星空のパラドックス
光の二重性について考えていたとき,「星が見えるか見えないか」という問題に関わるパラドックスをたまたま2つ同時に思い出した。いずれもその解決が現代物理学の暁を告げる相対論と量子論に関連し,またその発端を開いたのが同一人物=アインシュタインであることに驚きを禁じえない。

(1) 星空は昼間のように明るい(オルバースのパラドックス)

宇宙に太陽のような恒星が,一様な数密度 n で散らばっているとする。1個が単位時間当たりに放つエネルギーを平均 \varepsilon とすると,距離 r にある恒星から届く単位面積当たりエネルギーは,

\frac{\varepsilon}{4\pi r^2}

これを,半径 r までの距離にある恒星について和をとれば,

E = \int_0^r \left(n\cdot 4\pi r^2dr \times \frac{\varepsilon}{4\pi r^2}\right) = n\varepsilon r

無限大宇宙では,空の明るさは無限大になってしまう。

もうちょっと,くだいた説明では,

ある距離 r にある球殻内の星の数を考える。星の光のエネルギーは,r^2 に反比例して弱まるが,同じ厚さの球殻の体積はr^2 に比例するから,含まれる星の数が r^2 に比例して増える。つまり,遠い星からのエネルギーは数で補われるのである。たとえいくらかの星のエネルギーが手前にある星にさえぎられたとしても,さえぎられない領域もさらに遠くにある星で埋め尽くされ,星空は満天が昼間のように輝くであろう。

このパラドックスは,次の条件のひとつまたは複数によって解決されるといわれる。

i) 宇宙が膨張している
ii) 宇宙が有限である
iii) 宇宙の密度が階層的に希薄になっている
iv) 宇宙の年齢が有限である

これらの多くが現代宇宙論によって解明されつつあることはご存知の通りである。その解明において,一般相対性理論はなくてはならないものとなっている。

(2) 星は決して見えない

もうひとつのパラドックスは,何光年も離れた恒星からとどく弱められた光に対して,小さな瞳を通して入るエネルギーは,継続して視細胞を刺激するほどのものにはなりえない … というもの。

恒星の平均として太陽をとる。太陽の絶対等級(10パーセクの距離から見た等級)は約5等級で,決して明るくはないが肉眼で見える。瞳の面積を40{\rm mm}^2 とすると,10パーセク(3\times 10^{17}{\rm m})先の太陽から瞳に単位時間に達する光のエネルギーは,太陽定数による試算では,

1.4 \times 10^3 \rm{[W/m}^2{\rm ]} \times \frac{4 \pi \times (1.5 \times 10^{11})^2{\rm [m}^2{\rm ]}}{4 \pi \times (3 \times 10^{17})^2{\rm [m}^2{\rm ]}} \times 40 \times 10^{-6}{\rm [m}^2{\rm ]} = 1.4 \times 10^{-14}{\rm [W]} \simeq 10^5{\rm [eV/s]}

毎秒数万個の光子に相当するエネルギーである。視細胞が光子一個につき五十万のイオンに相当する電流を制御するという高効率のエネルギー受容を示す目であるが,応答時間や緩和時間はとてつもなく短いらしい。要するに時間的空間的に一様に平均化された電磁波のエネルギーでは,視細胞の光反応物質を継続的に励起するに十分ではないということであろう。

このパラドックスの解決が,唯一アインシュタインが提唱した光量子論にまつものであることはいうまでもない。

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最終更新:2009年11月24日 22:24