唯澪@ ウィキ

Aimer les Chatteries

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Aimer les Chatteries


 今日も、いつもの時間に目が覚めた。昔から朝に弱い私だけど、最近は妹のモーニング
コールにお世話になることもだいぶ減ってきている。……まあ今日は土曜日だから最初か
ら憂は起こしに来ないんだけど。どうも自家製のこの子のコントロールはまだまだ上手く
いかないようで、起きる必要がない今日のような日まで作動してしまったみたいだ。

「ハッピーバースデー、私」

 ベッドからノロノロと抜け出て、そう呟く。今日は私、平沢唯の誕生日である。

 寒さに身を縮こまらせながら、携帯を開く。メール着信二件。お母さんからと、幼馴染
の和ちゃんから。内容はどちらも「誕生日おめでとう」で、お母さんの方はお父さんと連
名だ。私は手早く「ありがとう」という旨のメールを返すと、一つ伸びをして洗面台へと
向かった。


 私の所属する軽音部では、誰かの誕生日ごとに部室でちょっとした誕生日パーティーを
やっている。今年の私の誕生日は先の通り土曜日だったため、前倒しで金曜日にやること
になっていた。

「えー……それでは、只今より平沢唯誕生日パーティーを始めまぁす」

 部長のりっちゃんによる、マイクを持つジェスチャーをしながらのあいさつで、私の誕
生会は始まった。ムギちゃんがいつものようにお茶とケーキを並べていく。彼女が持って
くるお菓子はいつも高価なものなようだけど、みんなの誕生日に持って来てくれるケーキ
は一層高そうなものに見える。

「誕生日、おめでとー!」

 配膳が終わると、りっちゃんの合図でみんなが声を合わせてそう言い、拍手を送ってく
れた。

「いやー照れますなあ……」
「じゃ、澪、プレゼントを」

 私が頭を掻いてクネクネしてると、りっちゃんが隣に座っている澪ちゃんを小突いて催
促した。

「えっ、私が渡すのか……?」

 事前に話し合ってなかったのか、少しうろたえた様子の澪ちゃん。
 ちなみにこの澪ちゃん、私の恋人だったりする。そうなるまでの詳しい経緯とかは省か
せてもらうけど、まあ付き合い始めたのは今年に入ってからで、告白は向こうからだった、
とだけ。

「そりゃあ恋人である澪先輩が渡すのが筋でしょう」
「でもとったのは律だし……」
「だー! そんなの関係ねえって。軽音部全員からなんだから」
「なになに? 何なの?」
「ほら、愛しの唯が待ってるぞー」

 少しつり上がってる目じりとは対照的に、終始、細い眉を八の字にして狼狽していた澪
ちゃんだったけど、観念したのか「ちょ、ちょっと待ってて」と奥の物置へ姿を消してし
まった。

 何をくれるんだろう。「プレゼントはわ、た、し」とか……流石にそれはないか。そん
な少しやましい事を考えていると、わりとすぐに澪ちゃんは顔を出してきた。手には大き
な包みを抱えている。

「これって……」
「ほら、唯、前に欲しいって言ってただろ。あの時は取れなかったけど」

 それは、大きなぬいぐるみだった。前に皆でゲームセンターに行った時に見つけたもの
で、その時はお金もそんなに持ってなかったし、二、三回でダメだったからあきらめたん
だよね。

「私の手にかかればイチコロよ」
「りっちゃん、UFOキャッチャー上手だもんね」

 腕まくりしてガッツポーズをとるりっちゃんに無邪気に拍手を送るムギちゃん。

「いやー唯のは安上がりで済んでよかったぜ」

 そして、そう言っておどけて見せていたけど、あとから聞いた話によると、りっちゃん
は思いの外苦戦したらしく、澪ちゃんに借金してまで取って見せたらしい。

 ありがとう。私とっても嬉しいよ。……持って帰るのが少し大変そうだけどね。

「これは私と澪先輩からのおまけです」
「なあに、これ」

 私が感慨にふけっていると、あずにゃんがカバンから本屋さんの袋を差し出してきた。
二つ目があるなんて、ラッキー……なのかな。

「赤本です。N女の」

 前言撤回。そうだよね、澪ちゃんとあずにゃんからだもんね。

「唯先輩が未だに買ってないのは調査済みでしたので」
「それでちゃんと勉強して、一緒の大学に受かろうな」

 そう言われたら、頑張らないわけにはいかない、かな。私は脇にそっとぬいぐるみを置
くと、「ありがとー!」って全身で表現するため、澪ちゃんとあずにゃんにまとめて抱き
ついた。顔を真っ赤にして形ばかりの抵抗をする澪ちゃんと、どう反応したものかすこし
困った様子のあずにゃんを、もっとギューっと抱き締める。

 みんな、本当にありがとう。


 その後は、いつもみたいにみんなで雑談しながらケーキを頬張ったり、途中でさわちゃ
んが「なに私抜きで始めちゃってんのよー」なんて乱入してくるハプニングもあったりし
て。最後は軽音部らしく、皆の演奏で私の誕生会は幕を閉じた。


 顔を洗ってから台所に顔を出すと、ちょうど憂が自分の朝食分の皿を洗っている所だっ
た。彼女の「もうご飯食べる?」という問いに、「うー」だか「あー」だか、とにかく気
の抜けた返事をして席に着く。まだイマイチ頭が覚醒しきっていない。

「お誕生日おめでとう、お姉ちゃん」

 とりあえず並べてあったサラダを口に入れていると、焼き上がったトーストを並べなが
ら、憂がそう言ってきた。

「ありがとう、憂ー」
「晩ご飯、何かリクエストとかある? あとで買ってくるけど」
「そうだねえ……」

 せっかくの誕生日だし、何にしよう。私はコップに注がれていた牛乳を一飲みする間思
案して、「シチュー……とかかな」と答えていた。

 案外自分が思っていたよりも私は無欲らしい。我ながらちょっとびっくり。

「じゃあ帰りに材料買ってくるね。あ、そうそう、私お昼から梓ちゃんちに行ってくるか
ら」
「そうなの? じゃあお留守番は任せてよ~」

 ……とは言ったものの、誕生日にお家で一人はちょっと寂しいかも。あとで澪ちゃんに
電話でもかけようかな。


「……出ない」

 お昼。憂が家を出た後、早速澪ちゃんに電話をかけた私だけど、向こうはなかなか電話
に出てくれなかった。メールも二通ほど送ってみたけど、成果なしである。

「ツレないなあ……」

 せっかく、付き合いだして初めての私の誕生日なのに。そりゃ、昨日みんなで祝ってく
れはしたけどさ。けど、それだったら私だって少し期待してたのだ。つまり、みんなで一
緒に送ってくれたのとは別の、澪ちゃんからだけのプレゼントをだ。もちろん、みんなか
らのプレゼントはとっても嬉しかったけど、恋人からのはまた別だと思う。……でも澪ち
ゃんの事だから、あずにゃんとの共同購入らしいあの赤本がそれなのかもしれないな。普
段書く歌詞や嗜好、内面は基本ロマンティストだけど、それでいて外面通りリアリストな
所も持ち合わせてるのが澪ちゃんだ。こういう実用的なプレゼントを贈りつけるって言う
のは十分あり得る。

 当てつけに彼女の誕生日にはとびきり怖いホラー映画のDVDでも渡そうか。あ、でもそ
の前にクリスマスがあるな。そんなことを考えながらリビングのソファでゴロゴロしてい
るうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていっていた。


「おい、いつまで昼寝してるつもりだ」
「んー……あと五分……」

 憂が帰ってきたのだろうか。夕方にはまだ少し早い気がするが、体を揺すられ目が覚め
た。トロンと落ちそうになる瞼を擦り、擦り、目覚ましの相手を確認する。

 少しつり上がった大きな目。そのきつめの印象を和らげるのに一役買う、細くて形の良
い眉。それにかかるかかからないかくらいで綺麗に切りそろえられた髪は烏の濡れ羽色。
腰に届かんばかりのロングヘアーにもかかわらずサラサラだ。鼻も日本人にしては、だが、
高くて、鼻筋もスッと通っている。そして、薄めだけど艶のあるこの唇は――。

「ン……。澪ちゃん」
「ああ」

 優しく微笑む澪ちゃんを見て、なんだか嬉しくなった私は、間髪いれずに彼女に飛びつ
くことにした。

「うわっ起き抜けになんだ!?」
「会いたかったよぉー!」
「昨日だって会っただろ」
「そうだけどぉ」

 澪ちゃんは二人きりの時は抱きついても恥ずかしがるだけでそんなに抵抗はしない。そ
れをいい事に私はすごく近くで、さっき全然電話に出てくれなかったり、メールを無視し
たことへの文句を彼女に言ってやった。澪ちゃんはバツが悪そうに頭を掻くばかり。ホン
トに反省してるのかな。

「それにしても……」
「どうした?」
「ン……。なんか今日の澪ちゃん、甘い匂いがする」

 いつもいい匂いの彼女だけど、今日のは、何て言うかストレートにお菓子の匂いって感
じ。まあ大好物だから別にいいけど。

「あー……まあ、そりゃするだろうな」
「どうして?」
「その、ゆ、唯の誕生日プレゼント……作ってたから」

 少し頬を紅潮させて言う澪ちゃんの肩越し、テーブルの上には――。

「ケーキ……」
「昨日の今日でどうかなって思ったんだけど……。しかもほら、ムギのアレの後だしさ」
「これ、澪ちゃんが作ったの?」
「え? う、うん。やっぱりヘンかな……?」
「ううん、嬉しい……!」

「私ね、昨日みんながお祝いしてくれたのとっても嬉しかった。けど、澪ちゃんから……
恋人からだけのプレゼントがあったら、もっと良かったのになって思ってたの」
「ン……。でも、これだって律とかムギとか梓とか……それに、憂ちゃんだって。色んな
人に手伝って貰ってやっと出来たんだ。私一人の力じゃないよ」
「それでも、澪ちゃんの気持ちが、私は嬉しいの」
「……そっか。なら……よかった。唯、誕生日おめでとう」
「ありがとう、澪ちゃん。……大好きッ!」

 それから、二人で澪ちゃんが持ってきたケーキを食べた。オーソドックスなイチゴの
ケーキで、澪ちゃん曰く、「最後まで律にはダメ出しされた」とだけあって市販のものよ
り大分甘い気がしたが、私と澪ちゃんの舌にはバッチリ合っていた。体にはあまり良くな
いだろうけど、しょっちゅう食べるわけでもないし、たぶん大丈夫だろう。小ぶりなホー
ルケーキだったとはいえ、澪ちゃんの分一つと憂のために残した一切れを除いた、残り全
てを私がペロリと平らげたのには、喜ぶべきか、呆れるべきか、澪ちゃんは判断しかねて
いるようだった。

「ふぅー美味しかったぁ」
「喜んで貰えてなによりだよ」
「それにしても……」
「なんだよ?」
「こっそり隠れて、恋人の為にケーキ作りの練習なんて、澪ちゃんは乙女ですなあ」
「なっ!? べ、別にいいだろ!」
「うん。良いと思うよ~。だから今年はもっと乙女澪ちゃんを推していこう!」

 そうそう澪ちゃんはこんなに可愛いのに、私達みたいに仲良い子以外からはボーカルや
ってる時とかのカッコいい面ばかり取り沙汰されてる気がして、もったいないなあって思
ってたんだよね。まあカッコいい澪ちゃんもそれはそれで好きなんだけど。

「推さなくていい!」
「えー」
「て言うか、あと一ヶ月くらいで終わるぞ、今年……」
「あ、そっか。じゃあ来年!」

 そう言って笑いあいながら、私たちは憂が帰ってくるまでの間、しばらく二人きりの時
間を過ごした。

(了)

初出:3->>343

  • ハッピーバースデイ唯!(アンド俺!) -- (名無しさん) 2012-11-27 20:17:11
  • お誕生日おめでとううう!!!!(一日越えたけどな!(鬱)) -- (名無しさん) 2012-11-28 00:55:58
  • 可愛い -- (名無しさん) 2014-08-30 02:46:13
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