「……かぁ」
その声を聞いた澪は自分の耳を疑った。
―えっ!?『嫉妬かぁ』って……。唯!一体何があったんだ!?
ファースト・キス
澪がそれを聞いた翌日、軽音部の部室には唯と梓を除いた三人が集まっていた。
「澪ちゃん、本当に唯ちゃんがそう言ったの?」
「あぁ……間違いない……と思う」
「思うって……じゃぁ違うかも知れないんだな」
「そうなら……良いんだが……でも、少なくとも私には『嫉妬かぁ』と聞こえた!!」
律と紬の質問に、澪は思わず大声を上げた。
これは軽音部にとって二度目の危機だと思ったからだ。
「わ、わかったよ……。んで、唯が『嫉妬かぁ』って言ったって事は、唯自信の事じゃ無いって事だよな」
「そうね……唯ちゃんが嫉妬しているんだとしたら『嫉妬かぁ』なんて言わないはずよね」
「だよな。だとしたら……一体誰が『嫉妬』しているんだろう?」
「澪……じゃないよなぁ。ムギでもないし……」
「もしかして……りっちゃん?」
「んなっ!誰にだよぉ!!」
「……澪ちゃんのファンクラブ、会員が増えているみたいよぉ~」
「べ、べっつにぃ~。私は関係無いし~」
紬の一言に、律はそっぽを向いて吹けない口笛を吹き出した。
「全く……お前がそんな風になってどうするんだよ……。まぁ、そんな事よりもだ、……やっぱり……梓、だよな」
「多分……そうだと思うわ」
「だよなぁ~」
澪の一言で律は口笛を吹くのを止め、再び会話に加わった。
「でもさぁ、最近の梓ってそんなそぶり見せていたっけ?」
「んー、特に無かったような気がするなぁ」
「少なくとも一昨日まではそんな事は無かったわ」
その時律が何かに思い当たった。
「……そういやさ、澪。昨日は梓も休んだんだよな?」
「あぁ。何でも家の用事だとかで休むって言ってたな」
「私もりっちゃんも昨日は行けなかったから……。ねぇ、その時の梓ちゃんの様子は?」
紬も、何か思い当たる節が有ったらしい。
「えっと……確か……たまたま唯が居なかったからかもしれないけど、少し寂しそうな感じだったな……」
「淋しそうな……?そうか……」
「やっぱり……そうなのね……」
「へっ!?何だ!?二人は何かわかったのか?」
驚きの表情を見せる澪に、律と紬が畳み掛けるようにこう言った。
「澪……なんでお前はそれで気付かないんだ?」
「梓ちゃんは寂しそうな顔をしていたのよね?」
「そして、唯の『嫉妬かぁ』の呟き」
「そこから導き出される答えは唯一つ!」
二人は机の上に身を乗り出し、澪にマイクを突き付けるポーズをとった。
「え?あ、えっと、唯が梓に嫉妬した!」
その答えを聞き、二人はハァーとため息をつきながら机の上に崩れ落ちた。
「そうじゃ無いだろぉ~、み~お~」
「梓ちゃんが、唯ちゃんに嫉妬した……って唯ちゃんが思い込んじゃったの~!」
「そんで、その誤解を解こうとしたけども唯に会えなくって、梓は寂しそうにしていたと」
「そして、梓ちゃんに会えなくって誤解したままの唯ちゃんは、思わず『嫉妬かぁ』って呟いちゃったのよ!」
「そ……そうなのか……気付かなかった……」
自分の目前で力説する二人に、少したじろぎつつそう答えた。
「で、でもさ、もしそうだとして……それをどうやって確認すれば良いんだ?」
「そうね……本人に直接聞くのが一番なんだけど……」
「流石にそれは……難しいな」
「だよなぁ……」
三人が腕を組み天を仰いだその時、部室のドアが静かに開いた。
「こんにちわー。……皆さん、どうされたんですか?」
「え、あ、えっと、これはだな……」
「みんなで相談事をしていたの~。ね、りっちゃん、澪ちゃん」
「えっ!?あ、そう、そうなんだよ!今度の学祭で新曲を作るかどうかを考えていたんだよ。な、澪」
「そ、そうなんだよ。流石にそろそろ新曲を披露しないといけないかなって思ってさ」
「……そうですか」
梓はどこと無く腑に落ちないという顔をしつつ、ギターと鞄をいつもの場所に置いた。
「あ……そういえば、唯先輩は……まだですか?」
「あ、あのね、今日は掃除当番なの。もうすぐ来ると思うわ」
「……そうですか」
梓は何とはなしにそう言ったのだが、三人にはそうは聞こえなかったらしく、頭を突き合わせて小声で話し出した。
「どう思う?今の返事……」
「寂しそうな感じだったわね……」
「という事は、やっぱり律とムギの言う通りなのか?」
「多分」
「そうなんじゃないかしら」
「何がですか?」
「「「うわぁぁぁ!!」」」
突然かけられた声に、三人は驚き体を大きくのけ反らせて声の主を見つめた。
「な……何で私を見つめるんですか?」
「あ、いや、何でもない」
「そうそう、何でもないぞー」
「あまり気にしないでね~」
「……そんな事言われても、気になりますよ……」
梓は不満げな表情を見せていた。それもそうだ、自分だけのけ者にされている様な状態なのだから。
「あ、そうだわ!お茶にしましょうよ!」
「そ、そうだな」
「よーっし!そうするか!」
「えっ?まだ唯先輩が来ていませけど……」
「あ、そ、そうか。じゃぁ、練習始めるぞぉー!」
「そ、そうしようか」
「そ、そうね」
梓の一言に、慌てて楽器へと向かう三人を見て、思わず梓が呟いた。
「……だから、唯先輩がまだ来ていないんですってば……」
★
「それじゃ、始めるぞー!」
「ああ」
「ええ」
「……はい」
各々が楽器の準備を終えていざ練習を始めようとしたその瞬間、部室のドアがけたたましく開いた。
「お待たせ~!……あれ?お茶してない……てかずるいよ~、私が来る前に練習始めるなんて~」
「あ、あぁ。すまない……ちょっと気になったフレーズがあってな」
「そうそう、だから唯ちゃんが居ないけどちょっと練習しようかって事になって……」
「……そんな事言ってましたっけ……」
「さぁ!唯もそんな所にボーッと突っ立ってないで、練習始めるぞ!」
「はーい……ってちょっと待ってて~。……はい!
あずにゃんにお土産!」
唯は鞄をソファーに置くと、中から何やら小さな物を取り出した。
「昨日お父さんが出張から帰ってきてね、あずにゃんにこれをあげなさいって」
「……ストラップ……ですか?」
「そぉ!鯛焼きストラップだよぉ~。なんと私とお揃い!『ボク、タイヤキストラップノたいぼうダヨ。アズサチャンヨロシクネ』」
唯は自分のストラップを見せ、それを手に持ち妙な声を出しながら梓の目の前で自己紹介をさせた。
「ふふっ……よろしくね、たいぼう」
「『アズサチャン、チュー』」
その返事に気を良くしたのか、唯は梓の口元にストラップを差し出し、そんな言葉を言った。
「えっ?……唯先輩すみません、流石にそれは……ちょっと。……ほっぺなら、良いですよ」
「えぇ~、いいじゃん。それくらい」
「でも……ファースト・キスは……ちゃんと、好きな人の為にとっておきたいから……」
「……そっか。あずにゃんごめんね~、私なんかいっつもギー太にチューしてたから……全然気付かなかったよ……」
「いえ、そんな……唯先輩が謝るような事じゃありませんし……」
梓は申し訳なさ気な顔で答え、同時に自分自身の考え方に言いようの無い情けなさを感じていた。
―全く……こんな固い考え、とっとと捨てちゃえばいいのに……。
「よし!じゃぁ『たいぼう』と『たいこ』にチューさせてあげよう」
「……それって……私のストラップの名前……ですか」
「いえーす。『ボク、たいぼう。ヨロシクネ』『ワタシたいこ、コチラコソヨロシクネ』。では、むちゅち……」
「だ、ダメです!そんなこと、私が許しません!」
「ほぇっ!?何で?」
「何でって……まだ……付き合っても……いないのに……」
「あの……あずにゃん?……ストラップ同士の話し、なんだけど……」
「例えストラップ同士だとしても……ちゃんと私が許可するまではダメです」
「そっか……じゃぁ『たいこチャン、ボクトオツキアイシテモラエマスカ?』」
「へっ!?」
「ほら~、たいぼうがこう言ってるんだから、ね。あずにゃんもたいこちゃんにお返事させてあげないと」
「えっと……『ワ、ワタシデカマワナイノナラ、ヨロコンデ』……こんな感じですかぁ!?」
その台詞を聞くやいなや、唯はいきなり梓に抱き着きほお擦りをし始めた。
「あずにゃ~ん!まさか、あずにゃんからそんな言葉を言われるなんて、夢にも思わなかったよぉ~!」
「ちょ、ちょっと、唯先輩……。今のは『私』じゃなくて『たいこ』が言ったんですよ!?」
「……あ、そうだったねぇ~。ん~、でもまだ今日は『あずにゃん分補充』してないから~。むぎゅー」
「何ですか?それ……まぁ、別に構いませんけど。……ところで、何で唯先輩のお父さんが私にお土産を?」
「なんかね~、お父さんがあずにゃんの事を気に入ったみたいでさ~。そうそう、それは凄い物なんだよ!手作りなんだって!!」
「手作り……ですか。てゆーかなんで気に入られたんですか?」
「作って欲しい物を言うと、目の前で職人さんが一つずつ作ってくれるんだって~。あずにゃんがお気に入りなのは『私にギターを教えられる事だ!』って言ってたよ~」
「……今ひとつ、納得出来る理由では無いんですが……まぁ良いです。唯先輩、ありがとうございます。お父さんにも代わりにお礼をお願いします」
「おっけ~」
そんな二人の様子を見ながら、三人が再び頭を突き合わせて小声で話しはじめた。
「なぁ……なんか、普通じゃないか?」
「でもさ……、何で唯は梓だけにお土産を持ってきたんだ?」
「りっちゃん……、それ今唯ちゃんが理由を言ってたわよ」
「いや、それはわかるんだけど……だったら私達にもお土産が有ってもいいんじゃないのか?」
「それもそうだな……じゃぁ、あれは……」
「そう、梓に『嫉妬されてる』って
勘違いした唯が、仲直りをするために用意したんじゃないか?」
「えっ?でもさっき唯は『お父さんから』って言ってたぞ」
「それは……所謂『渡に船』だったんじゃないかしら。何が良いか考えている時に、お父さんから梓ちゃんへのお土産を受けとって……」
「『これだ!』って思った唯が、梓に
プレゼントをしたって考えれば……」
「成る程、それなら納得できるな」
「何が納得できたの?」
「「「ぬわっ!!!」」」
二人とは違う方向からの唐突な声に、三人は先程同様大声を上げて声の主を見た。
「全く……お茶しているかと思ったら、唯ちゃんと梓ちゃんはなんだか楽しそうに話しているし、あなた達三人はコソコソ話ししているし……」
「さ、さわちゃん……いつの間に!?」
「たった今です!……で?何を納得したの?」
「あー、いやー、そのー」
「えっと、今後のお茶の時間をどうするかについて話し合っていたんです!ね、澪ちゃん!」
「えぇっ!あ、そう、そうなんですよ!」
三人は必死にごまかそうとしたが、さわ子には全くそれが通じなかった。
「そんな嘘が通じる訳ないでしょ!さ、椅子に座ってちゃんと話しなさい!」
その一声に、不承不承ながらも三人は事のいきさつを話しはじめた。
★
「……成る程ね、それで二人の様子を伺っていた……と」
「はい!その通りでございます!さわちゃん大先生!!」
いつものティータイム、いつもと違うのは律と唯の席が入れ替わっている事と、律澪紬の前にティーカップが置かれていないという点だ。
「その『大先生』ってのはやめてもらえないかしら……。で?実際の所、唯ちゃんは何か梓ちゃんに嫉妬されるような事をしたのかしら?」
「ほぇっ!?そんな事ないですよ~。ね~、あーずにゃん」
「『ね~』って言われても……第一、私が一体唯先輩の『何』に嫉妬するんですか?」
そう言われて三人はハッとした。嫉妬の原因について全く考えていなかったからだ。
「うーんと……。あ!そういえばさ、あずにゃんギー太に嫉妬した事あるよね~」
「あ、あれは!……何だか……楽しそうだったんで……すみません……」
「謝らなくても良いよぉ~。それに、あの時だけでしょ?ギー太に嫉妬したのって」
「まぁ、そうですね」
「あの時のあずにゃん……かわいかったなぁ~。あ、今もかわいいよぉ~」
「そんな取って付けた様な言い方しないで良いですよ……。てゆーか唯先輩、口元にクリームついてますよ」
「どこ~?あずにゃん取ってぇ~」
「自分でやってください」
「んー。ほらほらぁ~」
「もぉ……特別、ですよ……」
唯の口元に付いたクリームを、梓は指で掬い自らの口に入れた。
「えへへ~、ありがと~」
それを見たさわ子は改めて三人にこう言った。
「ほら見なさい。あんなにもラブラブな二人の誰が誰に嫉妬心を抱いているって言うの?」
「確かに……」
「嫉妬心のカケラすら感じさせないわね……」
「あぁ……そうだな……」
「さ、わかったんだったら、ちゃんと二人に謝りなさい」
「ゴメン、不快な気持ちにさせちまって」
「すまなかった、反省してる」
「本当に、ごめんなさい」
三人の謝罪の言葉に、二人は不思議そうな顔をした。
「へっ!?なんで謝るの?」
「別に……私は不快に思ってなんかいませんけど……」
「あら?そうなの?てっきり二人が『三人からのけ者にされている』って感じているんだとばかり……」
「さわちゃ~ん、そんな事は無いよぉ~」
「私もです。……まぁ、なんで内緒話をしているのか不思議に思ってはいましたが」
「ふーん……。でも、三人がやったことは社会に出たら決してやっちゃいけない事だからね、ちゃんと覚えておきなさい」
「「「はーい」」」
「よし!……じゃぁ、みんなでお茶にしましょう」
★
「はぁ~、やっぱりムギの煎れたお茶は落ち着くなぁ~」
「そうだな~」
「うふふ、ありがと」
三人にもティーカップが置かれ、いつものティータイムが始まった。
「それにしても……なんであんな事を考えたんだろうな~」
「不思議よね~、今考えればそんな事あるはずないのに」
「だな……。ホント、なんであんな事を考えたんだろうな」
「み~お~、元はと言えば澪が変なこと言ったからだろ~」
「……そういえば、そうだったな……スマン。……てゆーか、昨日唯が『嫉妬かぁ……』って言ったのがそもそもの始まりだぞ」
「そういえば、そうね……。で、唯ちゃん、何が『嫉妬かぁ』だったの?」
紬の質問に、唯は思わず宙を見上げた。
「それなんだけど……。澪ちゃん、私そんなこと言ってないよ」
「えぇっ!?でも、昨日確かに『嫉妬かぁ……』って言ってたじゃないか」
唯の一言に、澪は驚きの声をあげた。
「でも……言ってないもん……」
不満の声を上げる唯に、澪は尚も食い下がって聞いた。
「言ってたじゃないか、昨日、私がソファーで弦の調整している時、何か見ながら」
「ん~。……あ!わかった!!」
澪の一言で唯は何かを思い出したらしく、席を離れ自分の鞄の下へ行った。
「んーと……確かまだ……あ、あった!!」
そう言う唯の手には一冊の雑誌が握られていた。
「えっとねぇ……」
席に戻り、何かを探すように次々とページをめくっていく。すると、目的のページを見つけたのか、笑顔でそのページをテーブルの中央に広げた。
「これだよ!これ!!」
「……ライターですか?」
「えっと……これって何て言うんだっけか?」
「律、よく読め。ちゃんと書いてあるぞ」
「Zippo……?唯ちゃん、何でZippoのページなんか見ていたの?」
「あのね、もうすぐお父さんの誕生日なんだ~。それでね、タバコは吸わないんだけど、お父さん趣味でZippoを集めているの」
「成る程、それで唯先輩はZippoをプレゼントしようと考えて……」
「うん、コンビニで立ち読みしてたら丁度特集している雑誌があってさ、……でも、色々あって迷っちゃうんだよねぇ~」
「確かに……いっぱいですね。因みに唯先輩はどれをプレゼントしようと思っているんですか?」
「これかこれなんだけどね……」
唯が指差す先を、一同が見つめた。一方は帆船が刻印されている限定物、他方は真っ赤なイタリア車のマークが付いている限定物だ。
「どっちもお父さん好きそうだからさぁ~、迷っちゃって……」
その一言に三人は何かを思いつき、慌てて会話に加わった。
「えっ!ちょ、ちょっといいか!」
「じゃぁ……もしかして……」
「澪ちゃんが聞いた『嫉妬かぁ……』ってのは……」
その問い掛けに、唯は満面の笑みを浮かべて答えた。
「うん、『Zippoかぁ……』だよぉ~」
「「「えぇー!!!そんなぁー!!!!!!」」」
★
その日の
帰り道、三人と別れた唯と梓は、梓の提案で少し遠回りをして以前に練習をした川沿いの道を歩いていた。
「澪ちゃんの聞き間違いにはビックリしたねぇ~」
「そうですね~。ふふっ……でも、確かにちょっと似てますね、『嫉妬』と『Zippo』」
「そうだね~。……ところでさ、何処まで行くの?あずにゃん」
「えっと……何処ってのは無いんですけど……」
唯の問い掛けに、梓は少し恥ずかしがりながら答えた。
「……河原まで下りよっか?」
「……はい」
「あの……唯先輩、お話したい事があるんです」
河原へと下りる階段に座った梓は、隣に座った唯の目を見ながら真剣な表情でそう切り出した。
「ん?随分と真剣そうな目をしてるけど……真面目なお話?」
「はい……。あの……、あのですね、驚かないで聞いて貰えますか?」
「う、うん。わかった」
その返事を聞き、梓は意を決してこう言った。
「ここでなら、キスしても、良いですよ」
「……今……なんと……?」
唯は自分の耳を疑った。
「二回も言わせないで下さい。……キスしても、良いですよ」
―キスしても良い!?あずにゃんと!?……聞き間違いじゃないよね、聞き直したのもそうだったし。……いやぁ~ん、あずにゃんってば……大胆なんだからぁ~。
「じゃぁ……えっと……わ、私も初めてだか」
「ほら、さっきは出来なかったじゃないですか。……ここなら、人もあまりいないから、恥ずかしく……ありませんし……って、『たいぼう』出さないんですか?」
「でも、あずにゃんがどうしてもって言うのなら……って、へっ!?キスって……」
唯が梓を見ると、その手元には先程唯が渡した『たいこ』が握られ……いや、指で摘まれていた。
「ス、ストラップ同士の事だったのぉー!!!」
♪
「ふぅ……お腹一杯ですぅ……」
「私も……あずにゃんごめんね~、ちょっと作りすぎちゃった……」
ここは、唯先輩が一人暮らしをしているマンションの部屋。
「ふふっ……そういえば、前に唯先輩が修学旅行で居ない時に純と泊まった時も、憂が作りすぎてましたね……。やっぱり姉妹なんですね」
「あ~、あの時ね~。帰ったら憂がいきなり『食材ほとんど使っちゃったから、今夜は冷凍ピザね』って言われてさぁ、流石にあれは驚いたよ~」
今日は久しぶりのデート……のはずだったんだけど、雨が降ってきたから予定を急遽変更して、唯先輩の家でマッタリ過ごす事になったのだ。
「……あれ?携帯鳴ってませんか?」
「ん……私のかな?よいしょっと」
唯先輩が立ち上がるのを見て、私も自分の鞄を引き寄せ中を確認した。
「あ、すみません……私のでした。……憂からですね……『
自宅デート、楽しんでる?』……ですって」
「『目一杯楽しんでるよぉ~』って返事してあげたら?」
唯先輩がテーブルに携帯を置きながらそう言ったので、私は頷きこう返事を書いた。
「『「目一杯楽しんでるよぉ~」って唯先輩が言ってるよ……勿論、私もだけどね』っと……送信」
「あずにゃ~ん……むぎゅー」
私は携帯をテーブルに置き、後ろから抱き着いてきた唯先輩の腕に軽く触れた。
「そういえば……唯先輩の部屋に……二人きりって……」
「初めて……だね……」
テーブルの上には、私と唯先輩のストラップ。……『たいぼう』と『たいこ』が仲良く寄り添っている。
「……私達みたい……ですね」
「じゃぁ……こうして……こう……」
唯先輩が二匹を動かし、向かい合わせに並べた。……口の部分をくっつける形に。
「……唯先輩……そんな事して良いんですか?」
「……『たいぼう』と『たいこ』は……付き合っているんだから……いいんでしょ?」
……そんな半年も前の事を、唯先輩は覚えていてくれたんだ……。
「……そうですよ……ちゃんとお付き合いしてからじゃないと、キスしちゃいけないんですからね……」
「……じゃぁ『私』と『あずにゃん』は?」
そんなの……決まってるじゃないですか……。
だから私は、行動で答えた。
……これが、私達の、ファースト・キス。
おしまい!!
- さわちゃんがいつになく真面目www -- (名無しさん) 2010-10-14 00:31:43
- さわちゃんだって一応教師だ!! 普段あんなんだけどwww -- (名無しさん) 2010-10-17 15:15:32
最終更新:2010年10月12日 03:59