その日もいつも通り騒がしくも楽しい放課後になるはずだった―――――。


「こんにちはです」

 軽音部部室に入って来たのはリズムギター担当の二年生、中野梓。
 部室には既に部長の田井中律と秋山澪、そして琴吹紬がいた。

「おーっす……って梓今日は髪おろしてんのか?」
「似合ってるな、カワイイよ」
「なにかあったのかしら?」

 いつもはツインテールにしている髪型を今日の梓は括らずにそのままにしていたのだった。

「唯先輩がこっちもカワイイね、って言ってくれまして……えへへ♪」
「あらあらまぁまぁ♪」

 照れながらもとても嬉しそうに返答する梓。
 なぜか紬も嬉しそうに微笑んでいる。

 それはともかく梓が唯の事が大好きなのを知っている三人は小さな後輩の健気さに笑みがこぼれた。

「それと実は私、澪先輩に憧れてるんです」
「そ、そうなのか?」

 梓が言った一言に澪はなんとなく気恥ずかしさを感じて赤くなる。

「おいおい、梓まで澪みたくなったら困るぞ?」
「むっ、どーゆー意味だよ」

 律の茶化しに澪は頬を膨らます。

「梓が澪みたくなったら私の身が持たないよ、オマエは私を萌え死にさす気か?」
「何言ってんだ律?」

 澪は幼なじみの意味不明な『萌え死に』なる発言が理解できなかった。

「何って、まず梓はアタシらのカワイイ後輩だろ?」
「り、律先輩、急に変な事言わないで下さい!」

 真っ赤になる梓を気にする事なく、律は自分の発言の説明を続ける。

「そんな梓が超カワイイ『アタシの』澪みたくなってみろ……カワイさが数倍に跳ね上がるんだぞ!?」
「ちょっと待て、今誰のって言った!?」
「『アタシ』の」

 羞恥にあかくなる澪と梓を放置して紬は何かに気付いた。

「はっ! わかったわ、りっちゃん!!」
「何がですか!?」
「いい? 元々澪ちゃんのカワイさにKOされかかってるりっちゃんに対して澪ちゃんっぽくなった梓ちゃんまで加わったらりっちゃんはカワイさの余りに限界を突破しちゃうのね!」
「その通り!!!」

 胸を張る律に澪の照れと羞恥心のツッコミゲンコツが炸裂するのだった。

「と、ところで唯先輩はまだ来てないんですか?」

 いつもからかって来る律の以外な本音にドキマギしている梓は大好きな唯が未だに姿を見せない事に話題を変えた。

「唯ちゃんは今日お掃除当番なの、もうすぐ来ると思うけど……」

 じゃれあう律と澪にうっとりしていた紬が梓の問い掛けに答えると不意に部室の扉が開いた。

「あ、唯先輩、こんにち……」
「唯……ちゃん?」

 扉を開けて入って来た唯にいつもの明るい雰囲気はなかった。
 唯のだだならぬ気配に梓と紬はもちろんじゃれあいがエスカレートし、コトをおっぱじめかけていた律と澪までが動きを止めた。

 唯は一言も発する事なく部室に入ると一目散に梓に歩み寄り力強く、されど愛しむように抱きしめた。

「りっちゃん……」
「な、なんだよ唯、どうし……」
あずにゃんとっちゃダメ!!!」
「へ?」

 律は混乱した。
 それもそのハズ、いつもと全く違う雰囲気の唯と「梓をとったらダメ」と言う突拍子もない発言に律だけでなく、部室内の時も同時に止まった。

「ど、どうしたの唯ちゃん?」
「唯先輩、何を言ってるんですか?」

 唯の発言に混乱し、フリーズしていた四人だったがなんとか紬と梓が声を上げた。

「りっちゃん……澪ちゃんと言うカワイイ旦那様がいるのに浮気しちゃダメだよ!」
「……はい?」

 なぜか怒り心頭の唯。

「あずにゃんは私の旦那様なの! 手だしたら『メッ』だよ!!」

「はぁっ!? いきなし、ワケわかんねーコト言ってんじゃねーよ!」

 身に覚えのない言い掛かりをつけられた律も頭に血が上ってしまったらしい。

「私聞いたもん! あずにゃんが澪ちゃんみたくなって二人の澪ちゃんににゃんにゃんされて限界突破したいって言ってたじゃん!!」
「言ってねぇよ!!!」
「私だって二人のあずにゃんににゃんにゃんされたい!!!」
「知らねぇよ! ってか人の話聞け!!」

 唯の爆弾発言に紬が鼻血を吹いた事も拍車を掛け、澪と梓事態を収束させるのにかなりの時間を要するのだった。

 ―――――――――。

「落ち着きましたか?」
「うん、けどまだイタイよぅ……」
「自業自得です」
「あずにゃん、しどい……」

 暴走した唯は澪のゲンコツによってようやく落ち着きを取り戻していた。

「さっきのりっちゃんへの反応から察するに唯ちゃんは勘違いしちゃったのね」
「だろうな、律が梓を第二の私に仕立ててハーレムを作ろうとしてたとか思ったんじゃないのか?」

 四人の視線が唯に集まると唯はキョトンとした表情で首を傾げた。

「……違うの?」
「違うに決まってるだろ、バカァッ!!!」
「きゃうん!!!」

 律のツッコミチョップが唯の脳天に炸裂した。

「大体、アタシは澪一筋だっての!」
「あ~ん、ゴメンなさ~い!」
「ダ~メ、罰として今日の唯のケーキは没収だ!!」
「しょ、しょんな~……」

 梓の言う通り自業自得とは言えケーキ没収と言う重罰(?)に唯はがっくりと肩を落とした。

「な~んてな、アタシは気にしてないよ」
「りっちゃん?」

 顔を上げてみると律はいつもの笑顔で唯に笑いかけてくれていた。

「勘違いなんて誰にでもあるしな、変な話だけど仲直りしよ! な?」
「……うん!」
「けどやっぱりケーキは没収な♪」
「しょんな~!!!」

 そんなこんなで無事、いつも通りのティータイムが始まるのだった。

 帰り道

 結局あの後、唯自身も反省と言う事でケーキ没収の罰を甘んじて受ける事にした。


 紬の煎れてくれた紅茶は今日も美味しかった。
 しかしケーキを食べ損ねた物足りなさに唯はため息を吐いてしまう。

「唯先輩」
「なぁに、あずにゃん?」

 不意に隣を歩いていた梓に呼ばれた。

「唯先輩、飴舐めますか?」
「ほぇ、いいの?」
「はい、唯先輩は今日ケーキ食べてませんでしたし」
 梓の優しさと嬉しさに感激した唯はで思わず抱きしめた。

「あずにゃん……あずにゃんはやっぱり天使だよ~!」

 唯が一旦離れてから梓は制服のポケットから紬がこっそり梓に渡してくれた飴を取り出した。

「今日は練習も頑張ってましたし、『特別』ですよ?」
「わぁ~い! あずにゃんありが……ってあず……にゃん?」

 唯は目が点になった。

「……あ、あの~……あずにゃん?」
「なんですか?」
「そのアメちゃん、私にくれるんじゃなかったの?」

 梓は取り出した飴をそのまま自分の口へと入れてしまっていた。
 ちなみに唯は半泣き状態だ。

「だから言ったじゃないですか……『特別』って」

 梓は笑いかけるとそのままを唯を抱き寄せた。

 唯は唇には心地良い感触を、口の中にとろけるような甘さを感じた。

「……あ、あず……にゃん」

 顔が熱い。
 身体中の熱と血が顔に集まっている気がする。

 対して梓は満面の笑顔を浮かべている。

「さっきも言いましたよね……『特別』って」

 先刻とは反対に梓が唯を抱きしめる。

「嬉しかったんですよ? 勘違いとは言っても私の為に怒ってくれて……」

 口の中がとてつもなく甘い。

「唯先輩が私を『私の旦那様』って言ってくれて……」

 飴の甘さなのか、それともさっきのキスのモノなのか唯にはもうわからなかった。

「唯……」

 ただ一つわかるのは、

「……大好き」

 自分も梓が大好きだと言う事だけだった。

  • END



  • うおぉぉぉ…!!!すごいときめいた…!!神がっ…神がいるぞ…っ!!! -- (名無しさん) 2010-11-03 15:24:46
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最終更新:2010年10月29日 02:09