「CO分子のマイクロ波スペクトル」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「CO分子のマイクロ波スペクトル」(2011/01/11 (火) 12:36:09) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
****CO分子のマイクロ波スペクトル
[[Yahoo!知恵袋>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1253491417]]より。一酸化炭素分子によるマイクロ波スペクトルの周波数間隔から分子の慣性モーメントおよび結合距離を求める。
----
最近何度となく挫折した量子力学に再度挑戦し始めた。ここで紹介するのは,マイクロ波の共鳴吸収,放射から古典力学との対応によって分子形状を決定するという,かなり実践的な問題。回転の量子化をはじめとして,面食らうことばかりだが,このような実験で分子の形状が推定できるということには,感動を禁じえないものがある。古典的には復元力のない回転に共鳴は存在しない。「固有回転数」などというものはあり得ないからだ。分子回転によるマイクロ波の放射や共鳴吸収は,まさに量子論的な効果であったわけだ。
【問題】
一酸化炭素のマイクロ波スペクトルは$$1.15\times10^{11}{\rm Hz}$$だけ離れた一連の線から成る。
(1) 一酸化炭素の慣性モーメントを求めなさい。
(2) 一酸化炭素の結合長を求めなさい。
----
【準備としての概論】
http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/~submm/exp2/micro_text2010.pdf
ここにマイクロ波共鳴吸収を題材とした東大の実験マニュアルがあり,基本理論についても概略が解説してある。系の角運動量演算子$$\boldsymbol{L}$$,慣性モーメント$$I$$として回転運動のハミルトニアンは,
$$H = \frac{\boldsymbol{L}^2}{2I}\quad,\quad\boldsymbol{L}^2 = -\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta}\left(\frac{\partial}{\partial\theta}\right)\left\{\sin\theta}\left(\frac{\partial}{\partial\theta}\right)\right\}+\frac{1}{\sin^2\theta}\left(\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right)\right]$$
と書けて,シュレーディンガー方程式
$$\frac{\boldsymbol{L}^2}{2I}\psi = E\psi$$
を解くことになる。固有関数は球面調和関数で記述されるが,詳細は省略して,$$\boldsymbol{L}^2$$の固有値(角運動量演算子の2 乗の固有値) は
$$\hbar^2J(J + 1)\qquad(J = 0,1, 2,\cdots)$$
であるから、回転運動のエネルギー固有値は
$$E_J = \frac{\hbar^2}{2I}J(J + 1) = \frac{h^2}{8\pi^2I}J(J + 1) = hBJ(J + 1)$$
となる。ただし
$$B = \frac{h}{8\pi^2I}$$
は回転定数と呼ばれる時間の逆数(周波数)の次元をもつ量である。
一般に、$$J + 1 \leftarrow J$$ 遷移の周波数は、
$$\nu = \frac{E_{J+1}}{h} - \frac{E_J}{h} = 2B(J + 1)$$
となる。つまり輝線スペクトル(または共鳴吸収スペクトル)は、周波数軸上で$${\it\Delta}\nu=2B$$ の等間隔で現れる。
【解答】
(1)
輝線スペクトルの間隔$${\it\Delta}\nu=1.15\times10^{11}{\rm[Hz]}$$として,
$$I = \frac{h}{4\pi^2{\it\Delta}\nu} = 1.46\times10^{-46}{\rm [kgm^2]}$$
を得る。
(2)
原子質量単位$$m$$とすると,$${\rm C}=12m, {\rm O}=16m$$。
結合長$$L$$とすると,重心まわりの慣性モーメントは
$$I = 12m\times\left(\frac{4L}{7}\right)^2 + 16m\times\left(\frac{3L}{7}\right)^2 = \frac{336mL^2}{49}$$
$$\therefore L = \sqrt{\frac{49I}{336m}} = 1.13\times10^{-10}{\rm [m]}$$
を得る。ちなみに,これで電子レンジのマイクロ波による水の加熱も説明できると考えたが,
「マイクロ波の電場と相互作用する直接の相手は、水分子が集団で作る分極であり、個々の水分子ではない。」
とある。→http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/atom11archive/water/microwave.html
残念。
#ref(http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=470&file=%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%97%E5%BA%A7%E5%88%86%E5%AD%90%E9%9B%B2%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E6%B3%A2%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB.bmp)
図1 国立天文台45 m 電波望遠鏡によるおうし座分子雲のマイクロ波スペクトル
等周波数間隔でスペクトル線が現れていることに注意。
(上に紹介した東大実験マニュアルから借用。CO分子回転は115GHzだからこの範囲にはないと思われるが,このスペクトルに分子回転によるものが含まれているらしい。)
参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/一酸化炭素
----
****CO分子のマイクロ波スペクトル
[[Yahoo!知恵袋>http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1253491417]]より。一酸化炭素分子によるマイクロ波スペクトルの周波数間隔から分子の慣性モーメントおよび結合距離を求める。
----
最近何度となく挫折した量子力学に再度挑戦し始めた。ここで紹介するのは,マイクロ波の共鳴吸収,放射から古典力学との対応によって分子形状を決定するという,かなり実践的な問題。回転の量子化をはじめとして,面食らうことばかりだが,このような実験で分子の形状が推定できるということには,感動を禁じえないものがある。古典的には復元力のない回転に共鳴は存在しない。「固有回転数」などというものはあり得ないからだ。分子回転によるマイクロ波の放射や共鳴吸収は,まさに量子論的な効果であったわけだ。
【問題】
一酸化炭素のマイクロ波スペクトルは$$1.15\times10^{11}{\rm Hz}$$だけ離れた一連の線から成る。
(1) 一酸化炭素分子の慣性モーメントを求めなさい。
(2) 一酸化炭素分子の結合長を求めなさい。
----
【準備としての概論】
http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/~submm/exp2/micro_text2010.pdf
ここにマイクロ波共鳴吸収を題材とした東大の実験マニュアルがあり,基本理論についても概略が解説してある。系の角運動量演算子$$\boldsymbol{L}$$,慣性モーメント$$I$$として回転運動のハミルトニアンは,
$$H = \frac{\boldsymbol{L}^2}{2I}\quad,\quad\boldsymbol{L}^2 = -\hbar^2\left[\frac{1}{\sin\theta}\left(\frac{\partial}{\partial\theta}\right)\left\{\sin\theta}\left(\frac{\partial}{\partial\theta}\right)\right\}+\frac{1}{\sin^2\theta}\left(\frac{\partial^2}{\partial\phi^2}\right)\right]$$
と書けて,シュレーディンガー方程式
$$\frac{\boldsymbol{L}^2}{2I}\psi = E\psi$$
を解くことになる。固有関数は球面調和関数で記述されるが,詳細は省略して,$$\boldsymbol{L}^2$$の固有値(角運動量演算子の2 乗の固有値) は
$$\hbar^2J(J + 1)\qquad(J = 0,1, 2,\cdots)$$
であるから、回転運動のエネルギー固有値は
$$E_J = \frac{\hbar^2}{2I}J(J + 1) = \frac{h^2}{8\pi^2I}J(J + 1) = hBJ(J + 1)$$
となる。ただし
$$B = \frac{h}{8\pi^2I}$$
は回転定数と呼ばれる時間の逆数(周波数)の次元をもつ量である。
一般に、$$J + 1 \leftarrow J$$ 遷移の周波数は、
$$\nu = \frac{E_{J+1}}{h} - \frac{E_J}{h} = 2B(J + 1)$$
となる。つまり輝線スペクトル(または共鳴吸収スペクトル)は、周波数軸上で$${\it\Delta}\nu=2B$$ の等間隔で現れる。
【解答】
(1)
輝線スペクトルの間隔$${\it\Delta}\nu=1.15\times10^{11}{\rm[Hz]}$$として,
$$I = \frac{h}{4\pi^2{\it\Delta}\nu} = 1.46\times10^{-46}{\rm [kgm^2]}$$
を得る。
(2)
原子質量単位$$m$$とすると,$${\rm C}=12m, {\rm O}=16m$$。
結合長$$L$$とすると,重心まわりの慣性モーメントは
$$I = 12m\times\left(\frac{4L}{7}\right)^2 + 16m\times\left(\frac{3L}{7}\right)^2 = \frac{336mL^2}{49}$$
$$\therefore L = \sqrt{\frac{49I}{336m}} = 1.13\times10^{-10}{\rm [m]}$$
を得る。ちなみに,これで電子レンジのマイクロ波による水の加熱も説明できると考えたが,
「マイクロ波の電場と相互作用する直接の相手は、水分子が集団で作る分極であり、個々の水分子ではない。」
とある。→http://www.cm.kj.yamagata-u.ac.jp/atom11archive/water/microwave.html
残念。
#ref(http://www14.atwiki.jp/yokkun?cmd=upload&act=open&pageid=470&file=%E3%81%8A%E3%81%86%E3%81%97%E5%BA%A7%E5%88%86%E5%AD%90%E9%9B%B2%E3%83%9E%E3%82%A4%E3%82%AF%E3%83%AD%E6%B3%A2%E3%82%B9%E3%83%9A%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AB.bmp)
図1 国立天文台45 m 電波望遠鏡によるおうし座分子雲のマイクロ波スペクトル
等周波数間隔でスペクトル線が現れていることに注意。
(上に紹介した東大実験マニュアルから借用。CO分子回転は115GHzだからこの範囲にはないと思われるが,このスペクトルに分子回転によるものが含まれているらしい。)
参考:http://ja.wikipedia.org/wiki/一酸化炭素
----