**Scene4 ローレンツ短縮 ---- ****問題 こんどは,光時計の方向を90°回転させて,光の往復方向を速度$\vec{v}$の方向に一致させた場合に,光時計が刻む時間と光が進む距離の関係を考察してみよう。 #ref(http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=109&file=S4-1.PNG) あとの必要のため,M$$_1$$,M$$_2$$間の距離を($$l_0$$ではなく)$$l$$としておく。 往路の所要時間$$t_1$$に対して, $$ct_1 = l + vt_1 \qquad \therefore \quad t_1 = \frac{l}{c-v}$$ 復路の所要時間$$t_2$$に対して, $$ct_2 = l - vt_2 \qquad \therefore \quad t_2 = \frac{l}{c+v}$$ だから往復の合計時間は, $$t = t_1 + t_2 = \frac{2cl}{c^2-v^2} = \frac{2l}{c} \times \frac{1}{1-\beta^2} \quad ,\quad \beta = \frac{v}{c}$$ となる。しかし,ともに動く系で見た時計の刻み$$t_0 = 2l_0/c$$に比べて,静止系から見たそれは $$t = \frac{t_0}{\sqrt{1-\beta^2}}$$ というおくれを生じるのだった。以上のつじつまを合わせるためには, $$\frac{2l_0}{c} \times \frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} = \frac{2l}{c} \times \frac{1}{1-\beta^2}$$ すなわち, $$l_0 = \frac{l}{\sqrt{1-\beta^2}}$$ or $$l = l_0\sqrt{1-\beta^2} < l_0$$ とする以外にない。つまり,光時計の長さがともに動く系で見た長さ$$l_0$$(固有長)に対して$$\sqrt{1-\beta^2}$$の比で短縮して見えるということを示す,これまた非常識な結果がこぼれ出た。これをアインシュタイン以前に理論的に導出したローレンツにちなんで,ローレンツ短縮と呼ぶ。 上の考察でわかるように,ローレンツ短縮という帰結は時間のおくれと切り離せない関係にある。それらの間の深い関係は,次のSceneでより明らかにされるだろう。ちなみに,短縮は$$\vec{v}$$の方向に起こるということを銘記しておこう。 時間のおくれとローレンツ短縮で,ひとまずつじつまが合ったように思えるが,実は,以上の考察にはさらに深刻なジレンマが残されている。それは,往路時間$$t_1$$と復路時間$$t_2$$が等しくないということである。光時計とともに動く系では,この時間は等しく$$l_0/c$$のはずだから,$$t_1 > t_2$$という結論にはさらに何らかの説明がないと納得できないだろう。次のSceneの中心テーマがこれにあたる。 #ref(http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=109&file=S4-2.PNG) ----