは、実際の所そうとも言い切れない。
人食い殺人事件は各地で極めて散発的に起こっているのだから。
だが、だからと言って人混みに埋もれれば安全とも言い難い。
奴らはサーヴァントを従えている。そして、人の目なんて気にせずに殺戮を行うことが出来る。
そして万が一奴らが現れた際、人混みの中でママを見失わずに守り続けられる保障も無い。
そもそもセイバーを衆目に晒すことになる危険性も否定は出来ない。
だからこそ、ヴェルデの近くなど『目立つ場所』にママを向かわせるのは避けたい。
目立たない地味な場所にママを誘導する方が比較的安全なのだ。
地味な場所ならば、人がごった返さない分セイバーも監視がしやすいだろう。
人目を憚る聖杯戦争において、ある程度は人の目を避けつつママを守護出来る。
そういう意味で、比較的安全なのである。
確実な保障とは言えないが、今はこうするしかない。
怪しまれないようにする為にも『マシな方』へと後押しし、その上で翌日を何とか凌ぐしかないのだ。

幸い、ママは僕の話に『納得』をしているようだった。
そのことに少しばかりほっとした。
もしも『もっと賑やかな場所で働きたい』とでも言い出したら、説得の苦労が増していただろう。
最悪の場合セイバーの呪術による暗示を試すという最終手段も考えていたが、その必要は無くなったようだ。
尤も、ママは仕事に情熱を見出すようなタイプにも見えないので職場にそこまで拘りが無いのも予想は出来ていたが。

「にしてもさ」
「なに?」
「あんた、ほんとに心配してくれてたのね」

唐突にそんなことを言われて、僕はきょとんとしてしまう。
ほんとに心配してくれてた――――ああ、そういえばセイバーはそう話を付けていたんだったな。

「おうすちゃんに勧められたのだけれど……」
「おうすお姉ちゃんが?」
「ええ、あの子に『仕事の件は早人くんに相談してみたらどうですか』って言われたのよ。
 初めはあんまり乗り気じゃあなかったんだけれど……」

僕は『知らないふり』をしてママの話を聞く。
聖杯戦争の参加者としての観点で視れば、これはママの安全を守る為の策略のようなものだ。
しかしママからすれば、何気ない日常の相談なのだ。
聖杯戦争の緊迫感は勿論、自分の命が掛かっているという実感さえ無い。
だからこそ、ママは『いつも通り』に過ごすことが出来ている。


「こうして話してみたら、やっぱりあんたってちゃんと背ぇ伸びてたんだなって」


ママのふっとした笑みに、奇妙な感覚を覚えた。
むず痒いような、照れ臭いような。
同時に、どこか後ろめたいような。
そんな複雑な思いを抱えて、ばつが悪そうに頬を掻いた。
かつてのママだったら、こんなことは口にしなかっただろう。
運動会で頑張ったとしても、テストの成績が良かったとしても、ママはちっとも僕を褒めたりはしなかった。
いつだって不機嫌そうでつまらなそうな表情を浮かべて、僕を適当にあしらっていた。
だけど、今のママは僕をこうして褒めてくれる。
息子である僕をこうして見つめられるだけの『変化』を遂げている。
それが嬉しいようで、何よりもつらくて。


「……来年のクリスマスは、おうすちゃんに『あの人』も交えて四人で……なんてね」


そうして、ぼそりとママはそう呟いた。
僕はそれを少しだけ見つめた後、目を逸らした。
愛情を確かめる為に両親を見つめる必要は、もうなくなった。
代わりに、これからは『あいつに恋をした』ママの表情を見つめながら生きていく。
そんな思いを抱え、微かに顔を俯かせた時。



「――――――えっ?」



懐で蠢く『何か』の感触に気付いた。
呆気に取られるように、僕はぽかんと口を開き。
そして、表情を驚愕の色へと染めた。
ママが不思議そうに僕を見つめているが、それに構っていられるほど図太くはなれなかった。
何かが居る。僕の衣服の中で、『何かが』蠢いているッ!
驚きの最中、ズボンのポケットから『そいつ』は顔を出した。
『乾いたネズミ』が唖然とする僕をじっと見つめていたのだ。




◆◆◆◆




大切なものを奪われそう
日常に紛れ込んだ悪魔
平穏ならとっくに崩れ去ってる―――――




◆◆◆◆




最早語るまでもないが、キャスターのサーヴァントとは魔術師のクラスに当て嵌められた英霊だ。
その多くは自らが有利となれる陣地を構築し、万全の状態で敵を待ち構える。
自ら攻撃に打って出ることが出来る者は数少ない。
魔術師とはあくまで防戦の戦士なのだ。
攻勢に長け、正面切っての戦闘を得意とする三騎士とは決定的に異なる。
こちらから攻めることは不得手であり、陣地による補正を受けて漸く敵サーヴァントと互角に渡り合える。
これでは『最弱のクラス』と呼ばれるのも無理は無いだろう。
されど、だからこそ小細工に長けるクラスでもあるのだ。

陣地の拠点たる岩窟墓の奥底。
岩窟の内部、王が眠る墓にも似た祭壇の奥で一騎のサーヴァントが座禅を組むように座っていた。
キャスターのサーヴァント、アヌビス。その傍に立っているのは、マスターである恵飛須沢 胡桃だ。

既にアヌビスは街の各地に鼠の使い魔を放っている。
彼らは陣地より動かぬアヌビスの目や耳となり、息を潜めながら冬木の状況を探っている。
本来ならば更に小鳥の使い魔も放っていたのだが、大翼を持つ鴉の使い魔によって制空権を奪われている。
上空からの情報収集の手段が奪われたことは痛手だが、完全に監視網が崩れたという訳ではない。
鼠の使い魔、そして陣地に引き寄せし『魂(バー)』によってまだ情報は掻き集められる。

更には、この『陣地』もまた時間の経過と共に成長を続けている。
拠点たる岩窟簿を起点に、『墓場』の規模を森全体へと少しずつ拡大させているのだ。
陣地を嗅ぎ付けられ、戦闘に陥った時の為にも万全の状態を期す必要がある。
それ故に陣地の拡張もまた必要な準備なのだ。


「なあ、キャスター」
「どうした」
「その、あんた自身が打って出ることはできないのかよ」
「可能ではある。実戦において通用するか否かを度外視をすれば、だがな。
 我は冥府の神であり、墓地の守護者である。戦を司る者に非ず。故に侵略は得手ではない。
 陣地を構築し、使い魔を使役しつつ鎮座する……サーヴァントとしては典型的な『魔術師』に過ぎぬ」


その答えを聞いた胡桃が苦い表情を見せた。
既に彼女自身薄々そのことに気付いていたが、やはりアヌビスは自ら打って出ることは出来ない。
彼は『そういうサーヴァントではない』のだから。

胡桃は日没までは陣地に居ることになった。
道化師の主従に関する情報において少しでも伝達を円滑に進めること、そして道化師を追う過程で可能な限り胡桃の安全を守る為だ。
無慈悲だが、結局の所胡桃一人で出来ることは少ない。
情報収集においてはアヌビス一人で事足りる。
とある事情から普通の人間よりは余程戦闘力に長けているが、サーヴァントには到底太刀打ち出来ない。
手札であるアヌビスは防戦を得意とするサーヴァントであり、常に護衛として付き添うことには向いていない。
そういった理由から、胡桃にも道化師の調査をさせるよりもアヌビスが一手に引き受けるべきだと判断したのだ。

胡桃は複雑な表情を浮かべつつも、この陣地に居座り続けている。
本心では余り長居はしたくない、ということはアヌビスにも見て取れる。
しかし、それでも彼女は『道化師を追うこと』に関わりたいと考えたのか、アヌビスと暫くは共に居ることを選んだ。

ならばその意志に応えねばなるまいとアヌビスは考える。
マスターは自らの信念に反する悪を憎み、義憤に駆られている。
その意気や良し。敵は己自身にとっても憎むべき存在。
こうして共通の敵を前に肩を並べ、主人と共に目的を同じくするのは悪くない。

道化師のバーサーカーを止めることは最優先すべき事項だと二人は考えている。
彼らは『噂』を実体化する奇怪な術を備えている。
『伝承』がサーヴァントとして召還される例はあると耳にするが、『噂そのものを実体化する英雄』というものはアヌビスにも覚えが無い。
それ故に、その真名は未だに特定出来ずにいる。
伝承を大衆に伝える『語り手』に属する存在か、と推測はしているが確証は持てていない。
当然のように胡桃もバーサーカーの正体に関する宛は無かった。彼女はそもそも『英雄譚』に疎い、というものあるが。

真名とは英霊の正体だ。正体を知ることはその英雄の能力、弱点を掴むことに繋がる。
アヌビスとて同じである。戦術の主体となるミイラはまだしも、『ミイラ作りを司る冥界の神』としての名を知られた際には伝承から『神の天秤』の存在も察知されるかもしれない。
故に聖杯戦争においては自らの真名を隠しつつ、敵の真名を探ることが重要となる。
どうにか道化師のバーサーカーを掴みたいものだが、とアヌビスは思考を重ねる。

「そういえばさ」
「如何した」
「あんたも怒るんだな、ああいうのには」
「無論。我は死者の守護神、墓守の主である。
 冥界の神としての己の役目には誇りを持っている。
 故に死の境界を踏み荒らす外道共には憤りを覚えるのだ」

胡桃から返事は返ってこない。
どうせそんな答えだろうと思った、とでも言わんばかりの表情だった。
そんな胡桃の様子を、アヌビスは静かに見つめ続ける。
彼女は従者の前では常に無愛想であり、決して心を開こうとはしない。
そのことで憤るつもりも、哀れむつもりも無い。
彼女には彼女の思いがあり、彼女の考えがあるのだから。
だが、それでも胡桃は戦争における主人となる少女だ。
共闘する上で多少なりとも相互理解、あるいは意思の疎通が必要となるかもしれない。
故にアヌビスもまた、少しばかり自分から話し掛けてみることにした。


「して、マスターよ」
「……何だよ」
「普段、其方は我が陣地に留まることを避けている」
「…………」
「其方のような異教の概念に染まりし民草にとって、我が陣地が形作る文化は異常とも取れるだろう。
 そして其方の身は生きながら『死者』に等しい属性を備えている。
 それ故に我々を嫌悪し、避けているということは理解している」
「…………」
「大丈夫か」


再び、沈黙。
顔を俯かせ、アヌビスに表情を悟られぬようにそっぽを向く。
やはり図星だったか、と胡桃の様子から察した。
アヌビスはただ無言で胡桃の答えを待つ。
暫しの沈黙を経て、胡桃がゆっくりとアヌビスの方へと顔を向けた。
その表情は、無理に作ったような真顔であり。

「別に、大丈夫だよ。ちょっと我慢すりゃいいだけだしさ」
「そうか……だが、これだけは言っておく」

アヌビスは思う。
やはり彼女は、無理をしているようだ。
己の身の異変を畏れ、屍人達を忌み、この空間を拒絶している。
それもまた理解できぬことではない。
現世に染まりし青き若者にはそれらを受け入れることが難しい、というのは大いに解る。
ならば己が『神』として諭すしかあるまい。そうアヌビスは考えた。


「案ずることはない、マスターよ」


そしてアヌビスは、一息置き。


「勝利の暁には、其方の安寧なる死を冥府の神である我が保障しよう。
 世界が正しき秩序に染まれば、其方にも楽園アアルの導きが訪れる……それは真なる救いである。
 今は未だ不安もあろう。されど、ただ受け入れればいいのだ。幼子が世の道理を自然に学ぶのと同じこと。
 未知への畏れを振り払い、正しき理を享受せよ。さすれば其方は救われるだろう……」


―――――――胡桃が、再び顔を背けた。
口元が苛立ったようにピクリと動いていたのが一瞬だけ見えた。
勿論だが、返事は返ってこない。
表情は伺えないが、想定よりも乏しい反応であるということは明らかだった。

「失礼した」

一言謝辞を述べつつ、さて困ったものだとアヌビスは思う。
真剣に伝えた筈なのだが、どうにも噛み合っていないようだ。
ケメトにおいて伝えられし死生の理は以前説明した筈なのだが。
胡桃は決して愚鈍な少女ではない。彼女なりに現状と向き合い、思考を続けている。
故に世界の正しき秩序を理解出来ぬ筈が無い。
ましてや神によって直々に楽園での救いを保障されるというのは何事にも勝る祝福である。
ケメトの民にとっては来世における安寧の約束。つまり最高の幸福に他ならない。
だが、それでも胡桃は頑なに受け入れようとはしないのだ。
やはり現世において異教の概念の浸透は相当に進んでいるのか。
誤った理を民草に植え付けるとは、許し難き所業である。
だからこそ正さねばならない。せめて今は胡桃だけにでも正しき理を伝えたいものなのだが。
次は基礎をより噛み砕いて説明するべきか、あるいは方法を転換させるか――――――心中で暫しの問答を繰り返す。

とはいえ、今優先すべきことは『監視』だ。
今はマスターの心情をある程度知ることが出来ただけ良しとしよう。
そう考えて、アヌビスは思考を切り替える。

今、街には『死ねずの呪い』が噂として存在している。
それはマスターである胡桃の『元々いた世界』で起こった事件と酷似した話だった。
怪しい研究所とやらから呪いが溢れ出し、瞬く間に世界へと広がり、人々が皆『死ねずの肉体』と化すという惨劇。
マスターはその世界における数少ない生存者であったという。
噂を実体化する能力を備えたバーサーカーならば、その『呪い』を利用することも可能だろう。

あの『呪い』は、間違いなく世界の理を歪める。
本来あるべき死の秩序を破壊し、生命の来世を奪い取る。
それは英霊を生み出す法則と同じだ。
現世での役目を終えた存在を裁くことも救うこともせず、『誤った永劫』へと封じ込める。
終焉を強引に与える、という点に於いてはある種英霊よりも悪質な面を持つと言えよう。
その呪いが、この冬木に訪れる可能性がある。
殺戮を楽しむ狂人風情が、生と死の境界を揺らがすかもしれない。
許し難いことだった。これは生命の愚弄、秩序への冒涜に等しい。
生と死の境界を渡る冥界の神アヌビスにとって、到底看過出来る事象ではない。
故に、あの道化師共は排除されなければならない。
彼らが『生死の秩序を蝕む』前に。

状況は既に変わっている。
道化師を早急に排除しなくてはならない以上、より多くの『人手』が必要になる。
あのランサーへの対策も兼ねて、他の主従との接触を行うべきだと判断した。
自らの正体を掴まれる危険性も否定は出来ない。
だが、理を歪める道化師共を野放しにすることに比べれば些事に過ぎないのだ。


「マスターよ」
「んだよ」
「あの道化師共を討伐する為にも人手が必要となる」
「さっき言ってた、あんたが勝手に組んだランサーがいるんじゃないのかよ」
「それもある。だが万全を期すべく、もう一つ手を打っている」
「……手?」
「あの童の懐に我が使い魔を仕込ませておいた」


あの『ただならぬ気迫』を備えていた少年。
胡桃の発言の意図を暴かんとした異様な子供。
ただのNPCにしては余りにも生々しく、そして賢しかった。
使い魔を介して全てを見ていたアヌビスは、既に彼に目星をつけていたのだ。
恐らくあの少年には『何か』ある、と。


「それって、まさか」
「あの時述べた筈だ、『全て我が使い魔を通して聞かせて貰った』と。
 即ち、ただの童にしては余りに賢しい『あの者』を我は視ているのだ。
 彼方も、じきに気付くことだろう」



◆◆◆◆



「サーヴァントの『使い魔』……!?」
『如何にも。我が僕たる鼠の「眼」によって其方を捕捉した。
 もしやと思い追跡させてもらったが、やはり当たりだったようだな』


昼食から抜け出し、自分の部屋へと駆け込んだ早人。
母の目はなんとか誤摩化せた――――と思いたい。
ベッドに腰掛ける早人の掌の上に乗っていたのは、一匹の鼠だった。
それは街中に普遍的に存在するようなただの鼠ではない。
今にも崩れ落ちそうな『乾いた肉体』を持ち、まるでミイラのような姿をしていたのだ。
セイバーの話で聞いたことはある。
サーヴァントの中には使い魔を使役し、偵察や戦闘に利用出来る者が存在すると。
鼠は早人の掌の上で『念話』による言葉を発し、会話を行っていた。


『我はキャスターのサーヴァント。例の「討伐対象の主従」を追う者である。
 特に「道化師のバーサーカー」は一刻も早く叩かねばならぬと考えている。
 都合により姿を晒すことは出来ぬが、承知して頂きたい』


黙々ととそう告げる鼠――正確には鼠を介して語るキャスター――を見つめ、早人は息を飲む。
驚愕し、汗を垂らしつつも、呼吸は乱れていない。
現状を前に、あくまで冷静であろうと勤める。
キャスター。つまり早人にとっては自身のセイバー以外で初めて遭遇することになる他のサーヴァント。
いずれ出会うことになるという覚悟はしていた。
だが、まさかこのような形で『唐突』に遭遇することになるとは。
端から見る世界が『平穏』であっても、此処には間違いなく『異常』が潜んでいる。
吉良吉影の時もそうだった。非日常は日常の中に紛れ込み、平穏を奪っていく。
早人は改めて気を引き締めた。

『例の討伐主従……道化師、そして紅き獣。この二組を討伐するまでの間、其方らと同盟を結びたい。
 同盟と言えど、一時的な共同戦線だ。二組を討伐した後の関係まで強要はしない。
 そして、既に我はある主従と手を結んでいる。其方が同盟を承諾するなれば、彼らにも其れを適用させる』

淡々と語るキャスターの言葉を、早人は無言で咀嚼する。
こいつの目的は『同盟を結ぶこと』らしい。
あの道化師のバーサーカーと獣のバーサーカー、二組の主従を討伐するまでの共闘関係。
既に他にも『協力者』がいるらしい。つまり三組での同盟になるということ。
早人の主従に足りないものは他の主従との接触、そして情報だった。
更には母である川尻しのぶを討伐主従の脅威から守る為の立ち回りも必要だった。
そういう意味では、このキャスターの提案は確かに都合がいい。
複数の主従と同盟関係を結ぶことで、あの討伐主従らの排除を効率よく進めることが出来るかもしれない。
そう、『今はまだ』一時的な共闘関係も可能なのだ。
討伐対象の主従という他の全主従にとっての共通の敵がいる以上、まだ早人は今後の選択を先延ばしに出来る。
最終的に聖杯を誰かに託すか、聖杯戦争そのものを中断させるか―――――その選択をする必要は、今はまだ無い。


「あの者達を討つ為の人手がいる、という訳ですか」
『如何にも』
「事情は解りました。私もあの者達を討つことには賛同します。
 ですが、一つ述べさせて頂きたい」


早人の傍から、声が響いた。
声の主は霊体化をしたまま沈黙を貫いていたセイバー「小碓媛命」。
彼女はその場で霊体化を解き、鼠へと向けて言葉を投げ掛けたのだ。

此処まで早く『接触』を仕掛けられるとは。
慎重に立ち回ることを方針としていたセイバーにとって、こうも早く嗅ぎ付けられることになるのは誤算だった。
とはいえ、相手はすぐに仕掛けるつもりは無いらしい。
あくまで同盟の関係―――――上手く利用すれば、より情報を集めたり、あるいはあの討伐主従二組を円滑に排除することが可能かもしれない。
それはしのぶや早人に迫る突発的な危機を回避出来ることにも繋がる。
そして、キャスターは使い魔を利用して川尻家の場所を掴んでしまった。
即ちそれは『その気になれば川尻早人・しのぶの両名を直接襲撃しに行ける』ということに等しい。
ならば、今は一先ず交渉に乗るべきだろう。
今後の立ち回りの為に、何より早人としのぶの安全を確保する為にも。
最終的な『選択』の為の精査も重要だが、今は目の前の状況に対応しなければならない。

「貴方は使い魔を介し、主共々姿を隠し通している。対する我々は貴方に一方的に姿を晒すことになっている。
 対等な『同盟関係』を結ぶつもりでありながら、随分と都合がいいですね」
『それは理解している。だが、こちらにも事情がある。
 我は魔術師のサーヴァント……陣地を築き、其処で待ち受けることを得意とする。
 されど、それは裏を返せば陣地から外れれば十全の能力を発揮出来ぬということ。
 単独で動いた際に自らの身を守れる保障を持たぬが故、町へと赴くことは出来ない』

淡々と返ってくるキャスターの答えを、セイバーは聞き続ける。
セイバーが『対等な状況』での対話を求めていたのは実際に少なからずある。
しかし、何も馬鹿正直にそれを期待してはいなかった。
この要求をキャスターが受け入れないことは半ば確信していた。
故に、彼の答えに何ら感慨を抱くことは無い。

「そうですか。では、貴方からの協力は『使い魔を用いた情報面での支援』ということですか?
 よもや一方的な交渉を仕掛けて我々だけに働きをさせる、ということは無いでしょう」
『如何にも。我が使い魔によって得た情報を其方にも提供する。
 既に鼠共を各地に放っている。監視者としての能力は期待して構わぬ』

キャスターは直接戦闘を得意としないクラス。可能な限り陣地に籠り、姿を隠すだろう。
セイバーもそのことは理解している。故に此れはあくまで『釘を刺す』ための言葉だ。
これから組むのは対等な同盟関係である。だが、こちらは交渉の段階で不利な状況を強いられている。
そんな状況下で、キャスターだけが利を得ることを許すつもりはない。
故に共闘をする上でどのような働きをするのかをまず引き出させた。
そちらが情報を隠して一方的にこちらと交渉する以上、相応の見返りはあるのだろう――――念入りにそう問い質したのだ。
セイバーはあくまで『頼まれた側』。同盟を組みたいと申し出ているのはキャスターの方だ。
多少強気に出たとしても、相手が易々と引き下がることは無いだろう。

「解りました。では、貴方が彼らを追う理由を予め聞いておきたい。
 何故あの主従と戦うことを望むのか。敢えて捨て置くことも出来る中で、何を思い討伐へ向かう決意をしたのかを」
『奴らをこれ以上放しておけば我が主にも被害が及ぶと判断したからだ。
 我はサーヴァントの身。仮初めと言えど、主を守護することは従者としての指命である』

何かを始めるきっかけとなった動機は重要だ。
相手が信用に足るかどうか、その可能性を判断する材料となる。
例えそれが打算の理由だとしても、相応の動機足り得る。

キャスターが語る動機は普遍的なものだった。
これ以上奴らを野放しにすれば主人に危険が及ぶかもしれない。
それ故に主人を守る為に早急に排除しなければならない。
従者としてみれば至極真っ当な理屈。
されどそれが真実か否か、その口振りからは読み取れない。


『それに、あの道化師は「秩序」を愚弄する術を備えている。
 人々の手で伝えられし噂話――――――奴らはその類いを自在に具現化する術を持つ。
 例えそれが何の責任も根拠も無く語られた伝承だとしても、奴らの手に掛かればそれは本物になる。
 我は其の力が断じて赦せぬ。故に一刻も早く排除せねばならない』


セイバーと早人がキャスターの言葉を咀嚼しようとした矢先。
唐突に、彼が『あること』を口にした。
それに気付かぬ二人ではなかった。
キャスターは『奴らは噂話の類いを具現化する術を持つ』と言ったのだ。
あの討伐令の書状には写真や犯行については記されていたものの、その詳しい能力については語られていなかった。
だが、このキャスターはそれを既に掴んでいたのだ。

「貴方は、彼らの能力を把握していると?」
『然り。信用できぬというのならば、実際に己の眼で確かめるといい』

それが事実かどうかは解らない。
故に、この駆け引きの中で真偽を伺わんとした。
だが、しかし。


『我は今、使い魔の目によって道化師共を捕捉している』
「……何?」
『我が示す方角へと向かうといい。すぐに魔力の気配を感じ取れるだろう』


キャスターは次の札を切った。
己は『道化師』の居場所を把握している、と。
彼はそう告げたのだ。
早人は眼を見開き、セイバーは表情を変えずに佇む。


『嘘であるか、真であるか。それを確かめることが出来るのは其方達だ。
 だが、これだけは言っておこう……我は其方と手を結びたい。其の為にこうして交渉の場を設けている。
 此処で嘘を告げたとして、我に得など無い。折角の討伐の機会なのだからな。それに――――――』


淡々と、ただ言葉を紡ぐ魔術師―――その使い魔である鼠を、二人は無言で見つめていた。
流暢に語る彼の言葉が真実か否か、それを確かめる術は無い。
だが、此処まで語る彼がこの期に及んで『嘘』を付くようにも見えなかった。
相手は魔術師のサーヴァント。対魔力の特性上、他の英霊との戦闘において相性が大きく出るクラスだ。
にも拘らず、このキャスターはそれを畏れている素振りは見せない。
此処で嘘を吐いているとすれば、普通は嘘がバレた際の報復の可能性を視野に入れるだろう。
だが、そういった様子をまるで見せていない。このキャスターは流暢に言葉を並べ続けている。
嘘を吐いているにしては余りにも堂々としすぎている。
彼は本当に真実を語っているのではないか――――――そんな可能性が過る。
使い魔の隠密性も鼠が証明している。早人にも気付かれぬうちに懐に潜り込み、その気配を押し殺していたのだから。
早人達は『情報』という面において間違いなく劣っている。
今後組むべき主従を選ぶことになる可能性がある以上、広範囲に及ぶ情報網は大きなアドバンテージとなる。


『―――――――奴らは、其方らの都合を悠長に待たぬ。
 我と組む価値を知る為にも、早々に赴いた方が良いだろう』


そしてもう一つ、言えることがある。
此処で道化師の主従を討伐出来るのは、早人達にとっても大きな得だということだ。
あの狂人達を排除すれば、しのぶの身の安全を少しでも保障することが出来るのだから。



◆◆◆◆




■■■■同士ってのは、どういう理由か。
正体を知らなくても、知らず知らずのうちに引き合うらしい。
結婚する相手のことを『運命の赤い糸でむすばれている』とか言うだろう?
そんな風にいつか、どこかで出会っちまうんだ。
敵か友人か、バスの中で脚を踏んづけるやつか。
あるいはたまたま隣の椅子に座ってきたやつとか。
どこで出会うかは、全然、全ッ然分からない!
分からないのが人生というクソッタレなコメディ!
分からない分からない、どいつもこいつも分からない!
だったら思い切り笑っちまおうぜ!
どうせ運命なんてイカレたジョーク!!
オレもアンタもイカレちまえば幸せ者だ!!!
HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA ! ! ! ! !




◆◆◆◆



はぁ、と美紀は白い息を吐いた。
宛も無く町を彷徨い続け、気が付いた頃に辿り着いたのは海浜公園。
西部の深山町と東部の新都を繋ぐ『冬木大橋』のすぐ傍に存在する市内有数の公園だ。
周辺には水族館やバッティングセンターなど様々な施設が建設され、若者達にとっても人気のデートスポットらしい。
端へと視線を向けてみると、すぐ近くにカフェテラスが存在しているのが解る。
家族や友人等と休日を過ごしているであろう人々が腰を下ろし、飲食を楽しみながら談笑をしているのが見える。
此処からなら一人一人の顔も一応だが伺える。
ベンチに腰掛けた美紀は穏やかな日常の風景をぼんやりと見つめる。

今日はクリスマス・イブ前日ということもあってか、それなりに人の姿が見受けられる。
親子連れ、友人同士、あるいは恋人らしき関係の人達。
そんな人々を遠目で眺める自分は、端から見れば『予定の無い寂しい人』に見えるのだろうか。
少し嫌だな。だけど、今は動きたい気分でもない。

時間を確認すれば、あれから数時間以上時間を潰していたことが解った。
少しばかり考え事をしたくて、美紀は外出をした。
そこで思わぬ人物―――――先輩である胡桃とばったり遭遇し。
そして、会話を交わし、別れ。
気が付けば美紀は、家に帰ることも忘れて宛も無く考え事をしていた。
随分と無駄な時間を過ごしたかもしれない、とも思う。
だけど、今の気持ちを整理するにはこれだけの時間が必要になったのだ。


『みんなが、このままの日常を過ごしたいって。
 そう思ってても、いつかは『あっち』から来るのかな……ってさ』


胡桃のあの言葉が、ずっと胸に引っ掛かっていた。
胡桃のあの表情が、ずっと心に閊えていた。
まるで何かを知っているようなあの様子に、美紀は恐怖した。
胡桃は、何か『知っている』のではないか。
彼女とて、この聖杯戦争に何か関わっているのではないか。
それはつまり、彼女もまた――――――
違う。それは違う。きっと気のせいだ。
偶然だ。そんなはずが無い。
そうだとしたら、自分達は戦わなくてはならない。
そんな残酷なことが、あってはいけない。
そうだ。胡桃は、関係ない。
必死にそう思い込もうとして、家に帰る気にもなれず。
そのまま美紀は、宛も無く外をうろうろと彷徨い続けた。
適当な喫茶店で休んだり、商店街を歩いたり、立ち読みで強引に気を紛らわせたり、ただぶらぶらと歩いたり。
気晴らしの散歩と呼ぶには行き過ぎた散策を続けて、ようやく少しだけ落ち着くことが出来たのだ。

結局は胡桃のことを引き摺って、この数時間を無為に過ごした。
無駄な時間だった――――とは、思わない。
こうして落ち着くだけの時間がなければ、きっと心は押し潰されていたのだから。
少しは冷静に割り切れる方だと、自分では思っていた。
だが、実際はとんだ思い違いだった。
聖杯戦争のことで悩み、胡桃のことで悩み。
結局、それを受け止めるだけで時間を費やしてしまった。
まだまだ自分は青くて、どうしようもなく子供だ。
美紀は自分を卑下するようにそう思う。

(ペレさん、流石に待たせすぎたかな……)

美紀の脳裏を過るのは、あの底抜けに明るい女神の姿。
思えば留守を任せてから、数時間は経過している。
流石に待たせすぎたかな。大丈夫なのだろうか。
もしかしたら、カンカンに怒っていたりするのではないか。
あるいは我慢出来ずに飛び出してしまったりしていないだろうか。
考えれば考えるほどに懸念が浮かび上がってくる。
彼女のことに関しては、聖杯戦争とは別の意味で悩まされる。
美紀にとって悪い人ではないのだが、困った人であることは間違いないと思っている。
そろそろ帰って様子を見に行くべきかもしれない、と虚空を見つめながら考える。

女神と言えば、それを引き連れている――尻に敷かれているというべきなのかもしれない――ランサーだ。
少し前にランサーから念話で『南方の森を根城とするキャスターと同盟関係を結んだ』という連絡が入った。
無数の使い魔を操って各地の偵察を行っており、情報収拾においては卓越しているサーヴァントなのだという。
だが交渉の中で意図的に情報を隠していた場面もあったらしい。
そして、『あの夜』に獣の群れを差し向けたのもそのキャスターだというのだ。
今は共闘関係ではあるが、決して油断しては出来ない――――ランサーはそう美紀に伝えていた。

それはつまり、既に『他のサーヴァント』との戦闘、交渉が勃発しているということだ。
改めて、自身が既に聖杯戦争の渦中にいることを美紀は思い知らされた。
自分は無力だ。王として君臨したランサーのような武勇も無ければ、知略に長けているわけでもない。
精々「あの世界で生きていた」というだけが取り柄の女子高生に過ぎない。
そのことに多少申し訳なさを感じることはあったが、かといって負い目を感じることは無かった。
得手不得手があるのは当然だ。ただの少女に過ぎない自分が無理にランサーを手伝う必要は無い。
下手なことをしてランサーの足を引っ張るくらいなら、自分はこうして大人しくしているだけで構わない。
それでも、必要なことがあればランサーに協力する。
そしてあくまで、自分がランサーを使役しているという自覚は忘れてはいけない。
自分は聖杯戦争の参加者であり、冬木と言う戦場に立たされているのだから。
美紀はそう思い、ギュッっと拳を握りしめる。


(この聖杯戦争で勝ち残れるのは、一組だけ……)


改めて、『勝利条件』を思い返す。
この聖杯戦争は、奇跡の願望器を巡る戦いだ。
数多の主従が覇を競い、たった一組だけが勝利を得る。
例え同盟を組んだ相手がいたとしても、最終的には敵となる。
勝つ為に、生き残る為に、戦わなければならない。
誰かを殺さなくてはならない。

いや、そもそも。
何故『一組だけしか生き残れない』という認識なのか。

理由は解らない。漠然とそんな感覚があった。
まるで聖杯戦争の知識と共に『何かを刷り込まれた』かのように。
勝ち残らなければ願いは叶えられない。その為には他の主従を殺さなければならない。
これは聖杯戦争であり、殺し合いなのだと。
そのような『認識』が美紀にはあった。
「これは命を懸けた戦いだ」と脳内の意識が美紀に訴えかけてくる。
サーヴァントを失って敗北すれば、その後生きて帰れる保障は無い。
そんな感覚が、ぼんやりと浮かんでいた。



「隣、いいかい?」



思考の最中、唐突に割り込む声。
突然の出来事に美紀は呆気に取られた。


「えっ?」
「ちょっと悩み事があるんだ。これからデカいパーティーをやろうと思ってる」


美紀が顔を向けた先にいたのは、一人の『男』だった。
薄暗いスーツを身に纏った男は美紀の返事を待つこと無くベンチの隣に腰掛ける。
何の脈絡も無く、ベラベラと喋り出す。
何を言っているのか。というか、いきなり何だあんたは。
急に隣に座っておいて友達にでもなったつもりなのか。
――――――そんな悪態を心中で付く余裕は、今の美紀には無かった。


「だけど生憎町は『人食い殺人鬼』に付きっきり。これじゃあ面白くねェ。
 目立たねえ道化なんざ負け犬も同然、だから俺はもっと『下ごしらえ』をしたいってワケだ。
 ああ、ちょっと前には『恐怖の館』だっておっ立てたさ!先輩サマに負けないようなド派手な奴を!」


男はニヤニヤと喋り続ける。
これから楽しいパーティーでもするかのように、気さくに語る。
だが、美紀はただ唖然としていた。
男の姿を見てから、その表情は引き攣っていた。
人食い殺人鬼。道化。それらの言葉に覚えはある。
何せ開幕一番に討伐令が出された二組の主従のことなのだから。
男はその言葉を口に出した。聞き間違いでは、無かった。

そして、何よりも。
男は『異常』だった。
その姿は、明らかに。
その出で立ちは、どう見ても。
その風貌は、間違いなく。

美紀は言葉を出せなかった。
微かに震えながら、男を見つめることしか出来なかった。
人の成れの果てである『かれら』とは全く異なる、別次元の気迫に何をすることも出来ず。
今の美紀に出来ることは、男の笑みを見つめ、男の語りを耳にすることのみ。
逃げ出そう―――――そう思っても、身体は動かない。
気が付けば、足が竦んでいた。
此処から立ち上がり、逃げ出さなければならないのに。
美紀の身体は、確かな動揺と恐怖に蝕まれていた。

どうして。
どうしてこんな所に。
何故私の目の前に。
なんで。
なんのために。
美紀の中で次々と疑問が浮かぶ。
それは論理的な思考ではない。
恐怖の中で必死に始まった『混乱』に過ぎない。
目の前に現れた非日常を前に、動揺が止まらない。
どくん、どくん、と心臓の鼓動が早くなる。
恐怖に続き、緊迫が胸の内を支配する。
強張った身体は、美紀をその場に釘付けにする。


男は、未だに笑っていた。
真っ白の化粧で、顔を染め上げていた。
その口は、真っ赤に裂かれていて。
その顔は、まるで『笑い顔のピエロ』のようで――――――。


「オレのこのツラが気になるか?」
「ひっ」
「ああ、『どうしてそんなバカみたいなツラしてんだ』って思ったろう?」


『道化師』は、美紀に顔を近づけた。
己の顔を見せつけるかのように。
その一瞬で、反射的に恐怖の声を上げた。


「ああ、理由を教えてやる」


その男は、美紀にも見覚えがあった。
否、無い筈が無かった。
『今朝』、男のおぞましい顔を記憶に焼き付けたばかりなのだから。
彼は、無数の市民を殺害したとされる殺人鬼。
彼は、センタービルを爆破したとされる狂人。
彼は、聖杯戦争において監督者から直々に『討伐対象』として指定されているイレギュラー。
だというのに、男はまるで焦った様子を見せていない。


「そう、昔オレには友人がいたんだ!悪友ってヤツさ。
 アイツとはいつだって一緒だったぜ。ボニーとクライドも真っ青の『相棒』ってワケだ」


道化師は白昼堂々、こんな所に堂々と姿を現し、美紀に対して独りでに語り出している。
彼女を聖杯戦争のマスターとして認識しているのか。
あるいは、本当に偶々美紀を目に付けただけなのか。
その理由は美紀には解らない。
狂ったの道化師の思考など、『ただの人間』に理解出来る筈も無い。


「どんな苦楽だってアイツと一緒に過ごしてきたよ。殺しも盗みも、二人で何だってやってきた。
 オレたちゃいつだって二人で一つだったさ。そう『だった』んだ。
 だがアイツはある日突然言い出したんだ。『お前はいつもしかめツラだ。ただ生きてりゃそれでいいのか?』ってな」


だから彼の語る『口の傷の経緯』も、理解出来ない。
否、内容は解る。何を言っているのかも解る。
だが、その『意味』が理解出来ない。


「アイツはケチな犯罪者として呑気に生きることが嫌だったらしい。
 アル・カポネも真っ青の大物目指して、オレとオサラバ!ってな!
 そういうワケで、アイツはオレの前から消えた。
 オレは悲しんだよ。何せ唯一無二のダチがいなくなっちまったんだからな」


その言葉はどこか白々しく。
その語り口はどこか胡散臭く。
その一言一言が、歪に淀んでおり。
真実味の無い『問わず語り』が、延々と続く。


「それでオレはどうしたと思う?」


美紀は、ただ震えることしか出来ない。
道化師の振りに、何も答えられない。
そんな彼女の様子に構うことも無く、道化師は口元を愉快に歪めてみせる。
次第に周囲を行き交っていた人々も、彼の存在に気付く。
ある者は足を止めて好奇の目で見つめ、ある者は見て見ぬふりをして通り過ぎる。


「アイツから二度としかめツラ呼ばわりされないように、オレは常に笑顔で生きることにした。
 思う存分イカレちまって、何もかも笑い飛ばしちまえばいいって気付いちまった。
 そうなりゃ決まりだ。オレはナイフを握り、そのまま刃を口に突っ込んで―――――――」


大袈裟な身振り、手振り。
道化師は右手の親指を己の口の端に当て。



「『笑顔』になったのさァ」



親指で掻き切るように口元の『赤い傷痕』をなぞった、その瞬間。


轟音。
何かが弾け跳ぶ。
轟いたのは、爆発音。
響いたのは、悲鳴。





「HA HA HA HA
      HA HA HA HA HA HA
             HA HA HA HA HA HA HA ! ! !」






何が。
何が起こった。
何が起こった!
何が、起こった!!

愕然とした美紀の耳を劈くのは、道化師の哄笑。
恐怖と錯乱の悲鳴が明後日の方角から響き渡る。
美紀の視界に入ったのは、火の手が上がるカフェテラス。
無数のテーブルや椅子がバラバラになって散らばっていて。
一部は黒く焼け焦がれた状態で吹き飛ばされたものもあり。
そして。
先程までテラスで談笑をしていた人々の多くが、焼死体として転がっていて。
中には原形を留めず、手足など肉体の部位を失った亡骸と化している者もいて。
辛うじて生き残った者も、火傷と衝撃で死にかけていたり、痛みと恐怖にのたうち回っていたり。
日常の風景は、一瞬にして惨劇の場と化していた。
公園を行き交っていた人々もまたそれに気付き、悲鳴を皮切りに大混乱へと陥る。
安穏とした日常を過ごしていた大衆が、一瞬のうちに恐怖の其処へと叩き落とされる。

美紀の思考は現実に追い付かなかった。
カフェテラスで何かが起こった、ということだけ解った。
突然の地獄絵図を、愕然と見つめることしか出来なかった。
暫しの時間を経て、ようやく現状を認識することが出来た。
先程の爆発音。まるで『カフェテラスで何かの爆発が起こった』かのような惨状。
そして、けたたましく笑う道化師。
ああ、そうか。『そういうこと』なのか。
その時、美紀はようやく理解した。


「あなたは……っ!なんで、こんなことを……!!」
「なんでかって?爆薬は安く済むからさ」


美紀は恐怖に身を振るわせながらも問い詰める。
そんな彼女を前に、道化師は戯けるように答える。
あのカフェテラスに密かに時限式の爆弾を仕掛け、その場にいた人々を『吹き飛ばした』。
それが惨劇の真実。目撃者となった美紀は詳細を把握していない。
しかし、あれが道化師――――ジョーカーの仕業であることは、彼女にも理解出来た。


「だがここで耳寄り情報だ!『噂はもっと安く済む』」


両手を広げ、道化師が立ち上がる。
何がそこまで彼を楽しませているのか、常人には理解出来ない。
彼を間近に見る美紀も、逃げ惑う人々も。
狂人の思考は、まるで理解出来ない。

「素敵な話だろう?」

理解できぬ狂人と、通じ合える者がいるとすれば。
それは同じ狂人か、あるいは鏡映しの分身だけだろう。


「そう、そう!素敵さ!根拠無しの薄っぺらな『伝説』!」


どこからともなく、ジョーカーと『全く同じ声』が響く。
その戯けた調子も。声の高低も。ふざけた喋り方も。
美紀の目の前に居る道化師と、寸分変わらない。
まるで双子か、あるいはドッペルゲンガー。
そうとしか言い様の無い『同一の声』が、美紀の耳に入り。


「HA HA HA HA HA HA HA!!!」
「そうら、イカレた奴らにお出迎え!」


すぐさま、次の『絶叫』が轟いた。
逃げ惑っていた者達の一人、若い男が『黄色い救急車』に跳ね飛ばされていた。
誰もが絶句し、動揺し、そして錯乱する。
爆発に次いで起こった異常に、思考が真っ白になる。
どこからともなく飛び出してきたソレを、混乱している彼らが回避できる訳も無く。
まるで落ち武者狩りのように、魔獣のような救急車は逃げ惑う人々を次々に轢いていた。


「越えて越えて衆愚の街!」
「カオスが渦巻く道化のショー!」
「走って走ってドブの路地!」
「惨めな阿呆共はサヨナラさ!!」
「 「 HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA HA ! ! ! ! ! ! ! ! 」 」


運転席の窓から上半身を乗り出すのは、もう一人の『道化師』。
ジョーカーと全く同じ姿をして、全く同じ顔で嗤う狂人だった。
二人はまるで共鳴するように嗤う。嗤う、嗤う笑う嗤う笑う嗤う!


「『御伽話(フェアリーテイル)』にもなれず、『子供達の希望(ナーサリーライム)』にもなれない!」
「安上がりの『都市伝説(フォークロア)』ってワケだ!」
「恐怖、絶望、混沌!こいつは歪なバッドエンドの象徴!」
「つまり、アレだ、こういうことだ『オレ』!」
「ああ、そういうことだ『オレ』!」


美紀は、後悔していた。
この一瞬の時間を、恨んでいた。
『なんとなく』『海浜公園に来てしまった』自分を、呪っていた。
最早、唖然とした表情を浮かべることしか出来ない。
黄色の救急車に乗り、人々を虐殺する道化師。
目の前で馬鹿笑いをする道化師。
二人の狂人をまともに理解出来る筈が無かった。
最早自らの従者を呼ぶことすら忘れている。
目の前で起こる異常の連続に、美紀の思考は真っ白に停止する。
超常現象なら、一度視ている。
自らのサーヴァントが起こした異常を、知っている。
だが、この道化師達の異常は次元が違う。
否、異常というよりも――――――常軌を逸している、としか言いようが無い。
理解出来ない振る舞い。理解出来ない言動。理解出来ない動機。理解出来ない殺人。
どうしようもなく怖くて、解らなくて、気持ち悪い。
如何に過酷な世界で生きてきた少女と言えど。
正真正銘、本当に狂った『怪人』の思考を受け入れることなど出来る筈が無い。

「どうした、笑えよお嬢ちゃん」

それでも、目の前のジョーカーは美紀に向き直る。
引き攣った彼女の顔を不満げに指差す。


「そのしかめツラは何だ?」


美紀の視界の端に、救急車が映る。
にじり寄るジョーカーを余所に、ソレは蹂躙を止めず。
車を乗り回す道化師による人々の虐殺は、未だ続いていて。
無慈悲な道化師のショーの幕を、下ろす者は無く—————。











「―――――――――――――――『剣取れぬ者たちに、恐怖と無縁な休息を(ママラホエ・カナヴィ)』」









然れど王は厳粛に告げる。
此処は道化師の舞台に非ず、と。



◆◆◆◆




かつて世界には精霊が宿っていた。
生けるもの、そうでないもの。
この世に存在するものは等しく万物の根源たる気を備えていた。
火の精たる軻遇突智(カグツチ)。
水の精たる水�(ミツチ)。
岩の精たる磐土(イワツチ)。
木の精たる久久能智(ククノチ)――――等。
世界はありとあらゆる精霊と共に在った。
少し前に感知した『黒猫』もまた、精霊に近い自然の存在だった。
かつてそういった存在は、世界に有り触れていた。
だが、現代においてそれらは迷信じみた神秘として淘汰されていった。

セイバー―――小碓媛命は霊体化し、街を跳ぶ。
建物の屋上から屋上へと飛び移りながら、目的地へと目指す。
周囲に広がるのは文明の証たる建造物の数々。
夜の闇さえも照らす科学の光が、此処には存在する。
最早人類の多くは精霊や自然への信仰を捨て去った。
過去の神秘は理論によって否定され、科学という新時代の栄光が世界を覆い尽くした。
そして今、新たな世代の神秘である『都市伝説』を操るらしい敵を追っている。
世界は変わっている。時代は移り変わっているのだ、とセイバーは認識する。
そのことに思う所が無いわけではない。
一種の寂寥感のような想いが胸に込み上げてくる。
だが、人類は古来より発展を求めてきた。
己の進歩の為に、何かを犠牲にしてきた。
これはその延長線上に過ぎない。
神話と歴史の狭間で活躍したセイバーは、それを噛み締める。
『過去』を懐かしむことはあれど、その先にある『今』を否定はしない。

セイバーは改めて、己の目的を確認する。
早人は思考の末に、セイバーを遠征へと向かわせた。
キャスターが示す方角へと赴き、道化師の存在を確認することを命じたのだ。
可能ならば討伐せよ、とも言われている。
危険な選択だった。これが罠だとすれば、川尻家はこの隙にキャスターの僕に襲撃されていたかもしれない。
だが、早人はキャスターがあくまで同盟を望んでいることを信じた。
その上でキャスターの行動を警戒し、しのぶを見守る為に家に留まることを選んだ。
もし彼が不審な動きに出てきたら、早人は念話を使って即座にセイバーへと連絡する。
そういった手筈になっている。令呪がしのぶの手にある以上、それを使った瞬間移動による呼び出しは行えない。
綱渡りに近い選択だった。それでも早人は、しのぶの安全を常に脅かしかねない道化師の討伐を優先した。

母であるしのぶの平穏を脅かすであろう道化師を倒す為の『同盟』、そして『情報』。
それらのカードは早人を焦らせるには十分だった。
彼は賢い。幼子でありながら、鋭い洞察力と機転を併せ持つ。
だが、何事にも動じぬ精神的超人ではない。
かつてバイツァ・ダストの脅威を前に一度は心が折れかけたように。
それを乗り越え、自ら殺人を犯すことを決意した時は涙を流して震えたように。
早人は黄金の精神を持つと同時に、まだ小学生の子供だ。
手探りの状況で『母親の危機を打開出来る策』を提示された時、焦燥が勝ってしまったのだ。

早人は優しい少年だった。
どれだけ知性に溢れようと、あくまで性根は母を思う子供だ。
そのことに安心を覚えると同時に、不安を抱く。
セイバーは自分達主従の目標を思い出しつつ、考える。

しのぶの願いを叶えることを妨げる。
それが聖杯戦争における早人の『目的』である。
しかし実際の所、現状の手札で最適解を選ぶのは困難を極める。
自分が勝ち残ることを目指すならば、容易い。
聖杯戦争そのものを否定するならば、険しくも揺るぎない目標となる。
だが、彼は『最悪さえ避けられれば幾つもの手段を取れる』のだ。
その上で早人は、手段を選ばぬ程に冷酷になれる少年ではない。
自ら戦いを辞退する、というのが最も容易な選択である。
されどその後の安全を保障出来る訳ではない、最も未知数な選択である。
故にそれを気楽に選択するわけにもいかない。

そして自分達は、恐らくこのまま『同盟』を組むことになる。
キャスターとその同盟者を含めた、三組の連合軍を結成することになるだろう。
そうなれば、あの道化師や人食いを打倒出来る可能性は増す。
だが、それと同時に、自分達は否応無しに『選択』を迫られることになる。

彼らが殺人を犯そうとした時、早人はそれを無視出来ないだろう。
二組が共に勝利を目前に控えた時、早人はどちらに味方するのかを選べるのか。
「自分には願いがある、だから聖杯を譲ってくれ」と同盟を結んだ二組以上のマスターから迫られた時――――早人は、選択を出来るのか。
未だ解らない。『一応の勝利条件』は数多あれど、『最適解を選ぶ過程での問題』もまた数多。
それ故にセイバーは慎重に立ち回ることを目的としていた。
まずは早人の覚悟を確かめることが優先だと考えた。
しかし、乾いた者を使役するキャスターは彼女達を強引に舞台の上へと引き摺り出した。

誰を切り捨てるのか。何を優先するのか。
早人にそれを選択出来るだけの『勇気』あるいは『冷徹さ』があるのか、今はまだ解らない。


しかし、それでも。
彼が選んだ選択は、全力で守り通す。
英雄『倭建命』として、主の想いを貫く。
そして。
もしも、彼が足を竦めた場合――――――その時は、自分が背中を押そう。
かつて父に疎まれていた己に『剣』と『石』を授け、後押しをしてくれた叔母上のように。
彼の歩みを支え、必要ならば道を示そう。
セイバーはそう胸に誓う。



「ちょっと!ちょっとそこの貴方!サーヴァントでしょ!?」



唐突に、声が聞こえてきた。
霊体化している時に話し掛けられ、セイバーは少しばかり呆気に取られてしまう。
ふと右方へと視線を向けると、其処には南国風の女性がいた。
日に焼けた褐色の肌と扇情的な肉体、髪に指した花飾りが目を引く。
自身と同じように、建物の屋上から屋上へと跳躍している―――――姿をまるで隠しもせずに。
姿を消しているこちらの魔力を感知しているということは、サーヴァントなのだろうか。
いや、それにしては、何か違うような気がする。
かつて自身の命を奪った神の化身―――かつては神の使い魔であると誤解していた―――に近い臭いがする。
何故だか、敬意を払わなければならない。彼女はそんな気配を纏っている。
セイバーはそう思い、移動を続けながら女性を見つめる。


「何!?貴方もカッくんに用があるの!?」


カッくん―――――とやらが、何者なのかは解らない。
そもそも、彼女が敵か味方なのかも解らない。
だが、不思議と悪意らしきものは感じられなかった。
寧ろ人間的な善悪とは異なる次元に立つようにも見えた。
とはいえ、得体の知れぬ彼女に構っている場合ではない。
今は道化師の安否を確認するのが優先だ。
実際にあのキャスターが示した方角に、魔力の気配は複数感じられる。
一刻も早く辿り着き、その存在を確認せねばならない。
可能ならば、それを討伐する。


「って、ちょっとー!!待ちなさいよーーーーッ!!!」


後方で騒ぎ立てる女性に、一瞬だけ視線を向けた。
彼女も敵であるのならば、迎え撃つ他無い。
しかし、今は道化師が先なのだ。


◆◆◆◆



先程まで逃げ惑う人々を狩っていた救急車が、突然動きを変えた。
まるでそれは『人々を傷付けるのを強制的に止められた』かのようで。
呆気に取られた道化師は救急車から飛び出し、何もせずに逃げ惑う人々を見逃していく。
虐殺を行うことは『出来ない』。人々への攻撃を『制限』された道化師は、惚けたように動きを止めていた。

「おいおい!どうした『オレ』!?まだまだ『ダックハント』は始まったばかりだろう!」
「ああ、困ったな『オレ』!何が何だかワケが解らないぞ!」

眉を顰めながら問い質す道化師(ジョーカー)。
困り果てたように身振り手振りをする道化師(フォークロア)。
ジョーカーは美紀そっちのけでフォークロアに駆け寄り、互いに寸劇のような会話を繰り広げる。
美紀はぽかんとした表情を浮かべながらも、気付いていた。
突如としてジョーカーが「自身に見向きもしなくなったこと」を。
まるで危害を加える対象から外したかのように、ジョーカーは美紀へと目を向けることを止めた。

ああ、これは。
この『現象』は、見たことがある。
美紀は己の記憶を手繰り寄せる。
あの日、あの夜――――――そう、自身がサーヴァントを召還した時。

「……突然使い魔を差し向け、余を案内したかと思えば……
 こういうことか、『渇きし者を統べる魔術師』よ」

響き渡る声。
美紀の眼前に降り立つ影。
威厳に満ちたのその風格を、彼女が忘れる筈が無い。
威風堂々としたその後ろ姿を、ただ無言で見つめる。


「それ以上の狼藉は、王たる余が許さぬ」


ランサーのサーヴァント―――――カメハメハ一世
南国の島を統べる大王にして、美紀の従者。
彼は憤怒の眼差しによって、道化師達を見据える。

『剣取れぬ者たちに、恐怖と無縁な休息を(ママラホエ・カナヴィ)』。
それはカメハメハ大王が築きし『民を守る掟』の具現であり、道化師に齎された能力だ。
あらゆる者の攻撃対象から非戦闘員を強制的に除外する宝具。
彼が存在する戦場においては、民間人の犠牲者は許されない。
これが何を意味するのか。
民間人の虐殺を楽しむ二人の道化師にとって、民間人の犠牲を認めぬ王の宝具は紛れもない『天敵』ということだ。

「ラン、サー……」
「遅れてすまなかった、マスターよ」

驚愕する美紀の方へと振り返り、謝辞の言葉を一言述べる。
大事になる前に到着できたことにランサーは安堵していた。
もしも少しばかり遅れていたら、美紀の安全は保障出来なかったかもしれない。
今回ばかりは、道化師の動きを逸早く掴み『連絡』してきたキャスターに少しばかりは感謝すべきだろう。
ランサーはそう思い、その右手の槍を強く握り締める。
その視線の先に立つのは、あの道化二人。

「おいおい、どうやら大物が釣れたそうだ!」
「ああ、とびきりの大物だな!」
「で、アイツは誰だ?あんなハワイアンなナリした英霊がいるってのか!?」
「ありゃ見たことがあるぜ。アイツは『キング・イヤウケア』だ」

二人で漫才のような掛け合いを繰り返す道化師達。
されど、無論ランサーは彼らの会話を聞くことも無く。
瞬時に勢いよく地を蹴り、怒濤の疾さで突撃を仕掛ける。

瞬間、道化師二人は踊るようなステップで左右へと散る。
彼らの背後に控えていた『黄色の救急車』が独りでに走り出した。
それは道化師へと迫るランサーを妨害するように、猛スピードで突撃を仕掛けた。



――――――轟音が響く。
物体が叩き壊され、ひしゃげるような音が轟く。



ランサーが救急車に轢かれた――――――のではない。
彼が前方へと突き出した左拳が、救急車を『破壊』し『吹き飛ばした』のだ。
まるでコンクリートの壁に突撃したかのように、黄色の救急車の前面はぐちゃぐちゃに潰れて逆方向へと吹き飛ばされる。
それは『怪力』スキルによって一時的に筋力を増幅させて放った、王の拳撃。
無責任な噂話によって具現化された救急車など、その神秘の前には取るに足らない。


「ありゃ『ボディーブロー』ってヤツだな」
「ああ、あの一撃ならリングでも敵無しだろうぜ」
「相手するのはちょいと骨が折れる」
「だからオレ達はトンズラするのさ!」


戯ける道化師二人の前を爆走する二台のバイクが横切った。
二体のスリーピーホロウ―――――『首無しライダー』である。
フォークロアの能力によって生み出されし都市伝説の存在。
バイクに跨がり疾走を続ける首無しの異形。
彼らはそれぞれ二人の道化師を腕力で強引に掴み上げ、戦場から猛スピードで離脱していく。

救急車を吹き飛ばしたランサーはすぐさまそれを追跡。
フルスロットルで駆ける首無しライダーにもまるで引けを取らぬ速さ。
追い付くのも時間の問題である、筈だった。


瞬間、ランサーは眼を見開く。
眼前を突如として横切ったのは、無数の戦士が蠢く軍勢。
規律良く並んだ行軍を構成する戦士達は、皆顔が死人のように青ざめていた。
さながら百鬼夜行。あるいは、亡者の群れ。
彼らはランサーとジョーカー達を分かつ境界線のように、その間に立ちはだかる。


(これは―――――ッ!)


ランサーは驚愕した。
亡者の軍勢は腰蓑や軽装の鎧など、『古のハワイの戦士』を思わせる衣装を纏っていた。
後世において『怪談』―――――あるいは『噂話』として語られる存在。。

それは、ハワイにて伝えられし伝承。
夜な夜な行進をする亡者の群れ。
目撃した者を冥府へと連れていく、悪夢の軍勢。
その名はナイト・マーチャー。
死の酋長によって率いられし、死者の行軍である。

道化師達がこれを意図的に召還したのか。
あるいは偶然手繰り寄せた都市伝説がこれだったのか。
その答えはランサーには知る由も無い。
されど、追跡においては一瞬の足止めが命取りとなる。
『民間伝承』として姿を現した軍勢を前に、彼は驚愕する。

ランサーの存在を捕捉したナイト・マーチャー達はすぐさま動きを止める。
直後、戦士達はランサー目掛けて次々と殺到する。
槍や剣を構え、王を自らの軍勢へと引きずり込まんと武器を振るう。
彼が一瞬だけ驚愕した隙を突かんとしたのか。

されど、これらをランサーは槍の斬撃で全ていなす。
勢いよく振るわれた一閃が無数の刃を全て弾き、そして次の攻撃へと繋げる。
槍の突きが、巨漢の戦士の身体を穿つ。
続いて放たれた横薙ぎの斬撃が、複数名の戦士を斬り飛ばす。
背後から襲い掛かってきた戦士を、後方へと放った柄の刺突で凌ぐ。
直後に眼前から剣を振り下ろしてきた数名の戦士を、刹那の一閃で沈める。
中距離から放たれた槍の攻撃を全て躱し、雷光の如きスピードで逆に相手を叩き斬る。
遠方より放たれた投石を槍で全て相手へと目掛けて弾き返す。
飛び掛かってきた亡者の攻撃を、円を描くような槍の斬撃によって纏めて薙ぎ払う。

相手になる筈も無い。
彼らはただの雑兵に過ぎない。
所詮は身も蓋もない噂話によって生み出された亡者共。
手軽に生み出された亡霊風情が、武力に優れた王に戦闘で勝てる道理は無い。
ましてや確固たる伝説によって語り継がれる英雄に、曖昧な伝承で語られし亡者が敵う筈も無い。
しかし、ランサーは間違いなく手こずらされていた。
既にあの道化師達は取り逃がしている。
再び追おうとしても、次々と迫る亡者達がそれを阻む。


(やはり、数が多いか……!)


ランサー――――カメハメハ一世は知と力に優れた強力なサーヴァントだ。
使い魔は愚か、並のサーヴァントを相手にしたとて直接戦闘では優位に立つだろう。
されど、戦闘におけるランサー単体の強さは『白兵戦』のみに留まる。
怪力スキルによる筋力のブーストを除けば、彼に残された攻勢の能力は純粋な近接戦闘だけなのだ。
故に複数名の軍勢を相手取れば、負けることは無いにせよ手間を掛けさせられることになる。
ランサーは一瞬のうちに『多数』を掃討する攻撃手段を持たないのだから。
無数に湧く亡者達を薙ぎ払う効果的な能力を持たぬ為、地道に潰していくだけが対処法となる。
数で攻められればそれだけ手間を取らされる羽目になるのだ。
本来それをカバーする術を持つのが『溶岩による濁流』を放つ宝具の起点となる女神ペレである。
しかし、この場に彼女は居らず――――――――



「カーっくーーーーーーーーん!!!!!!!!!!」



否――――――――いた。
どこからともなく響き渡った声に、ランサーはハッと顔を上げ。
直後にランサーの眼前を横切ったのは、鉄砲水のような『水流』だった。
集束された激流が亡霊の軍勢を押し流し、そして消滅させていく。
それは火山のように荒く猛々しいペレの溶岩とは異なり。
勇ましくも精錬された、英雄の奔流だった。
直後、ランサーの傍に一人の英霊が降り立つ。


「……どうやら、既に『彼ら』は去った後のようですね」


苦々しく呟いた新手の英霊――――セイバーを、ランサーは無言で見据えた。
それは和装を纏い、姿無き剣を握りし戦士であり。
同時に、まだ二十にも達していないような子供でもあった。
少年とも少女とも取れる風貌―――――恐らくは少女。
そういった風貌が、あどけなさを更に強調しており。
されど、芯の通った真っ直ぐな眼差しと凛とした佇まいは間違いなく英雄のそれだった。


「未だ生き残っている亡者達もいますか」


次の瞬間。
水流の射程から辛うじて逃れた亡者達が、再び武器を構えた。
現れたセイバーを切り伏せんと、一斉に迫る。



「しかし――――――『貴方達など、恐るるに足りない』」



セイバーが一言。
その言葉を威圧的に呟いた瞬間。
全ての亡者達が、一瞬怯むように動きを止めた。
呪言、あるいは言霊――――言葉による古典的な呪術である。
発した言葉がそのまま呪いとしての効果を持つ。
かつて彼女は『神』に対する呪言によって祟りを受け、それが死へと繋がった。
言葉に込められた慢心は時に己へと跳ね返る。言わば諸刃の剣。
それを差し引いても確実性に乏しく、英霊相手に使うには心許ない能力だ。
しかし、それでも格の低い亡者程度ならば少なからず効力を発揮出来る。
亡者達を威圧する言葉で彼らの動きを止めることは、雑作ではない。
その隙を見逃さず、セイバーが動いた。


瞬時に薙ぎ払うように振るわれる剣。
『不可視の刃』が、セイバーの周囲を囲んでいた亡者達を切り払う。
間合いも実体も理解出来ず、両断された亡者達は崩れ落ちる。


最後の数体が、攻撃を終えた直後のセイバーへと迫った。
剣を振るった隙を狙い、握り締めた槍によって貫かんとしたのだ。
セイバーは咄嗟に身構え、それらに対処しようとした。
次の瞬間、割り込んだのは―――――ランサーだった。
セイバーと亡者達の間に立ちはだかったランサーは、槍を構え。
そして、二度の薙ぎ払いによって亡者達を切り払った。
これが最後の亡者。ナイト・マーチャー達は、完全に殲滅された。


「助かりました、槍兵の英霊よ」
「……いいや、それはこちらの台詞だ」


礼を述べられ、ランサーはそう返す。
ランサーは先程までナイト・マーチャーの掃討に手間を取らされていた。
セイバーが現れなければ、もっと手こずらされていたことだろう。
故に感謝すべきはこちらの方だとランサーは考えた。

セイバーを目にした時、ランサーは少しばかり驚いた。
このような若き乙女が『英霊』として召還されているのか、と。
ランサーにとって、女子供は守るべき民だった。
戦闘によって土地を踏み荒らされ、住処を脅かされる小さき者達だった。
彼らのような弱者を守るべく、ランサーは『ママラホエ・カナヴィ』と呼ばれる法を定めた。
目の前の英霊は、その女子供とそれほど変わらぬ年頃にさえ見えた。
だが、その精悍な出で立ちは彼女が古今東西の伝説に名を馳せた英傑であったことを示している。
先程の水流や剣術もあり、ランサーはセイバーがただの女子供ではないことは理解していた。


「して、お前は……」
「ちょっとカッくん!!私のこと無視しないでよーーーっ!!!」


前方に立つ英霊に声を掛けようとした直後。
突如背後から何者かに抱きつかれ、ランサーは情けない声を上げる。
背中に押し付けられる柔らかな感触を感じつつ、彼は振り返る。

「ペ、ペレ様……」
「ほんっっと待ちくたびれたわ!!カッくんもミーちゃんも全然帰ってこないんだから!!
 私をずーーーーっと待たせるなんてどーいうことなの!?ねーえ!!!」
「も……申し訳ございません……」
「謝ったところで『はい許します』で済ませると思ってるの!?
 し・か・も!!さっきテレビであの変な奴ら出てきたのよ!!
 あいつらアイドルの番組?を滅茶苦茶にしたのよ!!本当に許せないんだからっ!!!
 だからカッくん!!!何とかしなさい!!!!」

女神ペレは怒り心頭だった。
背後からランサーに抱き付いているとは言っても、殆ど首に手を回して締め付けているに等しい状態だ。
ペレは背伸びをしてランサーの耳元に口を近づけ、がみがみと不平の言葉を喚き散らす。
困り果てた様子のランサーを、セイバーは少々呆気に取られたように見つめていた。

「……その、宜しいですか?槍兵の英霊よ」
「あ、ああ。構わ―――――」
「カッくん!!はぐらかさない!!!」
「ぐおっ!?」

後ろからグイグイと首を揺らされる。
先程までの勇ましさとは掛け離れたその姿は、まるで我侭な主によって尻に敷かれる従者のようであり。
ランサーは何とかペレを宥めようと、言葉を発しようとする。


『道化師を逃がしたことは惜しかったが……』


しかし、直後に『三人目』の声が響いた。
ペレもランサーも、セイバーも、そちらへと視線が向く。

「何あれ」

きょとんとした顔で呟くペレ。
少し離れた地面に佇んでいたのは、小さき虫だった。
今にも風化しそうな萎びた肉体を持つ甲虫が、その場にいた三人へと目を向ける。
フンコロガシ――――否、スカラベである。
かつて太陽の動きを司る存在として崇められ、ミイラとして保護された神の化身。
多くのものは時の流れと共に肉体が風化したものの、此処にいるのはキャスターの使い魔。
ただのミイラに非ず。魔力で肉体を構成された異常の存在だ。
その乾ききった風貌から、それがキャスターの使い魔であるということが二人には解る。
いつから其処にいたのか。最初から戦闘を監視していたのか。
あるいは、ランサーやセイバーの懐に紛れ込んでいたのか。
答えは解らないが、確かなことは一つ。


『我らが揃ったことは、良しとしよう』


道化師が去りし後。
この場に三騎―――そして一柱―――のサーヴァントが集ったということだ。



【深山町/1日目 午後】
【ジョーカー@ダークナイト】
[状態] 健康
[装備] 拳銃、鉄パイプ、その他色々
[道具] 442プロ主催クリスマスライブのチラシ
[令呪] 残り三画
[所持金] 二百万円前後。
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を自分好みに“演出”する。
[備考]
1.聖夜に最高のパーティを。

【バーサーカー(フォークロア)@民間伝承】
[状態] 魔力消費(小)
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:(ジョーカーに準ずる)
[備考]
1.(ジョーカーに準ずる)
※廃ビルの怨霊が、バーサーカー(フォークロア)の能力によって『再現』されました。
かつてセイバー(源頼政(猪隼太) )に倒された霊的な存在の、コピーのようなものです。
その影響で、北条加蓮の『症状』も再発しています。




◆◆◆◆




『我々はあの道化師を討つ。その為に同盟を結ぶ』



冬木大橋の真下、歩道の目立たぬ位置にて。
スカラベ――正確にはそれを模したミイラ――が、念話で告げる。
使い魔を介し、キャスターは淡々と言葉を述べる。
周辺に人がいないことは既に使い魔で確認済み、とのことだ。
この場に居る面々は二騎の英霊。一匹の使い魔。一柱の神。そして、一人のマスターだ。
セイバーのサーヴァント、小碓媛命。
ランサーのサーヴァント、カメハメハ一世。
彼が召還した女神、ペレ。
ランサーのマスター、直樹美紀
そしてスカラベの使い魔を端末に場を仕切るキャスターのサーヴァント、アヌビスだ。

『我は使い魔を使役し、可能な限り奴らの情報を集める。
 戦闘においては其方らの力を借りたい。我も情報は可能な限り提供する。
 そして、この「同盟」は道化師の主従、獣の主従を討伐するまでの関係である。
 それ以降の共闘は強要しない。だが、必要とあらば再び集い、今後の関係について論議することも構わぬ』

黙々と同盟の内容を語るスカラベを、英霊達は見据える。
ランサーは決して警戒を解かず、威風堂々とした態度を貫き。
セイバーはただ無言で見つめ、相手の言葉を咀嚼し。
ペレはつまらなそうにランサーに寄り添い、彼の髪の毛を無言でわしゃわしゃと弄っている。

『……奴らは討たねばならぬ。特に道化師の主従だ。
 奴らは噂を具現化する能力を持つ。特に厄介なのは「死ねずの呪い」。
 死者を動かし、生ける屍へと変える呪いだ』
「ちょっと、待って下さい!それって……!」

それまで黙り込んでいた美紀が、唐突に声を上げた。
先程まで暗い影を落としていた表情は、驚愕のそれへと変わっており。
だが、沈黙と共に冷静さを少しだけ取り戻したのか。

「……いえ、何でもありません」

美紀は再び顔を俯かせ、その場で縮こまった。
スカラベはそんな彼女を暫しの間見つめた後、セイバーらへと向き直す。

『それで宜しいか、集いし英傑達よ』
「余は構わぬ。奴らを討つ為の盟に異論は無い」

ランサーは静かに頷いた。
くっついてくるペレを左手で優しく退かしつつ、スカラベを見下ろす。
その眼差しに込められていたのは、やはり警戒の色。
彼はキャスターを同盟者として認めてはいるが、信頼は決してしていない。
今はあくまで利用価値があるからこそ組む。それだけの関係だった。

「セイバーよ。お前も構わぬか」
「……承知しました」

セイバーは念話で早人にも連絡し、許可を取った。
先程の亡者の軍勢やランサーの証言、そして魔力の残痕からこの場に道化師の主従が現れたのは事実だと判断した。
キャスターの使い魔は確かに情報収集能力を備えている。
それを認識し、同盟を結ぶことを選択した。
決して満足な状況とは言えない。
キャスターに主導権を握られていると言ってもいい。
だが、それでもセイバー達にとって『他主従との同盟』と『情報網』は有用なものだった。
しのぶの現状の危機を排除する為にも。
そして今後、最終的な目標における道筋を精査する為にも。
今はこの同盟を『利用』することが必要だと判断した。


「ていうかさ」


そんな中、女神ペレが言葉を挟む。
如何にも不愉快そうな表情でスカラベを見下ろしており。

「貴方、何?いきなり現れてペラペラ急に仕切っちゃって」
「ペレ様、彼奴は我が同盟者で―――――」
「何か気に食わないわ、貴方」

露骨に機嫌を悪くした様子のペレに、ランサーは少し驚かされる。
確かにペレは気まぐれで怒りっぽい性格だ。
だが、今回は何か、不自然な怒り方だった。

『気に障ったならば謝罪しよう。然れど、あくまで我らは同盟者として』
「なんか、生臭い」
『……何?』
「偉ぶって取り繕ってるくせに、臭いのよ。血肉の通った臭い。ていうか生臭い」
「ペレ様、何を……」
『不満があるのならば、対処させて頂くが』
「気に食わないわ、そいつ」

突然の言葉に、キャスターも言葉を失う。
苛立ちを隠そうともしないペレを、ランサーは何も言えずに見つめていた。
明らかに憤っている。明確に苛立っている。
だが、その理由は『生臭いから』というのだ。
一体彼女は何を言っているのか。
少しばかり引っ掛かるような感覚を覚えるも、そこにセイバーが割り込む。

「その、貴女の名を聞きそびれていましたね」
「はい?そういえばそうね!私はペレよ。女神ペレ」
「成る程……では女神殿、此処は抑えて頂けませんか」
「何でよ」
「今は、彼らへの対処が先決です。貴女にとっても彼らの所業は許し難いのでしょう」
「……ええ、そうよ。許し難いわ!あの『人食い』とか言う奴らだってそうよ!!」
「そうです。ですので、今はその為に力を合わせねばなりません。
 此処は怒りを鞘に納め、共に協力をして頂けませんか」
「うーん、それもそうね……解ったわ!!」

セイバーが宥めたことでペレが何とか機嫌を戻した。
そのことにランサーが安堵し、「かたじけない」と一言礼を述べた。
セイバーもまた謙虚に礼を返す。
ランサーは彼女について、まだ詳しい素性は知らない。
どのような英霊なのか。どのような存在なのか。
そのことに関して、一度交戦したに等しいキャスター以上に把握していないのだ。
だが、この短い関わりの中で解ったことはある。
彼女は間違いなく、善性の英雄であるということだ。
それ故に少しは信頼出来るかもしれない。
だが、かといって油断しきるつもりもない――――これは聖杯戦争。
聖杯を求める主従である以上、いずれ敵対することになるのだから。

ランサーは、視線の向きを変える。
己の主たる美紀の姿を見つめたのだ。
彼女は少し離れた地点に座り込んでいた。
その表情は暗く、俯いている。
地べたに座ることさえ意に介さず、ショックを受けていた。
あの道化師との邂逅を経て、彼女は恐怖に囚われている。
何があったのか。何をされたのか。
ランサーはそれを把握出来ていない。
だが、道化師達との邂逅によって美紀はあれだけの衝撃を受けているということも確かだった。
そして――――――キャスターが告げた『死ねずの呪い』の話もまた、彼女に衝撃を与えたのだろう。
それは彼女の世界での出来事。死したものが屍のまま動き、人々を襲うという異常。
美紀はそれを覆し、元の平穏な世界を取り戻したいと願っている。
そんな中、死の呪いの脅威が再び迫ったのだ。

やはり一刻も早く倒さねばならない。
道化師の存在は民のみならず、マスターを危険に晒す。
野放しにし続ければ、更に被害が拡大し続ける。
『人食い』もそうだ。ペレの証言によれば、奴はテレビの生放送番組の収録現場にも現れたというのだ。
奴らもまた積極的な行動を起こしている。故に止めなければならない。
必ず誅罰を加える。だが――――決して、油断はしない。
キャスターも警戒すべき存在だ。
心を許すつもりも、完全に信頼を置くつもりも無い。
もしも彼が不穏な動きを見せた場合には、容赦はしない。
拳を固く握りしめ、ランサーは決意した。

決意を固めるのは、セイバーも同様だ。
彼女と主の最終的な目的は川尻しのぶの願いを阻止し、尚かつ悪人に聖杯が渡るのを阻止すること。
その過程で『川尻しのぶの平穏を脅かす脅威を取り除くこと』も必要となる。
あくまで早人が守ろうとしているのは川尻家の平穏な日常なのだから。
その為に目先の脅威である討伐主従を討つのは必要だと考えた。
そして、同時に自らの足による情報収集には限界がある。
これから情報を掻き集め、精査していく過程で、情報網となるキャスターの存在は大きいと判断した。
キャスターも己を利用しようと考えているのだろう。
気高い英雄と見えるランサーとて、最終的には争うことになるかもしれない。
セイバーは現状を咀嚼し、今後の立ち回りについて考えていく。


『では、これより我々は……力を合わせる。
 あの外道共を討つべく、共闘していくのだ』


そして、魔術師が告げる。
三騎の英霊の共闘を、宣言する。
誅罰の三英雄――――――――盟は此処に結ばれり。





【深山町 海浜公園/1日目 午後】
【セイバー(小碓媛命)@古事記・日本書紀等】
[状態]健康、偽臣の書によりステータス低下
[令呪]
[装備] 天叢雲剣(くさなぎのつるぎ)、袋に秘せられし燧石(やいづのかえしび)
[道具]普段着(しのぶから拝借)
[思考・状況]
基本行動方針:仮のマスターである川尻早人に従う
1.現状を咀嚼し、今後の立ち回りについて考える。早人にも連絡し、情報を伝える。
2.情報収集と探索を続ける。立ち回りが重要となってくるので、早人君にも覚悟のほどを確認しておきたい。
[備考]
※『テレビ局が何者かの襲撃を受けたらしい』と知りました
※キャスター(パトリキウス)が放った妖精のうち、一匹(ケットシー)を察知しました
※ランサー(カメハメハ一世)、キャスター(アヌビス)と一時的な同盟を結びました。


【直樹 美紀@がっこうぐらし!(原作)】
[状態]健康、精神的疲労(大)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]財布や携帯電話などの日用品
[所持金]一般的な学生並
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、元の平和な世界を取り戻す。
1.ジョーカーへの多大な恐怖。今はとにかく、怖い。
2.胡桃への心配。
3.他のマスターのことは……
[備考]
※参戦時期は単行本6巻、第33話『ひみつ』終了時点です。
そのため元の世界での胡桃の異変を知っています。

【ランサー(カメハメハ一世)@史実(19世紀ハワイ)】
[状態]健康
[令呪]
[装備]無銘・槍
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターを守り抜く。
1.無辜の人々を脅かす『道化師』と『人食い』は倒す。
2.情報を咀嚼し、他の参加者の動きにも注意を払う。
3.キャスター(アヌビス)との契約は守るが、民間人に危害を加えた場合はその限りではない。
[備考]
※キャスター(アヌビス)と不可侵の同盟を結びました。内容は以下の通りです。
1.ランサーはキャスターに手を出さない。不利益となる行動も取らない。
2.その代わりキャスターは偵察の使い魔によって得られた情報をランサーに提供する。
※キャスター(アヌビス)からジョーカー主従、滝澤主従の犯行に関する情報を得ました。
※セイバー(小碓媛命)と一時的な同盟を結びました。

【女神ペレ@ハワイ神話】
[状態]健康、怒り(激)
[装備]なし
[道具]なし
[思考・状況]
基本行動方針:カッくんを手伝う。
1.よく解らないけど、道化師や人食いとやらは許さない。
2.442プロのライブが気になる。
3.アイドルたちの生放送を襲撃した何者かは絶対に許さない。
4.キャスター(アヌビス)が何となく気に食わない。
※サーヴァントと同様、ある程度の魔力察知と霊体化は出来るようです。



◆◆◆◆




マスターとなった者がサーヴァントを失い、そのまま聖杯戦争が終結した場合。
その者が最終的にどうなるのか、その知識はサーヴァントにすら与えられていない。
もしかすれば、そのまま元の世界へと送還されるかもしれない。
それは裏を返せば『サーヴァントのみを倒せばマスターを殺さずに済む』ということにもなる。
あるいは、この異界と共に『処分』される可能性も否定は出来ない。
それが正しいとすれば『聖杯戦争に勝つことは他の誰かを殺すことである』という解釈は嘘ではなくなる。
または処分されることは無くとも、元の世界への帰還が果たせなくなるのも有り得る。
その場合は直接の殺人ではなくとも、間接的にその者の人生を『殺す』ようなものだ。

『現世』と『冥界』を繋ぐ神として、キャスターは己の所見を心中で述べる。
サーヴァントのみを倒し、マスターは生かしたとして。
聖杯を取ることも出来ずに最後まで『取り残された』者は、恐らく助からない。

この世界は間違いなく『本物』だ。
冬木市に暮らす人々も抜け殻の偽物ではない。
彼らは存在を形作る要素――――魂(バー)を間違いなく備えているからだ。
スキル『死の守人』が正常に機能している時点でそれは明白である。
しかしこの聖杯戦争の『舞台』は極めて不安定な構造となっている。
本来ならば交わることの無い無数の異界。あるいは平行世界。
それらを一つの可能性に集束させ、世界を強引に『構築』し『観測』している。
その影響が噂話だ。本来ならば此処にあるはずのない事象が人々の記憶に刷り込まれ、噂として流れている。
このような様相も聖杯の奇跡による力なのだろう。あるいは、『監督役』とやらが何か細工をしているのか。
ともあれ、この『世界』の歪さは見て取れる。
言うなれば、バラバラの石を無理矢理繋ぎ合わせて作り出した奇怪な神殿。
何とか『カタチ』を保っているが、それも時間の問題。
聖杯戦争が終結する頃には――――――恐らく、全てが崩れ去る。
聖杯が役目を終えれば、世界は瞬く間に『終焉』を迎えるだろう。
それに巻き込まれれば最後、其処にいる者達は異界の崩壊と共に消え失せるだろう。
転じて、マスターに刷り込まれていると見られる『聖杯戦争で生き残れるのは一組だけ』という認識もそれに基づくものなのではないか。

これはあくまで冥界の神としての仮説だ。
完璧な推察とは言い切れないかもしれない。
されど、キャスターは己の推測をただの空論とも思わない。
少なくとも聖杯戦争の真実に至る一つのピースには成り得ると考えていた。

さて。
同盟は滞りなく進んだ。
セイバー、ランサーとの三騎の同盟は討伐令の主従を打倒するまでの関係となっている。
されどキャスターは先に結んだ『ランサーとの同盟を無効にする』とも告げていない。
故にこの関係が無効になると同時にランサーと共謀し、セイバーを潰すことも可能である。
あるいは、ランサーと共謀するように振るまい―――――その裏でセイバーとの潰し合いを演じさせることも、不可能ではない。
上手く行けば強豪のランサーを排除し、更にセイバーも脱落させ、己のみが漁父の利を得ることも出来る。
とはいえ三騎士達、特にあの『知将』を相手に知恵比べをするのはリスクは大きい。
実行に移すとすれば、好機だと判断した時。もしくは、余程追い込まれた時のみだ。

それ以外に、別の問題が一つある。
先程考察した『聖杯戦争の敗者の行く末』に繋がる問題だ。
キャスターは己の主たる胡桃を横目で見る。
道化師を取り逃がした、という報告を聞いてから少々機嫌を悪くしているらしい。
そのことは悔やんでも仕方無い。
今は同盟者達と連携をし、今後の討伐に繋げていくだけだ。
目先の問題は、やはりランサーのマスターである。

胡桃の動向は常に把握している。
故にあのランサーのマスター――――美紀という少女が、胡桃と親しいことも解っている。
『死ねずの呪い』について反応したことから、やはり胡桃と同じ世界から来ているのも確かだ。
あの美紀という少女は、平行世界の人間ではない。恐らく胡桃が知る美紀本人だ。
彼女は敵だ。少なくとも、聖杯戦争においては。
だが、それはつまり胡桃が彼女と争わなければならないことを意味する。
その場合、どうするか。
己の仮説が正しければ、例えランサーのみを脱落させたとしても美紀は生きて帰れない。
それを受け入れられるほど、胡桃の心が強いかと聞かれれば。
答えは否、と言わざるを得ない。

(友垣が競うべき敵として喚ばれているとは、因果なものよ……)

胡桃には美紀がマスターであることを話していない。
さて、この場合どうするべきか。
美紀がマスターであることを秘匿したまま、秘密裏に排除するか。
あるいは美紀が胡桃と共に生還出来る道を探すか。
いっそ、堂々と美紀が敵であることを伝えるか。
美紀の命を奪う上で彼女の冥福を約束し、それを胡桃に納得して貰うか。
キャスターは黙々と思考を重ねる。



『なんか、生臭い』
『偉ぶって取り繕ってるくせに、臭いのよ。血肉の通った臭い。ていうか生臭い』
『気に食わないわ、そいつ』



脳裏をちらつくのは、あの『女神』の言葉。
美紀の従者たるランサー、その使い魔と思わしき存在が滲ませた不快感。
キャスターは己の顔―――――仮面の下で、無意識のうちに眉を顰めた。


【深山町 町外れの森(岩窟簿)/1日目 午後】
【恵飛須沢 胡桃@がっこうぐらし!(原作)】
[状態]健康?、精神的疲労(小)
[令呪]残り3画
[装備]なし
[道具]スコップ(当然のように背負っている)、財布や携帯電話などの日用品
[所持金]一般的な学生並
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、元の平和な世界を取り戻す。
1.道化師の主従を止める。『死人が動く感染症』の惨劇再現はやらせない。
2.他のマスターのことは……なんとか、割り切る。割り切らなくちゃ。
[備考]
※川尻早人と面識を得ました。
※ジョーカー主従が『噂を現実にする力』を持つことを知りました。
※直樹美紀がマスターであるとは未だ認識していません。

【キャスター(アヌビス)@エジプト神話】
[状態]健康、魔力潤沢
[令呪]
[装備]ウアス
[道具]仮面を覆い隠す為の布
[思考・状況]
基本行動方針:異教の概念を淘汰し、古代エジプトの信仰を蘇らせる。
1.道化師の主従、人食いの主従を止める。特に道化師は絶対に止める。
2.使い魔を用いて偵察。ランサー(カメハメハ)やセイバー(小碓媛命)に定期的に情報を提供する。
3.今後の為にランサー(カメハメハ)への対策も考える。
4.マスターに美紀のことを話すか、否か。そして、どう対処するか。
5.女神ペレに仄かな不快感。
[備考]
※大きなカラス(ベンディゲイドブランの使い魔)の出現を受け、小鳥のミイラの使用を取りやめました。
 サーヴァントの誰かが放った使い魔だという所までは理解しましたが、相手の正体までは見抜けていません。
※陣地は中心となる岩窟墓を起点に、少しずつ『森』全体へと広がっています。
※胡桃の動向を使い魔で追っていた為、美紀が胡桃の知り合いであることも把握しています。




◆◆◆◆



「あの、ママ」
「早人、急にどうしたのよ」
「いや、ちょっとね。お腹痛くなったから、落ち着いてきた」
「大丈夫なの?」
「心配しないで、もう大丈夫だから」
「ふうん、ならいいけど……」

昼食の場に早人が戻ってきた。
十数分前、早人は突然驚いた様子を見せて席を立った。
「ごめん、少し待ってて」と慌てた様子で自室に戻っていった息子を、しのぶはただ見送ることしか出来なかった。
普段ならば、早人のちょっとしたことなど気にも留めなかっただろう。
しかし、何か、違和感があった。
しのぶの心の奥底に、引っ掛かるものがあった。

「……ねえ、早人」
「何?」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。急にどうしたのママ」

しのぶは返事を返さなかった。
歯切れの悪い蟠りを胸に抱えたまま、考え込む。
最近、変化があった。
聖杯戦争とやらのために突然現れた『おうすちゃん』。
街に突如として現れた『殺人鬼』による連続殺人事件。
そして、時折見せる早人の『奇妙な動き』。
早人はあくまで隠し通しているつもりなのかもしれない。
だが、常に早人を傍で見ている母の目を完全には誤摩化せなかった。
同時に、しのぶにはこういった出来事に憶えがあった。

夫が姿を消す少し前。
あの時、しのぶの周囲を取り巻く何かが変わっていた。
退屈だった夫は豹変し、刺激的な行動を繰り返すようになった。
それ以来早人が不審な動きを起こすようになった。
『猫の死体を埋めた時の一件』など、奇怪な出来事も起こるようになった。
そして『吉良吉影』という『殺人鬼』の轢死事件。
それと同時に消えた夫……。
しのぶは杜王町での奇妙な体験を忘れる筈が無かった。
何が起こっているのかは解らない。
だが、確実に周囲に何らかの変化が起きている。
一度あの体験をしたしのぶが、それに感付かぬ筈が無かった。
冬木での出来事は、杜王での出来事と似たような臭いがする。
しのぶはそれが、どうしても引っ掛かっていた。

同時に早人も、考え込んでいた。
突如現れたキャスターのことに関して、思考していた。
あの使い魔は自分の懐に忍び込んでいた。
一体いつ。どのタイミングで。
その時脳裏を過った人物が、一人。


(『恵飛須沢』……『胡桃』……)


あの時、『死体が動く噂』に過剰なまでの反応を見せた少女。
彼女の姿が先程からちらついている。
スタンド使いはスタンド使いと引かれ合う、というのなら。
マスターもまた、そうではないのか。
そして、あのキャスターは―――――――。


【深山町 川尻家/1日目 午後】
【川尻しのぶ@ジョジョの奇妙な冒険 第四部】
[状態]健康
[令呪]残り二画(表示されていない)
[装備]求人情報
[道具]なし
[所持金]向こう数日の生活費
[思考・状況]
基本行動方針:願いが叶えばいいなぁと思っているけれど、かなり話半分
1.スポーツクラブ近くのケーキ屋のアルバイトに募集しに行く
2.ちゃんとしたパートも見つけたい。バイトと平行してスポーツクラブ併設の売店を下見する
3.早人とセイバー、そして現状にぼんやりと違和感
[備考]
令呪を1画使用しています。
早人へのマスター権の譲渡に伴い、令呪は見えなくなり、使えなくなっています。
サーヴァント召喚時に起こった何らかのトラブルにより、マスターに与えられるはずの知識がありません。
聖杯戦争についてセイバーから断片的な説明を受けていますが、正確には把握しきれていません。
どうやら何かゲームで争うらしい、勝てば願いが叶うらしい、家に間借りする必要があるらしい、程度の理解です。

【川尻早人@ジョジョの奇妙な冒険 第四部】
[状態]健康
[令呪]――
[装備]なし
[道具]偽臣の書、ハンディカメラ、鞄
[所持金]小学生にしてはやや余裕がある程度
[思考・状況]
基本行動方針:母の願いが叶う展開を阻止する。同時に、悪の手に聖杯が渡るのも阻止する。
1.セイバーの帰還を待つ。危機が迫れば迷わず念話で連絡。
2.胡桃とキャスター(アヌビス)に違和感。
[備考]
恵飛須沢胡桃と面識を得ました。聖杯戦争関係者である可能性を疑っています。
※今現在の冬木市で流行っている『怪しい噂』をいくつか、級友たちから聞きました。
 『廃ビルの幽霊話』『死んでも動く感染症の話』の他にも、噂を聞いている可能性があります。
※ランサー(カメハメハ一世)、キャスター(アヌビス)との同盟を認識しました。


時系列順


投下順


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:小碓媛命は■をした セイバー(小碓媛命)
川尻しのぶ

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:錆びつく世界を、スキップでかけて 直樹美紀 :[[]]
セイバー(カメハメハ一世)
Hurt Voice 女神ペレ

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キャスター(アヌビス)

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バーサーカー(フォークロア)

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最終更新:2017年06月05日 11:14