最後のストロークを決め、満足度100%の余韻に浸る。
仕上げは上々、特に今のはいい感じだった。これならライブで、他の先輩に劣らない演奏を見せられそう。
ふんすっと得意げに胸を張って、これじゃ唯先輩だなと少々の脱力感を感じ、それならとそのまま体の緊張を解きほぐしてリラックスモードへと移行する。
まあちょっと頑張れたし、少し休憩にしようかな。
そう思い、肩からむったんを下ろすとソファーに立てかけ、折角だからお茶でも入れようと食器棚のほうへと振り返った。

「……」
「……」

そこには両手をぴんと斜め30度上に上げ、直立不動の唯先輩が異様な存在感をかもしつつ佇んでいた。
うん、今かなりびびった。心臓がバクバク言ってる。
どちらかといえば木と言うよりは案山子という感じもするけど、だけど見事というべきかな。唯先輩がそこにいたということを失念してしまうくらい、気配がなかったからね。

「えっと……」

お茶でもどうですかと声をかけようと思ったけど、唯先輩の顔はあまりに真剣で、邪魔になってしまうのではと憚られてしまう。そういえば、じっとする練習をしろって言いつけられてたんだっけ。
そんなの適当に立ってればいいんじゃ、と思わなくもないんだけど。どうせ木役、それもGなんてわざわざ注視する人なんて殆どいないだろうに。
……まあ、少なくとも二人はいると思うけどね。
だけど、唯先輩は本当に真剣な表情。ピシッと手を伸ばして、ぴくりとも動かない。それは、近づいてみれば呼吸分の僅かな動作はしているんだろうけど、この距離からはまったくそれを感じさせない。
木というより案山子じゃない、なんて茶化すような感想を浮かべてしまったことを少しだけ申し訳なくなってしまうほど。
まあ、唯先輩だからこれくらいは当たり前かな。普段だらーっとしてるくせに、これって決めたらこの人は本当に真剣な顔を見せてくれるから。うっかり惚れちゃう位にね。
でも、さ。少しくらい気を抜いくれてもいいかなーなんて思ったりもする。
真剣モードじゃない唯先輩だったら、あずにゃーんととろけたような顔で何かしょうもない理由をつけて抱きついてきたりしただろうから。
そうなれば、私は少しはこうして寂しい思いをしなくてもすんだかもしれないのに。
はあ、また私らしくないこと考えてるよ。唯先輩が真剣なのはいいことだし、できればそれをギターの練習に向けてくれるとなお嬉しいけど、今くらいはね。
それなら私も負けないように、私なりに万全の練習をしておこうっと。
さあ、むったん、また行くよー!

「あずにゃ~ん……」

そんな私の耳に響く、唯先輩の甘くてとろけるような声。

「はいなんですか唯先輩どうしました何か困ったことでもありましたか」

瞬間、再び担ぎ上げようとしたギターを即座に下ろし、一足飛びに唯先輩の下へと駆け寄った私がそこにいた。
どれだけ私唯先輩のアクションに飢えてたのよ、と脳内セルフ突込みが入るけど今更そんなことを浮かべたところで自分の行動をなかったことにできるはずがない。

あずにゃん……?」

唯先輩にほんの一瞬だけどちょっとだけ引かれた。すぐほわっとした笑顔に戻ってくれたから、まだ致命的じゃないけど。
本当に何やってんだろ自分。マジ凹む。
まあこうなったら仕方がない。凹んでいるのももったいないし、どうせなら数十分ぶりの唯先輩との会話を楽しもう。
顔を上げて目を合わせた唯先輩は、ポーズは先ほどのまま。だけど表情の質を変えて、笑っているのか困っているのかその中間のようなあいまいな微笑を私に向けている。
唯先輩にしては珍しい表情。
なんだろう、と思う。まあ、先ほどの声色は私に何か頼みごとがあるときのものだから、きっと何か困ったことが起きたんだろうけど。

「それで、どうしたんですか?」
「えっとね、あずにゃんにお願いがあるんだけど」
「はい」

しかし、この状況で私が唯先輩にしてあげられることってなんだろう。出来ることはかなり限られるけど。
あ、のどが渇いたからお茶を飲まして、とかかな。
自分で飲んでくださいよ、とか反射的に返してしまいそうだけど、きっと唯先輩のことだから木の練習中だから動けないよぉ、なんて理由をつけたりして来そうだ。
まあ、それなら木はお茶なんて飲んだりしませんからね。と返すのもありかな。そして言いくるめられてしょんぼりとした唯先輩に、仕方ないですねと折れてあげるの。
うん、そのときの唯先輩のいい笑顔いただき!よし、これで行こう自分。

「えっとね、今木の練習中で動けないから」

唯先輩の切り出しは予想通り。さすが私、年期の差はあるけど憂に唯先輩研究家としてライバル宣言をされたことだけはあるよ。
任せてください、ムギ先輩に負けないくらいのおいしい紅茶を入れてあげますからね。
さあおいで、と手を広げんばかりに次の台詞を待つ私に、唯先輩はふにっといつもの柔らかな笑顔を浮かべると、軽やかな声で続けた。

「お尻にパンツが食い込んで気持ち悪いから、ちょっとずらしてくれないかなって」
「予想外すぎますっ!」
「あだっ!」

反射的に突っ込んでしまった。咄嗟だったから、遠慮なしの脳天チョップ。唯先輩はかなり痛そうにしてて、だけどそれでも木のポーズを崩していないのはさすがというべきか。
いや、でもね。さすがに無理ないよね、これ。いきなりそんなこと言われたら、誰だって突っ込みいれるよ。
いやごめん、一人除外だ。憂なら嬉々として即座にスカートに手を突っ込みそうだ。そうだ、私の親友は私が考えるよりも遥か深遠にいるんだった。
まあ、落ち着こう。ひょっとしたら聞き間違いの可能性がある。
いや、そっちの可能性をまず考えるべきだった。いくら唯先輩でもさすがにそんな突拍子もないお願いはしてこないよね。
きっとパン食いたいからお口に突っ込んでほしいなとか、そういう台詞を聞き間違えちゃったんだよ。
それならロングパンを突っ込んであげるといいかな。唯先輩手が使えないから、仕方なくハムハムとしゃぶるように食べていくの。息がしにくいから、頬とかうっすらと赤くなっちゃったりして。
でも私の手が構わずにくいくいとパンを押し付けてくるから、一生懸命その棒状のものを頬張って、少しずつ頑張って飲み込んで。だけど追いつかなくて、口の端から唾液とかたらしたりして。
あずにゃん、おっきすぎるよぅ……と咥えたまま上目遣いで私を見上げてきたりしてもうああもう唯先輩かわいすぎにゃんにゃんしたいニャー!

――ってね、うん、私、混乱しすぎだから。落ち着け落ち着け。

深呼吸、深呼吸、よし、落ち着いた。冷静な私、カムバックOK。
私にチョップを入れられたまま放置されてむくれ顔の唯先輩は、相変わらずやたら可愛いくてまたヒートしちゃいそうだけど、それはいつものことだから。
では、気を取り直して。

「えっと、なんでしたっけ?」
「だから、パンツが食い込んでむずむずするから、直してほしいなって」

何で二回も言わせるの、といわんばかりのむくれ顔を更にむくれさせる唯先輩。
さすがに多少はそういうこともひょっとしたらあるかな、と思いはしたので即突っ込みは回避できたけど。
うん、二回もそんな突拍子もないお願いされた私の身にもなってほしいです。
いや、勿論唯先輩のパンツの中に手を突っ込みたいという衝動は往々にして存在して、時々敗北しかけるほどの激戦を繰り広げるいわばライバルといっていいほどの存在ではあるんだけど。
むしろ負けちゃえ、的な。
いやでも、こんな私にでも世間体を気にする心とか、そういうのちょっと普段の私のキャラじゃないなとか、そういう多少のプライド的なものはあるわけなんです。
それをあっさり粉々に打ち砕こうとしないでください。なんですかその公認パンツ脱がしても大丈夫だよ的発言は――ごめん暴走、脱がせとは言ってないですね。

「そ、そんなの自分でやってください!」

見よ、この模範的返答。私頑張った、欲望に打ち勝った!ほめてください唯先輩!ご褒美に頑張ったあずにゃんには私のパンツの中見せてあげるね、位言われてもいい頑張りようだよね、これ。
全く、私の理性の限界点も少しは考えてほしいものですよ、もう。

「ダメだよぅ。今特訓中だから、動けないもん……」

あああ、ええ、予想していた反応ですよ。だけどその腰と太ももをもじもじさせながら、少し頬を染めた表情とか反則にも程がありますよ。わざとですか。

「し、仕方ないですね……今回だけの特別ですよ」

よわっ!私よわっ!いや、むしろ今まで耐えてきた自分をほめるべきだよね、これは。

「えへへ。ありがとう、あずにゃん♪」

今から自分のパンツに手を突っ込もうとしている後輩を前に、そんな素敵なエンジェリックスマイルを浮かべないでください。

「それじゃ、行きますよ……」

すでに唯先輩の背後に回ってスタンバイ万全だった私は、そっと唯先輩のスカートに手をかける。
ああ、今まで鉄壁のガード性能を誇り、何度も私の悔し涙すら跳ね返してきたこの憎むべき、そして愛すべき布地をこの手でめくり上げられる日が来るなんて。
思わず感涙してしまいそう。でもまだはやいよね。メインデッシュはここからなんだから。
じゃあ、行きますよ?唯先輩……

「じゅ……っ!」
「じゅ?」
「な、なんでもないです!」

危ない。危うく、純白のフリル付レース仕上げ……だと……これは誘ってくるんですよね襲っていいってことですよね行きますよ!と覆いかぶさるところだった、マジ危険。
何でこんな勝負下着じみたものを学校にはいてくるんですか!そ、それとも普段から全部こんな……?唯先輩は子供下着愛好者だと思ってたのに。
うん、でもそのギャップも堪りません。
ああ、これは認定試験か何かですね、わかります。大丈夫、私はあずにゃんという名の淑女ですから、全身ペロペロ位はお手の物です。
じゃない、それこそ変態だ!ペロペロ禁止!至って正しい姿な気もするけど、色々引き換えにしちゃうから。
頑張れ、落ち着け私。ここは学校で、そして音楽室。放課後の部活時間で、まだ校内にお邪魔虫という名前の人はたくさんいるんだ。
二人きり唯先輩のお部屋とかだと間違いなく耐え切れなかったけど、これならまだ頑張れる。
今まで私が培ってきた中野梓、頑張れ。

「あずにゃん、はやくしてぇ……もうがまんできないよぅ」

あぁ……うん。もう頑張らなくても……いいよね……?

いやいやいや、もうわざとやってますよねこの人は!落ち着け中野梓、これは罠だ。非常に甘美ではあるけど、罠だ。その中こそがこの世の極楽に違いないけど、罠だ。
ふふふ、甘いですよ唯先輩。この程度でこの中野梓を篭絡できるとでも!
たかだか取れたての白桃すら裸足で逃げ出しそうな瑞々しい唯先輩のお尻に食い込む神秘の布地に指を突っ込むだけじゃないですか。
そのフレーズだけで脳みそ溶けそうですけどね。だけど負けませんよ!
そう、これは勝負だ。唯先輩と中野梓の一騎打ち!勝負事となれば、簡単に負けてやるわけにはいかないです!
ヤッテヤルデス、ですよ!あの亜種のように、このツインテが手足のように動くのなら今すぐに触手プレイにチャレンジだけどね!気分的に!
よし、テンションおかしい!
このままいってやるです!

「ひゃん……っ!あ、あずにゃん、そこはちがうよぅ」
「すみません勢いあまりましたごめんなさい」

危なかった。あまりの唯先輩の極上の肉の感触思わずわれを忘れてシークレットゾーンまで指を伸ばすところだった。
ええ、敗北宣言です。まあ、わかってましたけどね。
どうせならそのまま突っ走ればよかった。ぎりぎりのところで我に返った自分殴り殺したい。
仕方ないからお尻ふにふにで我慢しておいてあげます。

「にゃっ……ふ……ぅ、も、もういいよ、あずにゃぁん」
「そうですか」

さよなら唯先輩の生お尻。自分の理性が憎い。そんなに頑張らなくていいのに、とさっきと間逆の台詞をはいてみる。
何この手を離した後の喪失感。レッツプレイこの指はね唯先輩のお尻に触れるためにあったの♪って歌っちゃいそうですよ。壊滅的に字数あってないけど。
でも、仕方ないよね。唯先輩がもういいよって言ったんだから。無理やりはダメ。私が唯先輩に抱いているのはあくまで愛で、欲望じゃない!……きっと。

「ありがとう、すっきりしたよ!」
「はあ、もう変なお願いしないでくださいね」

そんな思わせぶりなこと言われても、別の意味ですっきりさせてあげなかったなんて思いませんからね。ばっちり事後まで脳内妄想済みですが。
いつもの私スタイルで、あきれたスマイルを浮かべてきっちり対応。さすが私。さすが中野梓。あずにゃんの名は伊達じゃないです。
さあ、平静を取り戻したところで、早速練習に戻らないとね。むったんもお待ちかねだし。放置してごめんね。
これ以上何かしようものなら、レッドゾーン振り切るどころじゃなくなるからね。

「……えっと、もう一個変なお願いしていいかな」
「ウエルカムです唯先輩」

なのになんでまたそんなことを言い出すんですか唯先輩。思わず本音が口から漏れちゃったじゃないですか。

「へ?」
「空耳です忘れてください。コホン。はあ、もう。今度はなんですか」

まあ仕方ない、流れ的にまたエッチなお願いが来るに違いないと期待しちゃうのは無理ないしね。
さあ今度はどこですかどこでも好きなところをいってくださいいくらでもペロペロしてあげますよ。
――うん、少しは落ち着こう、私。

「えっとね、今度はブラが食い込んでて」
「さすがです唯先輩ひゃっほー」

さすがは唯先輩!いろんな意味で期待を裏切りませんね!脳内の全私喝采!

「へ?」
「今のは間違いです。またですか、もうそういうのは自分でやってくださいよ……」

といいつつ自然と唯先輩の背後にすすっと回りこむ自分の周到さが憎いです。後は伝家の宝刀、今回だけですよをつぶやけば準備万端。

「あ、ダメだよあずにゃん、前からお願い~」
「へ?」
「シャツの下から手を突っ込まれると、引っ張られてバランス崩しちゃいそうだもん」
「あ、えと、なるほど。だけど……」
「前からシャツのボタン外してやれば、大丈夫だと思うんだ」
「そ、それは確かに……ですね」

なるほど、つまり先輩は。向き合った状態で私にブレザーとシャツのボタンを外して胸をはだけさせて、そのままシャツの中に手を突っ込んで手を回してブラの位置を調整しろっていってるんですね。
はい、よくわかりましたよ唯先輩。それじゃベッドに行きましょうか?朝までたっぷり可愛がってあげます。ああ、でもここは音楽室ですからベッドないですね。じゃあ、保健室にでも――
いや、じゃあ保健室にでも、じゃないから、私。本当に今のはやばかったよ。自然に唯先輩の腰に手を回してエスコートしようとしてたし。
当の唯先輩はふえ?なんて顔して、腰じゃなくて胸のほうだよ~なんてあっけらかんと言ってくれてるし。
そうですよね、今のテーマは唯先輩の胸ですよね。ブラですよね。それに隠されたたわわな果実的な何かですよね。
もう押し倒してペロペロしちゃってもいいですか。

そんな風にしながら私の思考はそろそろレッドゾーン。ああ、もうこれくらいかな。
キュッとした唇をかんで、ぎゅっと手を強く握り締めて、その鈍い痛みで無理やりに頭をクールダウンさせる。
――妄想もこれくらいにしておかないとね。じゃないと、ダメだから。

「あずにゃーん?」

動きを止めた私に、怪訝そうに問いかける無邪気な唯先輩の顔が目に入る。くるんとしたまん丸で大きな瞳に惜しげもなく私を映して、こちらを覗き込んでる。
だらしなくてごろごろが大好きで、だけど誰よりギターが大好きでここぞって時にはすごい姿を見せてくれる唯先輩。
そう、なんだかんだ言いつつも――こっそり尊敬もしてたりする、私の大好きな唯先輩。
唯先輩はいつも楽しそうに笑ってて、きらきら輝いてて、きっと本人は気付いてないんだろうけど、それを私はいつも眩しく思ってる。そしてそれはきっと、私だけの想いじゃない。
それは確かに、私が唯先輩にその手の欲情を抱いてしまっているのは確かだけど……だけど、だからといってそんなので唯先輩を汚すわけには行かないじゃない。
だけど、このまま進んだらきっと私はそうなっちゃう。
だって仕方ない。私は本当は今にも唯先輩を犯して、暴いて、その体の隅々まで私を刻み込んで、他の誰のものでもない私だけのものにしてしまいたいって、そう思ってるんだから。
そう思ってしまうくらいに、自分でも自分がおかしくなってしまってるんじゃないかって思うくらいに、唯先輩のことを好きになってしまってるんだから。

だけど、だからこそこの想いは表に出しちゃいけない。
だって、私は。こんなどうしようもない邪念を抱いてしまっている私は、それでも、唯先輩の後輩なんだから。
唯先輩にとって初めての後輩で。いつもいつもその温かな笑顔で可愛がられている後輩で。ぎゅーっとされるとへにゃって力が抜けて甘えちゃう後輩。
自分で言うのもなんだけど、すごく愛されていると思う。だから、私は、それを裏切ったらダメだと思うんだ。
私が唯先輩のことを好きだと思うのなら、その好きだと思う分だけ、自分の思いを抑え込んで表に出さないようにしないといけない。
そうしていつものあずにゃんですよ、という顔をして先輩の前で笑って見せるんだ。
そうだよ、それが先輩にとっての私なんだから。先輩が好きでいてくれる私なんだから。だから、これ以上はもう調子に乗っちゃダメ。
ちゃんと断って、ギターの練習に戻ろう。そして部活が終わったら、また一緒の帰り道、少し寄り道して一緒にアイスを食べに行こう。
そして、いつもみたいにばいばいってお別れしよう。
この悶々としたものは、またいつものように寝る前の自家発電で発散すればいいしね。うーん、今日はあの写真を使おうかな。

さあ、それじゃ唯先輩に断りを入れて――

「もう、焦らさないでよぅ……」
「はい、今すぐボタン外しますね」

といいつつなんでブレザーのボタンに手をかけてるかな私。
だって、だって。唯先輩がもじもじとしながら胸を揺らすのが悪いんですよ。そんな仕草されたら思考なんて全部すっ飛んじゃうじゃないですか。
可愛すぎます。
せっかくクールダウンしたのが全部無駄になっちゃったじゃないですか。
はあ、でもそのおかげで限界値は遠くに行ったみたいだし、もう少し位はいいかな。
さあさあ、今すぐその窮屈そうなところから開放してあげますね、唯先輩のたわわな果実さんたち……って私、なんか言動が変態ぽい。
でも、本当に窮屈そう。そういえば、この間の喫茶店でのバイトのとき、胸がきついって言ってたっけ。
ひょっとして、あれからまた育ったのかな。なんかブレザーのボタンもかなり硬いし。

「んひゃぅ……あずにゃあん、手つきがやらしいよぅ」
「そんなかわ……ボタン外しているだけですから変なこと言わないでください」

そんな可愛い声上げてると、犯しちゃいますよ。うん、危ない。本音と台詞がひっくり返るところだった。
さっきから何度かやってる気がするけど、さすがにこの台詞はやばいね。セーフセーフ。
唯先輩が可愛すぎるから、ついボタン外しながら敏感ポイント探索なんてやってたみたい。
全く、あわてることないのにね。そういうのは全部脱がしてからにしたほうが確実なのに。
ってぇ、また煩悩に流されそうになってるよ。そういうのダメだからね。あくまで妄想の範囲内でね。
とりあえずボタンは外したから、ブレザーの前を広げてシャツの襟元へと手を伸ばす。
超結びのネクタイをするりと外して、シャツのボタンへと手をかける。
そう、無心だよ私。煩悩退散煩悩退散。唯先輩の信頼を裏切っちゃいけない。

「えへへ、あずにゃん。優しくしてね?」

本当は犯されたいんじゃないの、この先輩は?
ダメダメ、いつもの悪ふざけ。期待禁止。妄想も禁止。私はただシャツのボタンを外すだけの機械。私は機械になりたい。
ぷちぷちととにかくボタンを外し、くいっとシャツの前を広げる。

「谷間いやっほぅ!」
「へ?」
「あ……いや、えっと。そう、グランドキャニオンの壮大な風景を思い出しまして、つい」
「あ、そうなんだ……すごいもんね、グランドキャニオン」

本当にすごいのは先輩の胸の谷間ですけどね。まさにグランドキャニオン。大自然の生み出した荘厳で雄大な光景に勝るとも劣らない絶景です。
おもわずいやっほぅなんて言ってしまいましたよこんなの私じゃない!とちょっと前の私なら言ってた気がします。
まあ、そんな私もきっとこのブラにパンパンに詰め込まれたおっぱ……たわわな何かを目の前にしたら、あっさり改宗してしまうと思うけど。
うん、これは素晴らし過ぎる。
もうむしゃぶりついてもいいですか?ええ、ダメですよね。はあ。

「というか、先輩。これ相当きつくないです?」

とりあえず理性的な私が何とかひねり出してきた話題を口にしてみる。
口にしてみると、実際そのとおりだと思う。胸を最適な形に支えてる、じゃなくてこれじゃ詰め込んでるだよ。
というかいったいどれだけ育ったの唯先輩。さすが唯先輩。よくやった唯先輩。

「うん……なんかもう全然サイズ合わなくなっちゃって……お気に入りだからね、頑張ってつけてたけど」
「ダメですよ、ちゃんとサイズ合ったものをつけないと。体にもよくないです」
「そうだね……うん、あずにゃんがそう言うなら、そうするよ」

私がそう言うなら、か。こういうところでさらっと殺し文句をはくのが唯先輩ですよね。
でも今のはナイスタイミングでした。おかげで少し気が紛れましたから。

「ほらもう、このあたりかなり食い込んでますよ。ちょっと緩めますから」
「ありがとう、あずにゃん」

シャツを肌蹴てするりと脇の下から背中へと手を回す。
手のひらと腕に触れる唯先輩の柔らかな肌や、乗り出した分だけ鼻先に近づいた胸とか、服越しでない分いつもより濃厚な唯先輩のにおいとか。
私の理性ゲージをあっさり0にしてしまうだろうそれを前に、私はきゅっと唇をかむこともなく、耐えてみせる。
そう、今の私を支配するのは欲じゃなくて愛なんだよ。
一瞬前の唯先輩の無垢な笑顔が私にそれを与えてくれたんだ。
欲を超える勇気という名の愛をね!
うん、今の私かっこいい。唯先輩も惚れ直すこと間違いなし。
さあ、このまま頑張って、颯爽とホックを一段緩めて紳士的に身を離して、涼やかに笑って見せるの。
そうすればきっと唯先輩も私に夢中になっちゃって、もう我慢できないの、抱いて?なんて言って来るに違いないよねふふふたっぷり可愛がってあげますよ唯先輩にゃあ!

「それじゃ、一度外しますね」
「うん。あ、でも気を付けてね?」

ホックに手をかけた私に、唯先輩はそんなことを言う。唯先輩の言うことならそれは何でも聞いちゃいますけど、でも、何に気をつければいいんだろう。

「へ?何でですか?」
「うかつに外すとね、それ……」

小さく首をかしげながら作業を継続した私は、その言葉の先をそれ以上聞くことはできなかった。
ほんの瞬きの間に、たゆんと言う音と何か柔らかくて暖かいものが顔にぶつかってくる感触とともに、私の視界は真っ暗になってしまったから。
えっと、何これ。何この柔らかくて気持ちのいい物体。何でそれが私の顔を包み込んでるんだろう。
まあ、顔を離して距離を置いて見てみればすぐわかるんだろうけど。何故だろう、どうしてか一ミクロンたりともこれから離れたくないという命令が脳から発せられてる。
仕方ないから、寸前の記憶をコマ送りで再生。
確か、ブラのフックに手をかけてそれを外した瞬間、ぷちんという軽い音とともに唯先輩の神々しい胸を包むブラが、まるで引き絞られたゴムを離したような勢いでポンッと真上に弾け飛んで。
うん、それは仕方ない。あれだけのものをあのサイズに詰め込んでたんだから。当然といえばそうなんだけど。
そして、ぽんとはじけ飛んだそのあとには、何も隠すもののなくなった唯先輩の二つのふくらみ。
さすが私、あの一瞬でこんなに鮮明に再生できるほど脳裏に焼き付けていただなんて。うん、ほめてあげる一瞬前の私。
ああ、そうだ。それで支えるもののなくなったたわわなそれは、ちょうどそこに鼻先を近づけてこっそりスンスンやっていた私の顔にたゆんって落ちてきたんだ。
そうだ、つまりこの、私の顔を激しくも優しく包み込むこれはつまり――。
でも結論を出す前に、ちょっと確認しないとね。はむっと。

「ひうっ……」

あ、唯先輩の声。やっぱりこれは唯先輩のなんだ。そっかあ…唯先輩の胸に私は今顔をうずめてる状態なんだね。
しっとりと熱くて、柔らかくて優しくて、いい匂いがして、溶けちゃいそう。
本当に、本当に、もう溶けちゃいそうで。もう――限界。

本当に無理。

だって、大好きな人がこんなあられもない姿になってて、その背中に手を回したままの私はまるで抱きしめているみたいなんだよ。
こんな状態になってて、冷静でいろって言う方が無理。うん、無理だよ。
今まで何とか我慢できていて、それは確かに奇跡だと思うけど、だけどもうそれをいくら積み上げてももうダメみたい。
熱に浮かされた心臓はどくどくどくっと高鳴って、思考すら溶かしてしまいそうな熱を全身に送り込んでいる。
きっとマグマよりも熱いそれは、私の体中を駆け巡って、私の中から唯先輩以外のものを全部消しちゃおうとする。
ただ唯先輩だけがそこにいて、そしてそれが何よりも愛しい。愛しくて、たまらない。愛しくて愛しくて、それを全部伝えたいって思う。
私の体中を先輩の体中にすりつけて、教えてあげたくなる。
ダメだよって叫んでいる私は、もう何処か遠くに流されてしまったから。
だから、もう、私は私を止められない。

だから、だよ。もしここで私を止められる存在がいるとしたら、それは一人だけなのに。
なのに何故ですか。何故そうできるあなたは、そうしないんですか。
だって、そうしないとあなたは、私に――されちゃうんですよ。それとも、私が本気じゃないとでも思ってるんですか。

抱きしめているような、それだった腕に力を篭めて、ぎゅうっと唯先輩の背中を抱きしめてもっと強く私に先輩を押し付けた。
すっかり埋まっていた顔を鼻先辺りまで先輩の胸元から覗かせると、少し熱っぽい顔で私を見下ろす唯先輩と目が合う。
だけど、目が合うだけ。唯先輩は私を見下ろしてくるだけで、その眼差しには戸惑いも怯えも見て取れない。

ああ、きっと、先輩はまだいつものスキンシップだと思ってるんだ。
もうそんなんじゃないのに。そんなものに収めきれなくなってるのに。

抱きしめた手をそのまま下に落としていって、スカートのホックに手をかけても唯先輩の視線は少しも動じずに私に向けられたまま。
ぱさりとスカートが足元に落ちてもまだ、少しの揺らぎを見せただけで先輩の眼差しには私をとがめる様な色は灯らない。
ただじいっと、微笑すら浮かべた表情のまま、優しく私を見下ろしている。

わからない、唯先輩が。だって、もうこんなの冗談になってない。
ブレザーもシャツも肌蹴て、ブラまで外されて、そしてそこに顔をうずめるように抱きしめられて、更にスカートまで脱がされて。
仮に空気を読まない純あたりがJUJUJU~と歌いながら音楽室を訪れたとしたら、間違いなくごゆっくりと言い捨てて走り去っていくに違いない。
そしてその後私と唯先輩が付き合ってるなんて噂が、実しやかに囁かれ始めるとかそんなレベルの状況。
それなのに、何で先輩は、まだそんな顔で私のことを見てくるんですか。
突き飛ばしてくれていいのに。
こんな、ちょっと可愛がられてるからって、ただの先輩と後輩という関係だけということにも更に自分の性別すらわきまえずに思いを募らせ、あまつさえ堪え切れずに暴走し始めている私のことなんて。
なのにどうして唯先輩は、そんなに優しく微笑みながら、抱きしめてくれるんですか。

「唯先輩……っ」
「よしよし、あずにゃん……」

気がつけば、私はぎゅっと唯先輩に抱きしめられていた。
自分だけの力のときよりももっと強く、もっと優しく、私の体は唯先輩に押し付けられる。
二人分の力で、私は唯先輩に包まれている。
こんな私のことを、それでも唯先輩は優しく包み込んでくれている。
よしよしと、頭をなでてくれる。
こんな私でも大丈夫だよって。私の可愛いあずにゃんだよって、そういってくれているみたいで。
私は不覚にも本当にそれは不覚としか言いようのない唐突さで、じわりと涙を浮かべてしまっていた。
そんな私を、きゅっと更に強く抱きしめる唯先輩。
私のそれを隠してしまうように。そんな姿を誰にも見られたくない私に気を使うように。そんな私の姿を独り占めしてしまうように。

「大丈夫だよ、あずにゃん」

だからそれが嬉しくて、かけられたその言葉が本当に嬉しくて。
私はわんわんとその胸で泣いてしまっていた。
そんな私を唯先輩はずっと抱きしめて、よしよしと頭をなでてくれていた。

――――――

「落ち着いた?」
「はい、なんとか」

尋ねられて、私はむぎゅっと唯先輩の胸から口元くらいまで抜け出して答えた。
私を見下ろす唯先輩は、さっきと同じ優しい眼差しでよかったと言ってくれる。
それをまだ僅かに滲む視界で見上げながら、私はよかったと思った。
泣いちゃって、泣きついちゃって、みっともない姿を晒す事にはなったけど。だけどこの無垢で純粋で温かな笑顔を守ることと引き換えなら、全然構わないし。

「よかったぁ」

先輩はもう一度そういうと、またぎゅっと私を抱きしめた。
ああ、うん。それ自体はとても嬉しいですし、強いて言うなら先輩が腕に力を篭めるたびにまたふにふにと押し付けられて非常に気持ちよくてもっとやれ状態ではあるんですけど。
まあつまりは、沈静したといっても肌蹴たままの唯先輩の胸を顔中におしつけられている状態は変わらないわけで。
またむくむくと欲望の昂ぶり的な何かがこみ上げて来そうです、はい。

「唯先輩、そろそろ離して……」
「やだもんー」

ってちょ、やだもんじゃありません。そんな可愛く言ってもだめです。

「聞こえないもんー」
「はあもう、仕方ないですね」

可愛すぎるから良しとしましょう。
頑張れ私。

「えへへ、でもよかった……」
「何がですか?」

ぎゅうっと私を抱きしめたまま、唯先輩はそう言う。

「だって、不安になってたから」
「不安、ですか?」
「うん」

先輩が突然口にした単語に私は首をかしげる。
不安、ってどういうことなんだろう。今までの一連の行為の中で、先輩がそう思ってしまうようなことってあったかな。
そんな私の疑問を見て取ったのか、先輩はくすりと笑って見せた。
じっと私を見下ろす目に、少しの真面目さとほのかな熱を篭めて、先輩は続ける。

「あずにゃん、やっぱりその気は無いのかなってね」
「へ?」

その気?その気って?
それはつまり……いやいや、まさか。それは曲解しすぎだよ。
だってそうだとしたら、ね。あまりに自分に都合よすぎというか。
むしろ今までの私の努力なんだったの状態になっちゃうよ。
全く本当に私は妄想が過ぎるというか――

「もう、私ずうっと誘ってたんだよ。なのに全然乗ってこないんだもん」

――なんというか、って言うかマジで?

「大マジです!」

いや、ここはフンスって胸を張るところじゃないと思います。
って、そんな突っ込みいれている場合じゃない。
何、ええと、本当にどういうこと?
つまりさっきまでの先輩の純粋さ故に行われていたと思っていたことは、全部そういうことなの?

「えっと、それって性的な意味で……とか、あはは。そんなわけないですよね」
「え、そうだったんだけど?」

そのきょとんとした無垢な顔であっさりと肯定しないでください。
私、絶賛混乱中。
だって、つまり、その。先輩は私にそういうことをされたくてずっと誘ってたってことは。
つまり唯先輩は、女の子同士でなんて全然OKな人で。もしくは、そんなの気にしないくらい私のことを、その。

「でもよかった……今こうして抱きしめてくれたから」

そういうことで、いいの?
本当に?
だって、こんなの、ずっと夢見ていたことだけど。だけどそれはずっと夢でしかいられないはずで。

「そういうことでいいんだよね?私に、そういう気持ち抱いてくれてるってことで」

だけど、そういってくれる先輩は、抱きしめられるぬくもりは、押し付けられる柔らかさは夢なんかじゃない。
だってどんな精度の夢だって、ここまで唯先輩のことを表しきれたことはなかった。
どんな素敵な夢を見ても、先輩にぎゅっとされるたびにそれは色あせてしまって、そのたびにどんどん好きにさせられて。
だから、わかる。これは夢なんかじゃないって。
夢なんかじゃないってことは、これが現実だとしたら、私はこれに甘えてしまってもいいんですか?

「好きだよ、あずにゃん。ずっとこうなるの、待ってたんだから」

本当に……ああもう。
そんな決定的な台詞まで唯先輩に言わせてしまって、そこでようやく私の両腕はぎゅうっと強く唯先輩のことを抱きしめていた。
今先輩が私を抱きしめていてくれてるものよりも、欲情に流されるままに抱きしめてしまったさっきよりも、もっと強く。

「あ、あずにゃん?」

唯先輩が戸惑ってる。戸惑った声で、私を見下ろしている。
そうだ、私も答えにしなきゃ。感極まって抱きしめて、つまりこれは私の答えの形ではあるんだけど。
だけど、ちゃんと言葉にしなきゃ。
今まで散々脳内で妄想の中で好き好き言ってたくせに、結局のところリアルではあっさり唯先輩のほうに先を越されちゃった情けない私だけど。
だけど、ちゃんと言わなきゃ。

「わ、私もです……」

だけど、絞り出した声は震えていて、かすれていて、とてもこんな一世一代の場面にふさわしいとは思えないしょんぼり具合。
妄想の中の私なら、きらりと似合わない爽やかな笑みを浮かべながらさらりと言ってのけていたのに。
それとは程遠すぎて、泣いてしまいそうな今の私の姿。
だけど、それでも。ううん、それだからこそいいんだ。
だってこれは夢とか妄想じゃないんだから。現実の私なんだから。
この現実で、確かのこの人のことを、大好きでいる私の等身大の姿なんだから。

「私も、ずっとずっと、唯先輩のことが好きでした」


――――


さて、というわけで。
紆余曲折ありましたが、カップル成立ということになりました。
いや、もう他の誰でもない唯先輩と私のね。ラブラブカップルです、ふんす!って感じだね。
つまりはあれだよね。
私はまだ相変わらず唯先輩の生おっぱ……こほん。生命の神秘が生み出した神々しきふくらみに顔をうずめているわけだけど。
時々ちらちらと視界に入る桜色の何かとか、容赦なく私の理性をすっ飛ばしそうになっているんだけど。
つまりはもう、我慢しなくていいってことなんだよね。
なってったって私と唯先輩はもうラブラブカップルなんだからね!
ふにふにしても、ちうってしても、ちょっと手をするすると下ろしてあれをするするとおろしてふにふにくにくにもにゅもにゅしても大丈夫ってことだよね!
やばい、リビドー的な何かが体中駆け巡ってて、どうにかなっちゃいそう。
ゆいにゃんとにゃんにゃんしたいにゃん、なんて言葉が頭の中を埋め尽くしちゃってる。
ああ、でもなんていうか。
今いい雰囲気なんだよね、これが。
恋人同士の甘いひと時ってやつなんだけど。唯先輩は優しく私を抱きしめながら頭をなでてくれて、私はそれにうっとりと身をゆだねて寄り添ってる。
うん、つまりなんというか。くんずほぐれつな恋人たちの濃厚な夜じゃなくて、心地よい気だるさに身を任せつつ寄り添い合う穏やかな朝的な。
まあいわゆる、たっぷり可愛がってあげますよ唯先輩ガバッ!なんて雰囲気じゃとてもないなって感じなわけです。
いや、これはこれでいいんですけどね。むしろすばらしいんだけどね。
だけどこう、さっきからずっと我慢に我慢を重ねてきた身としては、色々あふれ出しそうなものをもてあましているわけで。

「はぁ、でも恋人同士だからこそ、こういうのはちゃんとコントロールしないとね」
「ふぇ?」

って、しまったー!なんで口に出してるの私!ああそういえばそういう癖が自分にあるのすっかり忘れてたよ。
あのカムバック私事件のとき、純から梓のあだ名カムバック梓になってるよといわれたときの屈辱と教訓を忘れてたなんて。

「えっと!い、今のは違うんです!」

何がどう違うかわかんないし、わかんないだろうけど、とりあえず弁明しとかないとと私はばっと唯先輩から身を離して。
今までずっとくっついていたからこそ見えなかったその全容をはっきりと視認して何か赤いものを鼻から噴出した。
うう、これはムギ先輩固有の特技だと思っていたのに。

「あ、あずにゃん、血が!」
「だ、大丈夫です。ただの鼻血ですから」

鼻血でも出血には違いないんですけどね。というか実際のところ鼻なんかより下の方がやばいです。あえて具体的にどことは言いませんが。
それにしても、これからどうしよう。
目をそらすのはなんか不自然というか逆に失礼というか、というよりやりたくないし。
かといってまたぎゅうっと顔をうずめるのも、じゃあ何で今離れたのって感じだし。
とはいえ、このまま凝視し続けてたら私は多分出血多量であの世に旅立ってしまいそう。それこそ何か桃源郷のような何処かにたどり着けそうだけど。

「……あずにゃんのえっち」

だけどその心配もなく、目ざとく私の視線の先を察した唯先輩によって合わせられたシャツとブレザーで私の鼻血の元は隠されてしまった。ジーザス。
その少しすねたような照れたような顔がたまらなく可愛くて、それを見られたことは良しとすべきかも、うん。

ねえ、あずにゃん。私ね、今木の練習してたよね」
「あ、そういえばそうでしたね」

言われてみれば確かに。だけどどうして今そんなこと聞いてくるんだろうと私は首を傾げてみせる。

「動いちゃダメだったのに動いちゃった……えへへ」
「ああ、それは確かに」

というかまだ継続してたんですね。

「だからね、あずにゃん」

だけど今どうしてそんなことを聞いてくるのかなと首を傾げて見せた私を、唯先輩は少し顎を引いた上目遣いで見つめてきた。
そして、それがどういうことかということを、これ以上にない形で私に教えてくれた。

「だからね、本番で失敗しないように……お仕置きしてほしいなぁって」


つまり。
私の理性が保たれていたのはここまでということ。
そしてこのお話もここまでってことです。
いくら探しても続きなんてないですからね。
私と唯先輩のラブラブエッチなメモリアルは、私たちだけのものですから。


  • キャラ崩壊ww -- (名無しさん) 2010-08-13 11:28:25
  • 妄想が口に出るあずにゃんw -- (名無しさん) 2010-08-28 02:39:10
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最終更新:2010年08月11日 20:24