SS28
唯「りっちゃん、どうしたの? 眉間にしわ寄せて」
律「ん……なんでもないよ」
唯「あ! そういえばもうすぐ」
律 ピクッ
唯「クリスマスまでちょうどあと一カ月になるね!」
律「(…唯がおバカさんでよかった……)」
唯「くーりすーますー♪ えへへ、プレゼント楽しみだなあ」
律「え?」
唯「憂、なにくれるんだろー?」
律「(ちょおおい!! 私に言ったんじゃないのかよ! つーか、クリスマスより先に、大事なイベント忘れてませんかあ!?)」
唯「りっちゃん、さっきからどうしたの、頭抱えて」
律「おっ、」
唯「お?」
律「お前のせいだあああ!!」
唯「ふええええっ!?」
律「はぁ……はぁっ…」
唯「り、りっちゃん!?」
律「悩んでんだよ……」
唯「え?」
律「ぷ・れ・ぜ・ん・とっ!!」
唯「……クリスマスはまだまだ先だよ? そんな悩まなくても……」
律「ちーがーうっ!!」
唯「えー、もーなあに?」
律「もう、唯なんて知らんっ!」
唯「ええ~」
律「……帰って、一人で考える」クルッ
唯「まーって、まってよう」ガシッ
律「またないっ!」
唯「やだあ……」ギュッ
律「ゆ、ゆい!?」
唯「りっちゃんの悩みは私の悩みでもあるんだよ。だから、一人で悩んじゃやだっ」
律「唯……」ギュッ
唯「ね? 私じゃ頼りないかもしれないけど、少しだけでも、話してみてよ」
律「い、いや、でも」
唯「話してくれなきゃ、帰さないもん」
律「(なんかよくわかんない展開に……でも)」
唯 ギュウッ
律「(ここまでさせて、言わないってのはな……むしろ、何が欲しいのか、本人にダイレクトに聞く方がいいのかも)」
唯「りっちゃん、あったかい」
律「お前の方が、あったかいよ、って唯」
唯「うん?」
律「話、聞きたいんじゃなかったのか?」
唯「うーん……なんか、どうでもよくなっちゃった」
律「そおおおおいっ!!」
唯「だから、やっぱいいよ、りっちゃん。でも、もう少しこのままでもいい?」
律「いや、いいけど、ってまて」
唯「あはっ、今度は、私がまつ番なんだね」
律「んな、ほのぼのと会話している場合じゃねーだろ!?」
唯「でも、りっちゃんとまったりしているの、好きだよ」
律「……そ、そっか」
唯「うん、ふふふ」
律「へへへっ」
唯「まったりターイムっ♪」
律「まったり……ちょ、まてよ!」
唯「りっちゃん、キムタクみたーい」キャッキャッ
律「……悪いけど、スルーするぞ。てか、唯!」
唯「うーん?」
律「は、話聞きたくないって、どういうことだ!?」
唯「聞きたくないんじゃないよ、どうでもよくなっちゃった、っていったんだよ」
律「なおさら悪いわい! あーもう、スイッチ入った」
唯「りっちゃん号、前進っ!」
律「ウィー、ガシャッ。て、違うっ!」
唯「あん、もお~」
律「こうなりゃ、意地でもお前に話したくなったわっ!」
唯「りっちゃん、結構意地っ張りだからね~。いいよお」
律「どっちがだ……ったく」
唯「で、なあに?」
律「ふう、やっとか……実は、さっきもいったように、プレゼントを何にするかで悩んでんだよ」
唯「だから、クリスマスはまだ」
律「違うっつーの! それよりも、もっと大事なイベントだよ!」
唯「えー……わかんないよ~」
律「唯に関わることだぞ」
唯「うーん、あ、そういえば、昨日包丁でちょこっと切っちゃったんだよ」
律「え!? 早く言えよ、どこだ?」
唯「人差し指の背の部分を、ちょろっと」ヒラッ
律「ばか、絆創膏くらいしとけ。おかげで、部活のとき気付けなかっただろ」
唯「いろいろ、料理の練習してたら、こうなって」
律「私を呼べよ。そうしたら、けがなんてさせなかったのに」
唯「そうしたら意味無いんだよ」
律「……は?」
唯「いいの、一人でがんばるって、きめたの」
律「っとに……」パクッ、ペロッ
唯「うひゃっ、りっちゃん!?」
律「止血だよ。まあ、もう止まっているみたいだけど」
唯「りっちゃんって、舌もあったかいね」
律「おーそうだろ。ま、唯もな……って(私、今何した!?)」
唯「どうしたの? 顔まっか」
律「なななななんでもないっ!」
唯「変なりっちゃん」
律「お、お前に言われたくないわっ」
唯「挙動不審なのはりっちゃんでしょ、急に頭抱えたり」
律「……あっ、そうだっ。唯、さっきの分かったか? 何のイベントか」
唯「うーん、わかりませんっ!」
律「あほっ!!」ペシッ
唯「ええ~、いたーいっ」
律「どこまでお前は鈍いんだっ!」
唯「鈍いのはりっちゃんだよ~」
律「はぁ? 私のどこが…」
唯「イベントとか、別に、私はそんな気にしないもん」
律「ちょ、おい」
唯「イベントじゃなくても、こうしているだけで、ほくほくするからねっ」
律「……え?」
唯「りっちゃんといれば、毎日が記念日だも―ん! なんちゃって。……だから、そんな私の気持ちに気付かないりっちゃんは、にぶちんさんなの」
律「……」ペシッ
唯「え? またぶたれた~」
律「う、うるさい」
唯「りっちゃん?」
律「……なんか、イベントイベント、って悩んでた私が、ばかみたいだ」
唯「結局、なんだったの?」
律「……11月27日」
唯「ふえっ?」
律「唯の誕生日っ!」
唯「え……ああ~っ!」
律「ようやくかよ! だから、何あげようか、いっそお前に聞いてっ」
唯「え、決まってるでしょ?」
律「……へ?」
唯「だからー、ぷれぜんと」
律「え、いやっ」
唯「ええ、だから、料理の練習してたのに」
律「ごめん、唯……どういう」
唯「りっちゃんが言ったんだよ、去年の誕生日のときに、ちょうど、みんなでうちんちでパーティしてて」
律「……えーと?」
唯「みんなが寝静まったときに、私とりっちゃんだけ起きてて」
律「(あ、覚えているような)」
唯「私が今日楽しかった、ありがとっていったら、りっちゃんが、今から来年のパーティ予約していい? って」
律「(うあ、唯、やめろやめろ)」
唯「私が、もちろん、やったー! って喜んだら、りっちゃんが、違う、来年は、二人きりのパーティってことで、予約したいんだけど、って」
律「(い、いいました!)」
唯「で、うん、かしこまりました、プレゼント期待してるね、っていったら」
律「(……こっから先は、なんていったんだっけ)」
唯「前日の夜に唯の家に行って、日付が変わるまで、唯が十八才になるときまでずっと、抱きしめててあげるって」
律「うっ、わあああああっ!!」
唯「だから、そのあとのパーティ料理をりっちゃんに作ってあげようと思って、練習してたんだよ?」
律「(いった。確かに、いった。でも)」
唯「りっちゃん、忘れてたの?」
律「(冗談交じりで……っていうか、唯も、照れながら笑ってたから、冗談っていう風にとったと思ったのに)」
唯「もう、少しぷんぷんだよ?」
律「(半分、本気だった。何より、唯は、それを楽しみにしててくれたんだよな)」
唯「……りっちゃん?」
律「(なんだ、じゃあ、決まりじゃん。最初から悩むことなんてなかったんだ。私も唯も、それが、一番、嬉しいんだから)」
唯「……やっぱり、無理だったら、いいよ?」
律「だめだ。もう、予約してあるだろ?」
唯「……りっちゃん」
律「前日の夜に、唯の家にいくから」
唯「うん。じゃあ、改めてっ」
律「ん?」
唯「りっちゃん、その日、ずっと私と一緒にいて。そのプレゼントがいい」
律「……26、27日だけでいいの?」
唯「ふえ?」
律「……いや、続きは、誕生日にな」ギュッ
唯「うんっ」ギュッ
私も、唯といれば、いつだって、特別な日なんだよ。
なーんて、な。
なーんて、な。
おわり