阿求×ゆっくり系12 鋼の糸

芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を改変。虐待要素皆無。
読みにくかったらゴメン。少々強引かも。

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世界名作改変劇場「鋼の糸」

        一

ある日の事でございます。阿求様は白玉楼の庭園のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

庭に咲いている桜の花は、みんな玉のようにまっ白で、そのまん中にある金色の蕊からは、

何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れて居ります。白玉楼は丁度朝なのでございましょう。

やがて阿求様はその庭のふちに御佇みになって、片隅にある古井戸の間から、ふと下の様子を御覧になりました。

この白玉楼の古井戸の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、

丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

するとその地獄の底に、「だぜまりさ」と云うゆっくりが一匹、ほかのゆっくりと一緒に蠢いている姿が、御眼に止まりました。

このだぜまりさと云うゆっくりは、同族を殺したり人間の畑を襲ったり、いろいろ悪事を働いた糞饅頭でございますが、

それでもたった一つ、善い事(?)を致した覚えがございます。と申しますのは、

ある時このゆっくりが人の家を荒しておりますと、小さな釣り竿が一本、立てかけてあるのが見えました。

そこでだぜまりさは無視して、通り過ぎようと致しましたが、

「ゆ!こんなのがあったらおさかなさんがつられちゃうんだぜ!おさかなさんがゆっくりできないんだぜ!」

と、こう急に思い返して、とうとうその竿をブチ折ってやったからでございます。

阿求様は地獄の様子を御覧になりながら、このだぜまりさは竿を折ることで結果的に魚を助けた事があるのを御思い出しになりました。

そうしてそれだけの善い事(?)をした報いには、出来るなら、このゆっくりを自らの手で叩き潰してやろうと御考えになりました。

幸い、袂を探りますと、ゆっくり虐待用に使っている極細の鋼糸が手に触れて居ります。

阿求様はその鋼の糸をそっと御手に御取りになって、フチの欠けた古井戸の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下しなさいました。

        二

こちらは地獄の底の汁粉の池で、ほかの罪人と一緒に、浮いたり沈んだりしていただぜまりさでございます。

何しろどちらを見ても、まっ暗で、たまにその暗闇からぼんやり浮き上っているものがあると思いますと、

それは恐しい虐待鬼意山(地獄でバイト中)が居るのでございますから、その心細さと云ったらございません。

その上あたりは加工場の中のようにしんと静まり返って、たまに聞えるものと云っては、ただ罪ゆっくりがつく「ゆぅ…ゆぅ…」という微かな嘆息ばかりでございます。

これはここへ落ちて来るほどのゆっくりは、もうさまざまな地獄の責苦に疲れはてて、泣声を出す力さえなくなっているのでございましょう。

ですからさすが糞饅頭のだぜまりさも、やはり汁粉の池の汁粉に咽びながら、まるで死にかかったケロちゃんのように、ただもがいてばかり居りました。

ところがある時の事でございます。何気なくだぜまりさが頭を挙げて、汁粉の池の空を眺めますと、

そのひっそりとした闇の中を、遠い遠い天上から、銀色の鋼の糸が、まるで人目にかかるのを恐れるように、

一すじ細く光りながら、するすると自分の上へ垂れて参るのではございませんか。

だぜまりさはこれを見ると、思わず手を拍って喜びました。この糸に縋りついて、どこまでものぼって行けば、きっと地獄からぬけ出せるのに相違ございません。

いや、うまく行くと、ゆっくりプレイスへはいる事さえも出来ましょう。そうすれば、もう鬼意山に追い立てられる事もなくなれば、汁粉の池に沈められる事もある筈はございません。

こう思いましたからだぜまりさは、早速その鋼の糸を口でしっかりとつかみながら、一生懸命に上へ上へとたぐりのぼり始めました。

元より糞饅頭の事でございますから、こう云う事には昔から、慣れ切っているのでございます。

しかし地獄と白玉楼との間は、何万里となくございますから、いくら焦って見た所で、容易に上へは出られません。

ややしばらくのぼるうちに、とうとうだぜまりさもくたびれて、もう一たぐりも上の方へはのぼれなくなってしまいました。

そこで仕方がございませんから、まず一休み休むつもりで、糸の中途にぶら下りながら、遥かに目の下を見下しました。

すると、一生懸命にのぼった甲斐があって、さっきまで自分がいた汁粉の池は、今ではもう闇の底にいつの間にかかくれて居ります。

それからあの恐しい鬼意山も、足の下になってしまいました。

この分でのぼって行けば、地獄からぬけ出すのも、存外わけがないかも知れません。

だぜまりさは口で鋼の糸をくわえながら、ここへ来てから何年にも出した事のない声で、「うふ、うふ、うふふ」と笑いました。

ところがふと気がつきますと、鋼の糸の下の方には、数限もないゆっくりたちが、自分ののぼった後をつけて、

まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。

だぜまりさはこれを見ると、驚いたのと恐しいのとで、しばらくはただ、莫迦のように大きな目を見開いたまま、眼ばかり動かして居りました。

自分一人でさえ断れそうな、この細い鋼の糸が、どうしてあれだけの人数の重みに堪える事が出来ましょう。

もし万一途中で断れたと致しましたら、折角ここへまでのぼって来たこの肝腎な自分までも、元の地獄へ逆落しに落ちてしまわなければなりません。

そんな事があったら、大変でございます。

が、そう云う中にも、ゆっくりたちは何百となく何千となく、まっ暗な汁粉の池の底から、うようよと這い上って、細く光っている鋼の糸を、一列になりながら、

「ゆっ、ゆっ」と言いながら口で糸をくわえて登ってきます。…器用だな。

今のうちにどうかしなければ、糸はまん中から二つに断れて、落ちてしまうのに違いありません。

そこでだぜまりさは大きな声を出して、

「ゆっ!!、このいとはまりさのものなんだぜ!おまえたちはだれのゆるしをえて、のぼってきたんだぜ!!さっさとおりるんだぜ!!!」と大口を開けて喚きました。

その途端でございます。せっかく口で糸をくわえていたのにそんな大口を開けたら…さて、どうなるか。

ですからだぜまりさもたまりません。

「ゆ゛ぎゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!!!!どぼぢでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!!!」

あっと云う間もなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に闇の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。

…残りのゆっくりも諸共にでございました。

後にはただ阿求様の鋼の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。

        三

阿求様は愛用のげんのうを携えて、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、

やがてだぜまりさが汁粉の池の底へ石のように沈んでしまいますと、残念そうな、けれどもどこか嬉しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。

自分ばかり地獄からぬけ出そうとするだぜまりさの無慈悲な心が、

そうしてその心相当な罰をうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、阿求様の御目から見ると、酷くざまぁみろと思召されたのでございましょう。

しかし白玉楼の庭園の桜は、少しもそんな事には頓着致しません。

白玉楼ももう午に近くなったのでございましょう。








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最終更新:2008年09月14日 11:37
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