V.運動方程式


ニュートンの運動方程式

\frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = \boldsymbol{F}

は,\boldsymbol{p}=m\boldsymbol{v}=m_0\gamma\boldsymbol{v}と書きかえるだけでそのまま使えるのだった。これは,3次元ベクトル\boldsymbol{p}\boldsymbol{F}の因果関係を表すベクトル方程式になっている。3次元空間ベクトルは座標系の平行移動や回転によって成分は変わるが,向きと大きさというベクトルの本質は変わらないから,運動方程式の形そのものは保たれる(運動方程式は空間の平行移動や回転に対して共変的であるという)。
 ところが,さらにつっこんで考察をすすめると上の形は相対論の成果を十分とりいれたものになっていない。問題点は次の2つ。

  (1) ローレンツ変換によって形が保たれない。
  (2) 4元ベクトルの時間成分を含んでいない。

つまり,上の形はニュートンの方程式に相対論のメッキをかけたようなもので,あまりかっこよくない。われわれは中身もろともに相対論を浸透させたいのである。
 (1)の解決は,4元速度を引き出すときに用いた方法を使う。つまりdtでなくd\tauで割るのだ。
 (2)は運動量を4元運動量に,力を4元力におきかえて解決する。すなわち,

\frac{dp}{d\tau} = f \quad , \quad \left\{ \begin{array}{l} p=(E/c,\boldsymbol{p}) \\  f=( \,?\, , \,\boldsymbol{?}\, ) \end{array} \right.

という形にできれば,ローレンツ変換によって成分は変わっても形を変えることがない。

 残るは,4元力の中身と運動方程式の時間成分の意味づけだ。
d\tau=dt/\gammaだから,空間成分については

\gamma \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} = \gamma \boldsymbol{F}  よって \boldsymbol{f} = \gamma \boldsymbol{F}

時間成分は,

\frac{\gamma}{c}\cdot\frac{dE}{dt} = f^0

となるが,dEは運動エネルギーの変化だから,外力がした仕事\boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{r}に等しく,

f^0 = \frac{\gamma}{c}\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v} \quad , \quad \boldsymbol{v}=\frac{d\boldsymbol{r}}{dt}

となる。4元力の時間成分は仕事率に相当するわけだ。
 まとめると次のようになる。

4元運動方程式  
\frac{dp}{d\tau} = f
時間成分 \frac{1}{c}\frac{dE}{d\tau} = f^0 = \frac{\gamma}{c}\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}  (エネルギー原理)
空間成分 \frac{d\boldsymbol{p}}{d\tau} = \boldsymbol{f} = \gamma \boldsymbol{F}   (運動方程式)

 モメナジーp=(E/c,\boldsymbol{p})の成分にしたがって,運動方程式の時間成分はいわゆるエネルギー原理すなわち非相対論的に書けば,

\frac{1}{2}mv^2 - \frac{1}{2}mv_0^2 = W  (運動エネルギーの変化=外力からされた仕事)

に当たる。これでローレンツ変換に対して共変的な運動方程式ができあがった。
 最後に,4元ベクトルの内積(スカラー積)についてふれておく。

\boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b} = a_xb_x+a_yb_y+a_zb_z

が空間回転に対して不変量であったように,4元ベクトルabの内積を

a\cdot b = a^0b^0 - \boldsymbol{a}\cdot\boldsymbol{b}

で定義すれば,これはローレンツ変換に対して不変量となる。たとえば,4元力と4元速度の内積は

f\cdot u = f^0u^0 - \boldsymbol{f}\cdot\boldsymbol{u}
  = \frac{\gamma}{c}\boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v} \gamma c - \gamma \boldsymbol{F}\cdot\gamma\boldsymbol{v} = 0

となり,もちろんローレンツ変換に対して不変量になるわけだ。
練習問題6
 光子のエネルギーと運動量は,

E = pc = h\nu

と書ける。ただし,hはプランク定数,\nuは振動数である。モメナジー(E/c,\boldsymbol{p})は4元ベクトルだから,ローレンツ変換にしたがう。これらのことを用いて,光源が速さvで遠ざかるときにおこるドップラー効果(赤方偏移)の式を導出せよ。

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最終更新:2009年04月24日 15:07