運動エネルギーの相対性
OKWaveのQ&Aより。運動エネルギーの相対性とエネルギー保存の絶対性について。

長いので引用は避けるが,要点は次の通りである。



一定の加速度で加速する車を観測する。静止系 {\rm S} では,時刻 0 に速度 v だった車が,時刻 t に速度 2v,そして時刻 2t に速度 3v になったとする。すると時間 0 \sim t に得たエネルギー {\it\Delta}E_1 に対する,時間 t \sim 2t に得たエネルギー {\it\Delta}E_2 の比は,

\frac{{\it\Delta}E_2}{{\it\Delta}E_1} = \frac{(3v)^2-(2v)^2}{(2v)^2-v^2} = \frac{5}{3}

となる。後半の方がエンジンの仕事率は1.67倍に増えなければならない。

これを {\rm S} に対して v の速度をもつ慣性系 {\rm S}^\prime で観測すると,

\frac{{\it\Delta}{E_2}^\prime}{{\it\Delta}{E_1}^\prime} = \frac{(2v)^2-v^2}{v^2-0^2} = 3

となり,後半のエンジンの仕事率は3倍になってしまう。この矛盾をどう考えたらいいだろうか? ・・・というわけだ。

運動エネルギーは,座標系によって変換されるからもとより相対的である。しかし,エネルギー保存は絶対的でなければならないだろう。さて,議論のどこがおかしいか?



エンジンがする仕事は,車の推進において力を及ぼしあう「系」に対してであることを見逃してはならない。つまり,上の議論には地球が抜けている。以下,自転・公転といったもともとの地球の運動は無視し,初め車も地球も静止しているとする。また,車の質量 m,地球の質量 M とする。

たとえば,{\rm S} 系において車が速度 v から 2v に加速すると,運動量保存により地球は後方へ速度 u=m/M\cdot v から 2u に加速することになる。このとき,

\frac{{\it\Delta}E_2}{{\it\Delta}E_1} = \frac{\displaystyle\frac{5}{2}mv^2+\frac{5}{2}Mu^2}{\displaystyle\frac{3}{2}mv^2+\frac{3}{2}Mu^2} = \frac{5}{3}

一方,{\rm S}^\prime 系から見ると,

\frac{{\it\Delta}{E_2}^\prime}{{\it\Delta}{E_1}^\prime} = \frac{\displaystyle\frac{3}{2}mv^2 + \frac{1}{2}M\{(v+3u)^2-(v+2u)^2\}}{\displaystyle \frac{1}{2}mv^2+\frac{1}{2}M\{(v+2u)^2-(v+u)^2\}} = \frac{\displaystyle\frac{5}{2}mv^2-\frac{5}{2}Mu^2}{\displaystyle\frac{3}{2}mv^2-\frac{3}{2}Mu^2} = \frac{5}{3}

となり,矛盾のないことが示される。

もう少し簡明にするために微分を使えば,運動量保存により,車の速度変化 {dv} に対して地球の速度変化は du = m/M\cdot dv であり,このときエネルギー変化は

dE = d\left(\frac{1}{2}mv^2+\frac{1}{2}Mu^2\right) = mvdv+Mudu = m(v+u)dv

これを {\rm S} 系に対して速度 v_0 をもつ {\rm S}^\prime 系から見れば,

dE^\prime = d\left(\frac{1}{2}m(v-v_0)^2+\frac{1}{2}M(u+v_0)^2\right) = m(v-v_0)dv+M(u+v_0)du = m(v+u)dv

となる。座標系を移ったときに,mv_0dv のエネルギーが車から地球に移行したと見ることができる。まさに運動エネルギーは相対的だが,エネルギー保存は絶対的である。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月31日 11:13