「あ、
あずにゃん?」
卒業式が終わった後の
帰り道、気付くと私は唯先輩に抱きついていた。
思えば、自分から唯先輩に抱きついたのはこれが初めての事だったかも知れない。
「よしよし♪」
私の行動に少し驚いた様子の彼女だったが、直ぐに優しく頭を撫でてくれた。
「唯先輩…」
「どうしたの、あずにゃん…寂しくなっちゃった?」
「わかりません、ただ…」
「ただ?」
「今になって気付いちゃったんです、私は唯先輩の温もりが大好きだったんだって事に…」
「そっかそっか♪」
唯先輩はそう言って微笑みながら、ぎゅーっと私を抱きしめてくれた。
「もう唯先輩の温もりを感じられなくなるって思ったら、急に悲しくなってきて…」
「大丈夫だよ、別に会えなくなる訳じゃないんだから」
私の頭を優しく撫でながら、唯先輩が諭してくれる。
「だけど、毎日は会えなくなりますよね?」
「うん、毎日はちょっと難しいかな」
「毎日、抱きしめてくれないと嫌です」
「我侭言わないの、あずにゃん」
困ったような、それでいて嬉しそうな顔をして唯先輩が言う。
「唯先輩、我侭な子は嫌いですか?」
「ううん、こんな可愛い我侭なら大歓迎だよ♪」
「じゃあ…もっと唯先輩を困らせて良いですか?」
「どんな事を言って困らせてくれるの?」
「好きです、唯先輩」
「おおぅ…」
突然の告白に流石の唯先輩も驚きを隠せないようだった。
「やっぱり変ですよね、女の子同士なのに」
「ん…」
「すいません、感情が昂ぶってて自分でも制御出来てないんです」
何故、そんな事を言ってしまったのかわからなかった。だけど、言わずには居られなかった。
「あずにゃんの気持ちは嬉しいよ、私だってあずにゃんが大好きだから」
「だけど、唯先輩の言ってる好きと私の言ってる好きは違いますよね」
「…」
「唯先輩の言ってる好きは…」
「私ね、まだ恋ってした事ないんだ」
私の言葉を遮り、不意に唯先輩がそんな事を言った。
「…そうなんですか?」
「だからね、この気持ちが何なのか私にはよくわからないんだけど…」
「唯先輩…?」
「私はあずにゃんが大好き、出来る事ならずっとこうして抱きしめてたいくらいに」
そう言って私を強く抱きしめる。普段と同じ様で何処か違う抱擁に、私の胸は急速に高鳴り出した。
「これってね、あずにゃんが私を好きって言ってくれた気持ちと違う事なのかな?」
唯先輩は今まで見た事がない位に顔を真っ赤にさせていた。
「きっと…違わないと思います」
「そっかそっか♪」
唯先輩は嬉しそうに微笑む。そして、私を真正面からじっと見据えて言った。
「平沢唯はあずにゃんの事が大好きです、
これからもずっとあずにゃんを抱きしめていたいです」
「唯先輩…」
「愛とか恋とかまだわかんないけど、これが今の私の正直な気持ちだよ♪」
「はい」
「毎日は無理かもだけど、時間がある時は会いに行くから」
「はい」
「あずにゃんも会いにきてくれる?」
「行きます!迷惑じゃないなら先輩の家に遊びに行きます」
「迷惑なんかじゃないよ、何なら泊まってくれても良いしね」
「それは駄目です」
「えぇ、何で~?」
「私が卒業するまでは健全なお付き合いを…!」
「…あずにゃんったらエッチなんだから♪」
「んな!?」
「心配しなくてもあずにゃんが嫌がることはしないよ」
「…ないです」
「あずにゃん?」
「唯先輩がしてくれる事に嫌がる自信がないです…気付いてましたか、唯先輩?」
「何かな?」
唯先輩は首を傾げる。
「この二年間、いつも唯先輩に抱きつかれてて口では止めてって言ってましたけど、一度も拒んだ事はなかったんですよ?」
「去年の学祭の時、ビンタされた記憶が…」
「あ、あれは別です!皆が居る前でキスなんて出来る訳ないじゃないですか!」
「じゃあ、二人きりだったら良いの?」
「え…?」
次の瞬間、私と唯先輩の唇が重なり合った。
『…』
ほんの一瞬、だけど間違いなく私達はキスをした。
「ん…」
唇が離れた後も何が起こったのか直ぐには理解できなかった。
「あはは、今度はちゃんと受け入れてくれたね♪」
悪戯っぽく笑いながら唯先輩がそう言う。
「…」
ようやく事態を飲み込んだ私だったが、あまりの出来事に声が出せなかった。
そんな私をぎゅーっと抱きしめて唯先輩がこう言った。
「
ずっと一緒だよ、あずにゃん♪」
後日談
新学期になって二週間が過ぎようとしていた。
卒業式の日、私と唯先輩は晴れて恋人同士になった。
あの日の約束通り、時間が許す時はお互いの家を行き来したり、休みの日には二人で出掛けたり、それなりに充実した日々を送っていた。
けれど…。
「唯先輩分が足りない…」
私はふぅっと溜息を吐いて窓の外を見る。
「私ってこんなにも唯先輩に依存してたんだ…」
唯先輩の在学中には、ほぼ毎日と言って良いほど感じられた温もりが今はない。
「唯先輩、会いたいよ…」
「あっずにゃ~ん♪」
「にゃう!?」
突然、背中に愛しい人の温もりを感じた。
「よしよし♪」
「ゆ、唯先輩…?」
半信半疑で振り返るとそこには唯先輩が居た。ただし、憂に変装した唯先輩が。
「な、な、な…」
「どうしたの、あずにゃん?」
「何やってるんですかああああああああああ!?」
私は混乱のあまり、絶叫する。
「あずにゃん分補給♪」
何の迷いもなく唯先輩は答え、そして軽い口調でこう言い放った。
「何か問題ある?」
本当にこの人は、いつも私の欲しいものを与えてくれる。
「…そんな事、ある訳ないじゃないですか!」
私は唯先輩の胸に顔を埋め、大好きな温もりを思う存分に堪能した。
-同時刻、某大学の軽音サークル内
~♪
「ジャ~ン…っと」
『あれ?』
「…どう思う?」
「わからないけど…」
「たまたまじゃないか?」
「気のせいか…もう一回やってみよう」
「そうね」
~♪
「ふぅ…」
『…』
「唯…」
「は、はい」
「完璧に合いすぎる、今までこんな感触なかったのに!」
「唯のリズムキープが正確すぎるんだ…何があった!?」
「月が赤い…」
何処かで聞いたような台詞を言う三人の姿があった。
おしまい!
- 卒業しちゃったね -- (名無しさん) 2010-09-21 12:37:23
- この空気好き -- (名無しさん) 2012-12-31 17:00:30
- この展開アニメの最終回での話か!? -- (あずにゃんラブ) 2013-01-20 00:26:23
- お姉ちゃんっぽい唯って好き -- (名無しさん) 2013-10-29 01:03:17
最終更新:2010年07月07日 23:03