論理積としての法則
ボイル・シャルルの法則および運動方程式において,部分法則の論理積としての法則の発展・完備という歴史的または教育的手順が共通して見られる。
ボイルの法則
「温度

が一定のとき,閉じ込められた気体の圧力

と体積

は互いに反比例する」
シャルルの法則
「圧力

が一定のとき,閉じ込められた気体の体積

と温度

は互いに比例する」

は

によって変わる,いいかえれば「定数をのぞく」

の関数である。理想気体においては,

が条件として変わっても時間的に一定でさえあれば,

と

の反比例関係は保証される点が重要である。

は

によって変わる,「定数をのぞく」

の関数である。

が条件として変わっても時間的に一定でさえあれば,

と

の比例関係は保証される。
さて,上の2つの部分法則から必然的にボイル・シャルルの法則が導かれる。その「必然性」とは,次のようなものである。
右辺は「定数を含む」

のみの関数である。

が決まれば値が決まっているといえるが,

の値によって変わらなければならないという限定はない。同様に,
右辺は「定数を含む」

のみの関数である。
上の2法則の論理積は,右辺が

にも

にもよらない定数であることを要請する。
これがボイル・シャルルの法則である。
ただし,ボイルシャルルの法則の右辺の「定数

」は,実は物質量の関数である。ボイル・シャルルの法則は,「閉じ込められた理想気体」という限定の中に,物質量という変数の存在を保留している。右辺が単に物質量

に比例すべきことは自明であろう。すなわち,
同じように,運動の第二法則すなわち運動方程式の場合,とりわけ教科書的な導入で「部分法則の論理積」という手順がとられる。

…(1)

…(2)
すると,
したがって,

という量は

のみの関数であり,かつ

のみの関数である。すなわち,この量は

について定数でなければならない。

となる単位系をとって,
運動方程式は実際はベクトル方程式であるから,上の論理を座標変数の数だけ用いなければならないことはいうまでもない。結論として,
運動方程式は,ボイル・シャルルの法則とは異なり,ここまでで閉じている完備した法則である。さらに状態変数

が公平な変数であるボイル・シャルルの法則と異なって,運動方程式は時間発展を決定する法則として「因果関係」がはっきりしている。明らかに原因である力

が,対象

を通じて,結果としての加速度

を生起する,という因果を記述している点が,状態変数の「平等な」関係を述べたボイル・シャルルの法則との大きな違いである。
上のリンクQ&Aで追加回答があった。引用すると,
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(1)と(2)の2つに分けているので、わけがわからなくなります。
なぜならば、kとk’は定数ではないからです。
k は 1/m と同一ですから、定数ではなく変数です。
k’は F と同一ですから、これも定数ではなく変数です。
ですので、やり直し。
a は F に比例し m に反比例するから、
a = kF/m
と一発で書けます。
(以下略)
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(1)と(2)を分けるのは,多くの第二法則の初歩的導入でなされる実験を基礎におく方法であり,私たちの認識手順にそった正当な「法則の分割」である。
という結論を,私たちはひと通りの実験で導くことはできない。比例,反比例は2つの変数の関係であって,3つの変数の関係が比例ならびに反比例であることを知るのは,まずひとつの変数を一定にするという,条件をコントロールした2通りの実験によってはじめて可能になることである。
操作的な法則の「解釈」に走った上記の回答は,質問者は納得するかもしれないが,私には納得のできない回答である。常連の中では,多くの教育的な回答を連発している信頼できる回答者のものであり,それだけに残念。ここでひっそりと批判しておくことにする。
最終更新:2010年11月15日 23:29