Scene2 光速不変の原理
相対性原理が 「すべての」物理現象について例外なく成り立つとするならば,光の速さについてもすべての慣性系(等速度系)において一定であると考えるべきであり,これを光速不変の原理という。
光が電磁波と総称される波であることが確認されて以来,科学者たちはその媒質として「エーテル」と呼ばれるものの存在を仮定した。そして,宇宙空間においてエーテルが「静止」しているものならば,その中を動いている地球上ではいわばエーテルの風が吹いており,エーテルに対して一定の速さをもつべき光は,地上で方向によって速さを変えることになるだろうと考えた。空気中を伝わる音波は,風が吹いていれば風下に向かう場合に風速の分だけ速くなり,風上に向かうときはその分遅くなるというのと同じである。
このような方向による光速の差を検出して,エーテル中の地球の速度を見出そうとしたのが,マイケルソン‐モーレイの実験である。
マイケルソン‐モーレイの実験装置の概略は図のようなものである。M

は半透明の鏡,M

,M

は鏡である。光源から出た光のうち,
という2つの経路をたどったものが,その経路差に応じた干渉をおこす。
装置全体がエーテルに対して右に速度

で動いているとすると,すぐにわかるように

,

部分の往復経路は

,

からずれを生じる。この状態で干渉を観測した後,装置全体を90°回転させれば経路のずれ方が逆転するから干渉光に変化が見られるはずだ。
マイケルソン‐モーレイの実験は,少なくとも公転による地球の速度を検出するのに十分な精度をもって行われたが,結果は否定的であった。つまり,エーテルの風はみつからず,地球の運動によっても方向による光速の差は出ないという結果になったのだ!
相対論が確立された現在,エーテルは仮説としての存在意義をも失い,光波の媒質は空間そのものであるとされ,慣性系においてはいずれもその相対速度にかかわらず光速は等しく

m/sであるとする光速不変の原理が,あたりまえの事実として受けいれられている。
(特殊)相対性理論は,現在では多くの実験・観測によって試されずみの次の2つの原理から出発する。すなわち,
(1) 相対性原理
(2) 光速不変の原理
である。(2)は,(1)が光の進行という現象にも適用されるということだから,相対論は,相対性原理をとことんつきつめた結果引き出された帰結ということができる。このように出発した原理の単純さに比べて,相対論によって導出される内容はあまりにも豊かで驚きにあたいするものである。
最終更新:2009年04月20日 15:11