直線電流がつくる磁場内を動く正方形コイル
直線電流から正方形コイルが離れていくときの誘導起電力を求める問題。

【問題】

y軸上に十分長い直線電流Iが流れている。図のように一辺がaの正方形をした一巻きコイルが中心のx座標がxの位置を速さvx軸正方向に動いているとき,コイルに生じる誘導起電力を求む。


【解答】

位置xにおける磁束密度は,アンペールの法則により

B(x) = \frac{\mu_0I}{2\pi x}

である。

微小時間{\it\Delta}tの間に図の黄色の部分の磁束が増加し,水色の部分の磁束が減少するから,その間の磁束の変化は,

{\it\Delta}\Phi = \frac{\mu_0Iav{\it\Delta}t}{2\pi(x+a/2)} - \frac{\mu_0Iav{\it\Delta}t}{2\pi(x-a/2)} = -\frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(4x^2-a^2)}{\it\Delta}t

である。したがって誘導起電力の大きさは,

V(x) = \frac{|{\it\Delta}\Phi|}{{\it\Delta}t} = \frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(4x^2-a^2)}

となる。

高校レベルでの解答である。ここで,次のような疑問をもつ人がいた。

{\it\Delta}tの間にも導線の位置は変化しているのだから,磁束の変化の式においてその変化による差を考慮する必要はないのだろうか?」

つまり,{\it\Delta}tの間に例えば右側の導線位置の磁場はB(x+a/2)からB(x+a/2+v{\it\Delta}t)に変化しているはずだというわけだ。ごもっともな疑問であり,とても大切な問題がここには潜んでいる。

B(x+a/2+v{\it\Delta}t) = \frac{\mu_0I}{2\pi(x+a/2+v{\it\Delta}t)}

      = \frac{\mu_0I}{2\pi(x+a/2)\left(1+\displaystyle\frac{v{\it\Delta}t}{x+a/2}\right)}

      \fallingdotseq \frac{\mu_0I}{2\pi(x+a/2)}\left(1-\frac{v{\it\Delta}t}{x+a/2}\right) = B_0(1-\alpha {\it\Delta}t)

と書こう。ここでB_0=B(x+a/2)である。結局あらたに参入する磁束は,おおよそ

{\it\Delta}\Phi_+ \fallingdotseq B_0\left(1-\frac{1}{2}\alpha{\it\Delta}t\right) \times av{\it\Delta}t

となる。ここで移動中の平均の磁束密度を用いた。近似を繰り返しているが,{\it\Delta}tは「微小時間」なので,このぐらいはかんべんしてもらおう。実は,\alphaは有限値ならば任意にとれるので,近似や平均をしなくても上のように書くことはいつでも可能なのである。左側の失われていく磁束{\it\Delta}\Phi_-についても同様に考えることができる。

さあ,そこで誘導起電力を求めるとどうなるか? 磁束の変化には{\it\Delta}t^2の項が含まれるので,{\it\Delta}tで割ると一つ残ってしまう。{\it\Delta}tは「微小時間」だからこれは無視できるわけだ。本来,誘導起電力は

V = \frac{d\Phi}{dt} = \lim_{{\it\Delta}t\rightarrow 0}\frac{{\it\Delta}\Phi}{{\it\Delta}t}

であるから,無限小の極限をとるときに{\it\Delta}tのついた項はきれいさっぱり消えてなくなるのである。このこと(無限小の{\it\Delta}tで割ること)を見越して,微小時間内の導線位置の磁場の変化は無視してよいわけだ。

なあんだ。それなら初めから微分積分を使えばいいんじゃないか・・・その通り。やってみよう。

位置xにあるときに正方形を貫く磁束は,

\Phi = \int_{x-a/2}^{x+a/2}\frac{\mu_0I}{2\pi r}\times adr = \frac{\mu_0Ia}{2\pi}\left\{\log\left(x+\frac{a}{2}\right) - \log\left(x-\frac{a}{2}\right)\right\}

したがって,誘導起電力は

V = \frac{d\Phi}{dt} = \frac{d\Phi}{dx}\frac{dx}{dt}

ここで,dx/dt=vだから,

V = \frac{\mu_0Iav}{2\pi}\left(\frac{1}{x+a/2}-\frac{1}{x-a/2}\right) = -\frac{2\mu_0Ia^2v}{\pi(4x^2-a^2)}

となる。さあ,エレガントになっただろうか? 否,せっかく積分したものを微分してもとにもどしている。つまり積分の必要はなかったのだ。

上の解答例は,もちろん高校レベルで微分積分を(あからさまには)使わない「ルール」を考慮して得られたものではあるが,また,不要な微分積分の冗長さを取り除く手法でもあったわけだ。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年02月13日 18:21
添付ファイル