マイクロ波スペクトルによる星間分子の同定
CO分子のマイクロ波スペクトルの続き。野辺山のデータから星間物質シアノアセチレン{\rm HC}_3{\rm N}を同定する。

先に紹介した「おうし座分子雲のマイクロ波スペクトル」
http://www.resceu.s.u-tokyo.ac.jp/~submm/exp2/micro_text2010.pdf



こちらに別のデータをみつけた。
http://f39.aaa.livedoor.jp/~feathers/suga/05kisogen08sp.pdf



36.3GHzおよび,45.5GHz付近にシアノアセチレン{\rm HC}_3{\rm N}の輝線の指示がある。そして,これに相当すると思われる輝線が上のデータにも見えている(赤い▼のうちの右2つ)。

そこでシアノアセチレエン{\rm HC}_3{\rm N}の慣性モーメントを計算して,分子回転の遷移による放射スペクトル列を推定・比較してみた。

まず分子構造データだが,{\rm HC}_3{\rm N}自体の各原子間結合距離のデータは{\rm C-C}{\rm 138pm}しかみつからなかったので,他は推定値である。



{\rm H}の位置を原点にとった座標が一番上の数値。ここから重心位置を求める。

x_G = \frac{12\times108+12\times229+12\times367+14\times483}{1+3\times12+14} = 298{\rm pm}

重心まわりの慣性モーメントを求める。原子質量単位の質量m=1.66\times10^{-27}{\rm [kg]}として,

I = (1\times298^2+12\times190^2+12\times69^2+12\times69^2+14\times185^2)m\times10^{-24} = 1.85\times10^{-45}{\rm [kgm}^2{\rm ]}

これから輝線スペクトルの周波数を推定すると,

\nu(n) = \frac{h}{4\pi^2I}(J+1) = 9.065n{\rm [GHz]}\quad(n=1,2,3,\cdots)

を得る。輝線スペクトル列は,9.1\quad,\quad18.1\quad,\quad27.2\quad,\quad36.3\quad,\quad45.3\quad{\rm [GHz]}
となり,上のデータとほぼ一致しているのを確認することができる。もちろん,輝線スペクトルだけでそれが{\rm HC}_3{\rm N}のものだと同定することなど不可能である。星間物質にどのような分子が含まれている可能性があるかについて,蓄積された他の情報や理論とつきあわせて初めて,こうした同定ができるのであろう。

しかし,アマチュアとしてこうした同定を追試できるということは,少しでも最前線の研究に触れることができた気がして,結構うれしかったりする。量子力学の学習にもはずみがつくというものだ。:-)

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最終更新:2011年01月11日 18:56