※独自設定あり
最終的に幸せな
ゆっくりが出てきます。
あまり虐待してません。
「かっぱっぱー♪かっぱっぱー♪」
川辺に住むゆっくり希少種、ゆっくりにとり。
河童の妖怪・河城にとりを模したこのゆっくりは
最近ゆっくり界に仲間入りしたものである。
青いツインテールに緑の帽子、そしてゆっくりの例に漏れず下膨れた笑顔。
今、一匹のゆっくりにとりが、川辺の草むらで跳ねている。
「かっぱっぱー、ゆゆ?」
「「ゆっくりしていってね!!」」
にとりの前に現れたのは、ゆっくりれいむとまりさだ。
「ゆっくりしていってね!!!」
笑顔で返すにとり。
れいむは背後から、緑色の棒を取り出す。
「ゆ!!かっぱさん、きゅうりをあげるね!!!」
「かっぱっぱー!!!」
「まりさたちおじさんからきゅうりもらったの!!!
でもたべきれなかったからかっぱさんどうぞ!!!」
「かっぱっぱー!!!」
喜色満面のにとり。
思わず歌いだす。
「かっぱっぱー♪
かっぱっぱー♪」
ぞわっ。
にとりの顔が歪む。
歪んだ白目。弓形につり上がった口。
全身から発する瘴気。
「にーーーーとーーーーりーーーーー」
「「い”や”あ”あ”あ”あ”!!!」」
「あーーりーーがーーとーー。いっしょにあーーそーーぼーー」
「やだああ!!ゆっくりでぎないいい!!」
「ごっぢごないでね!!」
突然のにとりの豹変に、れいむ達二匹は半狂乱だ。
「ゆっくりにげるよ!!」
「ゆゆ!!」
そう言って、二匹はにとりから逃げ出して行った。
「・・・・・・。」
後に残されたにとり。
歪な目から涙があふれる。
ゆっくりにとりは口癖以外は大して他のゆっくり種と大差ない。
唯一大きな相違点とは、稀に含まれる「にちょり」という
突然変異体の存在である。
にちょりと呼ばれる個体は普段は全く普通のゆっくりにとりだが、感情が高ぶると
世にも不気味な、ゆっくりから言わせれば
「ゆっくりできない」姿になってしまうのである。
悲嘆にくれるゆっくりにとり、改めにちょり。
思えば今までこんなことばかりだった。
近づいてくるゆっくりはこの姿を見て皆泣き叫び、離れて行った。
あまりの恐怖に餡子を吐き出し、瀕死の状態になってしまったゆっくりもいる。
だから、いつも一人だった。
近づいてきた二匹を見たとき、「この二匹は自分を受け入れて
くれるんじゃないか?」という期待を抱いた。
でも結果はいつも通り。一人ぼっちは変わらない。
ぷるん。
沈んだ気分と共に、顔も普通に戻る。ただし、泣き顔。
「・・・・かっぱっぱー・・・・」
「うー♪あまあまみつけたどぅ♪むしゃむしゃだどぅー♪」
「「れみりゃだあああ”あ”!!」」
にちょりの耳に飛び込んできたのは汚らしいだみ声と、悲鳴。
あの二匹のものだろう、茂みの向こうからだ。
「・・・・・!!」
にちょりは涙を引っ込め、顔を引き締めて茂みへ向かう。
茂みの向こうでは、羽根つき豚まんこと体つきの子れみりゃが、
まりさを両手で抱え上げていた。
「まりざあああ!!」
「うー、うるさいどぉ!!じゃまするなだあどぉ!!」
まりさを助けようと果敢にも飛びかかったれいむを片手ではじき飛ばす子れみりゃ。
「ゆべっ!!」
「!れいむ!!」
「あかしろもあとでむしゃむしゃしてやるんだど。
さきにしろくろたべるどぉ~♪こうえいにおもうんだど☆」
「ゆっ・・・!」
思わず目を閉じるまりさ。
そこへ、茂みを飛び越えたにちょりがやってきた。
「?なんだどぅ~?みかけないやつだど」
「!さっきの・・・」
れいむとまりさはさっきのこともあるため、驚きと怯えの混じった顔だ。
「れいむとまりさ!」
「「ゆっ!?」」
「めをとじてて」
びくっとした二匹はそのままにちょりに従う。
にちょりはきっと子ゆっくりゃを睨むと、全身に力を込める。
ぞわっ。
「にーーーーとーーーーりーーーー」
「うー、う”!!!なんだどおおおお!!ごわいどおおおお!!!」
子れみりゃはにちょりの顔を見るなり、赤い目を開いて泣き叫ぶ。
「あっちいーーーけーーー」
「ぶええええええ!!ざぐや”ー!!ごわいのがいるどぉーーー!!」
いつも一人ぼっちで、ともすれば迫害の対象にも
なりそうなにちょりが今まで生き残れた理由。
それもやはりこの姿だった。
攻撃しようとする普通のゆっくりはもちろん、補食種でも
れみりゃなどはこの姿を見れば瞬時に戦意を喪失するからだ。
恐怖に泣きじゃくるゆっくりゃはまりさを放り出して逃げて行った。
「まりさぁ!!」
「ゆっ!!」
れいむは落下するまりさを受け止め、二匹で頬を擦り合わせ生還を喜ぶ。
「・・・・」
にちょりは二匹の方を振り向かない。
この顔を見せてしまったら、また怖がってしまうからだ。
背中に二匹の視線を感じる。
ーーーはやくいってよ
また怖がらせてしまうから。
まだ気配は消えない。
だんだんと気持ちが落ち着いてくる。
ぷるん。
顔が元に戻る。
ーーーもしかして、もどるのまっててくれたの?
振り向く。
もう二匹の姿は無かった。
にちょりは、近くの崖へ来ていた。
下を見下ろす。
ゆっくりや人はいない。これで迷惑をかけることもないだろう。
自分が落ちてきて潰れても。
「・・・・・」
もう、見たくない。
自分が受け入れられないという現実を見たくない。
ならいっそ。
崖から顔を引っ込め、後ろに下がる。
このくらいの距離で十分だ。
「・・・・・っ!!」
にちょりは息を吸うと、崖へと駆けていく。
一気に崖への距離が詰まる。
そして。
助走付きで、にちょりは現実から飛んだ。
「・・・・・ゆっ?」
目を閉じていたにちょりは来るべき衝撃が来ないことに目を開ける。
眼下には先ほどより近くなった地面。
ーーーういてる!?
だが、ゆっくりと地面は近づいていく。
ああ、死ぬ時は周りがゆっくりに見えるものなんだ。ゆっくりらしい最期じゃないか。
でも、体の両側の圧迫感は何だろう?
更に地面は近づく。
やがて気づいた。
真下に、青い人影があることを。
更に近づく。
見れば、その人影の背後から二本の線が伸び、自分の方へと伸びている。
近づく。
青色が手を伸ばし、自分を掴む。同時に、圧迫感は消えた。
まじまじと人影の顔を見上げる。
青い髪に緑の帽子。
自分にそっくりだ。
「・・・・・どうして、たすけてくれたの?」
「へ?いやー、目の前で自分と同じ顔が潰れるの嫌じゃん?」
そう言って、人影ーーー河城にとりは、のびーるアームを掲げながら、笑った。
自分に、笑顔を向けられていた。
「う・・・・・うわあああああん!!!」
ぞわっ。
「ひゅい!!あ、あんた、泣き顔怖すぎ!!お、同じ顔って撤回しようかなぁ・・。」
「・・・・ふーん、ゆっくりの世界にも色々あるんだね。」
泣きわめいて落ち着いた(顔になった)にちょりの話を聞き終えた
にとりが腰掛けているのは、様々な器具が鎮座する研究所兼自宅の机の上だ。
にちょりがいるのは椅子の上だ。
「・・・・・・」
話し終えたにちょりは無言。
「ところで、あんた他のゆっくりを助けたって?」
「うん。」
「どうして?わざわざ助ける義理は無かったんじゃないの?」
「・・・みんなと、ゆっくりしたいから。」
「ふーん、みんなの為に頑張っていれば、いつかわかってくれるんじゃないかってこと?」
「そう、かも」
「駄目だね。」
「!!?」
突然の否定に驚いてにとりを見上げるにちょり。
「言い方は悪いけど・・・あんたみたいなゆっくりは他のゆっくりに利用されるだけよ。
あいつらは中身を見ようともしないで、見た目だけであんたを仲間はずれにするんだよ?
そんなやつらの為に体張る必要なんてないんじゃないの?」
ゆっくりが見た目で差別を行うのは、何もにちょりに対してだけではない。
その最たるものが、飾りによる個体の識別である。
たとえ親子でも、リボンや帽子を取り上げられた子を
親は我が子と認識出来ないし、区別も出来ない。
更に、飾りがない者は「ゆっくりできない」と迫害され、多くの場合は潰されて殺される。
人間から見れば、何とも不条理で、忌み嫌うべき仕組み。
しかし、この仕組みは見る者に問いかける。
ーーーお前は違うのか?上辺だけを見て差別をしないのか?
人の世で起こる差別を、歪に戯画化したような仕組みに、ある人は言う。
「ゆっくりは神様が作った、人間という種族に
対する壮大な嫌がらせの道具なんじゃないか」と。
「・・じゃあ、にちょりこれからどうすればいいの?」
「私のところに来なよ。」
「ゆっ!!」
途方へくれていたところへの提案に、にちょりは驚く。
「へへ、実はさ、あたしも友達いなくて・・・。さみしい同士、一緒にどうかなー、って。
ご飯も三食出すし、どこで遊びに行っても構わないよ。たまに研究は手伝ってもらうかも
しれないけど・・・・少なくとも、今までよりはゆっくりできると思うんだけど・・・。」
「・・・ありがとう、おねえさん。たすけてくれたことも」
「いいっていいって。じゃあ早速」
「でも、すこしかんがえるじかんがほしいよ」
「あれ?」
拍子抜けしたにとりの横を、にちょりは通り抜ける。
「・・・しばらくしてから、どっちにするかいいにくるね」
にとりの元で暮らすのか。
それとも野山で暮らしていくのか。
にとりの家の戸をくぐるにちょり。
その背中を見送ってから、にとりは溜息をついた。
「・・・まぁ、いきなりだったもんなぁ・・・。」
そう呟くと、器具をあさり、作業を始める準備をする。
あれから二日程経った。
その間ににちょりと出会ったゆっくり達は、例のごとく逃げて行った。
にちょりは川面を見つめながら、にとりの言葉を思い出していた。
ーー他のゆっくり達は、内面を見ずに逃げて行ってしまう。
そんな奴らと仲良くする必要なんてない。
「・・・・かっぱっぱー」
やはり、駄目なのだろうか。
(目の前で自分と同じ顔が潰れるの嫌じゃん?)
いや。
外見で離れてしまうのなら。わかってもらえないなら。
示すしかない。
行動で。
自分を助けてくれた人もそうした。行動で示してくれた。
「「「う~♪こーまかんのおじょうさまがとおるどぉ~♪」」」
その時、にちょりの耳に耳障りな合唱が聞こえてきた。
汚らしい声を森中にまき散らすピンク色の行進.
「まんまぁ~、ほんとだど!!ほんとにここにこわいのがいたんだどお~!!」
「れみりゃのぷりちーなこどもをいじめるやつは
ゆるさないんだどお♪むしゃむしゃしてやるんだどお♪」
あの日、泣いて逃げ帰った子れみりゃは、野生では稀に見る
ゆっくりゃの「群れ」に属していた。
群れをまとめるのは、れみりゃの母でもある成体れみりゃだ。
更に、このれみりゃは並の成体れみりゃの二倍程の体格を誇っており、
天敵であるふらんをも撃退出来る実力を持っていた。
このでかれみりゃを中心として他のれみりゃ達が集まり、
珍しいれみりゃの群れが出来上がったのである。
今この群れは子れみりゃの証言で、「こわいの」に制裁を加えるために来ていた。
「れみりゃにかかればこわいのなんていちころなんだど~♪
じゃあいつものいっくど~♪せーの、」
「「「れみ☆りあ☆う~♪」」」
でかれみりゃの合図で、最高に麗しい、と思っているポーズを一斉に決める豚まん軍団。
「ゆゆっ!!れ、れみりゃがたくさん!!」
「ゆっくりみんなにつたえにいくよ!!」
がさがさ。
「う~!なんだどお~?そこにいるのはだれだど?」
「「ゆ”!!」」
気配のする茂みへ二匹のれみりゃが飛んで行く。
「つっかまえたど~♪」
「ばなじでー!!!」
二匹に捕まっていたのは、あの日にちょりに助けられたれいむとまりさだった。
「まんまぁ~、こいつられみりゃがたべられなかったやつらだど!」
「う~、じゃあみんなでなかよくらんちたいむにするどお~♪」
でかれみりゃの号令で、二匹を包囲する輪を狭めていくババ臭いピンク達。
今度こそ駄目だろう。
そう思った二匹はそろって覚悟を決めた。
「!!まんま!!あ、あいつだど!!こわいやつだど!!」
「「う~♪」」
お預けをくらって若干不機嫌そうな顔で子れみりゃが指差す方へ向くれみりゃ達。
にちょりは10匹以上からなる群れを眼前に、感情を高めていく。
ぞわっ。
「う”ー!!なんなんだどおー!!ゆっぐりでぎないどー!!」
「まんま”あ~!!」
「ざぐや”ー!!」
群れの大半はにちょりの豹変を見て恐慌をきたした。
(このままいってしまえ・・・)
にちょりの願いはしかし、でかれみりゃの一言で潰える。
「おちつくんだどぉ~、こいつかおはこわいど。
でも、それだけでなにができるんだどぉ♪」
「!!」
気づかれた。
にちょりのこの形態は、姿以外は普段と全く変わらない。
つまり、この姿を恐れないものには何の意味も無いのである。
「らんちはおまえをむしゃむしゃしてからだど!!とつげきだどぉ~!!」
「「「う~☆」」」
でかれみりゃの号令で、一斉ににちょりへ群がって行くれみりゃ軍団。
「!!」
にちょりは先頭のれみりゃの拳をかわすと、足の間をすり抜ける。
「おとなしくつかまっていればいいんだど、う”!!」
すり抜けざまに足に体当たりし、転ばせる。
「びええええええん!!いだいどー!!」
「よくもれみりゃを!!ぶびゅ!!」
二匹目の腹に体当たりをし、悶絶させる。
もともと鈍重なれみりゃ達は、数々の修羅場をくぐり抜けてきた
にちょりの俊敏な動きに翻弄されつつあった。
しかし、にちょりの攻撃も、いずれも致命傷にはならず、あくまで足止め程度だ。
更に、れみりゃ達とでは体力と虜力にも差がある。
かく乱されて泣き叫びつつも、復帰し追撃してくるれみりゃ達。
次第ににちょりの息はあがっていく。
「みんな、どくんだど!!れみりゃのひっ☆さつ!!」
でかれみりゃの一声で、にちょりへと道をあけるれみりゃ達。
にちょりへ背中を向けるでかれみりゃ。
ぶーーーーーーー!!!!!
「・・・うー、でちゃったどお///」
モデルとなった紅い月が見たら発狂しそうな行為を、頬を赤らめて行ったでかれみりゃ。
でかれみりゃの必殺技とは、通常のれみりゃの数倍の臭気と効果範囲を持つ放屁であった。
あたりが黄色いもやで覆われる。
「れみりゃのぐっどすめるをたんのうするんだど☆」
「・・・・ぐっ、がっば・・・っば・・・!!」
疲弊していたにちょりは効果範囲から逃げられず、もろに臭気を吸い込んでしまう。
「が・・・おえええ”っ!!」
思わず餡子を吐き出す。
「ま・・・ま・・・ぐざいど・・」
れみりゃ側にも巻き添えはいたようだが。
後は、一方的だった。
動けないにちょりを10匹で囲み、蹴鞠のように蹴りとばす。
「ゆっ!!・・・・ぐっ!!」
「まんまぁ~、たぁのしいどぅ♪」
「れみりゃがよろこんでくれてまんまもうれしいんだどぉ~♪」
にちょりを蹂躙するれみりゃ達を、でかれみりゃは
逃げそこなったれいむとまりさを抱えながら見物している。
「ゆぅ~・・・」
二匹は諦めきった顔で、泥だらけで転がるにちょりを見ている。
「さあ♪おまえらのむれはどこなんだどぉ♪
きょうはそこでむしゃむしゃゆっくりしてやるど♪」
にちょりはぐるぐる回る視界で、考えていた。
ーーー自分が、間違っていた。
あのお姉さんについていっていれば、もっとゆっくり出来たに違いない。
自分はれみりゃに蹂躙されながら、みじめに死ぬんだ。
その時、れいむ達と目が合った。
諦めきった表情。今にも泣き出しそう。
いやだな。
あんなかおは、させたくないな。
「うー、ちょっとつかれたどぅ!そおそろおわりにするど~♪」
一通りにちょりをけたぐり、疲れたれみりゃ達は
ぐったりしたにちょりを真ん中に背を向けた。
一斉に放屁するつもりである。
弱ったにちょりが再びあの臭気を嗅げば、今度こそ
体中の餡子を吐き出して死んでしまうだろう。
「「「いっくどーーーー!!せーーの!!」」」
来るべき瞬間に目を背けたれいむとまりさ。
恐る恐る目を開ける二匹。
れみりゃ達は不思議だった。
いつまでたってもお腹がすっきりしない。
振り向く。
自分の尻に、青い触手が刺さっている。
その触手が繋がっているのは。
にちょりの体だった。
「あ・・・・が・・・・ま”・・ま”・・・」
「い”や”ああああああああ”!!!」
でかれみりゃは泣き叫んだ。
目の前では、自分の子どもを含めた仲間達がが尻に青い触手を突っ込まれ、苦しんでいる。
「でびりゃだぢのだぢのぶりぢーなおじりになにずるんだどっっっぉ!!!!」
れみりゃ達の腹が膨らんでいく。
行き場を失ったガスが充満しているのだ。
そして。
パァアァァアン!!!
盛大に具と肉汁をまき散らしながら、れみりゃ達の上半身が爆散した。
自分が絶命したことに気づかない足は、でかれみりゃによたよたと近づき、倒れた。
「あ・・・・れみりゃあのあがじゃんんん”!!!」
絶叫するでかれみりゃ。
まき散らされた肉片の中心を見る。
にちょりの体は、接地面から液状に広がっていた。
青く溶け広がった体からは、何本もの青い腕が伸びている。
それが、れみりゃ達を一瞬で葬ったものの正体だった。
にちょりは自身の変化に驚いていた。
ーーーまさか、自分がここまでの化け物だったとは。
でも、今はそれでいい。
目の前の二匹が助けられれば、それでいい。
例え今まで以上に嫌われても。
でかれみりゃは目の前の存在が何なのか理解出来なかった。
出来なかったが、気づいたらそれに向かっていた。
今は恐怖よりも、子どもと仲間を奪われた怒りの方が大きい。
「じぬんだどおおおおお””!!!」
拳をぐるぐると振り回し突進する。
にちょりは避けるでもなく、でかれみりゃの突進を受ける。
体にめり込む拳。
「やったどおおお!!でみりゃざまにかがればおばえなんでいぢごろ・・・」
手応えが、全くない。
丁度、水面を叩いているような感覚。
にちょりの虚ろな目が、でかれみりゃを射抜く。
ゆっくりにとりの突然変異体であるにちょり。
まだまだ謎が多いにちょりの生態だが、判明しているうちの大きな特徴とは、
体を液状化し、そこから何本もの腕を伸ばせるという、更なる突然変異体の存在である。
半分液状化した体の構造は水分子に近く、物理的な攻撃に強い。
更に、伸ばした腕は補食種の虜力をも上回り、撃退することが出来るのである。
「かーーくーーごーーはーーいーーいーーかーー?」
振り下ろした拳を掴まれ、更には全身に青い手が群がり、
にちょりの頭上に高々と持ち上げられる。
「う”う”っ!!はなぜ!!ばなずんだど!!
でぶりゃはごーまがんのおぜうざまだぽおぉ!!」
わめくでかれみりゃの右足を握りつぶす。
「いだいどおおおお”お”!!ざぐやなにじでるんだどぉ!!
ばやぐごいづやっづけるんだどぉ!!!」
ゆっくりと移動するにちょり。
「ぶううぅぅ!!!どごへいぐんだど!!おろずんだどびゃあああ!!」
羽が引きちぎられる。
「やべでぐだざい!!おろじでぐだざい!!」
でかれみりゃの絶叫が響いているうちに、にちょりは目的の場所に着いた。
河原である。
にちょりは川縁までつくと、持ち上げていた手の高度を下げた。
「う”ーーー!!・・・う、おろしてくれるどぉ~♪はなしのわかるやつだど!!
ぷでぃんもっでぎでくれたらゆるしてあげるんだど♪」
残りの四肢全てが捻切られる。
「あがががががががが!!!」
「・・・・・」
にちょりは振り向くと、でかれみりゃを掴んだ手を下ろしていく。
川へと。
「でみりゃはどごに・・・ど、どごに・・・づれでいがれるんだどおお・・・」
背を向けたまま、にちょりは答える。
「『ゆっくり』なんてないところだよ・・・すくなくとも・・・」
水音が響く。
でかれみりゃは遠ざかる光と、自分に群がってくる魚達を見ながら、水底に落ちていった。
ぷるん。
にちょりの姿が戻る。
痛めつけられたために足取りは重く、ずりずりと河原を移動していく。
そこに、れいむとまりさが現れる。
「・・・・・・。」
この二匹には、自分の更に恐ろしい姿を見せてしまった。
早く去るのが得策だろう。
ままならない体に鞭打って急ぐ.
「まって!!!」
れいむの声に、足を止める。
「・・このあいだも、きょうもまりさたちをたすけてくれてありがとう」
「このあいだはにげたりしてごめんなさい!!たすけてくれたのに・・・」
「れみりゃとたたかってるとき・・・かっこよかったよ!!」
ゆっくりと、二匹に向かって振り返る。
「ゆ・・・よかったら、れいむたちのおうちにこない?」
「ごはんもあるし、けがのてあてもできるよ?」
にちょりは、しばらく二匹をぼうっと見つめていた。
二匹はまだぎこちない笑みを向けている。
視界がだんだんと霞んでいくのを、止められなかった。
ぞわっ。
「ゆ”ん!!ゆ・・・ゆっくりなれていくよ!!」
にとりは高台から三匹を見つめていた。
「・・・・。」
にちょりが行ってしまうであろうことは少し寂しかったが、うれしくもあった。
ーーー居場所を見つけられたんだね。
にとりは手元に目を落とす。
そこには、急ごしらえで作った、ゆっくりにとりの顔を型どった伸縮性のマスクがあった。
これがあれば例え顔が変わっても怖がられることはないだろうと、
渡そうと思っていた、のだが。
「・・・必要ないみたい。」
何か先を越された気分で、にとりは踵を返した。
〈fin〉
あとがき
どうも。
この話は友人の某絵師さんの漫画からアイデアをもらって書き上げたものです。
にちょりはあまり詳細な設定が無かったので、二人で好き放題やれて楽しかったです。
なお、時間軸的には風神録の前になっています。
友人と全ての虐待ファンの方に感謝を。
またお目にかかる機会があったらよろしくお願いします。
by 少女Q
最終更新:2008年10月01日 07:24