(「形と花言葉」の続き)


 私、中野梓(もうすぐ平沢になります)は悩んでいます。

「唯の誕生日プレゼントどうしよう……」

 先日の私の誕生日。
 唯に例えようのないほどのステキなモノを、私は貰った。

『コレが私のあずにゃんへの大好きの一つの形』

 唯が私の誕生花をモチーフにデザインした純白のウェディングドレス
 そのドレスは今も私の瞳の奥で鮮明に輝いている。

 そして唯からのプロポーズまでプレゼントをされた私としては唯にも同じくらい、いや、それ以上のプレゼントをあげたかった。

「けどなにがいいのか見当もつかないよ……」

 軽音部の部室で憂達との受験勉強を終えた帰り道、切れたシャーペンの芯のついでに雑誌でも買って参考にしてみようと私はコンビニに立ち寄った。

「あ、これ最新巻出たんだ」

 目当ての品を手に取った私の目に止まったのは最終回が掲載された月刊誌があっと言う間に完売し、同じ最終回を再録した翌月号も完売した事で話題になったマンガの最新巻だった。

「最後の一冊か……」

 少し考えた後、私はそのマンガを手に取ってレジへと向かった。

 帰宅後、宿題や夕飯などを済ませた私は帰りに買った雑誌を読んでいた。

「やっぱり参考にならないか……」

 『ウェディングドレスとプロポーズを誕生日に愛する人から貰った時のお返しに』なんてモノがティーン雑誌に載っているハズない事は最初からわかっていた事、当然の結果にため息を吐いて私は雑誌を閉じた。

「どうしよう……」

 ファーストキスは、告白した時に初恋のキモチと一緒に唯に捧げた。
 その事は全く後悔はしていないし、それだけでは私が足りない。

「あ、アレは初夜に、って唯と約束したし……」

 誰もいないのに言ってて顔が熱くなる。

「けど……ホントにどうしよう……」

 ベッドに寝転がり、唯から貰ったネコのぬいぐるみを抱きしめる。

「あ、そうだ」

 ふと雑誌と一緒に買ったあのマンガの事を思いだした。

「ちょっと読んでから寝よう」

 気分転換に丁度いいだろう、と本棚に置いておいたマンガ取りに立った。

「そう言えばこのマンガを読むようになったのも唯に教えて貰ったからだっけ」

 いつぞやか唯の部屋に遊びに行った時に『面白いからあずにゃんも読んでみなよ~』と一巻を借りたのが始まりだった。

「で、気がつけば一緒になってハマってたんだよね……」

 ベッドに戻った私は早速マンガの表紙をめくった。


 ―――――――――。

「こ、コレは……」

 完全に予想外の所に私の悩みを解決する糸口があった。

「そう言えばさっきの雑誌!」

 読み終えた雑誌を再び手に取ってページをめくり、目当ての記事を見つけだした。

「えっと、このお店のホームページのアドレスは……」

 パソコンを起動させて記事に書かれたURLを打ち込む。
 表示されたページから目的の項目をクリックする。

 私がパソコンの電源を落とし、ベッドに戻ったのは日付も変わって大分経過してからだった。

 ―――――――――。

 11月27日。

 昼から唯の部屋で行われた唯の誕生パーティーには憂や律センパイ達、放課後ティータイムのメンバーはもちろん。
 和センパイやさわ子先生に純も加わり、賑やかで楽しいパーティーとなった。

 パーティーは憂達の気遣いにより早目に終わり、私は今日も唯の部屋に泊まる事にした。

「改めまして……唯、誕生日おめでとうございます」
「ありがとう、あずにゃん♪」
「このやり取り三回目ですけどね」

 丁度今日が休日だった事もあり、私は昨日から唯の部屋に泊まっている。
 その為の日付が変わったその時に一回、二回目は昼のパーティーの時。
 そして二人っきりになったし、せっかくなので改めて、と言うワケだ。

「でも、私は嬉しいよ」
「唯……」

 幸せそうな笑みを浮かべる唯と唯に見とれていた私はそっと唇を重ねた。

「唯、私のプレゼント……受け取ってくれますか?」

 唯との口づけから勇気を貰い、私は意を決した。

「そんな、私はあずにゃんと一緒にいれればそれだけで十分だよ」
「いいえ、ダメです」

 私もそう、唯といれればそれだけで幸せになれる。
 しかし私はあの時、嬉しさのあまりちゃんとした返事をしていなかった。
 だから私のプレゼントと一緒に私のキモチを唯に受け取って欲しい。

「私の誕生日に唯はキモチを形にして私にくれましたよね」
「……うん」
「けど私はキスするだけで精一杯でした」
「……うん」

 唯は静かに頷きながら私の話を聞いている。
 唯の瞳は優しく私の瞳を見つめてくれている。

「だから今日はちゃんと私も私のキモチを唯に伝えます……」

 私は唯の手を取ると私のキモチを薬指に嵌めた。

「私の人生を全部、唯にあげます……受け取って……くれますか?」
「あずにゃん、これって……」
「エンゲージリング……です」

 リングには黄色の水晶が光っている。
 黄水晶・シトリン、唯の誕生石でもあるソレは別名『太陽の石』。
 引き寄せる暖かいパワーが人と人との関係を豊かにして、輝ける存在にしてくれる……まさに私にとっての唯そのものだ。

「貰うね、梓のプレゼント」

 目尻に涙を浮かべながらも唯は笑ってくれた。
 そして私の手をとり、もうひとつの指輪を薬指に嵌めた。

「……幸せになりましょうね」
「う~ん、難しいかも……」
「え?」

 唯の言葉に驚く私、しかし唯の声には不安の色がない事にも気づく。

「だって……今が幸せ過ぎてこれ以上幸せになったら嬉しくて死んじゃうかも……」

 照れながらそんなカワイイ事を言ってる唯。
 そしたら私は命がいくつあっても足りません。
 ちょっと怒っちゃいました。

「もう、そんなおバカな事言うお口は……そうだ、ホチキスで閉じちゃいましょう」

 唯の唇が私のソレで閉じられる。
 先までのとは違い私のほんの少しの怒りも含めて口づけは少々熱くなってしまいました。

「……あずにゃん、これじゃホッチキスじゃなくてホットキスだよぅ……」

 ツッコミを入れる唯の瞳は唇から伝わった私の熱ですっかり蕩けていた。

「まだおしゃべり出来るなんてまだまだホッチキスが必要ですね」

 ふふっ、と笑みを浮かべた私は再び唯の唇を私のホッチキスならぬホットキスで閉じた。
 唯の誕生日が終わるまで後数時間、けどこの幸せはきっと永遠に続く。
 唯も私もそう信じて疑わない、そんな誓いと願いを込めて口づけを交わした。

  • END



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最終更新:2010年12月08日 09:43