ATAGUN@Wiki
#81
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#81 予選会場開場
地区予選は『ガンダムウォーツアー』で行われる大会で、上位入賞者には東京のトーナメントへの参加資格が与えられる大会らしい。
ついに迎えたその当日。
あたしと武志は信ちゃんの誘いで公旗の車で会場に向かうことになったわけで。
あたしと武志は信ちゃんの誘いで公旗の車で会場に向かうことになったわけで。
「おじゃましま~す」
あたしたちは黒塗りのドアを開け、後部座席に座る。運転席の公旗が「歓迎しよう」と言った。
いや、歓迎してくれなくていいんですけど…。
いや、歓迎してくれなくていいんですけど…。
車が発進して、外の景色が流れ始める。
朝の一仕事を終え歩くお爺ちゃんや、朝から元気な子供たちが窓越しに過ぎていく。
やっと終わった拡張工事で広くなった道路を通り、府釜駅の前を通り過ぎた。
朝の一仕事を終え歩くお爺ちゃんや、朝から元気な子供たちが窓越しに過ぎていく。
やっと終わった拡張工事で広くなった道路を通り、府釜駅の前を通り過ぎた。
少し時間がありそうだから、あたしがガンダムウォーの、ひいては白勢力に出会ったときの話をしようと思う。
×××
「ガンダムウォーって売ってる?」
あたしはカウンターに手を伸ばし、カキヨ婆に言った。
前日松岡に誘われて武志と一緒にルールを覚えたあたしは、さっそく買いに来たってわけ。
前日松岡に誘われて武志と一緒にルールを覚えたあたしは、さっそく買いに来たってわけ。
「あるよ。なんだい京子”も”買うのかい?ガンダムウォー」
「うん。”も”ってことは藤野買いに来たの?」
「そうだよ~昨日店が閉まる直前にね」
「うん。”も”ってことは藤野買いに来たの?」
「そうだよ~昨日店が閉まる直前にね」
カキヨ婆はそう言いながら、ガンダムウォーの売り場を教えてくれた。
最初に買ったパックはなんだっけかな…たしか「果てなき運命」だったと思う。
最初に買ったパックはなんだっけかな…たしか「果てなき運命」だったと思う。
出たカードはほとんど覚えてない。
覚えているのは…。
覚えているのは…。
「君、ガンダムウォーやるのかい?」
カウンターでパックを開けるあたしに、一人のおじさんが話しかけてきた。
おじさんってもそんなに年寄りでもなかったと思うけど。
おじさんってもそんなに年寄りでもなかったと思うけど。
「はい」
「好きな色は?」
「好きな色は?」
そう聞かれて、あたしは少し考えた後、「白!」と答えた。
なんで白と答えたんだか覚えてないんだけどね。きっとそういう気分だったんだよ。
なんで白と答えたんだか覚えてないんだけどね。きっとそういう気分だったんだよ。
「そうか、白か!俺もよく白デッキを使うんだ。他の全ての色の特性を持つ色、白いキャンバスのような色だ」
臭い台詞だな。と思いつつ、当時のあたしは妙に納得してた記憶がある。
ガキだったわね。
ガキだったわね。
「それじゃあ君にこのカードをあげよう。中東国の支援だ」
「ちゅうとうこくのしえん?」
「そうだ。一過性で目先のパワーしかないユニットカードなんかじゃなく、今後何年も使える基礎コマンドカードだ」
「へぇ~」
「ちゅうとうこくのしえん?」
「そうだ。一過性で目先のパワーしかないユニットカードなんかじゃなく、今後何年も使える基礎コマンドカードだ」
「へぇ~」
あたしはさぞ目を輝かせていたことだろう。
次の日に武志や松岡から白のカードを集め始めたことからも明らかだ。
次の日に武志や松岡から白のカードを集め始めたことからも明らかだ。
…これがあたしの白のキッカケ。始まりだ。
にしても、まさかここまで白を使い続けるとはね。
飽きっぽい自分にしては上出来、上出来。
飽きっぽい自分にしては上出来、上出来。
×××
気が付くと、景色はすでに街中。車の海。
四方を高い建物に囲まれた、いかにも「都会」って感じの景色。
四方を高い建物に囲まれた、いかにも「都会」って感じの景色。
「近いんですか?駐車場」
あたしは信号待ちになったところで、助手席の信ちゃんに聞いた。
都会だと駐車場なんて満足にないイメージだからね。
都会だと駐車場なんて満足にないイメージだからね。
「会場の隣に駐車場があるから大丈夫だぜ?」
信ちゃんが「あーそれなら…」と言いかけたところで、隣から武志が答えた。
そういえば去年も行ったんだっけね、武志は。
そういえば去年も行ったんだっけね、武志は。
コンクリートの壁に囲まれた駐車場に車を止め、あたしたちは会場である『伊達総合会館』に入った。
会場は確か2階のイベントホールだったはず。
入ってすぐ、昇降それぞれのエスカレーターと、それらを割るように階段があった。
会場は確か2階のイベントホールだったはず。
入ってすぐ、昇降それぞれのエスカレーターと、それらを割るように階段があった。
階段にすると結構長い距離に見える。
見上げたあたしはそんなことを思った。
見上げたあたしはそんなことを思った。
「なぁ、京子。どっちが早く上まで登れるか勝負しようぜ!」
「ハァ?ガキじゃあるまいし」
「ハァ?ガキじゃあるまいし」
唐突に武志。
呆れてあたしはエスカレーターの方を向く。
呆れてあたしはエスカレーターの方を向く。
「少年。ではその勝負、私が受けよう」
「…」
「…」
名乗り出る公旗。
呆れて声も出ないあたしは、苦笑する信ちゃんに続いてエスカレーターの手すりを掴んだ。
呆れて声も出ないあたしは、苦笑する信ちゃんに続いてエスカレーターの手すりを掴んだ。
2階は――まだ開場していないようで――人が並んでいる状態だ。
あたしらは結構早いほうみたいだ。
あたしらは結構早いほうみたいだ。
「お、来たな」
少し前から、菊池さんがするりと顔を出す。
この人は今日は別に来るとか言ってたけど、到着時刻はそんなに変わらなかったみたいね。
この人は今日は別に来るとか言ってたけど、到着時刻はそんなに変わらなかったみたいね。
「「おはようございます」」
あたしと武志は同時に頭を下げた。
信ちゃんたちと話し始めた菊池さんを尻目に、あたしは列を見渡す。
自称伊達勢の人々っぽい一団がいたり、どっかの大会で見たことあるような人もいる。
みんな今日の大会のために調整してきたんだ。ここがあたしたちの最終決戦!…なんてね。
信ちゃんたちと話し始めた菊池さんを尻目に、あたしは列を見渡す。
自称伊達勢の人々っぽい一団がいたり、どっかの大会で見たことあるような人もいる。
みんな今日の大会のために調整してきたんだ。ここがあたしたちの最終決戦!…なんてね。
「おー今日は水色っスかー。涼しげでイイッスね~」
あたしの後ろから幹夫の声がする。
しまったと思い振り返ると…案の定、あたしのデニムのスカートを下から覗き込む幹夫が。
しまったと思い振り返ると…案の定、あたしのデニムのスカートを下から覗き込む幹夫が。
「おはようッス。姐さん」
笑った幹夫を、恥ずかしいやら腹立たしいやらで”思いっきり”グーで殴った。
「何?あんたも地区予選でるの?」
「マジ?水色?」
「マジ?水色?」
眉をひそめながら、頭をさする幹夫に聞く。
あたしの横で武志が聞き返す。
あたしの横で武志が聞き返す。
「いーから!」
武志をキッと睨む。
どうしてこうもしょうもない生き物なのかしらね。
どうしてこうもしょうもない生き物なのかしらね。
「モチロンっすよ!俺のMFが大活躍!」
幹夫が人差し指を立てて言う横から、つり目の少年が顔を出す。
「ミキオ~誰と話して…ってお前はいつかの”フリーダム”じゃねーかッ!」
誰だっけか…?
あたしは6秒くらい考えてから、こいつが羽鳥炭酸だと思い出した。
あたしは6秒くらい考えてから、こいつが羽鳥炭酸だと思い出した。
「今度こそ、俺のイナクトがギッタンギッタンに…」
「待て待て、ゴッド&シャイニングが…」
「待て待て、ゴッド&シャイニングが…」
幹夫と羽鳥は口々に自分のデッキについて語りだす。
あたしは話を横に流しながら「あーうん、すごいわね」などと言っていた。
あたしは話を横に流しながら「あーうん、すごいわね」などと言っていた。
「ちょっとー!どこ行ってたのかと思えば…折角一番乗りできたのに抜かされちゃうじゃん!?」
さらにもう一人、正月に見た女の子が現れ「ホラ行くよ!」と言いながら幹夫と羽鳥を引きずっていった。
あたしは苦笑いで見送るが、彼女はあたしを軽く睨んだ。
あたしは苦笑いで見送るが、彼女はあたしを軽く睨んだ。
「なんかあいつら、昔の俺らに似てるな」
一件落着したところで武志がボソッと言った。
そこでホールの扉が開き、スタッフらしき人が現れ開場を告げた。
列の前から順に受付を済ませて中に入っていく。
列の前から順に受付を済ませて中に入っていく。
「あと何人かな?」
あたしは背伸びして前を見る。
事前に発行された受付番号を照合するだけだからあんまり時間はかかってないけど、この人数である。
少し時間を要して、やっとあと2,3人のところまでくる。
事前に発行された受付番号を照合するだけだからあんまり時間はかかってないけど、この人数である。
少し時間を要して、やっとあと2,3人のところまでくる。
そこであたしは信じられないものを目にした。
いや目にしたような気がした。
いや目にしたような気がした。
「…あ゛?」
「どうした?」
「どうした?」
あたしの口をついて悪態が出る。
なんで”あいつ”がココにいるの?
なんで”あいつ”がココにいるの?
「ちょっと先に座ってて!」
受付を終えたあたしは、武志たちにそう言ってさっきの後姿を追った。
あたしが倒して
あいつが出て行った
そのときの後姿
その後姿なんだ!
「ちょっと!」
あたしは少し大きめの声で、数歩前を歩くその後姿を呼び止めた。
あいつは立ち止まる。
あいつは立ち止まる。
「…はい?」
振り向いたそいつの顔。
忘れかけていた、あの夏の日の戦いが鮮明に蘇る。
伊賀…
忘れかけていた、あの夏の日の戦いが鮮明に蘇る。
伊賀…
「伊賀…正志」
「本田京子か?…本当に?」
「本田京子か?…本当に?」
伊賀は驚いて目を見開く。
…でも、もっと驚いたのはあたしのほうだ。
あたしが知っているあいつの顔じゃない。あたしの記憶ではもっとこう…陰険で、妙に物静かな印象だったから。
今の妙に人間臭い伊賀はまるで別人だ。
あたしが知っているあいつの顔じゃない。あたしの記憶ではもっとこう…陰険で、妙に物静かな印象だったから。
今の妙に人間臭い伊賀はまるで別人だ。
「こんなところに…何しに来たの?」
あたしは探るように口を開く。
伊賀もそれを察したように「何って…」と口を開いた。
伊賀もそれを察したように「何って…」と口を開いた。
「ガンダムウォーをしに来たのさ。”正々堂々”とね」
「せいせい…どうどう?」
「せいせい…どうどう?」
あたしはぽかんとして口を開ける。
「一時期は辞めようと思ったよ。でも…」
「でも…?」
「でも…?」
伊賀は続ける。
その瞳は真面目で、まっすぐあたしを見ていた。
その瞳は真面目で、まっすぐあたしを見ていた。
「”勝ちにそこまでの意味なんてない”そう教えてくれたのは本田京子、君だ」
嘘じゃないんだ…!
辞めないでここまで着たんだ!
辞めないでここまで着たんだ!
そう考えるとあたしは急に嬉しくなった。
「感謝する。本田京子」
最後に伊賀はそう言った。
あたしは「ううん」と首を振り「気付いたのはあんたよ」と続けた。
あたしは「ううん」と首を振り「気付いたのはあんたよ」と続けた。
「互いにベストを尽くしましょう」
「だが、当たったときは手加減はできない」
「もちろん♪」
「だが、当たったときは手加減はできない」
「もちろん♪」
そう言ってあたしたちは握手をして別れた。
つづく
txt:Y256
初出:あたしのガンダムウォー
掲載日:09.06.27
更新日:10.04.14
掲載日:09.06.27
更新日:10.04.14