#38 - (2010/04/14 (水) 14:35:25) の1つ前との変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*#38 結末は君との別れ
「やっぱ、あたいのゴトラタンが菊池を焦らせたのよねー」
「いーや、勝負を決めたのは緑のカードさ」
帰り道、俺と煉は土手を歩いた。
吐いた白い息が過ぎて行き、俺は思い出したかのようにコートのポケットからあるものを取り出した。
「はい」
「何?…スリーブ?」
俺が煉に手渡したスリーブは、今日の優勝賞品だったものだ。
「あたいに?いいよ。一が使いなよ」
「いや、二人で勝ち取った勝利さ。やるよ」
「あ、じゃあさ、こういうのどう?半分にすんの」
そう言って煉はスリーブを袋から出して半分俺に返す。
「ばっか。それじゃ使えないだろ?」
「いいの!今日の記念なんだから!文句言わない!」
そんなことを言いながら、煉はスキップで俺の前を歩いた。
×××
その日の夜、街の農家が火事になった。火の手は弱まらず、隣接する数件のマンションをその炎で飲み込んだ。
信一郎から電話を受けた俺は、一目散に病院に向かった。焼けたマンションには煉が住んでいのだ。
「面会はご遠慮願います」
俺は止められ、待つことになった。
だが、それも数日で限界だった。俺は担当医の制止を押し切り、煉の病室に踏み込んだ。
「コラ、君。面会謝絶だぞ?」
扉を開けた途端、煉が俺にそう言った。
見たところ、悪いところはなさそうだ。
「なーに?そんなに焦っちゃって」
安心で肩を落とす俺を見て、煉はクスクスと笑って頬杖をついた。
「…そうだな」
「あたいはどこにも行かない」
笑い返す俺に、煉は言った。
心なしか、声が震えている?
「煉…?」
煉は笑った。どこか痛々しい笑顔だった。
しかし、以前と変わらない煉の姿に俺はほっとした。
「また、一緒にガンダムウォーのてっぺん…目指そう」
「てっぺん…かぁ。無…理かな」
煉はそっと白衣を右肩から脱ぎ、腕に巻かれた包帯を見せる。
俺はわけがわからず、ただ立ち尽くした。
煉は無言でその包帯を取っていく…。
そうして現れた、焼け爛れた赤黒い皮膚。”それ”は胸まで続き、まだところどころ血が滲み、歪んだ皮膚を濡らしていた。
「っ…!」
ひどい顔だったと思う。
しかし、押さえられなかった。悲しみ、怒り…?
わからない感情に、俺は顔を歪めた。
俺の沈黙は煉にとって、無理と宣告されたに等しいものだったのだろうか…。
今思えば、ここが分かれ道だったのかもしれない。
ここで俺が無理だと認めなければ、ここで俺が彼女を守ると約束すれば、いや、俺が愛しているとちゃんと伝えれば…。
全ては過去。忘却の彼方に忘れられようことはなく、俺の胸に深い傷として残る過去だ。
煉は一人暮らしだったこともあり、遠くに住む親戚の家で養生することになったらしい。
最後の日、彼女は俺に口付けをした後こう言った。
「さようなら」
と。
残された俺は、半分だけ残されたスリーブと彼女の唇の感触の冷たさに下を向いた。
===
公旗が話し終えた空き家には静寂が流れた。
…なんて言ったらいいかわからない。
でも…なんで、なんでその彼女が…?
「でも…煉さんは、その時以来なんですか?」
武志が言った。
「いや、その2年後に…唐突に再会があったんだ」
口を開いたのは信ちゃんだった。
===
私達は煉がいなくなった後もガンダムウォーを続けた。
煉のことを忘れようとしてたんじゃなく、彼女の目標だった「てっぺん」を見るために、だ。
菊池とも最近は仲良くやってる。
「で、結局はこの様だ」
私は両手をひらひらさせた。
全国大会の足がかりはつかんだものの、そこまでだった。
世界は広い。そういうことだ。
「ふふ…はははっ」
私の後ろでハスキーな笑い声が聞こえた。
最初は私に向けられたものだとはわからずに、迷惑な奴もいるのだな、位に考えていたが…その声は私を呼んだ。
「公旗 一…まだ上を目指す気持ちがあったのだな。”同志”よ」
よく効けば聞き覚えのある声。…煉!?
私は振り返り彼女を見た。
「そう期待した顔で見るな、同志公旗。お前が知る女はすでに死んだ。いるのは”私”だけだ」
私の目の前に現れた彼女は、タバコの煙を吐きながら、俺をまっすぐ見た。
髪の色は以前の深みのある茶色ではなく、金に近い色に。
…そして何より、目つきが変わった。
「私が知る…お前ではない。なるほどそうかもしれない…ならば、お前は何者だ?」
「赤坂 煉。勝負の中にのみ存在価値を求める…ただのプレイヤーさ」
名乗った彼女の手には、すでにデッキが握られていた。
つづく
----
[[前へ>#37]] / [[SeasonTOP>あたしのガンダムウォーSeason2]] / [[次へ>#39]]
----
txt:Y256
初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:
更新日:10.04.14
----
*#38 結末は君との別れ
「やっぱ、あたいのゴトラタンが菊池を焦らせたのよねー」
「いーや、勝負を決めたのは緑のカードさ」
帰り道、俺と煉は土手を歩いた。
吐いた白い息が過ぎて行き、俺は思い出したかのようにコートのポケットからあるものを取り出した。
「はい」
「何?…スリーブ?」
俺が煉に手渡したスリーブは、今日の優勝賞品だったものだ。
「あたいに?いいよ。一が使いなよ」
「いや、二人で勝ち取った勝利さ。やるよ」
「あ、じゃあさ、こういうのどう?半分にすんの」
そう言って煉はスリーブを袋から出して半分俺に返す。
「ばっか。それじゃ使えないだろ?」
「いいの!今日の記念なんだから!文句言わない!」
そんなことを言いながら、煉はスキップで俺の前を歩いた。
×××
その日の夜、街の農家が火事になった。火の手は弱まらず、隣接する数件のマンションをその炎で飲み込んだ。
信一郎から電話を受けた俺は、一目散に病院に向かった。焼けたマンションには煉が住んでいのだ。
「面会はご遠慮願います」
俺は止められ、待つことになった。
だが、それも数日で限界だった。俺は担当医の制止を押し切り、煉の病室に踏み込んだ。
「コラ、君。面会謝絶だぞ?」
扉を開けた途端、煉が俺にそう言った。
見たところ、悪いところはなさそうだ。
「なーに?そんなに焦っちゃって」
安心で肩を落とす俺を見て、煉はクスクスと笑って頬杖をついた。
「…そうだな」
「あたいはどこにも行かない」
笑い返す俺に、煉は言った。
心なしか、声が震えている?
「煉…?」
煉は笑った。どこか痛々しい笑顔だった。
しかし、以前と変わらない煉の姿に俺はほっとした。
「また、一緒にガンダムウォーのてっぺん…目指そう」
「てっぺん…かぁ。無…理かな」
煉はそっと白衣を右肩から脱ぎ、腕に巻かれた包帯を見せる。
俺はわけがわからず、ただ立ち尽くした。
煉は無言でその包帯を取っていく…。
そうして現れた、焼け爛れた赤黒い皮膚。”それ”は胸まで続き、まだところどころ血が滲み、歪んだ皮膚を濡らしていた。
「っ…!」
ひどい顔だったと思う。
しかし、押さえられなかった。悲しみ、怒り…?
わからない感情に、俺は顔を歪めた。
俺の沈黙は煉にとって、無理と宣告されたに等しいものだったのだろうか…。
今思えば、ここが分かれ道だったのかもしれない。
ここで俺が無理だと認めなければ、ここで俺が彼女を守ると約束すれば、いや、俺が愛しているとちゃんと伝えれば…。
全ては過去。忘却の彼方に忘れられようことはなく、俺の胸に深い傷として残る過去だ。
煉は一人暮らしだったこともあり、遠くに住む親戚の家で養生することになったらしい。
最後の日、彼女は俺に口付けをした後こう言った。
「さようなら」
と。
残された俺は、半分だけ残されたスリーブと彼女の唇の感触の冷たさに下を向いた。
===
公旗が話し終えた空き家には静寂が流れた。
…なんて言ったらいいかわからない。
でも…なんで、なんでその彼女が…?
「でも…煉さんは、その時以来なんですか?」
武志が言った。
「いや、その2年後に…唐突に再会があったんだ」
口を開いたのは信ちゃんだった。
===
私達は煉がいなくなった後もガンダムウォーを続けた。
煉のことを忘れようとしてたんじゃなく、彼女の目標だった「てっぺん」を見るために、だ。
菊池とも最近は仲良くやってる。
「で、結局はこの様だ」
私は両手をひらひらさせた。
全国大会の足がかりはつかんだものの、そこまでだった。
世界は広い。そういうことだ。
「ふふ…はははっ」
私の後ろでハスキーな笑い声が聞こえた。
最初は私に向けられたものだとはわからずに、迷惑な奴もいるのだな、位に考えていたが…その声は私を呼んだ。
「公旗 一…まだ上を目指す気持ちがあったのだな。”同志”よ」
よく効けば聞き覚えのある声。…煉!?
私は振り返り彼女を見た。
「そう期待した顔で見るな、同志公旗。お前が知る女はすでに死んだ。いるのは”私”だけだ」
私の目の前に現れた彼女は、タバコの煙を吐きながら、俺をまっすぐ見た。
髪の色は以前の深みのある茶色ではなく、金に近い色に。
…そして何より、目つきが変わった。
「私が知る…お前ではない。なるほどそうかもしれない…ならば、お前は何者だ?」
「赤坂 煉。勝負の中にのみ存在価値を求める…ただのプレイヤーさ」
名乗った彼女の手には、すでにデッキが握られていた。
つづく
----
[[前へ>#37]] / [[SeasonTOP>あたしのガンダムウォーSeason2]] / [[次へ>#39]]
----
txt:Y256
初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:08.09.04
更新日:10.04.14
----
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: