2月も下旬に差し掛かろうかという、ある日の昼休み。
私、鈴木純が、いつものように親友2人とランチタイムを楽しんでいたときのこと。
お弁当もほぼ食べ終えて、これまたいつものように他愛のないことを駄弁っていたわけだけど、
それが一段落したところで、「そういえば」と親友のひとり、中野梓が切り出した。
「憂、もうすぐ誕生日だよね」
そう言われて、もうひとりの親友こと平沢憂は、嬉しそうに笑って答える。
「うん、そうだよ。梓ちゃん覚えててくれたんだ」
「もちろん覚えてるよ。親友の誕生日なんだから」
梓はそう言ったけど、憂の誕生日は親友でなくても一度聞いたら覚えられそうだ、と思う。
なぜなら、2月22日――「222」、ゾロ目というインパクトのある日付だから。
ちなみに梓の誕生日も11月11日で、これまた「1111」とゾロ目だ。
しかもこちらは1が4つも揃っているから、更にインパクト大。
さらにちなみに、私の誕生日は1月14日。
ゾロ目でもなんでもなく、インパクトは、特にない。
…別に悔しくなんかないよ?
しかしこうして改めて誕生日を並べ挙げてみると、ほんの数ヵ月差とはいえ、
梓が最年長で憂が最年少だという事実にちょっと驚いたりもする。
だって…ねぇ。
談笑する2人を見比べる。
梓は、ハッキリ言って小柄だ。
ただ単に身長が低いというじゃなく、手だとか体つきだとか脚だとか、
そういったものが全体的に小さく、細く、華奢なのだ(当然のことながら、胸もぺたんこだ)。
だから、150cmという身長の実寸以上に小さく見える。
更に言えば顔つきもベビーフェイス、要するに童顔で、
その上長い黒髪を2つに縛ってツインテールなんていう髪型にしているものだから、
全体的にロリロリしい雰囲気が漂ってしまっている。
ランドセル背負わせたら似合うかも――って、マニアックな考えが一瞬浮かんじゃったよ。
一方の憂は、身長こそ150cm台半ばと女子として普通の部類だけど、
特筆すべきポイントは身体つきの方にあって、有り体に言えばナイスバデーなのだ。
胸は普通に大きいし、全体のスタイルだってなかなかのものだと思う。
いわゆるモデル体型でこそないけれど、太ももとか、水着姿の時に見た腰周りとかの肉付きは、
かえって女子高生らしい健全さを感じさせる。
いや――むしろあのむっちり感が色っぽさを感じさせると言えるかも知れないな。
特に男の人には案外モデル体型の人よりウケが良さそうな気も――。
「…純、なんかさっきから私たちをイヤらしい目で見てない?」
「ナンノコトカナー?」
あぶないあぶない。
親友を知らず知らずのうちに良からぬ目で見てしまっていたようなので、この辺でやめとこう。
純ちゃんならぬ不純ちゃんになってしまう。
あ、ついでに言っておくと、私のスタイルは2人の中間…よりはだいぶ憂寄りだと思う。
思いたい。
誕生日もそんな感じの位置だし。
ま、私が言いたいのは、梓と憂の誕生日は逆の方が、
2人の外見的にはしっくり来るんじゃないかってことだ。
どういう意図でこの設定なんだろう――いやいや設定って、漫画やアニメじゃあるまいし。
外見の話をしたついでに中身のことも言うと、
この3人の中で性格的に一番大人びていると感じるのも、やっぱり憂だ。
梓は見た目通り、子供っぽいと思う。
真面目だし、しっかり者ではあるんだけど、
それは「大人ぶっている」という風に私の目には映る部分がある。
大人であろうとして真面目に、カタく、「物事はこうあるべき」という枠をもって振舞おうとする。
それは別に悪いことじゃないと思うけど、実際にそうできているかといえば、
そして大人びているかと言えば、とてもそうとばかりは言えない。
ちょっとしたことですぐムキになるし、必要以上にナーバスにもなりやすかったりする。
何だかんだと言い包められて流されることも多い。
最初は文句ばかり言ってた軽音部の色にも、いつの間にかすっかり染まっちゃってるしね。
まあ何というか、カタいんだけれど、その分もろいところがある――そんな感じがするのだ。
そういう点――あの人はふわふわしてるけど、強そうだな、と思う。
あの人というのは、憂の1つ年上のお姉ちゃんこと、平沢唯さん――唯先輩。
見た目は双子のごとく憂にそっくりだけど――いや、先に生まれたのは唯先輩だから、
憂が唯先輩にそっくりというべきなのかも知れないけど、まあとにかく、中身は大違い。
親友のお姉ちゃんをつかまえてこんなことを言うのもアレだけど、
あの人はおおよそ「大人びた」とか、そういう言葉とは無縁だろう。
むしろここにいる3人の誰よりも子供っぽい、とさえ言えるんじゃなかろうか。
憂が大人びている理由の結構な部分は、彼女が長年にわたって平沢家の家事全般を担当し、
唯先輩の面倒を見てきたからというところにあるんじゃないかとすら思う。
で、なにゆえここでその唯先輩のことを思い出したかと言えば、
梓がしょっちゅう唯先輩の話をするからだ。
まあそれは大抵の場合愚痴のようなもので、至る所で抱きつかれて困るだとか、
妙なあだ名をつけられただとか、色々言うんだけど。
梓の本心はそこにないことに、それが気持ちの裏返しだってことに、私も憂も気付いている。
ま、ぶっちゃけてしまえば。
梓は唯先輩のことが大好きなのだ。
唯先輩は確かに子供っぽくて、年上なのにどこか頼りない感じもする。
そんな唯先輩の面倒を、普段は後輩の梓の方が見ているというのは、まあその通り。
だけど、ふわふわしてるけど、芯から明るくて、朗らかで――それはあの人の確かな強さ。
真面目だけど、ともすればシリアスになりすぎることもある梓は、
そんな唯先輩に癒され、助けられているのだ。
カタいけど、もろい梓を。
やわらかい唯先輩は、崩れないように優しく、包み込むように温かく受け止める。
そういう立ち振る舞いを、自然にやってのけるのだ。
だから、唯先輩は子供っぽいけどやっぱり子供じゃなくて、確かに年上なんだ――と思う。
そんなわけで、梓は唯先輩が大好きなのだ(大事なことなので2回言いました)。
本人は絶対認めたがらないだろうけど、態度でバレバレの丸分かり。
私が唯先輩を褒めるようなことを言うと口では否定しつつも嬉しそうな顔をするし、
抱きつかれたりするのだって内心では喜んでるに違いない。
だいたい、あの人しか呼ばない「
あずにゃん」ってあだ名も最初は嫌がってたくせに、
預かった人様の家のネコ(つーかウチのネコ)に勝手に「あずにゃん2号」なんて命名するとか、
もうその時点でデレデレだろ、あずにゃん1号。
それなのにヘタに意地を張ったりするところも、また子供っぽいんだよね。
もちろん、梓にそんなあだ名をつけたり、頻繁にスキンシップをとったりする唯先輩は、
もう隠すこともなく大っぴらに梓のことが大好き。
惜しみない愛情をこれでもかと注いで、梓のことをかわいがっている。
そんな2人だから、傍目にはとてもお似合いというか、
ナイスコンビ、ベストカップルだと思うんだけどね。
――あ、そうか、なるほど。
だからやっぱり、梓の誕生日は11月11日じゃないとダメなのか。
だって唯先輩の誕生日は11月27日だから、
そうしないと2人が
同い年になる瞬間がなくなっちゃうし。
普段は1歳違いの
先輩後輩である2人がほんの一瞬だけ同い年になる16日間は、
2人のファンの間では色々な想像が掻き立てられる、それはそれは重要な期間らしいからね。
ふむふむ、やっぱりこの設定は絶妙だ。
――いやいや、ファンって、設定って何よ。
なんかメタな思念が混じったし、そろそろひとりで考えを巡らすのもやめて、
会話に参加することにしよう。
「憂、なんか唯先輩に
プレゼント頼んだりしないの?」
ひとまずそんなことを訊いてみた。
憂もまた、唯先輩のことが大好き。
それはもう、姉妹愛とかそういったレベルを軽ーく超越しているくらいに。
だけど、憂は自分からプレゼントをおねだりするタイプじゃない。
むしろ唯先輩からもらえるものだったら何でも喜んじゃうタイプ。
だから、「お姉ちゃんがくれるものなら何でもいいよ~♪」なんて、
ニコニコ笑いながら答えるのを想像してたんだけど。
「ん?うん、もう頼んだよ♪」
おっと、これは意外な答え。
「へー、憂がおねだりなんて珍しいじゃん。何を頼んだの?」
「唯先輩が用意できそうなもので、憂が欲しがりそうなもの…弾き語りしてほしいとか?」
梓が候補を挙げてみたけど、憂は「ううん」と首を横に振ってから、満面の笑みで言った。
「あのね――『おねえちゃんが欲しい』って頼んだんだ♪」
瞬間、私はちょうど口にしていたお茶を噴き出し、
梓は「ええぇっ!?」と大声で叫びながら、椅子を盛大に弾き飛ばしつつ立ちあがった。
いやいや…確かに私も思わず噴いちゃったけど、
いくらなんでも驚きすぎでしょあずにゃん1号、気持ちは分かるけど。
そういう態度がバレバレなんだってば、絶望的な顔しすぎだし。
っつーか教室中からクラスメイトたちの視線が突き刺さってめっちゃ痛いんですけど。
この状況を作った張本人はと言えば、私たちのリアクションの意味が理解できなかったらしく、
きょとんとした顔で私と梓を交互に見てるし…。
とりあえず、私はクラスメイトたちに何でもないよと言い訳し、
ティッシュで机を拭きながら、憂に言った。
「憂…ついにそっちの世界に踏み込むんだね…まあ、健闘を祈るよ…」
最初は「へ?」と飲み込めていない様子だった憂だけど、
すぐに自分の言ったことがどういう響きを伴うのか気付いたらしく、サッと頬を染めた。
「ち、違う!違うよ!?私が言ったのはそういう意味じゃなくて…!」
「おやおやぁ、私は『そっちの世界』としか言ってないんだけど。
『そういう意味』ってどういう意味なのかね、憂さんや?」
「もうっ、純ちゃん!」
私にからかわれて、ますます顔を真っ赤にして恥じらう憂。
ああもう、かわいいなぁこの子。
うん、まあ分かってたよ、憂がそういう意味で言ったんじゃないってことは。
ただちょっと言葉足らずで、そして純粋すぎたね、憂。
…私と梓が穢れているわけではない、と思う。
思いたい。
ちなみに梓は「なんだ、よかったぁ…」と、心底安心したような顔と声で言っている。
だからリアクションがいちいちバレバレだってば。
梓が弾き飛ばした椅子をそそくさと起こして座りなおしたのを確認した憂は、
頬にまだ少し赤みを残したまま軽く咳払いをしてから、言った。
「さっきのはね――『新しいおねえちゃんが欲しい』ってことなの」
いやいやいやいや。
さすがに2度目だから、私も梓もある程度心構えができててさっきみたいには驚かなかったけど、
それだって結構な、っつーかむしろ捉えようによってはさっきのよりよっぽど問題発言ですけど!?
「え、なに、『新しいおねえちゃん』って。唯先輩はもういらないの?」
「えっ、それなら私にちょうだウチで引き受けてあげてもいいけど」
憂に限ってそんなことはあり得ないと分かってるけど、冗談半分で訊いてみた。
あと梓、間髪入れずに身を乗り出して唯先輩の身元引受人に立候補したのはまだいいとしても、
本音9割方出ちゃってる上に、
誤魔化すように無理矢理重ねた後半部もニュアンス的にそんな変わってないよ。
誤魔化せてないよ。
「そんなわけないよ!お姉ちゃんがいらないだなんて、そんなことあるわけないよ!」
「ウソウソ、冗談だって。分かってるからそんなムキにならないでよ憂。
ただ、意味がよく分からないから、もうちょっと説明してくんない?」
詰め寄ってきた憂をなだめながら、もう少し詳しく説明してくれるよう促す。
…梓、「なんだ…」とか明らかにガッカリしたように言わないの。
あんた、好きな人が妹に捨てられるところ見たいんかい。
「うーんと…要するにね。
お姉ちゃん…唯お姉ちゃんとは別に、もうひとり『おねえちゃん』が欲しいの」
唯先輩とは別に、もうひとり…?
でも、それはご両親に頼むものでは――いや、それで頼めるのは妹だけか。
ってことは…ははぁーん、なるほどね。
このあたりで私はようやく、憂の言わんとすることが理解できた。
梓はまだ理解できていないようだったけど――ま、すぐに分からせてあげよう。
私はニヤリと笑うと、
「あー、なるほどねぇ。ちなみに、どんな『おねえちゃん』が欲しいの?」
と、憂の話に乗っかる。
憂もどうやら、私が気付いたことに気付いたらしく、
珍しく少しいたずらっぽく笑うと、自分が欲しい『おねえちゃん』について語り始めた。
「えっと…まず黒髪の人がいいなぁ」
「なるほど、黒髪ね。ショート?ロング?」
「ロングだね。で、それを2つに結んでるの」
「顔つきとかは?美人系?」
「うーん…どっちかと言うとかわいい系かな。少しツリ目気味で、ネコっぽいといい感じかも」
「ほほう。で、他には?」
「そうだね…小柄な人がいいかな」
「小柄かぁ。身長150cmくらい?」
「うん、それくらいが理想的!」
「ふむふむ、容姿はそんなところかな。特技とかは?」
「唯お姉ちゃんもギター弾けるし、新しいおねえちゃんもやっぱりギターが上手な人がいいな。
ふたりが一緒にギター弾きながら歌ってるところとか見てみたい!」
憂の欲しい『おねえちゃん』像を2人で組み立てながら、梓の方を見る。
最初はきょとんとしていた梓だったけど、
『おねえちゃん』がある程度組み上がったところでその完成図が頭に浮かびでもしたのか、
一瞬ハッとした様子を見せた後、みるみるその顔を赤くしていった。
どうやら、憂の言う『おねえちゃん』の意味にも気付いたみたい。
でも、私と憂は手加減も容赦もしない。
してやらないよ――梓、あんたのためなんだから。
「じゃあ最後に――どんな性格の人がいい?」
とどめの質問――憂の欲しい『おねえちゃん』像、最後のパーツを組み込もう。
「えっとね――真面目でしっかりさんなんだけど、ちょっとムキになりやすかったり、
意地っ張りでなかなか
素直になれないような、そういうところもあって。
でも本当は優しくて、世話焼きで、
唯お姉ちゃんのことも色々気にかけてくれて、何かあった時は誰より心配してくれて。
唯お姉ちゃんのギターの練習やワガママにも、いつも何だかんだで付き合ってくれて。
唯お姉ちゃんに抱きしめられたり、あだ名で呼ばれたりするのが、実は好きで。
唯お姉ちゃんのあったかさや、やわらかさが、本当は好きで。
――唯お姉ちゃんのことが、私なんかに負けないくらい、
大、大大、大大大大大、だーい好きな――『梓』って名前の、『お義姉ちゃん』が欲しいなぁ♪」
これ以上ないくらいの笑顔で憂が言った瞬間。
これ以上ないくらいの真っ赤な顔をした梓の頭から、ポンっと煙が上がるのが見えた気がした。
ま、つまりそういうこと。
憂は、梓と唯先輩がくっつくことを願ったってわけ。
それも、結婚レベルで。
お姉ちゃんのことが大好きな憂は、同じくお姉ちゃんのことが大好きな親友のこともまた、大好き。
そしてそのお姉ちゃんとその親友は、相思相愛。
ならば、そんな大好きな2人のために、自分の誕生日を口実にして背中を押そう、と。
そういうことなんだよね、憂。
まったく、あんたは本当にいい子だ。
そんな憂が、私は大好き。
「ういー、ずいぶん欲張ったんじゃないー?唯先輩、探すの大変かもよー?」
「えへへー、やっぱりそうかなー?条件に合う人がうまく見つかればいいんだけどー」
私はニヤニヤ、憂はニコニコ笑いつつ、梓の方を見ながらセリフ棒読みの茶番を続ける。
相変わらず真っ赤っかな梓は何か言いたそうだけど、声に出せずぱくぱくと口を開けるだけ。
「うーん、でも意外と早く見つかるかもよー?」
「そうかなー?」
「そうだよー…あっれー?そういえばこの子、『梓』って名前だよねー?」
「ほんとだー。ぐうぜーん♪」
「しかも黒髪ツインテールだしー、ややツリ目だしー、身長150くらいだしー、
ギター得意だしー…すっごーい、ほとんどピッタリじゃーん♪」
「わーい、お義姉ちゃん候補だー♪」
「んー、でもどうかなー、梓は唯先輩のこと好きなのかなー?
お姉ちゃん大好きな憂に負けないくらい――唯先輩のことが、大大大だーい好きなのかなー?」
途中からすっかり俯いて、ブルブル震えていた梓だったけど。
「――うにゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
真っ赤な顔を上げると、そんな雄叫びを上げた。
もちろん、またしてもクラス中の視線が私たちに突き刺さったのは言うまでもない。
「ふ、ふふふ、ふふ、2人とも、どど、どういうつもりなの!?」
「えー?」
「なんのことー?」
「それはもういい!」
怒られたので、茶番モードから通常モードに切り替えて、私は言ってやった。
「だからさぁ…あんたはさっさと唯先輩とくっつきなさいっていう話だよ」
「ふぇっ!?く、くっつくって…!?」
「梓ちゃんがお姉ちゃんと結婚して、私のお義姉ちゃんになってくれたら嬉しいな、って♪」
「けけけ、結婚!?そ、それはさすがにまだ早…いや早いとかじゃなくって!
まずは恋び…でもなくって!わ、私と唯先輩は別にそんなんじゃ…!
それに…お、女同士なのに結婚なんて…!」
「そういう一般論はいいの。梓自身の気持ちは――本当の気持ちは、どうなの?」
「そっ…それは……えっと…その…」
「ま、続きはプレゼント調達に来た唯先輩に言えばいいよ」
「え?調達って…」
「お姉ちゃんにはもうお願いしてあるからねー♪」
「22日――憂の誕生日までもう1週間もないし、あと数日のうちに来るだろうね。
せいぜい唯先輩のプレゼント調達に協力してあげられるように、返事でも考えときなよ♪」
「えっ…えぇ…!?」
昼休みも残りわずかということで、話はそこで終わりになったけど。
梓はその後も、結局帰りのHRが終わって別れるまでずっと赤い顔をしたままで、
どこかそわそわと落ち着かない様子だった。
まったく、ホントに分かりやすいんだから――ま、がんばれ、応援してるぞ。
なんて、心の中でエールを送っておいた。
果たして、それから数日後――2月22日、憂の誕生日。
夕方に平沢邸で誕生会が開かれることになり、もちろん私も呼ばれたわけで。
そして――そこには「お姉ちゃん」からのプレゼントとして、
憂の希望通り、彼女の「お義姉ちゃん」になった梓の姿がありました、とさ。
とはいっても、さすがに学生のうちに結婚というわけにもいかないってことで、
厳密に言えば今はまだ「お義姉ちゃんになる予定の人」なんだけど。
まあどうせあと数年のうちには確実にそうなるんだし、やっぱ「お義姉ちゃん」でいいよね。
その「お義姉ちゃん」は、元祖「お姉ちゃん」――唯先輩のそばに、ピッタリ寄り添っている。
というか、唯先輩が梓の肩に手を回して引き寄せてるんだけど、
梓はもう以前みたいにそれを引き剥がそうとはしない。
まだまだ照れ臭さは消せないみたいで、少し表情がカタいけど、でもすっごく幸せそう。
一方の唯先輩は元々笑顔に定評のある人だけど、こちらも前よりますます幸せそうだ。
まったくこのリア充どもめ、爆発しろ!――なーんて、そんなこと言うわけがない。
少し手伝っただけとはいえ、背中を押した者として素直に祝福させてもらいますか。
良かったね、おめでとう、梓。
それから、唯先輩もおめでとうございます。
親友として、そのネコのこと、よろしく頼みましたよ。
さて、本日の主賓にして、誰よりも強く2人の背中を押した最大の功労者、憂はというと。
「おねえちゃん」たちの仲睦まじい様子を眺めながらニコニコと、
それはもう本当に嬉しそうに、この世で一番幸せそうに笑っていた。
「ねえ、憂?」
こっちもつられて笑顔になりながら、少しだけ気になっていたことを尋ねる。
「これじゃどっちかっつーと、憂から梓と唯先輩にプレゼントしたみたいじゃん。
あんたの誕生日なのに、それでいいの?」
そんな風に訊いてはみたけど、その答えはだいたい予想できていた。
伊達に中学時代から憂の親友をやってるわけじゃあないのだ。
「もう、純ちゃんったら」
屈託のない笑顔のまま答える憂。
「大好きなお姉ちゃんと、大好きな親友が恋人同士になって、あんなに幸せそうにしてるんだよ?
私にとってこれ以上の誕生日プレゼントなんて、あるわけないよ♪」
うん、やっぱりその答えは私の予想通りだった。
お姉ちゃんのことが大好きな憂は、同じくお姉ちゃんのことが大好きな親友のこともまた、大好き。
そしてそのお姉ちゃんとその親友は、相思相愛。
ならば、そんな大好きな2人が結ばれて、一緒に幸せになれば、自分もいっぱい、いっぱい幸せ。
だって、お姉ちゃんの幸せは自分の幸せで、親友の幸せもまた、自分の幸せだから。
そういうことなんだよね、憂。
まったくもう、あんたってば本当に、どうしようもなくいい子なんだから。
そんな憂が、私は大好きだよ。
しかしまあ、何と言うか――相変わらずイチャラブなオーラを発しているあの2人は、
確かに立場上は憂の「おねえちゃん」だけど。
今回背中を押してもらった一件といい、普段のことといい、すっかりお世話になりっぱなしの、
このキューピッドな「妹」には一生頭が上がらないんじゃ?――と、ちょっと思う。
でも多分、2人の「おねえちゃん」が仲良く幸せにしている限り、この「妹」は笑ってるんだろう。
だから私からは、「おねえちゃん」方にひとことだけ言わせてもらおう。
「妹」さんをくれぐれも泣かさないよう、末永くお幸せに!――ってね。
END
- 憂△ -- (名無しさん) 2013-11-08 15:56:35
- 憂、ナイス -- (名無しさん) 2014-04-24 04:53:27
最終更新:2012年03月25日 00:11