Scene10 エネルギーと質量


問題
 ふたたびScene9の問題にある完全非弾性衝突を考察しよう。


 S'系において合体・静止後の質量をM_0とする。もちろん,M_0=M(0)の意味だ。一方これをS系で見たとき,運動量保存により

m(w)w = M(v)v

となるべきだ。すると,

M(v) = \frac{w}{v}m(w)
     = \frac{2v}{v\left( 1+\displaystyle\frac{v^2}{c^2}\right)}\cdot\frac{m_0}{\sqrt{1-\left(\displaystyle\frac{2v}{1+v^2/c^2}\right)^2/c^2}}
     = \frac{2m_0}{\sqrt{\left( 1+\displaystyle\frac{v^2}{c^2}\right)^2-\displaystyle\frac{(2v)^2}{c^2}}} = \frac{2m_0}{1-\displaystyle\frac{v^2}{c^2}}

となる。しかし,

M(v) = \frac{M_0}{\sqrt{1-v^2/c^2}}

なのだから,

M_0 = \frac{2m_0}{\sqrt{1-v^2/c^2}} = 2m(v) !

 M_02m_0でなく,それより大きい2m(v)になったというところに重大な帰結がある。M_0は静止質量だから,運動による質量の増大とは根本的にちがう。運動による質量変化は見る立場によって「そう見える」と解釈することもできるが,この場合は静止質量が2m_0からM_0に「正味」の増加をしたことになるのだ!
 S'系で見ると,衝突後運動エネルギーが0になるが,衝突前の運動の影響が,M_0=2m(v)の形で引き継がれたことになる。明らかに運動エネルギーが質量に変わったように思われる!!
 vが小さいとして質量の変化を近似してみよう。

{\it \Delta} M = M_0 - 2m_0 &=& 2m(v) - 2m_0
     = 2m_0\left(\frac{1}{\sqrt{1-v^2/c^2}}-1\right)
     \fallingdotseq 2m_0\left(1+\frac{v^2}{2c^2}-1\right) = 2\times\frac{1}{2}m_0v^2/c^2
     = {\it \Delta}E/c^2

 まさに運動エネルギーの減少分が質量に変わったということを意味する結果が得られた。これをふまえて,さらに質量とエネルギーは等価であるという飛躍を許せば,

E = mc^2  (エネルギーと質量の等価性)

という有名な関係式にいたる。ここでmは,

m = \frac{m_0}{\sqrt{1-v^2/c^2}}

であるから,

E = mc^2 = \gamma m_0c^2 \quad ,\quad \gamma = \frac{1}{\sqrt{1-v^2/c^2}}

そしてv\ll cのとき,

E \fallingdotseq m_0c^2\left(1+\frac{v^2}{2c^2}\right) = m_0c^2 + \frac{1}{2}m_0v^2
              静止エネルギー  運動エネルギー

となる。実際は,運動エネルギーの\frac{1}{2}m_0v^2こそが近似であり,正しくは(E-m_0c^2)である。
 最後にエネルギーと運動量の関係を導いて終わりにしよう。
 運動量は,   \boldsymbol{p} = \frac{m_0\boldsymbol{v}}{\sqrt{1-v^2/c^2}}
       これによって運動方程式は,  \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = \boldsymbol{F}
       となる。質量も微分の中に入ることに注意!!

 エネルギーは, E = \displaystyle\frac{m_0c^2}{\sqrt{1-v^2/c^2}}
である。ニュートン力学では,Eとして運動エネルギーのみをとって,E=\displaystyle\frac{p^2}{2m} であった。相対論では,上の2式より

E^2-p^2c^2 = m_0^2c^4

すなわち,

E = \sqrt{m_0^2c^4+p^2c^2}

を得る。特にm_0=0の場合,E=pcを得るが,これは「光子」のエネルギーにあたる。


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最終更新:2009年04月22日 10:42
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