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タイムカプセル」(2008/11/18 (火) 22:48:06) の最新版変更点

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*mizu0208|タイムカプセル @bg file="kyousitu.jpg" time=700 [cm] @bgm file="theH.ogg" @playse storage="se3.ogg" @texton @wait time=2000 @fadeoutse time=3000 「ね、みのる」[lr]  ちょうど四時限目の授業が終わった頃合に、背後から声がした。見計らっていたかのようなタイミングだ。[lr] 「おう、今日もぴったりだな」[lr] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=4 e=4a m=4 c=1 s=1  いつものように振り返った先には、いつもとは違うみずき。何か言いたいことでもあるのか、もじもじと指を絡めてはほどいている。[lr] 「…………」[lr]  これはどうしたものか。言葉をかけあぐねてふと視線を外せば、向こうから毒男が近づいてきていた。これから伊万里をいじりに行こうと約束していたのだ。[lr] ;;毒男(驚き)右か左に一瞬出せば良い?  が、どうやら俺とみずきが話していることに気づいたのか、ぴたりと足を止める。[r] 見る見る目に浮かんでいく涙。『うわああああん!』と泣き喚きながら、教室をばたばたと出て行った。[pcm] @fadeoutse time=1000  貸し一つ。今度の昼飯は俺の奢りになるんだろうな。溜め息を一つつくと、それに気づいたのかみずきが顔を上げた。突然、視線がばっちりと噛みあい、一瞬、空気が固まる。[lr] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=4 e=7a m=11 c=1 「あ、あのね……」[lr]  頬を赤らめ、視線を逸らす。そんな反応されたらこっちまで恥ずかしくなってくるんだが。[lr] 「な、なんだ? 何か大事な話か?」[lr] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=4 e=7a m=12 c=1 「えっと、その、ね……」[lr]  声が小さくてよく聞こえない。ひょいと耳を近づけると、それに合わせて離れるみずき。[lr] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=5 e=7a m=2 c=1 「あ、遊びに来ないっ!?」[lr]  教室中に響くような大声で、明後日に向けて答えるみずき。いや、どっち向いてるんだ。みずきの視線の先で、女子生徒が自分を指差して首をかしげている。[pcm] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=5 e=6a m=12 c=1 「珍しいな。どういう風の吹き回しだ?」[lr]  しっかりとこっちを向かせてから問うた。[lr] @ld pos=c name="mizu" wear=u pose=4 b=2 e=6a m=4 c=1 s=1 「えっと、この前新しいゲーム買ったから、みのるってばやりに来ないかなって思って」[lr]  如月家には母屋や家人に迷惑かける事も無くバカ騒ぎが出来る、みずき専用のゲーム部屋とも言うべき離れがある。[lr]  そこに直行すればみずきの両親にも会わないので、なんの気兼ねも無く遊びにいける場所の一つだ。[lr] ;↑2行追加 「お、それ良いな。ぜひ行かせてくれ」[lr]  一瞬、毒男との用事が脳裏を掠めたが、気にしないことにした。別に伊万里は逃げるものじゃない。[pcm] [mizu f="笑顔" pose=3 pos=c c=1] 「うん! じゃ、校門でね!」[lr] @cl  みずきは満開の笑みを綻ばせると、スキップしながら去っていった。[pcm] @bg2 file="kyousitu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" ;;毒男(デフォルト) 「と、こういうわけだ。悪いな」[lr]  俺が頭を下げる前に、毒男は購買のパンをぶっきらぼうに押しつけてきた。[lr] 「いつものことだろ。分かってるさ。その代わり、貸し一つ。今度はお前の奢りだぞ?」[lr] 「分かってるって。購買に二人行っても二人疲れるだけだもんな」[lr]  たまに用事があって行けないときはどちらか一方が買いにいく。友情というよりは打算的、言い表すなら腐れ縁だろうか。[pcm] 「それでさ、伊万里見なかったか?」[lr] ;;毒男(訝しげ) 「伊万里? アイツならなんか食堂のラーメンがどうとかって言ってた気がするが……」[lr] 「そ、サンキューな」[lr]  聞くと同時に俺は駆け出した。背後から何か聞こえた気がしたが、気にしない気にしない。[pcm] @bg2 file="kyousitu.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" ;;ググレ(デフォルト?) 「明日の予定についてだが、質問は受けつけない。君たちにも分かるよう、あえて俗な言い方をさせてもらおう。ググレカス。授業は終わりだ。部活なんて辞めてとっとと帰宅するように。むしろ学校来るな」[lr]  SHR(ショートホームルーム)の大ブーイングもそこそこに教室を出た俺は、さっさと校門へと向かった。[pcm] @bg file="syoukouguti.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)"  みずきとは学年が違う以上、昇降口もまた変わってくる。待ち合わせするには、昇降口は不向きなのだ。[pcm] @bg file="soto.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" [mizu f="不満" pose=2 pos=c] 「遅いー! もっと早く来るっ!」[lr] ;「悪い悪い」[lr] ; 生徒もまばらなグラウンドを抜けると、校門では既にみずきが待っていた。二月の寒空の下、マフラーを巻いて手に息を吹きかけている姿は、まさに待ち合わせだ。[lr] ;[mizu f="真顔" pose=3 pos=c] ;「じゃ、行こ?」[lr] ; 言いながら、みずきはつと腕を伸ばしてきた。……手を繋ごうということなのか?[lr] ;「いや、なんか伊万里が掃除でちょっと遅くなるみたいなんだ。もうちょっと待ってやってくれ」[lr] ; 差し出された手には気づかないフリをしてそう言った途端、みずきの表情が曇った。[pcm] ;@fadeoutbgm time=3000 ;[mizu f="怒り" pose=1 pos=c] ;「……なんで?」[lr] ;「え? だってゲームは人数が多いほうがいいだろ? だから伊万里も……」[lr] ;「誘ったの?」[lr] ;「ああ、一応……」[lr] ;@ld pos=c name="mizu" wear=u pose=1 b=4 e=7a m=9 ;「……そう」[lr] ; 俺が小さく頷くと、みずきは微妙な表情をした。[lr] ; みずきは何も言わず、そんなみずきに俺は何も言えず、居心地の悪い沈黙が流れた。増え始めた人込みから投げかけられる視線が痛い。[r] ; 移動したくなるが、待ち合わせとして伊万里に伝えたのは、この校門だ。耐えるしかなかった。[lr] ; ……。……。……。……。[pcm] ;@bgm file="theH.ogg" ;「ごめーん」[lr] ;@ld pos=l name="imar" wear=u pose=1 b=3 e=7a m=7 s=1 size=S ;;伊万里(ごめんね!) ; パタパタと足音がしたかと思うと、グラウンドの向こうにあたふたと馳せる伊万里が遠く見えた。[lr] ;「んじゃ、行くか?」[lr] ;[mizu f="不満" pose=1 pos=c b=4] ;「ん」[lr] ;@cl ; 伊万里がたどり着く前に俺とみずきは歩き始めた。[lr] ;@ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=3 e=9a m=11 t=2 ;「ちょ、ちょっと待ってよ、みのりん! なんでみずきちまでー!?」[pcm] 「まぁ、ちょっと待て」[lr] ;みずき(制服 03,8a,04,00,00,00,M 両手腰) [ld pos=c name="mizu" wear=u pose=2 b=3 e=8a m=4]  涎さえ垂らしそうだった表情を一転、頬を膨らませるみずき。『えへへ♪』も『むー』という唸り声に変わる。いつから肉食獣になったのだろうか。[pcm]  待ち人は未だ来ず。SHR(ショートホームルーム)が長引いているのだろう。[lr] 『きしゃー!』と唸り声のボルテージを上げていくうさぎ娘を撫でてなだめること二十三秒、ようやく現れた。[lr] ;みずきを右にスライドして消し 伊万里左からスライド登場して中央に 出来れば並列処理で ;伊万里(制服 01,1a,02,00,00,00,M) @cl [ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=2] 「ごめんごめん、待たせたかな?」[lr] 「待たせた」[lr] [imar f="驚き" pose=1 pos=c] 「うわ、ひどっ! そこは普通『今来たところだよ』とかフォローするところじゃないかな?」[lr] 「さて、揃ったし行くか」[lr] ;伊万里(制服 05,6a,11,00,00,02,M) [ld pos=c name="imar" wear=u pose=1 b=5 e=6a m=11 t=2] 「無視した!?」[lr]  微笑みにこやかにすっぱりと寿司を切り捨てる。歩き出すと、慌てて伊万里がついてきた。が、足音の数は足りない。[pcm] ;BGM 『craze for you』 5/11プレッシャーに差し替え 「みずき……?」[lr] ;伊万里左にスライド消し みずき右スライド登場して右に止まる ここも並列処理で @fadeoutbgm time=1000 @cl @bgm file="Pressure.ogg" ;みずき(制服 03,8b,07,00,00,00,S 片手胸に) [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=3 b=3 e=6b m=9]  振り向く。と、異様なプレッシャーが吹きつけてきた。[lr] 「……っ?」[lr] [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=3 e=2a m=11] 「……えーっと」[lr] ;伊万里左からスライド登場で左配置 ;伊万里(制服 03,2a,11,00,00,00,M)  おどおどとしながら伊万里が、声もない俺とみずきを交互に見比べている。[lr] 「みのる……」[lr]  感情はむしろ感じられない。ゆっくりと言葉を紡ぐ。[lr] 「なんで、伊万里がいる、の?」[lr] 「なんでって……」[lr]  浮気現場を差し押さえられた男の気分が、こんな感じなのだろうか。理由もよく分からないまま、とりあえず言葉を選んでゆっくりと答える。[pcm] 「だってゲームは人数が多いほうがいいだろ? だから伊万里も……」[lr] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=2 b=3 e=9b m=11] 「聞いてないよっ!」[lr] ;みずき(制服 03,5b,11,00,00,00,L 両手腰に)中央配置、一秒くらいでそのままサイズMに  気圧される。退いた一歩に気づき、愕然とする。[lr]  コイツの華奢な身体のどこからこんなプレッシャーが発せられているのだろう。信じられなかった。[lr]  知らない分からない。みずきのことが。こんなみずきは知らない。みずきは、そう、いつも俺の背後に隠れていて……。[lr]  舌が粘ついて、呂律が回らなかった。[lr] 「お前……」[lr]  さっぱり分からなかった。[lr] 「んー?」[lr]  苛立ちを隠さないトーン。ますます分からない。[pcm] 「そんなに三人で行きたくないのか? ……伊万里と喧嘩したわけでもないんだろ?」[lr] ;BGM OUT 2秒 @fadeoutbgm time=2000 ;みずき(制服 06,4a,09,00,00,00,M 両手腰) [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=2 b=6 e=4a m=9]  刹那、風のように沈黙が広がった。――まさか。[lr] @bgm file="theH.ogg" ;みずき(制服 08,7a,03,00,01,00,M 片手胸元) [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=3 b=8 e=7a m=3 s=1] 「そんなこと、ないけど……」[lr] [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=3a m=7 s=1] 「そ、そうだよ! ボクとみずきちが喧嘩なんてするわけないじゃないか!」[lr] ;伊万里(制服 02,3a,07,00,00,00,M) 「だよな……」[lr]  伊万里の援護射撃からして、疑いを挟む余地はない。[lr]  だとすると、ますます分からない。なんで三人で行きたくないんだ?[lr]  だが、俺の疑問を断ち切るようにみずきが叫んだ。[pcm] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=3 b=8 e=6a m=2 s=1] 「は、早く行くっ!」[lr] ;みずき消し @cl pos=rc [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=2a m=5 s=1]  そして立ち尽くす俺を早歩きで追い抜いてゆく。慌てて追いかける伊万里。[lr] @cl ;伊万里消し 「……何なんだ、いったい?」[lr]  呆然と立ち尽くす俺は、それしか言えなかった。[pcm] @cl @bg2 file="syoutenngai.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" [imar f="悲しみ" pose=1 pos=lc] 「みずきち、どしたの? なんか楽しくなさそうだね。悩みがあったら伊万里さまに話してみるとラクになるかもだよんぐ!?」[lr] @playse storage="ClapA@16.ogg" [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=2 e=7a m=9 s=1] [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=3 e=6a m=11 t=2] 「寿司の戯言は放っておいて、と。何かあったのか?」[lr]  デコピンで伊万里を沈めてから、俺はみずきへ向き直った。[lr] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=1 b=4 e=4a m=4]  なにやら浮かれて脳内麻薬ドバドバ風味な伊万里とは対照的に、みずきはひどくつまらなそうだった。[lr] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=1 b=8 e=9a m=9 s=1] 「ん? んんんん、そんなことないけど……」[lr] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=1 b=1 e=3a m=7] [imar f="悲しみ" pose=1 pos=lc]  首を振ったみずきの表情はやはり冴えなかった。[pcm]  どうしてだ? 俺がOKを出したときには、あんなに嬉しそうだったのに。もしかしてまた何か引き受けさせられたり……。[lr]  いやいや、と俺は険しくなりかけた表情を振り払い、別の質問をした。[lr] 「そういえば、そのゲームって難易度はどうなんだ? 俺はともかくコイツはダメだぞ?」[lr] [imar f="不満" pose=1 pos=lc] 「みのりんってばよく言うよ。みのりんだっていざとなったらボタンを出鱈目に押すくせに」[lr] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=1 b=6 e=1a m=8] 「難易度は……」[lr] ;↓原文 名人はそれにカウンターを決めるんだ、とどうした、みずき? 「お前と一緒にするな。あれは必殺技のコマンド入力だ。で、名人はそれにカウンターを決めるんだっと、どうした? みずき」[lr] [ld pos=lc name="imar" wear=u pose=1 b=1 e=1a m=10] [ld pos=rc name="mizu" wear=u pose=1 b=5 e=7a m=8] 「ん、なんでもない……」[lr]  結局、みずきの表情は浮かないままだった。 [pcm] @fadeoutbgm time=1000 @cl @bg2 file="mizuki_miti.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1500  車輪は回る。くるくる回る。みずきの押すマウンテンバイクの車輪だ。[lr]  俺たちは商店街を抜け、住宅地に入っていた。ここを抜ければすぐにでもみずきの家だ。[lr]  だが、その先頭を行く少女はこちらを振り向かない。[lr]  みずきは、俺たちの数歩前を無言で行く。あの活発なみずきがさっきから黙ったままだった。[lr]  俺は隣を歩く伊万里にそっと聞いてみた。[pcm] 「なぁ、伊万里……みずきのやつ、いったいどうしたんだ? お前、なんか心当たりないか?」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=5 s=1] 「あ、あるわけないよ! ……ボクだってあんなみずきちを見たのはじめてだよ……」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=4 s=1]  こそこそと小声で話す俺たち。伊万里もみずきのあまりの消沈っぷりにどう接していいのかわからないらしい。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=10] 「みのりんこそ、なんか言っちゃいけないこと言っちゃったんじゃないの? そもそも今日はどういう話だったのさ?」[lr] 「どうもこうもない。みずきが家にゲームしに来ないかって言ったからお前も呼んだだけだ」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=5a m=4 s=1] 「そっかぁ……、むーん……むーん……」[lr]  いきなり、伊万里は頭を抱えて何かを考えだした。[pcm] 「なんだよ。やっぱり心あたりあるのか」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=10] 「うーん……なんか引っかかる気がするんだけど……みのりんもうちょっと待っててね」[lr]  そしてそのまま数瞬考える。[wait time=500][imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=3a m=2]考えた後、笑顔で顔を上げた。[lr] @bgm file="n18.ogg" 「何か浮かんだか?」[lr] 「全然![wait time=500][playse storage="ClapA@16.ogg"][imar wear=u pose=1 pos=lc b=2 e=7a m=9 s=1] ……っひゃん!」[lr]  俺はすぐさま伊万里の額に必殺のデコピンを見舞った。[pcm] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=4 e=3a m=6] 「ひ、ひどいよ! みのりん! ボクのおでこはそんなに何度も弾いていい所じゃないよ!?」[lr] 「うるさい」[lr] @playse storage="ClapA@16.ogg" [imar wear=u pose=1 pos=lc b=2 e=7a m=9 s=1] 「あうっ![wait time=500][imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=6a m=11 t=2] ま、また弾いたぁ!」[lr]  まったくこの馬鹿は……。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=4 e=6a m=8]  向こうが黙っているなら、こっちからアクションを起こすしかないだろう。[lr]  とりあえず、まずは当たり障りのない話題から始めることにしよう。[pcm] 「あー、そういえばあれだ、伊万里。あれ、面白かったよな? ほらこないだ姉さんがさ――」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=2 e=5a m=3 s=1] 「……え!? あ、うん。そうだね!」[lr] 「だよなー! いくら弟に指摘されたからって、あの狼狽っぷりはないよなー!」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=4a m=3 s=1] 「そうだよね! あれはないない! でもかわいかったよねーって……」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=rc b=1 e=1a m=8]  いつの間にか、みずきがこちらを向いていた。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=rc b=2 e=2a m=2] 「もうすぐ、家だよっ!」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=2a m=10 s=1] 「お、おう」[lr] @cl pos=rc  振り向いたみずきはいつも通りのみずきで、少し拍子抜けしてしまう。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=1a m=2]  なんだ、機嫌が悪いと思ったのは、気のせいだったのか……。[pcm] 「伊万里」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=1a m=10] 「え、どうしたのみのりん。[wait time=500][playse storage="ClapA@16.ogg"][imar wear=u pose=1 pos=lc b=2 e=7a m=9 s=1]――あうん![wait time=500][imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=3a m=7 t=1] ま、またやったぁ! 今日だけでもう四回目だよ!?」[lr] 「うるさい。全部お前のせいだ」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=6a m=11 t=2] 「ひ、ひどいよぉ」[lr]  全ての責任を伊万里に転嫁して八つ当たりする。まったく、余計な気を揉ませやがって……。[pcm] [mizu wear=u pose=2 pos=rc b=3 e=3a m=4] 「こらっ! みのる、伊万里をいじめちゃだめ」[lr] 「苛めてない。愛情ゆえのスキンシップだ」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=2 e=2a m=10 c=1] 「あ、愛情!?」[lr]  伊万里が大げさに驚く。頬染めんな、寿司のくせに。[lr] 「おおーい。みずきちゃん」[lr]  そこで、声をかけられた。気がつくと俺たちは、みずきの家のそばにある木工場の前まで来ていた。[pcm] @fadeoutbgm time=1000 @cl @bg file="mokkou.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000 @bgm file="n19.ogg" [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=2] 「あ、玄さん! お疲れ様っ」[lr]  みずきが笑顔で手を振る。[lr]  声をかけたのは、良く日に焼けた壮年の職人さんだった。玄さんと呼ばれたその人は笑顔でこちらに近づいてくる。[lr]  みずきの実家は木工所も経営している。きっと、ここがそうなのだろう。大きな倉庫のような場所に、沢山の材木が並べられていた。[lr]  木を切る電気のこぎりの音が聞こえる。腕利きの職人がかけるかんなの滑る音が聞こえる。舞い散るかんな屑。木工所内は活気に満ち溢れていた。[pcm] 「おや、お嬢。いま帰りですかい」[lr]  そして職人さんがもう一人。首にかけたタオルで汗を拭きながら現れた。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「こんにちわ、鈴木さん。作業はかどってる?」[lr] 「はぁ、もちろんでさぁ。お嬢の為なら、わしら何でもしますからな」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=8] 「あはは、もう、調子いいねっ。……何か問題とかない? あったら何でも言ってね」[lr] 「日々順風満帆ですよ。あったとしても、とてもみずき嬢ちゃんには言えませんよ」[pcm] 「そうそう、お嬢に相談なんかしたら、わしらの仕事全部取られちまいますからな」[lr] 「そりゃそうだ。それに何より、嬢ちゃんに怪我させたとあっちゃ、わしら親方に申し訳がたちませんわ」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=1a m=2] 「そんな事、気にしなくてもいいのにー」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=8]  みずきが親しげに数人の職人さんと会話をしている。職人さんたちの表情はみんな穏やかで、みずきは愛されているのだと感じた。[pcm] 「みずきち、楽しそうだね」[lr]  伊万里が言う。[lr] 「そうだな」[lr]  俺たちは少し離れたところからそれを眺めていた。[lr]  俺は安心した。みずきはお人よしのおせっかい焼きだ。頼まれるとなんでも引き受けてしまう。[lr]  それゆえに危うい所があるのだが、この木工所の人たちはそんなみずきの性質をしっかり理解しているようだった。[pcm] @cl @bg2 file="mokkou.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000 [mizu wear=u pose=3 pos=rc b=2 e=1a m=2] 「お待たせっ! それじゃあ、行こっか」[lr]  みずきがツインテールをはためかせて戻ってくる。[lr]  いつの間にか職人さんたちはそれぞれの仕事に戻っていた。[lr] 「みずきは木工所の人たちと仲がいいんだな」[lr]  俺は何気なく聞いてみた。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=rc b=2 e=2a m=2] 「そうだよ。子供の頃からよく見に行ってたからね」[lr]  みずきは無邪気に笑う。その笑顔に一切含むところは無い。心からこちらを信じきっているからこそ出来る表情だ。[pcm] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=1a m=3] 「じゃあ、みずきちもあんなふうにがーって豪快に木を切ったりできるんだ」[lr]  伊万里も乗ってくる。大仰な身振りで真似る。[lr]  視線の先には、先ほど玄さんと呼ばれた職人さんが一抱えもある電気のこぎりで材木を切断しているところだった。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=rc b=1 e=1a m=1] 「もちろん! 一通りの作業出来るよ。こんど伊万里にも見せてあげる」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=5a m=3 s=1] 「……えっ。あ、うん、今度ね」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=5 e=6a m=4 s=1]  伊万里がしまったという顔をする。険しくなる眉間。この馬鹿……。[pcm] 「おい、伊万里」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=10 s=1] 「わかってるよぅ……失言したんだよぅ」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=4 s=1]  まったく、みずきの性格を考えてものを喋れってんだ。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=rc b=8 e=1a m=4]  みずきにそんなことを言ったら、たとえ不慣れでも無理して見せようとするに違いない。それで怪我でもさせたら大変だろう。[lr]  みずきは優しい。どんな時でも自分より他人を優先する。人の為になら、自分を省みない。故に、危うい。[pcm]  俺と伊万里はあの事故からそれを学んだはずだ。[lr]  だから、俺たちはみずきの身を案ずる。ここの人たちはそれを知っている。[lr]  けれど、学校でみずきの危うさを知っているやつは少ないのだ。[lr]  みずきは、俺たちが守らないと……。[pcm] @playse storage="Vibes08.ogg"  不意にどこからか携帯のバイブが聞こえた。反射的にポケットの携帯を探る。[lr]  ……違った。姉さんからでもかかってきたのかと思ったがどうやらそういう訳では無いらしい。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=rc b=1 e=1a m=10]  見ると、みずきでもないらしい。ふるふると首を振る。ツインテールがそれにあわせて揺れた。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=1 e=1a m=10] 「あれ……じゃ、ボクの携帯かな?」[lr]  伊万里が怪訝な顔をしてカバンを漁り始める。その間にも振動音は鳴り続ける。[lr]  カバンの底から発掘された携帯は、はたしてその音の発生源だった。[pcm] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=4a m=11] 「うー……あーんー」[lr]  携帯の画面を確認し、唸り声をあげる伊万里。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=8a m=11 t=2] 「ううう~~~」[lr]  そして、急に涙を流しはじめた。なんだなんだ? どうしたんだ、いったい。[lr] 「どうした伊万里」[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=3a m=4 t=1] 「うー……」[lr]  伊万里は言いよどむ。なんだ? 何かやましい事でもあるのだろうか?[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=rc b=2 e=3a m=3] 「んー? どうしたの? 伊万里」[lr]  みずきも疑問に感じたのか、伊万里の顔を下から覗き込む。[lr] [imar wear=u pose=1 pos=lc b=3 e=7a m=11 t=1] 「う~、みのり~ん! 遊びにいけなくなっちゃたかも~!」[pcm] @fadeoutbgm time=1500 @cl @bg2 file="trail.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=2000 @bgm file="n08.ogg" [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=2] 「伊万里、残念だったねっ!」[lr]  台詞とは裏腹に、みずきの声は弾んでいた。[lr]  俺たちは如月家の所有する山の中を進んでいた。目的地はわからない。みずきだけが知っている。[lr]  二月の山はとても冷えて寒かったけれど、首に巻かれたマフラーが風を阻んでくれた。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=1a m=8] 「でもちょうど良かったよね。結局ゲームはできなかったんだし」[lr]  そのマフラーは俺の首を包み込み、そのまま隣をいくみずきの首筋に巻きついている。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=8]  両手はそのマフラーの端を大切そうに握り締めている。顔には満面の笑みが浮かんでいた。[pcm] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=1a m=4] 「みのる、寒い?」[lr]  俺が無言でいることを怪訝に思ったのか、みずきが聞いてくる。いや、そうじゃないんだが……。[lr] 「なぁ、なんで俺たちはこんな恋人同士みたいなことしてるんだ?」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=7a m=4] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=5 e=6a m=8]  みずきは数瞬考えていたようだが、少し困ったような笑顔で聞いてくる。[lr] 「みのるは……嫌?」[lr] 「いや……」[pcm]  確かに恥ずかしい。だが、別に誰かが見ているわけではない。ここは人気の無い山の中で、みずきと俺の二人しかいないのだ。[lr]  ここに伊万里や、姉さん。それに毒男や長岡でもいようものなら全力で逃げ出すところだが、幸いにして本当に二人きりだ。[lr]  そう、二人きり――。[lr] 「嫌なわけじゃないんだが、ちょっとはずかし――」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=2] 「じゃあ気にしないっ!」[lr]  みずきはそう言って笑った。[lr]  本当に上機嫌らしく、ツインテールがぴょこぴょこ跳ねている。本当にウサギの耳のようだと思う。[pcm] @fadeoutbgm time=1500 @cl [image storage="mokkou.jpg" layer="base" page=back grayscale=true rgamma=1.3 ggamma=1.1] [backlay layer=message] [trans rule="波" time=1500] [wt] @bgm file="n19.ogg" [imar wear=u pose=1 pos=c b=3 e=7a m=11 t=1]  伊万里にかかって来た電話は母親からだったらしく、どうしても手伝って欲しい用事が出来たから至急帰ってこいというものだった。[lr]  すぐに家にかけ直した伊万里だったが、抵抗の甲斐なく『ボクもみのりんと遊びたかったよ~~』という叫びを残しながら、後ろ髪を引かれまくりで帰っていった。[lr] @cl  そしてその後、みずきの家へ向かおうとした俺たちを「おおーい、お嬢」と、先ほど鈴木さんと呼ばれていた人が呼び止めた。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=8 e=1a m=10]  そういえば、とこちらへやって来た彼が言うには、今日はどうやら地元の名士同士の会合がみずきの家であるらしい。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=5 e=7a m=7] 「あー、それじゃあ無理だねー」[lr]  みずきは困ったという顔をしながら言った。[lr] 「そんなに凄いものなのか?」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=5 e=6a m=1] 「家の前に黒塗りの車がたくさん止まってたり、私もよく知らない大人たちが大勢いてね、とてもじゃないけどお邪魔できる雰囲気じゃないと思うよ」[lr] 「黒塗りの車……もしかして田舎のお金持ちって、ヤクザのお偉いさんとあんまり変わんないじゃないか?」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=5 e=2a m=1] 「うーん、そうかもね。少なくとも車の趣味は似てるんじゃない?」[lr]  そう言って苦笑いした後、今度はにっこり笑って目の前の職人にお礼を言う。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「うん。ありがとうね、鈴木さん!」[lr] 「いやいや、礼を言われるほどのもんでもないでさぁ。にしても、お嬢。隣の兄ちゃんが例の――」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=2] 「うん、みのる」[lr] 「へぇ、君が稔君かぁ」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=8]  鈴木さんが品定めでもするかのように、上から下へ下から上へと俺を見る。[lr]  こういう風に見られることは正直気分のいいものではない。[pcm] 「あの、何か……?」[lr] 「ああ、いや、すまんねぇ。噂の稔君がどんな色男かと思ってねぇ」[lr] 「い、色男なんてとんでもないです……」[lr] 「いやいや、お嬢が君の話をよくするもんでね。今日のみのるはこうだった、ああだったってね」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=8 e=9a m=10 c=1] 「はぁ」[lr] 「あんまり楽しそうに話すから一部では――」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=3 e=1a m=11 c=1] 「すーずーきーさーん!」[lr]  唐突に、大声を上げてみずきが会話をさえぎる。[pcm] 「おっと、こりゃいけねぇ。ははは、それじゃあ邪魔なおっさんは戻りますかな」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=4 e=3a m=9 c=1]  豪快に笑って鈴木さんは木工所の方へと踵を返す。そうして去り際に、[lr] 「稔君、お嬢を頼んだよ」[lr]  と、俺にしか聞こえないような小声で言い残していった。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=5 e=6a m=4 c=1] 「もう。鈴木さんってね、ああやっていつもあたしのこと――」[lr]  そうやって文句をたれるみずきの顔は穏やかで、どこか楽しげで、本当に優しい人たちに囲まれているのだと実感した。[pcm] [mizu wear=u pose=4 pos=c b=1 e=7a m=10]  しかしそれもつかの間、みずきの家へ行くことができなくなったため、どうしたものかと思案しなければならない俺たち。[lr]  みずきも良いアイディアがすぐには思い浮かばないようで、しばらく二人で突っ立って考えをめぐらす。[lr]  やはり少し時間はかかるが、街にでも行ってゲームセンターにでも行くしかないのだろうか。[lr]  あまり良い案ではないが、そう提案しようと口を開こうとした瞬間、[wait time=500][mizu wear=u pose=3 pos=c b=8 e=1a m=1]パッと顔を上げたみずきが言い放った言葉が――。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=2] 「じゃあさ、みのる、裏山にいってみようよ!」[lr]  であった。[pcm] @fadeoutbgm time=1500 @cl @bg file="trail.jpg" rule="波" time=1500 @bgm file="n08.ogg" [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=1a m=1 c=1] 「みのる、マフラー暖かい?」[lr] 「ああ、暖かいよ」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=1 c=1] 「よかった。長いの買った甲斐があったね」[lr] 「……しかし、みずき。いきなり山に行こうだなんてどうしたんだよ。ここに何かあるのか?」[lr]  俺は少しばかり呆れ気味に聞く。[lr] ; ざく、ざく、ざく[lr]  山の景色は無味乾燥としていて、葉っぱ一枚残らない裸の木が目立つ。二人分の土を踏みしめる足音だけが聞こえる。[lr]  寒風吹き荒む景色に、曇天の空はどこか物悲しげだ。いったいこんな寂しい場所に何があるというのだろう。[lr]  俺にはわからない。[pcm] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=8 e=1a m=10 c=1] 「あれ? みのるは覚えてない?」[lr] 「何のことだよ」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=1a m=8 c=1] 「みのるは何度かここに来たことあるよ?」[lr] 「そうだったかな。覚えてないけど」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=2 c=1] 「もうすぐすれば、みのるも思い出すっ」[lr]  俺たちは荒れ果てた山道を登る。みずきのマフラーで俺たちは繋がっていた。だから二人ぴったりと並んで歩いた。[pcm] @cl @bg file="Lodge.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000  すこし開けた場所に出る。そこは森の境目で、ずいぶん長く放置されたのだろうか、変色した材木が積んである切り出し場の入り口だった。[lr]  材木の隣には小さな小屋が立っている。昔、ここが使われていた時の作業小屋だ。[lr] 「ここは……」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「みのる、思い出した?」[lr] 「ああ、そうだ。ここは確か……」[lr]  そうだ、ここは確かに何度か来たことがある。[pcm]  それは、まだ俺たちが子供の頃の記憶。[lr]  まだ内気で人見知りだったみずきが初めて俺を遊びに誘い、今のように二人だけで訪れた思い出の場所……。[lr]  いつの間にか姉さんと伊万里が加わり、4人の秘密基地みたいになってたっけ。[lr] 「そうか。タイムカプセルか」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=2] 「あったり!」[lr]  ぴょこん、とウサギの耳が跳ねる。[lr]  するするとマフラーを解くと、みずきはそれを俺に押し付け「ちょっと待ってて」という言葉を残して走っていく。[pcm] @cl  走っていく先は、うら寂れた小屋。[lr]  みずきは小屋の扉の前まで行くと、しばらくガチャガチャと物音をたて、そして扉を開き、中に入っていった。[lr]  おそらく、木工所に寄ったときにでも鍵を預かってきたのだろう。[lr]  俺はそれを見送ると周りの風景に目を移した。[pcm]  まぶたを閉じれば思い出す。これもまた小学生のころ。[lr]  俺とみずきは、それぞれ自分の宝物を持ち寄って、大きめのクッキー缶に入れてタイムカプセルとしてこの場所に埋めたのだ。[lr]  どちらが言い出した事かは忘れてしまった。忘れてしまったけれど、いつか大人になった時にそれを二人で掘り出しに来ようと誓ったのだ。[lr]  そうだ、確か埋めた場所は……。[lr] 「みのるー、ほらスコップ!」[lr] 『小屋、大きい木、そこから五歩、珍しい石』頭の中でリフレインする言葉。その言葉どおりに歩く。場所はすぐに見つかった。[pcm]  小屋から数歩も離れていない。ただ、目印の大きな木は大きな切り株になっていたし、当時珍しい石だと思っていた岩も、いま見ればどうということもない変哲もない形をしていた。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=3a m=8] 「……子供の頃の記憶って、変わっちゃうものだね」[lr]  帰ってきたみずきが言う。[lr]  まったくだ。あの頃と俺たちの関係は何も変わっちゃいないのに、周りばかりがどんどん変わっていく。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「じゃ、日が暮れて寒くならないうちに掘り出しちゃおうよ」[lr] 「ああ、そうだな」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=2] 「おっけー、おっけー! 穴掘りはあたしにまっかせなさい!」[lr]  おなじみの台詞を口にすると、みずきは勢いよく、スコップを地面に突き立てた。[pcm] @playse storage="saku04.ogg" @cl @bg2 file="Lodge.jpg" rule="縦ブラインド(左から右へ)" time=1000 [mizu wear=u pose=2 pos=c b=1 e=1a m=4] 「ふう、結構簡単に出てきたね」[lr] 「そうだな、子供の力だからな。そんなに深くまでは埋めれなかったんだろうな」[lr]  僅かに泥が付いたまま切り株の上に置かれたそれは、やはり記憶とは微妙に違う小さな金属の缶だった。縁が微妙に錆びている。[lr]  こんな薄っぺらな入れ物でよく今まで無事に埋まっていられたものだ。素直にそう思った。[pcm] 「これはこのまま持ってて、小屋の中で開けようぜ」[lr]  二月という冬場でも運動をすれば少しは汗もかく。自分はともかくとして、このままここに居ればみずきが風邪を引きかねない。[lr]  それに、俺が風邪を引いたって、どうせみずきは世話を焼きに家までくるだろう。そこでうつしてしまっては元も子もない。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「そうだね……[wait time=500][mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=4a m=8]あ、でも」[lr]  素直にうなずくかと思ったみずきは少し悪戯っぽく笑って、踵を返した。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=8] 「みのる。ちょ~っとだけ、そこで待ってて」[lr] @cl  そしてそのまま小屋まで駆けていくと、一抱えもあるやたら物騒な代物を抱えて帰ってきた。[pcm] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「はい、みのるこれ持つ! 危ないから落としちゃダメだよ」[lr] 「お、おまえこれって……」[lr]  どしり、と確かな重量が両手にのしかかる。それは作業用の機械のようだった。[lr]  ただの機械じゃない。仄かに香るガソリンと、オイルのにおい。錆びた鉄。エンジンがついていた。[lr]  そしてそこからにょっきりと生えた剣呑で、黒光りするブレード――。[lr]  こ、これは……。[pcm] 「チェ、チェーンソーじゃないか! なにすんだよ、こんなもん持ってきて!」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=2] 「みのるにあたしの特技見せてあげるっ!」[lr] 「と、特技ってお前……」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=1 e=1a m=8]  みずきは手早く、やたら厚手で丈夫そうなエプロンをかけ、手袋とゴーグルを装着した。[lr]  そして、材木置き場の方へ行くと、少し大きめの丸太を転がしてくる。それを手ごろな切り株の上に乗せた。[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「本当は音がすごいからイヤープロテクターもつけなきゃいけないんだけど、今日は持ってきてないから」[lr]  みずきは俺からチェーンソーを受け取る。[pcm] 「なんか……すげー格好だな」[lr]  俺は困惑していた。急にそんなものを持ち出したみずきの考えがわからなかった。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=2] 「大丈夫、大丈夫。あたしに任せておきなさいっ!」[lr]  そんな俺を無視して、みずきは得意そうに笑う。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=1 e=1a m=1] 「危ないから、みのるは離れててね」[lr]  そういって、エンジンスタータを一気に引っ張る。[lr]  どるんっ[lr]  低い音が鳴る。それに続き、ドッドッドッドという断続的なエンジン音が山間に響く。[pcm] 「何するつもりなんだ?」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=2] 「えへへー、ひみつ~。みのる、しっかり見ててねっ」[lr] @playse storage="chainsaw1.ogg"  みずきはそう宣誓するや否や、エンジンの回転をブレードに伝えるスイッチを入れた。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=1 e=1a m=1] @playse storage="chainsaw2.ogg"  瞬間、悲鳴のような轟音が場を満たす。みずきの操る高速で回転するブレードが丸太の端に触れた時、その音はひと際高まった。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=3 e=1a m=8]  接地点が木屑で霞む。みずきはぐっと踏み込むと、押し返されないように力を込めた。[lr]  そしてそのまま、振りぬく。ぽーんと、切断された木片が飛んでいった。[pcm]  みずきはブレードを器用に操り、丸太を寸断していく。さらに破片が飛び、粉が舞う。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=8]  その中でみずきは楽しそうにブレードを振り続けた。俺はそれを見て、まるで踊っているようだと感じる。[lr]  みずきが右にブレードを振れば、頂上部の出っ張りがあっさりと落ちる。みずきが左にブレードを捻れば、中ほどに大きな裂け目が生じた。[lr]  そして、見ているうちに、丸太が何がしかの形を取りはじめる。[lr]  最初に大まかに粗が落とされ、饅頭のような概観が見えてきた。次に、ブレードの先端を薄くあて、線が入れられる。[lr]  それに沿って、薄く表面を撫で削っていく。[pcm] @playse storage="chainsaw3.ogg" @bg file="Lodge_ev.jpg" time=1000  いつの間にか、丸太は台座の上に座った立派なウサギの彫刻にかわっていた。[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=1a m=2] 「よし、出来上がり!」[lr]  ぐいっと、ゴーグルをあげたみずきの頬には汗がにじんでいた。[lr] 「こ、これは……」[lr] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=2 e=2a m=2] 「すごいでしょ! チェーンソーカービングっていうの。チェーンソーを使って彫り物をするスポーツなんだけど、あたし最年少で大会だって出たことあるんだよ」[lr] 「た、確かに……これはすごいな」[lr]  本当にあっという間のことだった。時間にしても二十分もかかっていないだろう。その間にみずきはこのウサギの像を作り上げてしまった。[pcm] [mizu wear=u pose=2 pos=c b=1 e=3a m=8] 「でしょ? 家にある椅子だってあたしが作ったんだから」[lr]  そう胸を突き出すみずきは誇らしげだ。[lr] 「お前、昔からこんな事を?」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=8 e=1a m=10] 「そうだよ。木工所のみんなにだって、チェーンソーの取り扱いなら負けないの。新しく入ってきた人に教えてあげる事だってあるんだから」[lr]  俺はあっけに取られる。こいつ、こんな危ない事までしてたのか……。[pcm] 「みずき、お前どうでもいいけど、怪我だけはすんなよ」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=4a m=8] 「んー? なになになにぃ? みのる、あたしのこと心配してくれるの?[wait time=500][playse storage="futon.ogg"][mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=2 size=L] うれしい!」[lr]  チェーンソーを下ろし、プロテクター類を外したみずきが腕にしがみついてくる。ツインテールがまたぴょこんと跳ねた。[lr] 「ば、ちがっ……俺は前みたいな事故はごめんなだけだっ」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=8 size=L] 「んー、いいのいいの。あたしはちゃーんとわかってるから! ありがとう、みのる」[lr]  もう、みずきは俺の言葉なんか聞いちゃいない。[lr]  ひたすら笑顔で俺の腕に、その少しふくらんだ胸を押し付けてくる。[pcm] 「う、あ……」[lr]  顔面が熱をもっていくのが自分でもわかった。俺は少し乱暴な態度でみずきを振り払う。[lr] 「と、とにかく! 危ない事はするな! 以上!」[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=1 e=1a m=10]  急に引き離されたみずきはしばらく呆然としていたが、俺の顔に浮かんだ照れを理解したのか、にんまりと微笑んだ。[lr] [mizu wear=u pose=3 pos=c b=2 e=2a m=8] 「うん……わかったよ、みのる。これから気をつけるね」[lr] 「お、おう……わかったのならいいんだよ。わかったのなら……」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=1 e=1a m=1] 「それじゃ、わかったところで、そろそろ帰ろうか! ほら、お日様も沈んじゃうよ?」[lr]  言われてみれば、周りはもう一面オレンジ色の光につつまれていた。[pcm]  冬の日の入りは早い。ぼやぼやしていれば、あっという間に闇夜に包まれることだろう。[lr] 「それじゃあ帰るぞ。ほら、そのチェーンソー片付けてこいよ」[lr] [mizu wear=u pose=1 pos=c b=2 e=2a m=2] 「おっけー、おっけー! 行ってくるからすこーし待っててね」[lr] @cl  そう言い残して、みずきは駆けていく。俺はその後ろ姿を眺めながら、少し笑った。[pcm] @fadeoutbgm time=1000 @cl @bg file="black.jpg" time=1000 [jump storage="main.ks" target="*night" cond="sf.releaseMode==1"] ;[jump storage="cmmn.ks" target="*0203n"] [jump storage="scenemenu.ks"] [s]

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