昼休み。
毒男と教室の席でたむろっていると委員長がやって来た。
「藤宮君、お弁当を作ったんですけど、その、味見をしてほしいんですが……」
その言葉と同時に、毒男はスロットが回るように白目を剥いた。
「なん……だと……」
わなわな震える毒男を視界の外に追いやって、俺は快く「いいよ」と答える。
「料理を習う前に現在の状態を添削してほしいと思いまして。それじゃ屋上で」と委員長。
添削か。
委員長ってZ会とかまじめにやってそうなタイプだよな。
「そ、そう。お弁当か。いやー、藤宮君はうらやましいねえ。委員長のつくったお弁当を食べられて……おいしいおいしいお弁当……」
毒男は汗の垂れているニヤニヤ顔に変わる。
おまえ、pgrしてるのかトラウマを思い出して震えてるのかどっちだよ。
「し、しっかり味見してこいよー……フ、フフ。ちょっとトイレ行ってくる」
毒男は青い顔になって口を押さえて走り去っていった。
───そのとき
「なん……ですと……」
いきなり俺の真横に白水が。
「ああああなた、百合の、お弁当を……?」
顔の左半分は怒りによる紅潮、右半分は青ざめた色になっている。
……器用なやっちゃな
「あ、りぃちゃんも一緒に食べましょう。それじゃ先に屋上行って待ってます」
「え、えええ。百合」
白水の顔の青ざめた部分が7:3の割合までひろがった。委員長が教室から出るのを目で確認してから俺のほうを向いて肩をつかむ。
「いい、藤宮。何があっても百合の味方でいられる?」
「何があってもって……」
「百合を裏切らない?」
「裏切らないって。昨日も言ったじゃないか」
白水は瞳孔を穿つように俺の目をギロリと覗き込んだあと「……先に行ってる」と教室から出て行った。
毒男と教室の席でたむろっていると委員長がやって来た。
「藤宮君、お弁当を作ったんですけど、その、味見をしてほしいんですが……」
その言葉と同時に、毒男はスロットが回るように白目を剥いた。
「なん……だと……」
わなわな震える毒男を視界の外に追いやって、俺は快く「いいよ」と答える。
「料理を習う前に現在の状態を添削してほしいと思いまして。それじゃ屋上で」と委員長。
添削か。
委員長ってZ会とかまじめにやってそうなタイプだよな。
「そ、そう。お弁当か。いやー、藤宮君はうらやましいねえ。委員長のつくったお弁当を食べられて……おいしいおいしいお弁当……」
毒男は汗の垂れているニヤニヤ顔に変わる。
おまえ、pgrしてるのかトラウマを思い出して震えてるのかどっちだよ。
「し、しっかり味見してこいよー……フ、フフ。ちょっとトイレ行ってくる」
毒男は青い顔になって口を押さえて走り去っていった。
───そのとき
「なん……ですと……」
いきなり俺の真横に白水が。
「ああああなた、百合の、お弁当を……?」
顔の左半分は怒りによる紅潮、右半分は青ざめた色になっている。
……器用なやっちゃな
「あ、りぃちゃんも一緒に食べましょう。それじゃ先に屋上行って待ってます」
「え、えええ。百合」
白水の顔の青ざめた部分が7:3の割合までひろがった。委員長が教室から出るのを目で確認してから俺のほうを向いて肩をつかむ。
「いい、藤宮。何があっても百合の味方でいられる?」
「何があってもって……」
「百合を裏切らない?」
「裏切らないって。昨日も言ったじゃないか」
白水は瞳孔を穿つように俺の目をギロリと覗き込んだあと「……先に行ってる」と教室から出て行った。
とはいえ、昨日のチョコ味噌汁の件もあるしな。
念のため屋上の近くの便所までの距離もチェックしておかないと……。
念のため屋上の近くの便所までの距離もチェックしておかないと……。
屋上では少し不安そうな顔の委員長が弁当箱を構えていた。その横に脇侍のように白水がそそり立っている。
「あ、あの、どうぞ」
委員長が弁当のふたを開ける。
「!」
「ど、どうですか、感想は?」
委員長がオドオドとした上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
「そうだねえ……食べてみないとなんとも」
普通のコロッケとサラダとミートボールとふりかけご飯。
たいてい初心者は途中でめんどくさくなって日の丸弁当だが、委員長はしっかり弁当として仕上げている。
これは好感が持てる。
目を上げると、子犬のような上目遣いの委員長がすぐ前に。
ドキリとする。
「う、うん。外観はいいね。かなり期待できるかも」
俺はうつむいて照れ笑いする。
「───!」
ふと背後に殺気。
……脇侍の白水が仁王像のような顔を俺の背中に寄せている。
炎のような後背が立っている。
わたしいがいにゆりにでれでれするなぐちゃぐちゃいわずはやくたべろ……と耳元で小声で無限ループでささやいている。
俺はそそくさと箸を持って、まずふりかけご飯をかきこんだ。
……しばらくの間はなんともなかった。
あれ、いけるんじゃね。
次々と飲み込んでみる。すんなりのどを通る。
それにしてもなんでだ、舌に乗るたびに俺の全身がビクンと震えるのは?
わけわかんね……。
───まもなく、ロータリーエンジンのように逆回転を始める舌。
そしてようやく認識される、弁当から発せられる鋭い殺気。
その殺気が、飲み込んでしまった殺気が、口から、食道へ、胃へと送り込まれていく。
血液に流れ込み、何もできないままに俺の中枢を蝕んでいく。
「……!」
すべてを超越した味覚に口が麻痺したように動かなくなって、赤ん坊のようにご飯をこぼす俺。
「ダメですよ藤宮君。お行儀が悪いです」
委員長はさっきと同じ子犬の目で語りかける。まるで天使のようだ。
……来迎図の……。
「こ、これは白水なんか目じゃない」
弁当に殺気を感じたのは初めてだ。
「本当ですか?」
委員長の顔が驚きの顔になった。
「……いや、あの、その……水を……」
委員長は水筒を渡す
「お茶も私が作ったんですよ」
一気に飲み干す。
……ギャグ漫画のように一気にゲーと吐き出す。
「この弁当を作ったのは誰だあっ!!!!!!!」
某料理漫画の美食倶○部の親父のように俺は弁当を天にかざして叫んだ。
「わわわわ私ですう……!!!」委員長はきゅーんっとウサギのように小さくなる。
はっ、と気づく俺。
ああ、ああ、ご、ゴメンという前に、白水のチョップが俺の頭を激しく打った。
むんずと委員長の弁当を奪い取った白水は、ものすごい勢いで口の中にかきこむ。
……七色に変化する白水の顔色。
「りぃちゃん、いいですよ、そんなに無理しなくても……」
委員長が弁当を取り上げようとするが白水は離さない。食べなければ死んでやるという勢いで口内に詰め込む。
青から白へ、さらに緑に変わって土気色にまでなったころ、ついに白水は完食した。
俺から水筒もひったくって一気に飲み干す。ぶはーっ、と思い切り大きな息を吐く。
微妙に身をふらつかせながらまた仁王のように俺をにらんだ。
「よくも、よくも百合を侮辱しましたわね……」
白水は俺の胸倉をつかんだ。
「やめてください、りぃちゃん!」
委員長が白水の背中にしがみつき、やっと俺のシャツから手を離す。
「え、でも、百合……」
「りぃちゃん、全部食べてくれてありがとうございます」
「えっ……百合が、百合が、私に、ありがとう……」
委員長の声に白水は耳まで赤くなる。……そしてそのまま何かやばいものを打ってるんじゃないかと思うくらいの恍惚モードに入った。
俺は委員長に頭を下げる。
「ごめん、つい怒鳴っちゃって。俺料理のことになるとつい…熱血モードに」
「いえ、いいんですよ。まずいものはまずいとちゃんと言ってくれたほうが、添削とはそういうものですし」
ああ、まじめだなあ。
俺なんかそういうのが嫌で通信添削はスルー。進研ゼミはパンフとともにタダで漫画をくれる会社、Z会はくれない方の会社というふうにしか思ってない。
自分の短所を金払ってまでグサグサあげつらわれるなんて耐えられない。えらいなあ……だから秀才なんだろうけど。
委員長は弁当を眺めながら、「どこが良くなかったですか?」と俺に訊いた。
「うーん……」
殺気が感じられる、なんていったら白水に何されるか。
「もう少し味をマイルドに、まったりとしてやわらかく、それでいてしつこくなく……って感じで。各材料の味が濃すぎてキリングアンドアグレッシブなテイストなんだよね」
よし、うまく英語でごまかせた。
委員長はまじめにメモを取っている。「キリング、アンド、アグレッシブ……」
「具体的には調味料の量が味覚神経に損傷を与えるほどきわめて多い。もっと減らしたほうが各素材を生かせるよ、それから……」
俺の次々に指摘・添削する言葉を聞きながら委員長は図まで描いて美しいメモ帳を作成している。
「……以上おわり」
必死に言葉を選びながらたくさんの指摘を終えると、委員長は
「ありがとうございます。今日からずっと特訓しますのでまた明日もお願いします」とお辞儀をした。
明日も!
あし……たも……
俺は明日もという言葉に青ざめながら「そ、そうか……頼むよ。ぜひ」と返事をした。
「あ、あの、どうぞ」
委員長が弁当のふたを開ける。
「!」
「ど、どうですか、感想は?」
委員長がオドオドとした上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。
「そうだねえ……食べてみないとなんとも」
普通のコロッケとサラダとミートボールとふりかけご飯。
たいてい初心者は途中でめんどくさくなって日の丸弁当だが、委員長はしっかり弁当として仕上げている。
これは好感が持てる。
目を上げると、子犬のような上目遣いの委員長がすぐ前に。
ドキリとする。
「う、うん。外観はいいね。かなり期待できるかも」
俺はうつむいて照れ笑いする。
「───!」
ふと背後に殺気。
……脇侍の白水が仁王像のような顔を俺の背中に寄せている。
炎のような後背が立っている。
わたしいがいにゆりにでれでれするなぐちゃぐちゃいわずはやくたべろ……と耳元で小声で無限ループでささやいている。
俺はそそくさと箸を持って、まずふりかけご飯をかきこんだ。
……しばらくの間はなんともなかった。
あれ、いけるんじゃね。
次々と飲み込んでみる。すんなりのどを通る。
それにしてもなんでだ、舌に乗るたびに俺の全身がビクンと震えるのは?
わけわかんね……。
───まもなく、ロータリーエンジンのように逆回転を始める舌。
そしてようやく認識される、弁当から発せられる鋭い殺気。
その殺気が、飲み込んでしまった殺気が、口から、食道へ、胃へと送り込まれていく。
血液に流れ込み、何もできないままに俺の中枢を蝕んでいく。
「……!」
すべてを超越した味覚に口が麻痺したように動かなくなって、赤ん坊のようにご飯をこぼす俺。
「ダメですよ藤宮君。お行儀が悪いです」
委員長はさっきと同じ子犬の目で語りかける。まるで天使のようだ。
……来迎図の……。
「こ、これは白水なんか目じゃない」
弁当に殺気を感じたのは初めてだ。
「本当ですか?」
委員長の顔が驚きの顔になった。
「……いや、あの、その……水を……」
委員長は水筒を渡す
「お茶も私が作ったんですよ」
一気に飲み干す。
……ギャグ漫画のように一気にゲーと吐き出す。
「この弁当を作ったのは誰だあっ!!!!!!!」
某料理漫画の美食倶○部の親父のように俺は弁当を天にかざして叫んだ。
「わわわわ私ですう……!!!」委員長はきゅーんっとウサギのように小さくなる。
はっ、と気づく俺。
ああ、ああ、ご、ゴメンという前に、白水のチョップが俺の頭を激しく打った。
むんずと委員長の弁当を奪い取った白水は、ものすごい勢いで口の中にかきこむ。
……七色に変化する白水の顔色。
「りぃちゃん、いいですよ、そんなに無理しなくても……」
委員長が弁当を取り上げようとするが白水は離さない。食べなければ死んでやるという勢いで口内に詰め込む。
青から白へ、さらに緑に変わって土気色にまでなったころ、ついに白水は完食した。
俺から水筒もひったくって一気に飲み干す。ぶはーっ、と思い切り大きな息を吐く。
微妙に身をふらつかせながらまた仁王のように俺をにらんだ。
「よくも、よくも百合を侮辱しましたわね……」
白水は俺の胸倉をつかんだ。
「やめてください、りぃちゃん!」
委員長が白水の背中にしがみつき、やっと俺のシャツから手を離す。
「え、でも、百合……」
「りぃちゃん、全部食べてくれてありがとうございます」
「えっ……百合が、百合が、私に、ありがとう……」
委員長の声に白水は耳まで赤くなる。……そしてそのまま何かやばいものを打ってるんじゃないかと思うくらいの恍惚モードに入った。
俺は委員長に頭を下げる。
「ごめん、つい怒鳴っちゃって。俺料理のことになるとつい…熱血モードに」
「いえ、いいんですよ。まずいものはまずいとちゃんと言ってくれたほうが、添削とはそういうものですし」
ああ、まじめだなあ。
俺なんかそういうのが嫌で通信添削はスルー。進研ゼミはパンフとともにタダで漫画をくれる会社、Z会はくれない方の会社というふうにしか思ってない。
自分の短所を金払ってまでグサグサあげつらわれるなんて耐えられない。えらいなあ……だから秀才なんだろうけど。
委員長は弁当を眺めながら、「どこが良くなかったですか?」と俺に訊いた。
「うーん……」
殺気が感じられる、なんていったら白水に何されるか。
「もう少し味をマイルドに、まったりとしてやわらかく、それでいてしつこくなく……って感じで。各材料の味が濃すぎてキリングアンドアグレッシブなテイストなんだよね」
よし、うまく英語でごまかせた。
委員長はまじめにメモを取っている。「キリング、アンド、アグレッシブ……」
「具体的には調味料の量が味覚神経に損傷を与えるほどきわめて多い。もっと減らしたほうが各素材を生かせるよ、それから……」
俺の次々に指摘・添削する言葉を聞きながら委員長は図まで描いて美しいメモ帳を作成している。
「……以上おわり」
必死に言葉を選びながらたくさんの指摘を終えると、委員長は
「ありがとうございます。今日からずっと特訓しますのでまた明日もお願いします」とお辞儀をした。
明日も!
あし……たも……
俺は明日もという言葉に青ざめながら「そ、そうか……頼むよ。ぜひ」と返事をした。
さあ、こちらも必死に添削しなければ命が危うい。頑張らねば。
本当に頼む……うまくなってくれますように。
本当に頼む……うまくなってくれますように。