下級生「好きです、平沢先輩」

放課後、屋上に呼び出された私は下級生の子に告白された。
面識のない子だったけれど、とても可愛らしい子で、目元なんかは少しあずにゃんに似てるかな?なんて思ったりもした。

唯「えっと、あの…」

そんな事を考えていた私ではあったが、突然の思いも寄らぬ告白にうまく言葉を返す事が出来なかった。

下級生「突然の告白でごめんなさい」

唯「あ、ううん…流石にびっくりしたけどそれは構わないよ」

下級生「お返事はすぐじゃなくて良いので…」

真っ赤な顔をして彼女が言う。まぁ、仮に今すぐ返事をしてと言われても無理な話ではある。

下級生「あの、それじゃあ私はこれで…」

唯「あ、ちょっと待って…」

その場を去ろうとした彼女を引きとめ、私は一つ質問をした。

唯「あのね、私のどこを好きになってくれたのかな?」

下級生「…かっこいいところです」

唯「かっこいい?」

下級生「はい、ライブの時とか凄くかっこいいなって思ってたんです」

唯「そっか、ありがとう…返事は明日まで待ってくれるかな?」

下級生「勿論です、それじゃあ…」

そう言って、彼女は様子を見に来ていた友達と一緒にその場を去って行った。

唯「私がかっこいい…ふふ、変なの」

澄んだ青空を見上げながら、私は自嘲気味にそう呟いた。


唯「遅れてごめ~ん!」

私は勢いよく部室のドアを開ける。そこには、絶賛ティータイム中の皆の姿があった。

律「おう、お疲れ~」

澪「遅かったな、唯」

紬「お疲れ様、唯ちゃん」

梓「…」

口々に言葉を掛けてくれる中、一人だけ不機嫌そうにそっぽを向いている子が居た。

唯「あずにゃ~ん、どうしたの?」

そっぽを向いて拗ねている子猫ちゃんを、私は後ろからぎゅーっと抱き締める。

梓「べ、別にどうもしてないですから、いきなり抱きついて来ないで下さい!」

唯「あずにゃん、怒ってる?」

梓「別に怒ってなんかいません!唯先輩の分のケーキは置いてますから、それを食べたらさっさと練習を始めますよ!」

唯「そうかな、何か凄く不機嫌そうに見えるけど…」

梓「もう、食べないんなら練習を始めますよ!」

唯「ごめんごめん、頂くよ~」

私が席に着くと同時に『トイレにいってきます』と、あずにゃんは席を立って部室から出て行ってしまった。

唯「…あずにゃん、どうしたんだろ?」

私が不思議に思っていると、りっちゃんが笑いながら声を掛けてきた。

律「そりゃお前、やきもち妬いてるんだろ」

唯「やきもち?」

澪「言わなきゃ良いのに、唯が遅れてきた理由を律が梓に話したんだよ」

唯「あ、そうなんだ」

律「仕方ないだろ~、梓がしつこく食い下がってくるんだからさ」

紬「ふふ、そうね…ちょっとした用事だって言っても執拗に聞いていたものね」

澪「まぁ、なんだかんだで梓は唯が大好きだからな」

唯「え、そうなの?」

律「そうなの…ってお前なぁ~」

紬「当人同士は気付かないものなのかしらね」

澪「そうかも知れないな」

唯(あずにゃんが私の事を大好き?)

そんな事、全然思ってもみなかった。
勿論、嫌われてるとも思ってはいなかったけど…皆が口を揃えてそう言うほど好かれてるとも思ってなかった。

だって、あずにゃんはいつも口癖のように『しっかりして下さい!』『真面目にして下さい!』って言ってたから。

律「まぁ、ほっとけない存在ってのは確かなんだろうぜ?澪が私の事をそう思ってるみたいにな!」

澪「律の場合は『ほっとけない』じゃなくて『野放しに出来ない』が正解だ」

律「え~っ、何だよそれ~」

紬「りつみお、ゆいあずは世界の真理よ!」

盛り上がってる皆の話も上の空で、私はあずにゃんの事を考えていた。

唯(あずにゃんは私の事を、どう言う風に思ってるんだろ?)

さっき、告白してくれた子は私をかっこいいと言っていた。
私からしたら『どこが?』なんだけど…それでも、そう思われているのはとても光栄だし嬉しい事だ。

唯「あずにゃんは…」

私の事をかっこいいと言ってくれるだろうか?



梓「…何ですか?」

部活も終わり、学校からの帰り道。他の皆とは途中で別れて、私はあずにゃんと二人きりになっていた。

唯「今日はずっと不機嫌だね」

梓「…そんな事はありませんよ」

唯「そんな事あるよ、今だって…」

梓「…」

あずにゃんは答えなかった。その代わり、歩いていた足を止めて私をじっと見据えて来る。


梓「私が何で機嫌が悪いか、自分の胸に聞いてみたらどうですか?」

唯「自分の胸に?」

梓「そうです」

そう言って、あずにゃんはそっぽを向く。
自分の胸にと言われて、思い当たる事は一つしかない。だけど、何でその事であずにゃんが不機嫌になるのかわからなかった。

唯「私が告白された事?」

梓「…っ!」

その言葉に、あずにゃんの肩がピクリと震える。

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「何ですか?」

唯「あずにゃんは私の事…」

梓「…」

唯「かっこいいと思う?」

梓「…は?」

私の問いに、あずにゃんは間の抜けた声を出した。

唯「あずにゃんは私の事をかっこいいと思うかなって…」

梓「思いません」

きっぱりとそう言い放った。

唯「えぇ~?」

梓「唯先輩を評価する表現方法の中で、最も掛け離れた言葉ですね」

唯「む…じゃあ、あずにゃんはどう言う人がかっこいいと思うの?」

梓「そうですね、軽音部で言うと澪先輩みたいな人じゃないですかね」

唯「やっぱり、澪ちゃんか…」

梓「当然です、澪先輩は真面目に練習もするし、他の先輩方にちゃんと注意もしてくれる、私の尊敬する人ですから」

唯「とほほ…」

梓「でも、何でいきなりそんな事を?私はてっきり…」

唯「てっきり?」

梓「…な、何でもないです!」

唯「?」

梓「その事は良いので、質問に答えて下さい」

唯「うん、あのね…告白された子に言われたんだ、私のどこが良いかって聞いたら、かっこいいところだって…」

梓「…」

唯「私自身には全くわかんないんだけどね…あずにゃんが言う通り、私からは最も掛け離れた言葉だと思うし」

梓「…自分では気付いてないだけですよ」

唯「あずにゃん、何か言った?」

梓「いえ、何も…それで私にそんな事を聞いたんですね」

唯「うん」

梓「…」

あずにゃんは静かに溜息を吐いた。呆れたような、だけど少しホッとしたような。


唯「なぁに、あずにゃん?」

梓「この際なので、私が唯先輩をどう思ってるか教えてあげます」

唯「え?」

梓「覚悟して下さいね、耳が痛くなっても責任は取りませんから♪」

唯「ひぃ~」

梓「だいたい、唯先輩は…」

そして、あずにゃんのお小言が始まった。私が無責任だとか不真面目だとか人の迷惑顧みないとか…。
それはもう耳の痛くなる事ばかり、澪ちゃん達が言う『好意』の欠片すらそこには見当たらない。

唯「うぅ…」

梓「ちゃんと聞いてますか、唯先輩?」

唯「き、聞いてます…」

我ながらよくもここまでお小言を貰えるものだ。
まぁ、あずにゃんの言う事に間違いはなくて、だからこそ自分の不甲斐なさに耳が痛くなる一方なんだけど。

梓「…だけど」

唯「え?」

そして、そんなお小言の最後にポツリとあずにゃんが言った。

梓「だけど、そう言う所が唯先輩のいい所でもあって、何だかんだで一緒に居ると楽しいし、落ち込んだ時には唯先輩の明るさに助けられた事もあったし」

唯「…あずにゃん」

梓「そして、何よりも…優しく包んでくれる唯先輩の温かさが私は大好きなんです」

唯「…」

あずにゃんは私が大好きだと言ってくれた。
それは、上辺だけのかっこ良さなんかの事じゃなくて、私の駄目な部分も全てわかった上で私の温かさが好きだと言ってくれた。

梓「特別ですからね、他の皆さんには内緒ですよ?」

そう言って、私の手をそっと握り締めてくれた。


次の日の放課後、私は告白の返事をする為に屋上へ向かっていた。その道すがら、何故か階下の教室に居る筈のあずにゃんと鉢合わせた。

唯「あずにゃん、どうしてここに?」

梓「…」

唯「もしかして、私の事が気になって?」

正直、嬉しかった。あずにゃんはこんなにも私の事を気に掛けてくれてたんだと思った。

だけど…。

梓「自惚れないで下さい」

唯「あれ?」

梓「私も用事で、ある場所に向かってるだけですから」

唯「用事って何の…」

そう言い掛けて、私はあずにゃんの手の中にある物を見つけた。

梓「ラブレター貰っちゃったので」

唯「何ですと!?」

梓「全く知らない相手なんですけど、三年生の方みたいです」

唯「…」

梓「気になりますか?」

唯「気になるよ」

即答した私に、あずにゃんは少し驚いた素振りを見せる。

梓「そうですか、気にしてくれるんですね…良かった」

言葉の語尾がはっきりと聞き取れなかったけれど、あずにゃんが嬉しそうに微笑んでいたのが印象的だった。

梓「じゃあ、私はこっちですから」

唯「あ、うん…」

梓「そうだ、唯先輩…」

唯「なぁに、あずにゃん?」

梓「私も唯先輩と同じ気持ちですから」

唯「え、それってどう言う…」

梓「もう、鈍いですね…気になってるって事ですよ」

唯「そっか、ありがとう」

梓「それじゃあ、唯先輩…また後で♪」

唯「うん、あずにゃん♪」

あずにゃんと別れ、私は屋上へと向かう。

下級生「あ…」

屋上には、既に彼女が待っていた。私はゆっくりと彼女の元へ歩みを進め、彼女の目の前で立ち止まる。

唯「告白の返事をするね」


唯先輩と別れた後、私は手紙で呼び出された部屋に向かう。

梓「…」

部屋に入ってすぐに目が合った。

上級生「あ…」

面識のない人だったけれど、とても綺麗な人で、目元なんかは少し唯先輩に似てるかな?なんて思ったりもした。

梓「初めまして、お手紙ありがとうございます」

上級生「こっちこそ、いきなりでごめんね」

挨拶もそこそこに、私は本題を切り出す。答えは既に決まっているのだから。

梓「早速ですけど、お手紙の返事をします」


唯梓『私、好きな子(人)がいるんだ(です)』

おしまい!


  • 2人頑張りなさい! それと悪いね上級生と下級生 -- (あずにゃんラブ) 2013-01-09 17:33:05
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最終更新:2011年04月15日 22:24